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トレハロースの効果とその作用

トレハロースとは微小動物や植物の細胞、きのこやしいたけ、酵母などに含まれている糖類のひとつです。高い保水力など独特の特性があるため、食品添加物(製造溶剤、定甘味料)として認められ、食品や化粧品に使用されています。ここではトレハロースの効果効能・研究成果・摂取目安量などについて詳しく解説します。

トレハロースとはどのような成分か

トレハロースとは、自然界に広く存在していて、昔から私たちが食してきた糖質のひとつです。構造としては、ブドウ糖2分子が「α,α-1,1結合」してできた非還元性の2糖です。[※1]

私たちはトレハロースを普段の食事、例えばパンやビール、発酵食品、豆類、海藻類からなにげなく摂取しています。

自然界ではバッタ、イナゴ、蝶、ハチなどの多くの昆虫に含まれるほか、植物ではキノコ類に多く含まれます。特にきのこの中には乾燥重量あたり20% 以上も含まれるといいます。

またキノコ類の多く含まれることから、トレハロースは別名「マッシュルーム糖」とも呼ばれることもあります。[※2]

トレハロースは砂糖の38%程度のすっきりした甘味を持ち、食品加工の際に添加すると、素材本来の味を引き出したり、おいしさを引き出したり、食感をよくしたりするため、現在は多くの加工食品に食品添加物として使用されています。[※1] [※2]

熱や酸に対しても安定性が高く、保湿性が高いため、でん粉の劣化を抑制し、たんぱく質の変性を抑制する働きも有します。そのため加工食品だけでなく、肉類の加工や生野菜の処理にも活用されています。つまりトレハロースは私たちの食生活に欠かせない成分のひとつなのです。[※3]

このように優れた特性を持つトレハロースですが、かつては酵母を培養し、そこから抽出する方法で製造されていました。そのため非効率で非常に高価であったため、長い間、一部の化粧品などにしか使用することができませんでした。[※2]

現在は不可能といわれていた大量生産方法が岡山県のバイオメーカーである株式会社林原によって確立され、トレハロースが食品・化粧品・医薬品・日用雑貨などさまざまな用途で利用されるようになりました。[※2]

トレハロースの製造だけでなく、研究やエビデンスの蓄積も(株)林原が中心となり、現在も進められているのです。

トレハロースの効果・効能

トレハロースには以下のような効果・効能が期待されています。

食品添加物としてのトレハロースには以下のような効果があります。[※4]

■でん粉の老化抑制効果

餅、ご飯、パン、ケーキなどの柔らかさを保ちます。

■保水性の向上効果

食品の離水や乾燥を防ぎ、できたてのフレッシュ感やしっとりとした食感を保ちます。

■たんぱく質変性抑制効果

肉や卵などのたんぱく質が固まりすぎるのを抑制するため、だし巻き卵などに応用されます。

■脂質変敗抑制効果

食品に含まれる脂質が調理後に劣化するのを防ぐため、揚げ物や洋菓子などの風味の劣化を抑制します。

■加熱・加工時の風味改善

ジャムやフルーツソース作りにトレハロースを添加することで、フルーツの色や香りが保たれます。

■冷凍時の組織保護

食品の冷凍保存時の破損や離水を防ぎます。

■フルーツ、野菜の変形抑制

カットフルーツの色が変色するのを防ぎます。レモン果汁などが使用されることもありますが、風味を損なわないトレハロースが人気で、この特性は切り花の延命にも用いられています。

■苦味や渋み、生臭さなどのマスキング効果

強すぎる味や臭いを抑制することも可能です。

トレハロースにはこのようにさまざまな効果が認められており、現在、多くの加工食品に使用されています。

また、生理機能活性成分、医薬品としての研究も進んでいます。[※2]

