ビオチンとは水溶性のビタミンのひとつです。皮膚炎を予防する働きがあることで知られています。また糖質、脂質、アミノ酸といった主要な栄養素の代謝やエネルギー産生にも関与する重要なビタミンのひとつで、栄養機能食品としても活用されています。ここではビオチンの効果効能や研究成果などについて解説しています。
ビオチンとは、水溶性のビタミンのひとつです。ビタミンB群として考えられており、ビタミンHやビタミンB7と呼ばれることもありますし、補酵素Rという呼び方もあります。水溶性で熱に弱い性質のビタミンです。
体内では腸内細菌によっても合成されるので、基本的には不足しないという考えもありますが、加工すると失われやすいため、食品に含まれるビオチンはごくわずかで、現代人は不足しやすい、という考えもあります。
ビオチンは古くから皮膚炎の予防や、皮膚のトラブルの治療に効果があるとされ、アトピー性皮膚炎の治療でも活用されています。
日本の医療機関の多くではビオチンを皮膚疾患の治療薬として活用していますが、ビオチン研究が進み、一部の病院では「ビオチン治療法」として、自己免疫疾患や糖尿病の治療に利用する方法や研究も採用されています。
ビオチンは糖質、脂質、たんぱく質の代謝などにも関与しており、細胞を活性化し、抗炎症物質を作る働きもします。そのため美しい肌や髪を保つのにもビオチンが不可欠です。また体内で抗炎症物質を生成するため、アレルギー症状を緩和する作用も解明されています。
喫煙、過度な飲酒、抗生物質の摂取、そして加熱していない卵白の過剰摂取でビオチンが不足しやすいことが知られており、不足した場合「ビオチン欠乏症」という症状が起こることも知られています。
ビオチン欠乏症の症状としては脱毛、眼瞼炎、抑うつや無気力などの精神症状、皮膚炎や知覚異常など多岐に及びます。
特に妊娠中にビオチンが欠乏すると、胎盤の萎縮などが起こり、胎児の発育不全が起こることや動物試験で示されている一方で、妊娠中にビオチンを多量に摂取した場合も胎児にたまり催奇性が確認されています。適正量を摂ることが非常に重要な成分です。[※1] [※2] [※3]
ビオチンには以下のような効果・効能が期待されています。
■皮膚炎の改善効果
アトピー性皮膚炎の患者には血中のビオチン濃度の低下が見られます。アトピー性皮膚炎では、ヒスチジンという物質から合成されるヒスタミンによってかゆみや炎症が起こります。
ビオチンにはこのヒスチジンやヒスタミンの産生抑制効果があり、治療薬として使用されているのです。[※1]
■皮膚や粘膜の健康を保つ効果
ビオチンは栄養機能表示が認められています。上限値は500μgで、下限値は15μgです。「ビオチンは、皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です」と表示できます。[※4]
■糖の代謝を助ける効果
ビオチンは、糖代謝に関与するピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素として働きます。[※1]
■脂質の代謝を助ける効果
ビオチンは脂肪酸代謝に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼやプロピオニルCoAカルボキシラーゼの補酵素として働きます。[※1]
■アミノ酸の代謝を助ける効果
ビオチンはアミノ酸の代謝に関与する3-メチルクロトノイルCoAカルボキシラーゼの補酵素として働きます。また亜鉛と関連しあいながら、細胞の核酸の合成にも働きかけています。[※1]
またビオチンについては、
といった新しい生理活性機能も期待されています。[※5]
食品に含まれるビオチンは、多くがたんぱく質と結合して存在しています。食品から摂取されたビオチンは、膵臓から分泌される酵素「ビオチニダーゼ」によって結合していたたんぱく質から切り離され、ビオチン単体となり遊離し、主に腸から吸収され血液中に移動します。
血液中に移動したビオチンは肝臓を経由して細胞内に取り込まれ、細胞内では糖・脂質・アミノ酸の代謝を助ける補酵素として働くことが解明されているのです。[※1]
ビオチンはどんな人にも必要な栄養素のひとつです。日々の食事から過不足なく補う必要があります。
私たちヒトの腸内でも合成されるため、基本的に不足の心配はないとされますが、最近の研究では摂取について目安量を下回っており、不足している人の方が多いことが懸念されています。
特に高齢者はビタミン全体の摂取量が低いだけでなく吸収能力も低下しているので、意識的な摂取が必要とされています。[※5]
皮膚のトラブルが気になるときや、ビオチンの不足で現れやすい症状が確認できた際は、意識的にビオチンを補ってみるとよいでしょう。
ビオチンが不足しているときにに現れる症状としては以下のようなものがあります。[※1]
