スピルリナは50種類以上の栄養成分を含むスーパーフードとして注目される食品です。日本では1970年代からサプリメントとして登場し、今なお人気を誇っています。肉や魚を超えるともいわれる豊富なたんぱく源であり、フィコシアニンという特有の青い色素が、健康やアンチエイジングに有効なさまざまな生理機能をもっていることがわかりました。
ナチュラルクリニック代々木佐野正行先生
スピルリナはクロレラやユーグレナと同じ「微細藻類(マイクロアルジェmicroalgae)」と呼ばれる単細胞の植物プランクトンです。シアノバクテリア(藍色細菌:藍藻の旧名)の一種で、ほかの藻類とは違い細胞核のない原始的な構造をしており、フィコシアニンという特有の青い色素をもっています。
長さ200~500μm(マイクロメートル)、幅6~10μmと、藻類のなかでは比較的大きく[※1][※2]、細胞がねじれたらせん形をしていることから、ラテン語の「Spira(英語でSpiral)」をとってスピルリナと命名されました。
比較的高温(30~40℃)かつ高アルカリ性(pH9~10)の水を好むため[※1]、アフリカや中南米の限られた塩湖だけに自生し、湖の周囲に住む人々は古くからこの藻を食糧としてきました。
スピルリナはたんぱく質含有量が55~70%もあり[※3]、肉や魚、大豆製品よりもたんぱく質が豊富で、アミノ酸バランスもすぐれています。[※4] ビタミン、ミネラル、食物繊維、不飽和脂肪酸など50種類以上の健康・栄養成分を含むスーパーフードです。[※3]
スピルリナには次のような効果・効能があるといわれています。
■食生活の改善・栄養補給
栄養素をバランスよく含むため、不足がちな栄養を補い食生活を改善する効果があります。■肥満の予防・ダイエット
たんぱく質の含有量が多いので、カロリーを抑えて効率良くたんぱく質を摂取できます。各種ビタミンやミネラルのほか、100gあたり9.5gと食物繊維も豊富で、肥満の予防やダイエットに効果があります。[※5]■貧血の予防
スピルリナ100gには63.1mgもの鉄分が含まれます。[※5] これは鉄分が多いとされる豚レバー(13mg)やほうれんそう(2gm)よりもはるかに多く[※6]、鉄欠乏性貧血の予防に効果的です。■コレステロール値や血糖値を下げ生活習慣病を予防する
血液中の脂質やコレステロール値・血糖値の上昇を抑えるため、動脈硬化や糖尿病など生活習慣病を予防します。■肝機能の促進・有害物質からの保護
肝機能を促進し、有害物質から肝臓を保護するはたらきがあります。■抗アレルギー・抗炎症作用
皮膚アレルギーの症状や大腸炎の炎症を抑える効果があります。■認知症の予防、脳保護作用
脳梗塞の症状の改善[※7]、認知症予防や脳細胞の保護といった効果が期待できます。[※8]スピルリナは必須栄養素をバランスよく含むだけでなく、消化吸収率が95%と高いため[※9]、栄養的には非常にすぐれた食品です。
乾燥粉末たった4gに、緑黄色野菜100g、淡色野菜200gに相当する栄養素が含まれています。[※5]
また、ほかにも健康や美容に有用な生理機能成分を多数含んでいます。
スピルリナには多価不飽和脂肪酸のγ-リノレン酸が約1.3%と他の藻類に比べて多く含まれ、体内の代謝によってプロスタグランジン(prostaglandin)というホルモンのような物質を生み出します。[※9] プロスタグランジンにはコレステロール値低下作用、血行促進作用、血糖値や血圧を正常に保つ作用や[※10]、アレルギーの抑制作用、PMSや更年期障害の症状を軽減する効果があるといわれています。[※11]
クロロフィル(緑色)、β-カロテン(黄色)、フィコシアニン(青色)という3種類の植物色素も、さまざまな健康効果をもっています。
植物の代表的な光合成色素であるクロロフィルには、コレステロールを減らす作用があります。また、胃腸内の殺菌・健胃作用をもっているため、胃腸を健康に保つ効果が期待できます。[※10]
