ビタミンAは脂溶性ビタミンの中でも皮膚や粘膜の正常化にかかわる重要なビタミンです。一般的にビタミンAと呼ばれる成分は2種類あり、そのままの形でビタミンAとしての作用を示す成分は「レチノイド」、体内でビタミンAに変換される成分は「プロビタミンA」と呼ばれます。ここでは、主に「レチノイド」について解説していきます。
ビタミンAは脂溶性ビタミンです。油に溶けやすい性質があり、主に肝臓で分解・代謝されます。
ビタミンAには、皮膚や粘膜を維持するはたらきのほか、抗酸化作用や抗がん効果があるといわれており、若さと健康を保つために欠かせないビタミンといえるでしょう。
しかしビタミンAは不安定な構造をしているため、酸や空気、金属イオンなど、さまざまな要因ですぐに分解されてしまいます。体内で不足しないよう、十分な量を摂取することが必要です。
一般的には、体内でビタミンAに変換される成分(プロビタミンA)を含めてビタミンAと呼ばれますが、ここでは本来のビタミンA(科学名・レチノイド)の効果効能について解説していきます。
レチノイドは、プロビタミンAよりも吸収率が高く、動物性食品から摂取できます。
レチノイドと呼ばれるビタミンAは3種類(レチノール・レチナール・レチノイン酸)ありますが、動物性食品に多く含まれているのはレチノール。
レチノールが酸化するとレチナール、レチナールがさらに酸化するとレチノイン酸になります。
視覚に作用するのはレチナール、皮膚や粘膜の維持にはたらくのはレチノイン酸です。[※1][※2][※3][※4][※5][※6][※7]
ビタミンAには以下の効果があるといわれています。[※2][※4][※5][※7]
■健康な皮膚や粘膜を維持する
ビタミンAには皮膚や粘膜などを正常に保つ機能があります。
■感染症の予防
ビタミンAが健康な皮膚や粘膜を維持することで免疫力が上がり、感染症の予防につながります。
■身体の成長促進
ビタミンAの一種であるレチノイン酸はホルモンに似た作用があり、皮膚・粘膜などの上皮細胞の増殖を促進させて成長を促します。
■抗がん作用
ビタミンAを多く摂取している人ほど、がんの発生率が少ないというがん研究の報告があります。
■目のはたらきを良くする
ビタミンAの一種レチナールは、網膜で光を感知する色素・ロドプシンの原料となり、目の機能を向上させるはたらきがあります。
ビタミンAは体内の生理機能に深くかかわっており、多くの作用をもたらします。[※1][※2][※6]
ビタミンAは体内に入ると脂質と一緒に小腸で吸収され、リンパ管を通って肝臓に輸送されます。
摂取したビタミンAは肝臓でレチニルエステル(酸とアルコール基を含む化合物)の形で貯蔵されており、必要に応じて肝臓でつくられるレチノール結合たんぱく質がビタミンAを目的の部位へと運びます。
ビタミンAの1つ、レチノイン酸にはホルモンに似たはたらきがあり、遺伝子に作用して皮膚や粘膜などの細胞を増殖・分裂させます。
そのため古い皮膚・粘膜と新しい皮膚・粘膜が入れ替わり、健康な状態が維持できるのです。
皮膚・粘膜が正常に機能することで免疫力が上がり、ウイルスや細菌による感染症・病気を防ぐことができます。
レチノイン酸は細胞を新しくする作用から、がんの予防にも効果があると考えられています。研究でもビタミンAを多く摂っている人のがん発症率が少ないというデータが出ており、今後の研究に期待が高まっています。
また、レチノールが酸化した形のレチナールは、光の明るさを感知する色素・ロドプシンの主成分です。そのため、目のはたらきを正常に保つことができます。
ビタミンAは、次の症状が出ている人が摂るべき成分です。
厚生労働省は、ビタミンAの最低量と推奨量、上限量を以下のように定めています。[※4][※8]
※RAE(レチノール当量)とは…動物性食品に含まれるレチノールの量と、プロビタミンAとして作用するβカロテンの量を合計したもの。
ロート製薬株式会社では、点眼薬の有効成分として使用されているビタミンA(レチノールパルミチン酸エステル)が角膜の細胞に与えるはたらきを調査しました。
実験では、マウスの角膜細胞を使用。何も与えていないグループと、ビタミンAだけを与えたグループ、タウリンだけを与えたグループ、ビタミンAとタウリンを与えたグループに分けて酸化させました。
その後、4時間経ってから細胞の生存率を調べた結果、ビタミンAとタウリンを与えた細胞は、ほかの3グループの細胞に比べて生存率が高かったことがわかっています。
このことから、ビタミンAとタウリンには細胞保護効果があると考えられています。[※9]
また、ロート製薬は、タウリンとビタミンAの活性酸素除去作用を比較する実験も行っています。
実験では次の5つのサンプルを用意して、特別な測定方法で活性酸素の除去作用を測定・比較しています。
測定の結果、活性酸素除去作用が強かったのは(5)(4)(3)(2)の順でした。このことから、ビタミンAはタウリンよりも活性酸素消去作用が強く、高濃度であればあるほど作用が強まると考えられています。[※9]
ビタミンAが最初に発見されたのは、1906年頃だといわれています。イギリスの研究者ホプキンスはマウスを使った実験で、牛乳を加えるとマウスの成長が良くなったことから、牛乳に何らかの成長因子が含まれていると報告しました。
その後、アメリカの研究者マッカラムが脂肪に含まれる成長因子を発見。のちにビタミンAと名付けられました。