■インスリン低分泌作用

トレハロースは砂糖の38%程度の甘味度であるため、グルコース(砂糖)摂取と比べて、インスリン値や血糖値の上昇が緩やかな糖質です。

■耐糖能改善作用

血糖値を正常に保つためのグルコースの処理能力である「耐糖能」に異常が生じ、高血糖状態が続くことを「耐糖能異常」といいますが、トレハロースを摂取すると異常が緩和されることが動物試験で報告されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

私たちヒトの体内では、トレハロースは合成されません。しかし、小腸と腎臓でトレハラーゼという酵素によって分解されエネルギー(4kcal/g)となることがわかっています。[※3]

食品添加物としてのトレハロースの最大のメリットはその高い保水力にあります。

クマムシなどの微小動物や、砂漠などに生えているイワヒバといった植物にはトレハロースが含まれ、普段はカラカラに乾燥していても雨が降ると復活するのは、このトレハロースがあるからだと考えられています。[※3]

天然の食品では干し椎茸が水で戻るのもトレハロースのおかげとされ、他にも自然界の動植物が乾燥や凍結といった過酷な環境を生き抜くのは、トレハロースが水の代わりとなって、命を守るからだと考えられています。[※3]

さらにトレハロースには砂糖ほどではありませんが、甘味があります。これらのトレハロース独特の特性が、現在私たちの食品や生活にも利用されているのです。

トレハロースのエビデンス(科学的根拠)

現在、トレハロースは多機能性糖質としての研究も進められており、以下のようなエビデンス(科学的根拠)が報告されています。以下はいずれも(株)林原の研究報告によるものです。[※1]

■インスリン低分泌作用

健康な20名の成人男女に、グルコース、あるいはトレハロースを25g経口摂取してもらったのち、血中のインスリンと血糖値について比較をしたところ、トレハロース摂取では血糖値の急激な上昇や下降は見られず、またインスリン値の上昇も抑えられたことが報告されています。[※1]

■耐糖能改善作用

肥満傾向(BMI23以上)の成人男女34名に、1日3回、毎食3.3gのトレハロース、または対象としてグルコースを3か月継続摂取してもらう比較試験を実施。

トレハロース摂取群において、血糖値の変化率が有意に低下し、耐糖能(グルコースの処理能力)が改善したことが報告されています。[※1]

■細胞障害抑制作用

ヒト細胞株にクエン酸刺激を与える試験、タバコ煙成分刺激を与える試験、乾燥刺激を与える試験で、いずれも対照群としてトレハロースを添加した細胞では、細胞に見られる障害や炎症の度合いが有意に低下。

この試験結果から、トレハロースには細胞障害抑制作用があることが報告されています。[※1]

また現在、脂肪細胞肥大化抑制作用や骨粗しょう症予防作用などについてもエビデンスの蓄積が進められています。

研究のきっかけ(歴史・背景)

トレハロースの存在が明らかになったのは1832年とされています。[※3]

国内のトレハロース製造元である(株)林原によれば、ウィガースという科学者がライ麦の麦角の中から発見されたとあります。

さらに1859年にはバーサローという科学者によって、トレハラマンナと呼ばれるペルシヤ地方に生息する象鼻虫から作るものから分離して、トレハロースと名付けられたそうです。以降、トレハロースの研究が進むことになります。[※3]

人間はもちろん、すべての生命は水がなければ生きられませんが、昔から完全に干からびた状態でも、水を少量加えれば生き返る生物に注目が集まっていました。

例えば砂漠に自生するイワヒバという植物やクマムシ、そして酵母などです。この一見死んでしまったような現象は「クリプトビオシス」と呼ばれ、実は死んでいるのではなく、体内のグルコースをトレハロースに変え、乾眠(かんみん)状態になっていることも解明されています。[※3]

クリプトビオシスを行うすべての生物がグルコースをトレハロースに変えているわけではないそうですが、トレハロースには水に変わって細胞を守る働きがあることがわかってきています。

