名前から探す

ビタミンKの効果とその作用

ビタミンKは脂溶性ビタミンのひとつです。血液を固める作用があるため、出血性疾患の治療薬として利用されています。また、ビタミンKの種類の中には、骨粗しょう症の予防・改善に役立つものもあります。[※1]ビタミンKの種類や効果効能、作用機序や摂取目安量などを分かりやすく解説しているほか、副作用や相互作用、ビタミンK欠乏症に関する情報もまとめています。

ビタミンKとはどのような成分か

ビタミンKは、油に溶けやすい性質をもつ「ナフトキノン」という有機化合物(炭素をふくむ化合物)の総称です。凝固因子(血液や骨を固めるたんぱく質)の合成をサポートする作用があるため、ドイツ語で凝固を意味する「Koagulation」の頭文字をとって「ビタミンK」と名づけられました。

ビタミンKはあくまでも総称なので、実際には複数の種類が存在します。ここでは日常的に摂取する機会が多い天然由来のビタミンKについて解説していきます。

■天然由来のビタミンKについて

分類

ビタミンK1(フィロキノン)

ビタミンK2(メナキノン類)
種類

1種類のみ

11 種類
産生

植物の葉緑体でつくられる

微生物からつくられる
変換 動脈壁や膵臓、精巣などでビタミンK2(メナキノン-4)に変換される ビタミンK1に変換されることはない

ビタミンK1(フィロキノン)は、主に海藻類や緑の野菜に含まれています。

また、フィロキノンという名称のほかに、フィトナジオン、アクアメフィトン、メフィトン、コナキオンなどの名称でくすりとしても利用されています。

ビタミンK2に分類されるビタミンKは全部で11種類あり、そのうち日常的に摂取する機会が多いのは「メナキノン-4」と「メナキノン-7」です。

メナキノン-4は動物の腸内でつくられるため、動物性食品に多く含まれています。また、ごく少量ではありますが、動物が摂取したビタミンK1(フィロキノン)が、動脈壁・膵臓・精巣を介してメナキノン-4に変換されます。

メナキノン‐7は納豆菌によって生成されるため、納豆やひきわりから摂取することができます。[※1][※2][※3]

ビタミンKの効果・効能

ビタミンKを摂取することで、次のような効果効能が期待できます。[※2][※3]

■止血を速める効果

ビタミンKを摂取することで、血液を固める因子が活性化され、怪我をしたときに早く血が止まるようになります。

■出血性疾患の予防・治療

ビタミンKの血液凝固作用は、血が止まりにくい、わずかな傷でも出血するなどの問題を改善するため、出血性疾患の予防・治療に用いられています。

■骨を丈夫にする効果

ビタミンK2には骨を形成する成分をサポートする作用があるため、密度の高い丈夫な骨をつくるのに役立ちます。

■動脈石灰化の予防

ビタミンK2は、石灰化(柔らかい組織に沈着したカルシウム塩が硬くなること)を防ぐたんぱく質を活性化するはたらきがあるため、動脈石灰化の予防につながります。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ビタミンKの作用について解説します。[※2][※3]

私たちの体内には、ビタミンK依存性たんぱく質(ビタミンKに依存している因子)が多数存在します。これらは、ビタミンKを摂取することで合成・活性化され、さまざまな作用をもたらします。

ビタミンKを摂取すると、肝臓が凝固因子(factor IIa・VII・IX・X、protein C・S・Zなど)を合成できるようになります。凝固因子は血液凝固作用をもつため、血液が固まりやすくなり、出血リスクを下げられます。

また、ビタミンK2(メナキノン-4)は骨の形成に役立つ作用をもっています。ビタミンK2 は骨を形成するビタミンK依存性たんぱく質(オステオカルシン)を活性化することで、骨密度の高い丈夫な骨をつくります。

さらに、ビタミンK2には、カルシウムの沈着を防ぐビタミンK依存性たんぱく質(MGP)を活性化するはたらきがあります。この作用は、動脈にカルシウムが沈着して動脈石灰化がおこるのを予防するのに役立ちます。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ビタミンKには血液凝固作用があるため、内出血しやすい人や傷の治りが遅い人におすすめです。