ビオチンが不足する原因としては
などが指摘されています。[※1]
食事摂取基準 (日本人の食事摂取基準2015年版) [※6]による各年齢別ビオチンの摂取目安量は以下の通りです。(μg/日、男女共通)
現在、私たち日本人は食事から平均45.1μg/日を摂取していると報告されています。[※1]
ビタミン類は基本的に食品から適量を摂取することが望ましいとされていますが、多く摂取することで、生理活性を亢進し、病気の予防効果や機能性を発揮することが知られています。
ビオチンのあたらな生理活性については、皮膚に関する難病疾患の予防効果、高血圧症改善効果などに関して研究が行われています。
■アトピー性皮膚炎や乾鱗予防に関するエビデンス
ビオチンの摂取(1日9mg程度、目安量の数倍から数十倍の量に相当)で、アトピー性皮膚炎や乾鱗などの難病性疾患を予防することが報告されています。[※9]
■アトピー性皮膚炎や乾鱗予防に関するエビデンス
ラットの試験で、毎日3.3mg/Lの水溶液の飲水によってビオチンを摂取することで、飼育2週間以降で高血圧症が改善されることが報告されています。[※10]
ビオチンは、1901年にWildiers という研究者が酵母の成長を促進させる有機成分を発見したことにはじまるとされています。このときに発見された成分がビオスと呼ばれ、これに由来してビオチンと名付けられたそうです。また、1927年にはマウスを使った試験で、生卵白の過剰摂取が原因で生じる皮膚炎を防止する因子(物質)として発見され、ドイツ語で皮膚を表す「Haut」の頭文字からビタミンHとも呼ばれます。このビタミンHと先のビオチンは同一のものであることが1940年になって認められます。
またオランダのクーグルとトーニスいう研究者によって、1936年にアヒルの卵黄の中からビオチンの発見と単離を成功させています。
このようにいくつかの異なる研究が統合されビオチンの存在が明らかになっていきました。
最終的にビオチンの化学構造は1942年にV.duVigneautらによって決定され、化学合成は1946年、S.A.Harrisらによって完成されました。[※7] [※8]
皮膚病のひとつであり慢性難治性の疾患である掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という病気があるのですが、この治療にビオチン療法(治療)が有効かどうかについて、専門家のあいだでも賛否が分かれています。
掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏に膿をもった水ぶくれのようなものが多数生じるうえ関節痛が伴うケースもあり、長期間繰り返してしまう疾病です。
原因が解明されておらず、金属アレルギーとの関係、喫煙との関係も指摘されています。
一般治療は塗り薬(ステロイドや活性型ビタミンD3軟膏)や抗生物質の内服などです。
高知大学医学附属病院の大湖健太郎先生はこの症状に関するビオチン療法について
「一部で『ビオチン』という治療が行われています。ビオチンはビタミンの一種で、健康な日本人の場合、通常の食生活で不足することはないでしょうし、効果が科学的に検証されておらず、正直独り歩きしている印象を受けます。
ですから、ビオチン療法は過信されない方が良いと思います。保険診療の範囲での処方量には限度があります。」(以上、高知大学医学附属病院HP掌蹠膿疱症 治療法は(平成26年12月26日掲載より引用・抜粋)
ビオチンは以下のようなものに豊富に含まれています。
一方、野菜や果物では10μg以下(100gあたり)と少量です。
また健康食品として人気のあるローヤルゼリーにもビオチンが多量に含まれています。[※12]
水溶性ビタミンであるビオチンは、他のビタミンと相互的に働くため、どのビタミンも過不足なく補うことが大切です。
特にビオチンはビタミンB群と考えられ、ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、そして水溶性ビタミンの代表ともいえるビタミンCなどと一緒に働くため、これらと一緒に摂取することが望ましいといえるでしょう。
また、ビオチンは腸内細菌からも合成されるので乳酸菌などで腸内環境を整えておくことも大切です。
ビオチンは水溶性ビタミンの一種であり、他の水溶性ビタミンと同様、大量に摂取しても速やかに尿中に排出されてしまうので、一般的に過剰や過剰による副作用の心配はないとされています。
また、ビオチンを過剰投与した場合の副作用や有害作用についても、健常者での報告はなく、安全性が高いため、許容上限摂取量も定められていません。
ただし、妊娠中に不足した場合と過剰になった場合、動物試験で胎児への以上が報告されています。[※2]