ここではサフランの効果・効能についてまとめています。サフランはクロッカスとも呼ばれる紫色の花で、雌しべは生薬として使われています。PMSや月経時の不快感をやわらげる効果があることから、婦人病の治療に用いられている植物です。最近では研究からアルコールによる記憶障害を改善する効果がわかっており、期待が高まっています。
サフランは球根で増えるアヤメ科の多年草で、クロッカスとも呼ばれています。主な生産地はイランやスペイン、インドなどの国々で、地中海南西部から中国にかけて幅広く栽培されています。
サフランは淡い紫色の花に、黄色い3本の雄しべと橙赤色の雌しべ(花柱)をもっているのが特徴。利用する場合は雌しべ(花柱)のみを取り、乾燥させてから使います。1gの雌しべ(花柱)を取るには150本以上の花を必要とするため、非常に高く取引されています。[※6]
サフランの雌しべに含まれている芳香成分は香辛料として料理の香りづけに使われています。また、雄しべに含まれている黄色い色素は食用色素や布を染める染料として利用されています。[※2][※3]
また、サフランやその抽出物には子宮収縮作用が報告されており、医薬品として月経不順や生理痛の治療に用いられています。[※1][※5]古くから民間で月経促進薬や鎮静鎮痛薬などとして使われていたという記録も残っています。
医薬品やサプリメントとして用いられるサフランには、次のような効果が期待できます。[※1][※5]
■うつ症状の改善
サフランを服用することで、不安症状を改善できるという報告があります。
■PMS(月経前症候群)の治療
臨床試験により、特定のサフランエキスを摂ることでPMS(月経前症候群)の改善が認められました。
■月経時の不快感を解消
サフランを含んだ製品を摂取することで、月経時の痛みをやわらぎ、痛みを感じる時間が短くなることが報告されています。
■記憶力の増強
サフランに含まれるクロシンには、記憶をつかさどる海馬に働きかけ、神経伝達を良くする作用がわかっています。これにより、中枢神経の活性化や規則力を高める効果が期待されています。
■アルツハイマー型認知症の改善
22週間以上のサフラン摂取で、アルツハイマー病の治療薬と同じ効果が得られることが明らかになりました。
生薬としてのサフランはさまざまな作用をもち、健康維持や脳にいい影響を与えることが知られています。
主にPMS(月経前症候群)や月経時の痛み・不快感を治療する薬として用いられており、子宮の動きを活発にする通経作用が得られることがわかっています。[※1]そのため、生理不順や周期のずれを改善する効果が期待できます。
サフランを摂ることで月経時の血液がサラサラになり、子宮に負担がかからなくなるので、痛みが軽減。加えて体内で痛みを引き起こすプラスタグランジンをつくりにくくする作用もあるため、より痛みを抑えられます。
また、サフランに含まれる神経伝達物質のクロシンは、アルコールを飲んだ状態の記憶障害を改善する効果があります。
神経伝達の効率を良くすることで海馬を十分にはたらかせ、記憶障害を起こりにくくしてくれるのです。[※5]
抗うつ効果についてはくわしいメカニズムが解明されていませんが、一部ではセロトニンの代謝にサフランがかかわっているのではないかと考えられています。
サフランには抗うつ効果があることから、うつ病の人や気分が落ち込みやすい人が摂るのに向いているといえます。軽度~中度のうつ症状を改善できるため、うつになりやすい人は毎日の食事にサフランを取り入れてみるのがおすすめです。
また、サフランにはPMS(月経前症候群)や月経時の不快感・痛みを改善する効果も期待できます。月経前や月経中に摂ることで、症状をやわらげられるでしょう。
サフランは食品としての利用と、医薬品としての利用で摂取目安量が異なります。
医薬品として抽出されたサフランを摂る場合は、1日の摂取量を守りましょう。
■サフランの摂取目安量(医薬品)[※1]
サフランを香辛料や色素として利用する場合はほとんど問題ありませんが、上限量が決まっていないからといって使いすぎるとめまいや頭痛などの副作用を引き起こす可能性もあります。
料理に使うときは、大量にサフランを入れないように注意してください。