また、骨を丈夫にする効果があるため、骨がもろくなり骨粗しょう症にかかりやすい50歳以上の人も積極的に摂取すると良いでしょう。

ビタミンKの摂取目安量・上限摂取量

ビタミンKの摂取目安量・上限摂取量・必要摂取量をまとめています。

■1日あたりのビタミンK摂取目安量

0~5か月 4μg
6~11か月 7μg
1~2歳 60μg
3~5歳 70μg
6~7歳 85μg
8~9歳 100μg
10~11歳 120μg
12~14歳 150μg
15~17歳 160μg
18歳以上 150μg
妊婦・授乳婦 150μg

出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」[※4]

上記の数値はあくまでも目安です。肝機能が低下している人は、目安量を摂取しても体内に吸収されない可能性があります。

■上限摂取量

天然由来のビタミンKはこれまでに副作用が報告されていないため、耐容上限量はとくに設定されていません。ただし、合成ビタミンK(メナジオン)は大量摂取すると毒性があるため注意しましょう。[※2]

■必要摂取量

ビタミンK欠乏症を回避するには、体重に0.75を掛けた量(μg)を摂取する必要があります。[※2]

ビタミンKのエビデンス(科学的根拠)

山路整形外科の山路敦子医師と山路兼生医師、愛知医科大学整形外科学教室に所属する山路倫生氏らは、ビタミンK2(メナキノン-4)が骨粗しょう症に与える効果を調べる試験を行いました。[※5]

【前提条件】

骨粗しょう症患者12名(平均年齢73歳)を対象とした試験です。

対象者らは、試験前に平均1年8か月の骨粗しょう症治療を受けていたものの、腰や背中の痛みが改善しなかったため、ビタミンK2投与治療の対象となりました。

【試験方法】

対象者らには、治療薬として30mgのビタミンK2(メナキノン-4)を1日2回にわけて摂取してもらいました。この間、試験開始前から行っていた骨粗しょう症治療(治療薬投与や理学療法など)は継続しています。

痛みの変化を調べるために、対象者らには昼・夜の計2回問診票を配布して、10段階の痛みのうち該当する痛みレベルに丸をつけてもらい、集計しています。

また、骨密度の変化を調べるために、計3回(ビタミンK2投与開始時・4か月後・8か月後)骨塩量を測定しました。

【試験結果】

ビタミンK2を摂取開始後に腰・背中の痛みが軽減したのは、12名中11名です。この11名は、ビタミンK2摂取開始から平均2~4週間で昼夜問わず痛みが軽減。そのうち、9名は「かなり痛みが和らいだ」、2名は「少し痛みが和らいだ」と回答しています。

また、骨粗しょう症により低下していた骨密度に関しては、ビタミンK2 摂取開始から4か月後に改善し、8か月目には正常値にまで改善したと報告されています。

この試験結果から、ビタミンK2は骨密度を高め、骨粗しょう症による痛み症状を改善する効果があると示唆されました。また、ビタミンK2が骨密度を高めるはたらきは、骨折の予防にも役立つと考えられています。

研究のきっかけ(歴史・背景)

ビタミンKの発見者カール・ピーター・ヘンリク・ダム博士は、1929年にコレステロールを除去した食事をニワトリに与える実験を行っていました。

その際、ニワトリが出血するようになったため、コレステロールと一緒に血液凝固に関連する成分を除去していることに気づいたそうです。

カール博士はその成分が凝血(Koagulations)に関与していると考えて、「ビタミンK」と名づけました。

カール博士はアメリカのエドワード・アダルバート・ドイジー博士との共同研究を行い、ビタミンKの構造や性質を明らかにして、1943年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

ビタミンKの研究はその後も進められ、1974年には人体における正確な機能が明らかになりました。[※3]

専門家の見解(監修者のコメント)

骨粗しょう症の治療には、骨の材料となるカルシウムの吸収を助ける活性型ビタミンD3製剤が古くから使用されてきました。

対して、ビタミンK2は骨の形成をサポートするたんぱく質を活性化する成分です。どちらも骨の形成に役立つ成分ですが、作用が異なります。

山路整形外科の山路敦子医師は、ビタミンK2による骨粗しょう症治療に関して、次のようにコメントしています。

「ビタミンK2投与により、大部分の症例で比較的短い期間で疹痛の軽減が得られ、また骨塩量の増加が認められたことは、骨折などの予防的視点を含めさまざまな治療法が選択されるべきである骨粗鬆症の治療にビタミK2も非常に有用な薬剤の一つであると考えられた」
(日本ペイクリニック学会誌「原発性骨粗鬆症に対するメナテトレノン(ビタミンK2)の鎮痛効果と骨塩量減少抑制効果」より引用)[※5] 

