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ヨウ素の効果とその作用

ヨウ素は、別名「ヨード」とも呼ばれている、体の成長や発達に必要不可欠なミネラルのひとつです。のどぼとけの下にある甲状腺に多く蓄えられるヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となり、体内の代謝や発達・成長に大きく関与しています。
ここでは、ヨウ素の効果・効能や作用のメカニズム、副作用などについて解説しています。

ヨウ素とはどのような成分か

ヨウ素は私たち人間の体に欠かせないミネラルです。甲状腺ホルモンの合成をサポートして、脊椎動物の成長や基礎代謝をコントロールするという重要な役割をもっています。にもかかわらず、ヨウ素を私たちの体内で合成することはできません。

ヨウ素が不足すると身体機能・健康維持が難しくなり、体のいたるところに不調があらわれるため、食事から適度なヨウ素を摂取する必要があります。[※1]

■欠乏した場合[※2]

ヨウ素が不足すると、甲状腺刺激ホルモンの分泌が高まり、甲状腺が肥大化する甲状腺腫や甲状腺の機能低下などをまねく可能性があります。

妊娠中にヨウ素が欠乏した場合、死産、流産、胎児の先天性甲状腺機能低下症などを引き起こすおそれがあります。重度の先天性甲状腺機能低下症の場合、低身長や精神遅滞、聾唖(ろうあ)などを起こします。

■過剰に摂取した場合[※3]

甲状腺ホルモンは、ヨウ素が多くても不足しても生成が上手に行えなくなります。そのためヨウ素を過剰摂取した場合でも、不足したときと同様に甲状腺腫や甲状腺機能低下などが起こります。

ちなみに、日本はヨウ素シェア率世界第2位をほこる国です。日本でつくられるヨウ素のほとんどは、千葉県にある「南関東ガス田」にて生産されています。

ヨウ素にはさまざまな作用があるため、健康業界以外の分野でも幅広く利用されています。ヨウ素が利用されている分野とその概要をご紹介します。

■ヨウ素の利用分野と概要[※4]

分野 概要
医療分野 レントゲン造影剤や甲状腺ホルモン剤に利用されている
殺菌・防カビ剤 うがい薬や消毒薬、資材の防カビ剤などに利用される
添加物 ヨウ素が添加された食塩はヨウ素欠乏症予防として利用可能。また、家畜のヨウ素欠乏症を防ぐために、家畜飼料にもヨウ素が添加されている
液晶関連 液晶ディスプレイの偏光フィルムに利用される
劣化防止剤(安定剤) 自動車や電機などの劣化防止剤として利用される
機能性フッ素化学製品 フッ素加工化学製品の合成に利用される
その他 太陽光電池や導電性ポリマーなど、さまざまな分野で利用されている

ヨウ素の効果・効能

ヨウ素には、以下のような効果・効能が期待できます。 [※5][※6]

■甲状腺ホルモンの生成・合成を助ける

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料として利用され、体内で甲状腺ホルモンの生成・合成を助けるはたらきがあります。

■基礎代謝を向上させる

ヨウ素で構成された甲状腺ホルモンは、交感神経に作用して基礎代謝を向上させます。

■成長を促す

ヨウ素からできる甲状腺ホルモンは、炭水化物・たんぱく質・脂質の代謝を高め、成長や神経活動を活発にします。代謝が高まることで、皮膚や髪、爪などを健康に保つほか、胎児の発育や子どもの成長を促します。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

食事などから摂取したヨウ素は胃や腸で吸収されたのち、血液中で運ばれて甲状腺に蓄えられます。

甲状腺は、のどぼとけのすぐ下にあります。親指2本ほどの大きさで、羽根を広げた蝶の形に似ている臓器です。

甲状腺には体内のヨウ素のうち70%~80%が存在しています。また、ヨウ素は甲状腺ホルモンをつくるメインの原料です。

甲状腺ホルモンは、自律神経のひとつである交感神経に作用して、栄養素をエネルギーに変換する代謝量を高めます。

このはたらきにより、全身の基礎代謝が向上し、呼吸が早まって酸素の消費量が増えるのです。

また、心臓のはたらきを高めて心拍数や脈拍数を増加させます。

甲状腺ホルモンは代謝を促すことで、髪や皮膚、爪などの細胞を活性化し、健康な状態を保ってくれます。

ほかにも、甲状腺ホルモンは脳や骨格、末梢神経などの発達・成長を促すはたらきも担っています。そのため、乳幼児や成長期の子どもにとって重要な成分となります。[※2][※3][※5]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ヨウ素は、次のような人におすすめしたい成分です。

  • 基礎代謝を高めたい人
  • 調子を整えたい人
  • 皮膚や髪を健康に保ちたい人
  • 甲状腺の機能が低下している人
  • 妊娠中の人
  • 成長期の子ども

ヨウ素の摂取目安量・上限摂取量

厚生労働省が定めるヨウ素の食事摂取基準は、以下のようになっています。[※7]

■1日あたりのヨウ素の食事摂取基準(μg/日)

