太宰治の「富士山には 月見草がよく似合う」という一節で知られる月見草。その名前は、夕刻から夜にかけて花が咲き、朝方にかけてしぼむ特性からつけられており、別名「待宵草」という名前でも親しまれています。
月見草(学名 Oenothera teraptera)とはアカバナ科マツヨイグサ属に分類される植物です。1930年頃からイギリスやドイツ、フランスなどでアトピー性湿疹の治療に用いられてきた歴史があります。
一般的に、アカバナ科マツヨイグサ属の植物をまとめて「月見草」と呼ばれるケースが多いようです。月見草と呼ばれるマツヨイグサ属の植物の違いを解説しています。[※1][※2]
■ツキミソウ(学名 Oenothera tetraptera)
葉は濃い緑色でフチはギザギザとしている。野生化はしていない。一夜のうちに直径4~5cm程度の白い花が咲き、朝方にかけて桃色に染まりながらしぼむ。
■マツヨイグサ(学名 Oenothera stricta)
葉は濃い緑色。一夜のうちに直径3cmほどの黄色い花が咲き、朝方にかけて赤色に染まりながらしぼむ。道ばたや河原に生えているが、数は少ない。
■コマツヨイグサ(学名 Oenothera laciniata)
ギザギザの葉と地上を這う茎が特徴。一夜のうちに直径2~3cmの黄色い花が咲き、朝方にかけて黄赤色に染まりながらしぼむ。空き地や道ばた、海岸や河原に生えている。
■オオマツヨイグサ(学名 Oenothera glazioviana)
葉は黄緑色。一夜のうちに直径5cm以上の黄色い花が咲き、朝方にかけてしぼむが花弁の色は変わらない。土手や空き地、川原や海岸に生えている。
■メマツヨイグサ(学名 Oenothera biennis)
ツキミソウの中でもっとも多くみられる種類。葉は黄緑色で、一夜のうちに直径3cmほどの花が咲く。もちが良いものは翌実の日中までしぼまずに残ることもある。道ばたや河川敷、荒れ地などに生えているため、アレチマツヨイグサ(学名 Oenothera parviflora)とも呼ばれている。
ツキミソウは野生化していないため、日常的に目にする機会はほとんどありません。ここでは国内に生えている月見草の中でもっとも数が多く、月見草油として利用されている「メマツヨイグサ」についてご紹介していきます。
月見草油はメマツヨイグサの種子から抽出したもので、主にカプセルに充填して使用されます。さまざまな症状に効く民間療法または伝統療法として古くから利用されてきた歴史があります。
最近ではダイエットサプリメントや健康食品に配合されていますが、残念ながら科学的なデータに基づいたエビデンスは少ないのが現状です。[※12]
信頼性の高い医療分野の研究内容をもとに、月見草に期待できる効果と作用のメカニズム、副作用などを解説していきます。
月見草油(メマツヨイグサ)について、海外の臨床試験で次の3つの効果が認められています。[※3] [※6]
月見草油を使った臨床試験では、次の3つの症状に対する有効性が示唆されています。しかし研究データは不十分であり、明らかな効果は認められていません。[※7]
■乳房痛
月経時または妊娠時に起こる乳房痛の研究では、月見草油は乳房痛の緩和をサポートする可能性があると報告されています。[※4]また最近では、月見草とビタミンEを併用によって、重度の乳房痛を緩和できる可能性が示唆されています。[※5]
■過敏性腸症候群(IBS)の予防
過敏性腸症候群の症状(月3日以上の腹痛、便秘、下痢など)を予防できると考えられています。
■骨粗しょう症
月見草油と魚油、カルシウムを併用することで、骨粗しょう症予防に効果があるといわれています。
以下の症状は、長年にわたって民間療法や伝統療法で月見草が効くとされてきたものです。ただし、科学的根拠は確認されておらず、効果はほとんど期待できません。[※6] [※7]
月見草油の作用に関して、科学的根拠に基づいた情報はほとんどありません。月見草油に含まれる成分「ガンマリノレン酸」については、さまざまな作用が確認されています。[※3]
ガンマリノレン酸とは植物油に含まれる多価不飽和脂肪酸のことです。表皮を覆う角質層を構成して、水分の蒸発による肌の乾燥を防いでくれます。また、肌の炎症を抑える作用があるため、にきびや湿疹に良いと考えられています。
さらに、ガンマリノレン酸は女性ホルモンの働きをコントロールする働きをもっています。女性ホルモンのバランスが乱れて起こる生理不順や生理痛、乳房痛に月見草が有効だとされているのは、ガンマリノレン酸が含まれているためです。
また、慢性的な関節炎症によって痛みが生じる関節リウマチを緩和するのもガンマリノレン酸です。関節炎の進行をおだやかにしながら活性酸素によるダメージを軽減することで、関節機能を向上させ、関節リウマチが改善すると考えられています。
129人の偏頭痛患者を対象としたとある実験では、多価不飽和脂肪酸の摂取によって86%が頭痛の頻度が減り、頭痛の時間が短くなったと報告されています。
月見草油には、多価不飽和脂肪酸に該当するガンマリノレン酸を含まれるため、頭痛への効果が示唆されています。
肌荒れや乾燥が気になる女性は、肌の水分量を保ってくれる月見草油を積極的に利用すると良いでしょう。女性ホルモンのバランスを整えてくれる成分が含まれているため、生理前や生理中の肌荒れ、体調不良などへの効果も期待できます。