サフランの効果について、研究で科学的根拠が示されているものは多くあります。特に抗うつ作用や睡眠の質の改善に関しては、臨床試験がされていることから信頼性の高い効果といえるでしょう。
イランにある精神病院Tehran Psychiatric HospitalのAkhondzadeh Sらは、クロッカス・サティバス(サフラン)に含まれる成分に抗うつ作用が認められるか、30人の対象者でランダムに臨床試験を行いました。
Akhondzadeh Sらは対象者を2つのグループに分け、片方のグループには1日30mgのクロッカス・サティバス(サフラン)入りカプセルを、もう一方のグループには抗うつ剤のイミプラミンを100mg配合したカプセルを6週間摂取させました。
実験の結果、クロッカス・サティバス(サフラン)のカプセルを与えたグループでは、軽~中程度のうつ症状が改善されたことがわかっています。[※7]
横浜相原病院の城所絢耶先生は、不眠を訴える患者に対して漢方にサフランを加えた治療の結果をまとめています。
対象者は60代前後の女性3名で、それぞれ不眠改善薬を処方されていましたが症状が改善されず、寝つきの悪さや眠りの浅さ、頭痛などを訴えていました。
報告によると、どの対象者も処方していた薬にサフランを加えた結果、2週間~1か月ほどで不眠が改善されたことがわかっています。
寝つきの悪さや中途覚醒なども不眠と一緒に改善されたため、サフランは睡眠障害を改善する効果が期待できます。[※8]
ほかにもマウスを使った動物実験で、エタノール摂取にともなう記憶障害を改善することがわかっています。
東京大学の杉浦実氏(現:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構所属)は、サフランが中枢神経に影響するという研究結果をもとに、サフランがもつ記憶障害改善作用について実験を行っています。
実験では、サフランに含まれる色素成分のクロシンを抽出し、マウスに摂取させました。クロシンの摂取後は、エタノールを与えて記憶障害が起こりやすい状態をつくっています。
結果、クロシンを与えたマウスは、エタノールしか与えていないマウスに比べて、記憶障害が顕著に改善されたことがわかっています。
エタノールの量を変えても結果に大きく変化がなかったことから、サフランに含まれるクロシンが記憶学習障害を改善することが明らかになりました。[※9]
サフランはスパイスや染料、民間薬として、古くから利用されてきました。古代ギリシャ文明や古代ローマ文明の時代に用いられていたとの報告があり、かのクレオパトラも使っていたとされています。
ジョン・オコネルの『The Book of Spice: From Anise to Zedoary(スパイスの本:アニスからガジュツまで)』では、サフランが古代クレタの女性が着ていたボレロの染料として使われたことや、赤土や蜜蝋(ミツロウ)などを混ぜた口紅として利用されたことが記されています。
中世では祝宴用の料理に色を付けることが流行したため、サフランを着色に使ったという記録が残されています。ここからパエリアやブイヤベースなど、色鮮やかな料理の風味または着色にサフランが使用されるようになったと考えられています。
サフランは民間薬としての歴史も長く、中世から医薬品として活用されてきました。伝統療法では心臓の痛みから痔まで、いろいろな症状をやわらげるために使われてきました。
1597年に植物学者のジョン・ジェラードが書いた『The Herball, or Generall historie of plants(本草あるいは一般の植物誌)』によると、リンパを介して感染する腺ペストの解毒剤として利用されたこともあるそうです。
現代ではサフランの抗酸化成分が体内の炎症を抑え、性機能不全やうつ病の治療に役立つことが、研究によって示唆されています。
サフランの効果については世界的に研究が進んでおり、専門家もコメントしています。
長崎国際大学薬学研究科で教授を務める正山征洋先生は、サフランの効果について以下のように述べています。
「サフランは世界中で広く研究されています。ストレスや疲労感の軽減、うつ症状の改善、PMS(月経前症候群)の緩和、性機能障害の改善、メタボリックシンドロームや筋肉痛の改善に至るまで、幅広く検証がなされ、サフランがいかに重宝されているかがうかがえます。