推定平均必要量 推奨量 耐容上限量
1~2歳 35 50 250
3~5歳 45 60 350
6~7歳 55 75 500
8~9歳 65 90 500
10~11歳 80 110 500
12~14歳 100 140 1,200
15~17歳 100 140 2,000
18~29歳 95 130 3,000
30~49歳 95 130 3,000
50~69歳 95 130 3,000
70歳以上 95 130 3,000

男女ともに推定平均必要量・推奨量・耐容上限量は同じです。ただし、妊婦と授乳婦の場合、付加量が設定されています。

■妊婦

  • 推定平均必要量…+75の170μg
  • 推奨量…+110の240μg

耐容上限量に関しては 2,000μg/日となっています。

■授乳婦

  • 推定平均必要量…+100の195μg
  • 推奨量…+140の270μg

1歳未満の乳児の摂取目安量は、以下となっています。

  • 出生後6か月未満(0~5か月)…100μg
  • 6か月以上1歳未満(6~11か月)…130μg

耐容上限量は、ともに1日あたり250μgとなっています。

ヨウ素のエビデンス(科学的根拠)

ヨウ素は、子どものIQを高める効果が示唆されています。

カナダでは、栄養学科に所属するBougma Kらが、ヨウ素と子どもの精神発達の関係性を調べた研究データの分析を行いました。

研究データを分析してみると、対象となっていたのは5歳以下の子どもです。ヨウ素濃度を調査したところ、ヨウ素濃度が濃い子どもほど、子どもの精神発達評価が高いことが明らかになりました。

また、ヨウ素欠乏症児とヨウ素を摂取した子どものIQを比較したところ、ヨウ素を摂取した子どものIQが6.9~10.2高かったと報告されています。

この研究結果から、ヨウ素には5歳以下の認知機能や精神を発達させる効果が期待できると考えられています。

ただし、研究結果にバラつきがあったことや、試験の正確性が不十分だったという理由から、ヨウ素が子どもに与える正確な効果を知るには、より計画的な比較試験を実施する必要があるとされています。[※8]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ヨウ素は、ナポレオン戦争(1803~1815年)時の1811年に、フランスの硝石業者であったクールトアによって海藻から発見されました。

当時は海藻を焼いてできた灰から硝石を生産していましたが、灰の抽出液へ酸を加えたところ刺激臭のする気体が生じることを発見。その気体を冷やしたところ、黒紫色の結晶ができることがわかりました。

この発見から2年後の1813年に、フランスの科学者であり物理学者でもあるゲイ=リュサックが研究を行った結果、その物質が新しい元素であることを明らかにしました。

元素を瓶に入れておくと紫色の気体が発生することから、ギリシャ語で紫を意味するiodestosから「Iode」と名付けられたとされています。ちなみに、日本語のヨウ素やヨードの由来は、ドイツ語の「Jod(ヨード)」からきています。

1814年には、フランスによる世界で初めてのヨウ素の工業生産がはじまりました。しかし、その当時はまだ海藻灰からの製造方法だったため、生産量は多くありませんでした。

その後、1864年にチリで硝石製造の廃液からヨウ素が製造されるようになったことで、生産量が増加。これにより、チリ産のヨウ素が世界の市場を占めるようになり、海藻灰からの製造は衰退していきました。

世界各国で資源の探索や製造方法の開発が進められ、1910年代には天然ガスと一緒に組み上げられるかん水からヨウ素を製造する技術が誕生しました。

日本でヨウ素の生産がはじまったのは1888年。東京の深川で海藻灰を原料にした製造方法によって家内工業的な生産が行われました。

1934年には、相生工業株式会社(現在の株式会社合同資源)が千葉県の大多喜町で、沈殿法を用いた日本初のかん水からヨウ素を製造し、量産化に成功しました。

その後も製造方法の開発により純度の高いヨウ素が製造されるようになりました。現在、日本は世界でも有数のヨウ素生産国として知られるようになり、海外への輸出も活発に行われるようになりました。[※9]

専門家の見解(監修者のコメント)

杏林予防医学研究所の山田豊文所長は、自身の著書でヨウ素について以下のように記しています。

「ワカメ、コンブ、ノリ、ヒジキなどの海藻類は、ヨウ素の貴重な摂取源です。中国やアメリカの内陸部には、甲状腺腫が多発する地域があります。

内陸部では海産物をとらないためにヨウ素が不足し、甲状腺ホルモンが十分に作られないことから、甲状腺機能のトラブルにともなって甲状腺が腫れることがあるのです」

「甲状腺ホルモンには代謝を調節する働きがあり、不足すると心と体の活力が失われ、疲れやすくなり、皮膚や髪が乾燥します。

幼児がヨウ素不足になると知能に障害が現れることさえあります」

(山田豊文『「食」を変えれば人生が変わる 病気にならない体を手に入れる食の改善法』より引用)[※10]