β-カロテンには、体内の活性酸素を除去する作用があり、細胞の老化を防ぎ、動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病のリスクを下げる効果があります。[※10]
フィコシアニンはスピルリナにもっとも多くふくまれる光合成色素で、クロロフィルやβ-カロテン同様、高い抗酸化作用があります。活性酸素のなかでも酸化力の強いフリーラジカルを無害化するため、炎症や動脈硬化、DNA損傷によるがんの発生、老化を防止するなど、さまざまな機能性をもつことが報告されています。[※7]
また、フィコシアニンには体の免疫力を高めるはたらきがあることがわかりました。国内外における研究の結果、アトピー性皮膚炎や喘息やアレルギー性の腸管の炎症を改善することが報告されています。[※7]
フィコシアニンのもつこれら2つの作用が、さまざまな形で生理代謝に関与し、病気や老化の予防につながっていると考えられています。
そのほか、肝機能を有害物質から保護する作用や[※12]、脳神経系に対する作用(神経細胞の保護など)[※7][※8] があることが、動物実験の結果からわかっています。
少量で多くの栄養素を効率よく摂取できるため、食生活が乱れがちで栄養をバランスよく補給したいかた、鉄分が多いため特に貧血の人におすすめです。
高たんぱく低カロリーで栄養を補給できることから、糖尿病や肥満に悩むかた、ダイエットをしたいと思っている人にも力強い味方となってくれるでしょう。肝機能を保護するはたらきがあるので、肝臓病の人、お酒をよく飲む人にも良いでしょう。
生活習慣病のリスクを下げたり、老化を防止したりする効果が期待でき、免疫力を高める効果もあるので、健康で生き生きとした生活を送りたい人に適した成分です。
市販のサプリメントは乾燥スピルリナを固めた錠剤が主流です。1日の摂取量はメーカーによって異なりますが、2~6gを目安にすると良いでしょう。[※13]
上限摂取量については特にもうけられていませんが、アメリカ国立衛生研究所によると、1日10~19gのスピルリナを数ヶ月間摂取しても、健康上の問題はないと報告されています。[※14]
スピルリナは乾燥粉末4gで緑黄色野菜100gと同等の栄養を補給できる食品です。鉄分に関しては8gでほぼ1日の必須量をまかなうことができます。サプリメントとしてスピルリナを使用するのであれば、定められた目安量でも十分な効果が得られると考えられます。
スピルリナの生理機能については、詳しいメカニズムがまだ明らかにされておらず、データの多くは動物実験によるものです。しかし、ヒトに対する臨床試験の結果も少しずつ増えてきています。
東海大学第一内科の臨床試験によると、高脂血症および高脂血症予備軍である30名の被験者を2つのグループにわけ、片方にはスピルリナ1日4.2gを8週間、もう片方には4週間摂取してもらったところ、4週目まではどちらのグループもLDL(悪玉)コレステロール値の低下、動脈硬化指数の改善が見られました。
8週間摂取し続けたグループは、その後も高脂血症が改善された状態が続きましたが、4週間で摂取をやめたグループは、元に戻ってしまいました。[※12]
カリフォルニア大学における臨床試験では、健康な50歳以上の男女40人に12週間スピルリナを摂取してもらったところ、赤血球のヘモグロビン量に有意な増加が見られました。
また、被験者の多くは、6週間目以降、IDOと呼ばれる抗酸化酵素の活性が高まり、白血球の数も増加していることがわかりました。
このことから、スピルリナは貧血を予防し、免疫力をアップする効果をもつことがわかりました。[※15]
スピルリナは16世紀まで、アステカ人やほかのメソアメリカ人の食糧源だったといわれています。
アステカ帝国を征服したスペインのコルテスが、メキシコのテスココ湖を訪れた際、現地の住民から緑色をしたパンのようなものを買ったという記録があり、それがスピルリナに関する最古の記録とされています。[※16][※17]
1927年にドイツの藻類学者ドゥルピン博士により発見され、その形状からスピルリナという名前がつけられました。