さまざまな研究を経て、脂溶性のビタミンA(レチノール)とβカロテンが見つかり、スイスの化学者ケラーが構造を決定しています。
現在ではビタミンAがもつ病気や感染症への効果のほか、ビタミンA欠乏症や過剰摂取による副作用も明らかになってきました。[※9]
ビタミンAは皮膚や粘膜の健康維持に欠かせない成分として知られています。そのため、ビタミンAの摂取は風邪の予防にもつながります。
早稲田大学人間科学部出身の栄養士・梅原しおり氏は、防御反応を正常化するビタミンAが風邪の予防に良いとコメントしています。
「くしゃみや咳は身体に異物(ウイルス等)を入れないための防御反応です。これらの防御が行われている口や喉、鼻は粘膜で覆われており、粘液やせん毛によって侵入した異物を体外に出す働きがあります。その粘膜や粘液、せん毛の働きを正常化するのは、ビタミンAです」(CORPO 栄養士さんによる栄養コラム「覚えておきたい!風邪の予防に役立つビタミン3選」より引用) [※10]
梅原氏の見解では、ウイルスや細菌を体に入れないためにも、皮膚や粘膜を正常にはたらかせるのが最適なのだそうです。風邪にかかりやすい人は、鼻や喉が痛くなってきたらビタミンAを含むレバーや緑黄色野菜を摂取すると良いでしょう。
ただし、効果を期待して大量に口にしたり、定期的に摂ったりするのは危険です。ビタミンAは肝臓に貯蔵されるため、過剰摂取すると肝障害や甲状腺機能の低下を引き起こすおそれがあります。
特にレバーは、ビタミンA(レチノール)が多く含まれているため注意が必要です。管理栄養士の河谷彰子氏は、毎日レバーを摂ることのリスクについて述べています。
「脂溶性のビタミン(ビタミンA・D・E・K)は体内に蓄積され、過剰にとると副作用が出てくる危険性が出てきます。」
「レバー50gには6,500μg(レチノール当量)が含まれており、上限量を超えてしまいます。1日位上限量を超えても問題はありませんが貧血対策!と毎日レバーを食べてしまうと、過剰症を引き起こしかねません」
(宝泉坊コラムNo.1041「レバーを毎日は×」より引用)[※11]
レバーには1日に必要な量よりも非常に多いビタミンAが含まれています。過剰症を引き起こさないためにも、ほどほどに摂取するのが望ましいでしょう。
ビタミンAを多く含む食品にはさまざまな種類がありますが、ここでは吸収率が高いビタミンA・レチノールを豊富に含む食品をまとめています。
■ビタミンA(レチノール)を多く含む食品
食品(100g) | 含有量(μg) |
---|---|
豚レバー スモーク | 17,000 |
鶏レバー 生 | 14,000 |
豚レバー 生 | 13,000 |
あんこう肝 生 | 8,300 |
やつめうなぎ 生 | 8,200 |
あゆ内臓 焼き | 6,000 |
豚レバー ペースト | 4,300 |
出典:くすりの健康日本堂「ビタミンAが多い食べ物・食品ランキングTOP10」[※12]
ビタミンAの1日あたりの摂取目安量は成人男性で800~900μgRAE/日、成人女性で650~700μgRAE/日なので、これらの食品を100gも摂取する必要はありません。たとえば豚レバーのペーストなら、1日25g(スプーン2杯ほど)にとどめましょう。
ビタミンAはビタミンC、ビタミンEと併用すると抗酸化作用が強まり、体が酸化しにくくなる相乗効果が得られます。
ただし、抗酸化作用が確認されているのはプロビタミンA(βカロテンやクリプトキサンチンなど)やレチノイン酸です。レチノールやレチナールは抗酸化作用が弱いので、効果はあまり期待できません。[※1][※2][※13]
ビタミンA(レチノール)は肝臓に貯蔵される性質があるため、摂り過ぎると脂肪肝や甲状腺機能の低下などを引き起こします。
急性中毒を起こすと腹痛や吐き気、皮膚や頭皮がはがれるなどの症状があらわれます。慢性中毒の場合は、全身の関節や骨が痛む、皮膚が乾燥する、髪が抜けるなどの症状が起こるため、過剰摂取しないように注意してください。
そのほか、妊娠初期にビタミンA(レチノール)を過剰摂取すると、赤ちゃんが奇形(外見・機能上の異常)になるおそれがあります。[※14][※15][※16]
ビタミンAは一部の医薬品と相互作用を起こす可能性があります。[※17]
■テトラサイクリン系の抗菌薬
テトラサイクリン系の抗菌薬を服用している人が大量のビタミンAを摂取すると、頭蓋骨の内部で圧力が高まり危険な状態になるといわれています。
■肝臓を害する薬
ビタミンAの過剰摂取と肝臓を害する薬の服用は、どちらも肝臓大きな負担をかけてしまうため、肝障害の原因になると考えられています。
■抗血栓薬(ワルファリンカリウム)
大量のビタミンAとワルファリンカリウムは、どちらも血液の凝固を抑える作用をもっているため、併用すると出血リスクが高まります。
ビタミンAが不足すると細胞の増殖・分裂が行われなくなり、肌の乾燥や免疫力低下などが起こります。
さらに、ビタミンAが不足した状態が続くと、次第に皮膚や粘膜が乾燥して厚くなり、角質化して硬くなります。目の角膜・結膜も乾燥するようになり、ドライアイのリスクが高まります。
また、ビタミンAが不足すると、ビタミンAが原料となるロドプシン(目の光を感知する色素)も不足するため、目の機能が弱くなり、暗いところでものが判別できない、光が異常にまぶしく感じるなどの症状(夜盲症)が出るようです。[※18]