ヨウ素が不足すると、健康に支障をきたすおそれがあります。とくに胎児や成長期の子どもの場合、発育や成長に大きな影響を与える可能性がある重要な栄養素となります。

海藻類や魚介類を食べることが多い日本人は欠乏を起こすことは少ないようです。しかし、長期にわたって過剰摂取した場合にも、不足したときと同様の症状があらわれる可能性があるため、摂取量には注意しましょう。

ヨウ素を多く含む食べ物

ヨウ素は、以下のような食品に多く含まれています。成分量100gあたりのヨウ素の含有量(μg)もご紹介します。[※11]

ヨウ素を含む食品 100gあたりの含有量(μg)
刻み昆布 230000
ほしひじき(鉄釜/乾) 45000
つくだ煮 11000
昆布だし(煮出し) 11000
カットわかめ 8500
あおのり(素干し) 2700
かつお・昆布だし 1500
だししょうゆ 750
鶏卵(たまご焼き/厚焼きたまご) 540
しめさば(加工品) 430
まだら(生) 350
あわび(生) 180

ヨウ素は、昆布やひじき、わかめなどの海藻類、さばやたら、あわびなどの魚介類に多く含まれています。海に囲まれていて海産物が豊富な日本は、普段から海藻類や魚介類を食べることが多いため、ヨウ素が不足することはほとんどないといわれています。

また、日本人は過剰摂取に対する影響があらわれにくいと考えられています。そのため、普段の食事で摂るヨウ素の量を気にする必要はありません。体内の余分な要素は尿や便として排出されます。

相乗効果を発揮する成分

ヨウ素は海藻類に含有する褐色の色素・フコキサンチンとの相乗効果が期待されています。

フコキサンチンは、がん細胞を攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化する作用が認められています。フコキサンチンとヨウ素を一緒に摂ることで、乳がんの予防に効果があるといわれています。[※12]

ヨウ素の副作用

ヨウ素は適切に利用すれば安全だといわれています。

ただし、過剰摂取すると甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンのバランスがくずれ、分泌が過剰になる疾患)、甲状腺腫、体重減少などの副作用が起こると報告されています。

また、長期間の多量摂取によって、頭痛や胃腸の不調、下痢、食欲不振、肺の浮腫、舌や咽喉頭の炎症といった副作用が生じるおそれがあります。

感受性が強い場合は、血管浮腫や発熱、じんましん、出血や紫斑、重篤な動脈周囲炎などの過敏症を引き起こす可能性が高いといわれています。

妊娠中の人や授乳中の人は、耐容上限量未満の量を適切に使用する場合は安全だといわれています。ただし、それ以上の量を摂取した場合、短期間でも危険性があるため、十分注意しましょう。

注意すべき相互作用

ヨウ素は以下のような医薬品との相互作用があります。[※13]

■抗甲状腺薬

ヨウ素と併用すると、甲状腺のはたらきを必要以上に低下させる可能性があります。

■降圧薬

ヨウ素サプリメントの多くはカリウムを含んでいます。体内からのカリウムの排出を抑制するはたらきがある降圧薬と一緒に服用すると、体内のカリウム量が過剰になる場合があります。

■カリウム保持性利尿薬

ヨウ素サプリメントの多くはカリウムを含んでいます。特定の利尿薬には体内のカリウム量を増加させる作用があり、ヨウ化カリウムと併用することで、体内のカリウム量を過剰にするおそれがあります。

■炭酸リチウム

炭酸リチウムとヨウ素を一緒に服用すると、甲状腺の機能が過度に下がる可能性があります。

■アミオダロン塩酸塩

ヨウ素を含むアミオダロン塩酸塩と併用すると、血液中のヨウ素量が過剰になり、甲状腺への副作用が生じるおそれがあります。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 株式会社合同資源「ヨウ素とは」
  2. 【PDF】厚生労働省「6.2.5 ヨウ素(I)」
  3. 川島由起子 監修『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典』(株式会社西東社 2013年5月発行)
  4. 株式会社合同資源「ヨウ素・天然ガスの基礎知識|主な用途」
  5. 中村丁次 監修『もっとキレイに、ずーっと健康 栄養素図鑑と食べ方テク』(朝日新聞出版 2017年8月発行 p210)
  6. わかさの秘密「ヨウ素(ヨード)」
  7. 【PDF】厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」
  8. Bougma K, Aboud FE, Harding KB, Marquis GS. 「Iodine and mental development of children 5 years old and under: a systematic review and meta-analysis.」 Nutrients.2013 Apr 22;5(4):1384-416. doi: 10.3390/nu5041384. Review. Erratum in: Nutrients. 2014 Dec;6(12):5770-1. PubMed PMID: 23609774; PubMed Central PMCID: PMC3705354.
  9. 株式会社合同資源「ヨウ素の歴史」
  10. 山田豊文 著『「食」を変えれば人生が変わる 病気にならない体を手に入れる食の改善法』(河出書房新社 2009年5月発行)
  11. 文部科学省「食品成分データベース」
  12. 白澤卓二 著『ボケたくなければ、これを食べなさい: 発酵・ネバネバ・雑穀類』(PHP研究所 2014年4月発行)
  13. 田中平三 ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)