今後は、活性型ビタミンD3製剤を使った骨粗しょう症治療だけではなく、ビタミンK2を使った骨粗しょう症治療も選択肢のひとつになるでしょう。

ビタミンKを多く含む食べ物

ビタミンKの含有量が多い食品(上位10品)をまとめています。

■食品100gあたりのビタミンK含有量

食品名 状態 含有量(μg)
あまのり 干し 2,600
わかめ 乾燥板わかめ 1,800
いわのり 素干し 1,700
カットわかめ - 1,600
まつも 煮干し 1,100
納豆 ひきわり 930
てんぐさ 素干し 730
しそ 生葉 690
乾燥わかめ 煮干し 660
あまのり 味付け 650

出典:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)|第2章 日本食品標準成分表 PDF(日本語版)」[※6]

ビタミンKの含有量が多いのは海藻類と納豆です。もっとも含有量が多い干したあまのりを食べる場合、約3枚で 1日あたりのビタミンK摂取目安量を補えます。

また、ひきわりを1パック(45~50g)食べるだけでも十分に補えます。

相乗効果を発揮する成分

ビタミンKと一緒に摂ることで相乗効果が期待できるのは、カルシウムとビタミンDです。これらの成分をまとめて摂ると、健康的な骨がつくられます。

カルシウムは骨の材料となる成分です。ビタミンDはカルシウムが吸収されるのをサポートします。ビタミンKは骨をつくるタンパク質を活性化する作用があります。それぞれの作用が影響し合って丈夫な骨が形成されるため、骨粗しょう症を予防する効果も期待できます。[※7]

一緒に摂取する場合は、吸収率の高い朝に朝食として、牛乳(カルシウム)や焼き魚(ビタミンD)、納豆や海藻スープ(ビタミンK)などを食べるのがおすすめです。

ビタミンKの副作用

ビタミンKは、1日あたりの推奨量を守って摂取すれば安全です(妊婦・授乳婦を含む)。ただし、過剰摂取や長期摂取すると次のような副作用がおこる可能性があります。[※8]

  • ショック症状(血圧降下や呼吸困難など)
  • 過敏症(発疹・皮膚炎など)
  • うっ血や炎症による赤み、腫れ、硬結(皮膚が硬くなる症状)

医師の指導がない限り、ビタミンKの大量摂取・長期摂取は避けましょう。

ビタミンKの摂取が禁忌となる人

ビタミンKの摂取によって、次の疾病・疾患が悪化するおそれがあります。該当する人は摂取を避けてください。

  • 糖尿病
  • 腎疾患
  • 肝疾患

また、新生児はあえぎ呼吸や痙れんなどの中毒症状を起こす可能性があるため、ビタミンKを与えないでください。[※3][※8]

注意すべき相互作用

相互作用がおこりうる医薬品・サプリメント配合成分は以下です。[※3]

■相互作用のある医薬品

【血液凝固薬】

ワルファリンカリウムは血液の凝固を抑制させる薬です。血液凝固作用をもつビタミンKと併用すると作用が拮抗するため、両方の効果が弱まります。

該当する医薬品:ワルファリンカリウム

【糖尿病治療薬】

ビタミンK1(フィロキノン)と糖尿病治療薬には血糖値を下げるはたらきがあるため、併用すると作用が増強されて血糖値が過度に下がる可能性があります。該当する医薬品:グリメピリド、グリベンクラミド、インスリン、ピオグリタゾン塩酸塩など

■相互作用のあるサプリメント配合成分

【コエンザイムQ10】

コエンザイムとビタミンKはどちらも血液凝固作用をもつため、併用摂取すると作用が増強して血栓ができやすくなる可能性があります。

【ビタミンE】

1日あたり800IU(約533mg)以上のビタミンEとビタミンKを併用摂取すると、ビタミンKの血液凝固作用が弱まる可能性があります。

ビタミンK欠乏症について

ビタミンK欠乏症になると、肝機能障害や出血などがおこりやすくなります。ビタミンKの摂取目安量はそれほど多くないため、欠乏することは滅多にありません。

ただし、次の条件に該当する人はビタミンK欠乏症を発症する可能性が高いので注意が必要です。[※3]

  • アルコール依存症
  • 慢性栄養失調
  • 胆管閉塞
  • セリアック病(小児脂肪便症)
  • 潰瘍性大腸炎
  • 局限性腸炎
  • のう胞性線維症
  • 短腸症候群
  • 腸切除
  • 肝機能に影響する医薬品を服用中