1962年、スピルリナの豊富な栄養素に注目したフランス国立石油研究所のクレマン博士がアフリカのチャド湖からスピルリナを持ち帰り、本格的な研究が始まりました。
1967年、クレマン博士はメキシコ微生物会議でスピルリナを世界に紹介。同年、エチオピアで開催された国際応用微生物学会の国際会議において、「豊富なたんぱく源であることから将来の食糧として注目されるべきである」として、研究者たちにスピルリナの重要性を知らしめました。
スピルリナが日本にやってきたのは1968年です。その後、国内外でスピルリナや特有の色素成分フィコシアニンについての研究が続けられ、数多くの機能性をもつことが明らかになりました。
スピルリナの有用性には世界中から大きな期待が寄せられています。1974年、世界保健機構(WHO)はスピルリナを
「鉄とたんぱく質が豊富であることを始め、複数の有用性をもつ非常に興味深い食物であり、リスクなく子どもに投与できる」と述べ、「非常に適した食品」と考えていることを発表しました。[※18]
少量で豊富な栄養素を摂取することができるため、世界の貧困・飢餓対策のカギを握る食物として注目されており、2003年には国連が、スピルリナを栄養失調の子どもたちを救う食糧として研究・活用する政府間機関(IIMSAM:Intergovernmental Institution for the Use of Micro-Algae Spirulina Against Malnutrition)を設立しています。[※19]
スピルリナの栄養と生理機能を高く評価したNASA(National Aeronautics and Space Administration)は、2014年「スピルリナは宇宙食の最有力候補だ」とコメントしています。[※20]
市販されているスピルリナは、乾燥パウダーを固めた錠剤が主流ですが、そのほかにも、パウダーやエキス、生食用の冷凍スピルリナなどがあります。
海苔と抹茶を混ぜたような風味が特徴で、日本人にはなじみやすく、匂いはほとんど気になりません。
パウダーやエキス、冷凍品は料理の素材としても使いやすく、スープやスムージーに混ぜたり、ドレッシングにしてサラダにかけて食べたり、いろいろな食べ方を楽しめます。味にクセがないのでケーキやクッキーなどお菓子の材料にも使えます。
スピルリナだけを食べて生きていけるといわれるほど栄養豊富な食物ですが、足りない栄養素もあります。その代表例がビタミンCです。スピルリナを摂取する際は、ビタミンCの豊富な野菜や果物と組み合わせることで、より高い栄養効果を得ることができます。
また、赤血球中のヘモグロビンの生成を助けるビタミンB12をとることで、貧血を予防・改善する効果を高めることができます。
スピルリナにはビタミンB12が多く含まれるという記述も散見されますが、じつは、藻類に含まれるビタミンB12は生理的に不活性なシュード(疑似)B12というもので、動物性食品に含まれるB12とはまったく異なる物質なのです。[※21]
貧血改善効果を期待するなら、スピルリナと一緒にB12を豊富に含むかきや魚介類、レバーなどを摂るようにしましょう。
アメリカ国立衛生研究所によると、過剰摂取による有害作用として、悪心、下痢、疲労、頭痛といった症状が現れると報告されています。[※14]
また、クロロフィルが分解されてできるフェオホルバイドという物質は、光過敏症による皮膚障害を起こす原因となることがわかっており、厚生労働省は加工や取り扱い方法、成分含有量などのガイドラインを定めています。[※22]
病気の治療中、妊娠中のかたは摂取を控えたほうがよさそうです。ビタミンKを含むため抗血栓薬のワーファリンと相性が悪く、薬の効果を相殺してしまいます。また、妊娠中にスピルリナサプリメントを使用したことにより、新生児に重度高カルシウム血症の症状が起きたという報告があります。
スピルリナはさまざまな効果・効能を期待できる食品です。適量を摂取するのであれば、副作用や健康上のトラブルが起こることはほとんどありません。用量を守って、スピルリナの健康パワーを十分に活用したいものです。