月見草油の1日あたりの使用量目安は、用途によって異なります。上限量はとくに定められていません。
■用途別にみる1日あたりの月見草油の使用量目安[※3][※7]
月見草油はカプセルに重鎮され、サプリメントとして販売されているものが多いため、1カプセルあたりの配合量と使用量目安を照らし合わせると良いでしょう。
NPO法人アメリカン・ボタニカル・カウンシルが日本メディカルハーブ協会・学術調査研究委員会に提供した研究情報によると、月見草油を使った22例の臨床研究のうち16例で効能が実証されています。
実証された効能は、PMSや糖尿病神経障害、関節炎や関節リウマチ、生理に伴う乳房痛や閉経後のほてり、母乳の脂質組成の改善などです。
また、311人のアトピー性皮膚炎患者を対象にした月見草油の臨床試験では、アトピー性のかゆみを増長させる非必須脂肪酸の上昇が優位に改善したと報告されています。[※ 8]
また、カナダ・モントリオール大学教授のデヴィッド・ホロビン博士はアトピー治療の研究を25年行い、アトピー患者には「γ-リノレン酸」が常人の50%しかないことを突き止めました。
ブリストル大学で行われた研究では、月見草由来のγ-リノレン酸から開発した治療薬(GLA)によるアトピー症状への有効性が認められています。
研究の対象となったのは、軽度から中位度のアトピー症状をもつ127人の子どもと240人の成人、そしてアトピー重症患者179人です。軽度・中緯度のアトピー患者はかゆみが改善し、重症患者116人も症状が改善したと報告されています。[※9]
その一方で、アメリカにあるミネソタ大学医学部のBamford JTらが2013年に行った研究では、月見草油(EPO)は湿疹に効果がないと報告されています。試験では1596人を対象とし、月見草油を投与するグループとプラセボ(偽薬)を投与するグループに分けて、摂取後の様子を比較しました。
その結果、月見草油グループとプラセボグループの両方で湿疹の改善がみられたため、月見草の含有成分によって症状が改善したとは認められませんでした。
また、月見草油(EPO)を1年以上服用すると炎症や血栓症、免疫抑制などのリスクが上がることが判明したため、Bamford JTらは長期使用における注意を呼びかけています。[※ 10]
月見草油をそのまま摂取する場合と有効成分(ガンマリノレン酸)を抽出して摂取する場合では結果が異なるため、月見草による効果効能は不確かだといえます。
月見草油に使用される「メマツヨイグサ」は外来種で、原産地は北アメリカです。アメリカでは、古くからメマツヨイグサ全体を傷薬として、根を痔の薬として使い、葉は食欲増進や喉の痛みを抑える目的で使用していました。[※7]
日本にメマツヨイグサがわたってきたのは明治時代です。現在は日本でも、メマツヨイグサからつくられる月見草油が湿疹や関節リウマチ、月経前症候群や更年期症状の治療に用いられています。
民間療法で用いられていきた歴史が長いため、残念ながら科学的な研究データは少ないのが現状です。
東京都渋谷区にある予防医療専門内科の笹塚クリニックでは、月見草油(ガンマリノレン酸)について次のように解説されています。
「自然界においては、母乳と月見草の種子にわずかに含まれています。人工的には微生物を利用して発酵生産されたものがあります。したがって、リノール酸から体内でγ-リノレン酸を作れない体質の人は、サプリメントで補給してください」(笹塚クリニック「アレルギー対策」より引用)[※11]
通常、植物油にはリノール酸が含まれており、体内でリノール酸が代謝されてガンマリノレン酸になります。しかし月見草油にはもともとガンマリノレン酸が含まれているため、リノール酸からガンマリノレン酸をつくりだせない体質の人でも効率的に摂取できるのです。
月見草(メマツヨイグサ)は食用ではないため、月見草を使ったキャリアオイルやサプリメントなどを利用しましょう。
月見草油は酸化しやすいため、基本的にカプセルに重鎮されています。月見草油をマッサージやトリートメントに利用する最は、ホホバオイルや小麦胚芽オイルなど、酸化しにくいほかのキャリアオイルと組み合わせて利用しましょう。
月見草油とビタミンEを併用することで、乳房痛を緩和する相乗効果が生まれるといわれています。
副作用として、胃のむかつきや下痢、頭痛などの軽い症状が表れることがありますが、重篤な副作用は報告されていません。
ただし、てんかんや統合失調症に該当する人は、発作率を高めてしまう可能性があります。妊娠中や授乳中の摂取も問題が起こる可能性があるため、使用を避けたほうが良いでしょう。
また、月見草油は抗血栓薬に似た効果があるため、手術を控えている人や血友病(止血に時間がかかる病気)の人が月見草油を摂取すると副作用として大量出血のリスクが上がります。[※7]
抗血栓薬(ワルファリン)を服用している人は、月見草油を併用すると紫斑が生じたり、出血しやすくなる相互作用が起こります。[※12]
また、フェノチアジン系の抗精神病薬(クロルプロマジンやフルフェナジンなど)を服用している人が月見草油を併用するとけいれんを起こす可能性があります。[※7]