さらに昆虫の場合は、体液にトレハロースが蓄えられていて、これを必要な時にブドウ糖に変えて長距離を飛んだり跳ねたりすることもわかってきています。[※3]

このトレハロースの独特の力は、私たちの生活にも応用できると期待されてきましたが、従来のトレハロースの抽出は非常に難しいものでした。

酵母を大量培養するか、微生物による発酵などの方法で抽出され、1kgあたり3〜5万円もする高価なものでした。そのためトレハロースの実用化は不可能と長い間いわれていたのです。

しかしバイオメーカーである(株)林原の研究員が、2000種類以上もの土壌のなかから、トレハロース生成酵素を産生する菌を発見し、でんぷんの80%以上をトレハロースへ変換する製法が完成します。1994 年、林原によって、トレハロースの量産化が世界ではじめて実現したのです。[※1]

現在も同社が中心となって、トレハロースの応用研究、食品、医薬品、化粧品、飼料、肥料、工業用品、文化財保護分野などトレハロースのノウハウや応用が進められています。

専門家の見解(監修者のコメント)

トレハロースは有名レストランや和洋菓子店などでも利用されています。

パティシエのワールドカップとも呼ばれる、フランスのリヨンで2年に1度開催される『La Coupe du Monde de la Pâtisserie(クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー)』で、1991年、日本人初の優勝を勝ち取った林雅彦シェフがオーナーを務める洋菓子店『GATEAU DES BOIS(ガトー・ド・ボワ)』(奈良県西大寺)でもトレハロースが使用されています。

林シェフによれば

「トレハの発売当初に低甘味の糖として紹介され、すっきりとしたあと口が気に入り、使いはじめました。今では、メレンゲの気泡安定、焼き菓子の油にじみ出し抑制、生クリームの乾燥抑制など、当たり前のように基本配合に入っています。

フルーツのピュレを使う際なども、フルーツの風味が際立つので重宝しています。トレハは洋菓子作りの縁の下の力もちです」

(以上、林原e-shop「いつものお料理・お菓子に加えるだけ!トレハ」より引用・抜粋)[※5]

と述べています。林原の運営するトレハウエブ[※6]では、ほかにもトレハロースを使用する洋菓子店や和菓子店のインタビュー動画を見ることができます。

トレハロースの摂取方法

トレハロースは多くの加工食品に含まれているため、私たちは無意識に摂取していることが多い成分です。

家庭で調理をする機会が多い人や、おかし作り、パン作りなどをしている人には、トレハロースは「材料」のひとつとしてトレハロースがより身近な存在であるかもしれません。

あらゆる料理、菓子、パンを作る際にトレハロースを適正量加えると、作りたての状態が長くキープできたり、美味しさが引き立てられたりします。スーパーやネットなどでも砂糖のように「トレハロース」を購入することが可能です。

もっとも簡単なトレハロースの使用方法は、料理の下ごしらえに取り入れることです。[※7]

水にトレハロースを溶かした(水500ccにトレハロース大さじ1と1/2)溶液に、カットした野菜などを軽く浸します。これだけで野菜の変色を抑制し、みずみずしさも保たれますので、サラダやステイック野菜にぴったりです。

また同じように水にトレハロースと酒(水500ccにトレハロース大さじ1と、酒大さじ4)を溶かした溶液で魚や肉を軽く揉み込んで下処理すると、魚や肉の臭みがとれ、しっとり柔らかく仕上がります。

トレハロースの副作用

トレハロースはきのこ、パン、その他酵母を使った発酵食品や加工食品に多く含まれている糖質で、食品添加物としてのトレハロースも原料はトウモロコシのでんぷんであり、安全性も高く、日本では食品添加物として認められています。

また欧州、カナダ、オーストラリア、中国などでは「食品」に分類されています。

トレハロースは体内では小腸で分解されますが、分解能力には個人差があるため、大量摂取をすると、一時的にお腹がゆるくなることが指摘されていますが、基本的には安全といえるでしょう。[※8]