サフランはマウスに体重1kgあたり5g投与しても毒性が出ない極めて安全な天然素材と位置づけられています。その主要な活性成分のひとつであるクロシンは中枢神経系を中心とした各種障害の改善作用をもつ有用な素材と注目されています」
(サフランエキス研究所「サフラン情報室 |不眠・うつ・PMS(月経前症候群)の緩和などの研究成果のご紹介」より引用)[※10]
正山先生によると、サフランは世界中で効果の検証が進んでおり、うつ症状の改善やPMS(月経前症候群)の緩和など、さまざまな効果が見つかっているとのこと。
天然素材でありながら中枢神経の障害を改善してくれることから、有用な植物として注目を集めています。安全性についても保証されているため、安心して利用できる成分といえるでしょう。
正山先生は、サフランを使った予防医療についても多くの可能性があるとコメントしています。
「現在日本には予防薬というものはなく、薬に取って代わる予防目的の天然素材が強く求められており、それは長い食経験をもち安全性が高く、なおかつ多様な可能性をもつ素材が理想的です。
この点から、私たちはサフランが予防を目的とした天然素材の第一選択肢になり得ると同時に大きな希望と種々のエビデンスをもたらしてくれるものと信じています」
(サフランエキス研究所「サフラン情報室 |不眠・うつ・PMS(月経前症候群)の緩和などの研究成果のご紹介」より引用)[※10]
予防薬がない日本では、疾病の予防を目的とした天然素材の利用が進んでいます。サフランは多様な成分を含んでいることから、幅広い分野で効果があるとして、予防医療ができる可能性が高い植物です。今後研究が進めば、より予防医療に役立つエビデンスが発表されるかもしれません。
サフランを香辛料や着色料として利用する場合、料理やお菓子、飲み物などさまざまな用途があります。古くから料理に使われていたため、出回っているレシピも数多くあるのが特徴です。
サフランは魚介系の料理と相性がよく、パエリアやブイヤベースといった魚介をふんだんに使ったスペイン料理や南フランス料理にしばしば使われます。産地に近いイタリアでは、風味・色付けにサフランを用いたリゾットもあるようです。
日本でもなじみ深いものとして、インド料理についてくるサフランライスがあります。
ほかにも煮込み料理や炊き込みご飯に使われることが多く、シーフードピラフやスペアリブの味付けなどにも用いられています。
サフランを煮出したお湯とはちみつを混ぜたソースや、オレンジジュース・生クリームと合わせたソースも料理の付け合わせに使用されていて、かけるだけでサフランの風味が味わえます。
手軽に飲み物として楽しむなら、サフランティーやサフラン酒がおすすめです。サフランティーはサフラン2~3本をティーカップに入れ、お湯を注ぐだけ。手軽に作れるため、風味を楽しみたい人にうってつけです。レモンやはちみつを入れるとよりおいしくいただけます。
サフラン酒はグラスにサフランを数本入れ、お湯と焼酎を好みの割合で入れてつくります。熱燗の日本酒でもすぐに色が出てくるため、温まりたいときに試してみるのもいいでしょう。
最近ではサフランを使ったソーダブレッドやスープ、パンナコッタなどのレシピも発表されており、いろいろな楽しみ方ができるようになってきました。
サフランはアニスやセロリなどの植物と合わせて使うことで、月経時の痛みや不快感を改善する相乗効果が期待できます。[※1]
研究でも効果が示唆されているため、重い月経痛に悩んでいるなら、サフランとアニス、またはセロリを合わせて調理するのもいいでしょう。
また、ブラックシードやキャラウェイ、フェンネルなどのハーブと混合したハーブティーを飲むことで、気管支ぜんそくの症状を軽減する可能性があります。
ただし、ハーブティーの作用は科学的データが不十分なため、効果を期待して過剰摂取しないようにしてください。
サフランは医薬品として使う場合、6週間までは投与しても問題ないとされています。6週間以上摂取すると、人によっては不安感や眠気、食欲の変化などの症状が見られるようです。
また、大量に摂取すると皮膚や目、粘膜が黄色くなる、嘔吐、めまい、皮膚・粘膜からの出血などの副作用を引き起こす可能性があります。[※1]
食事として摂取する程度の量なら影響はないとされていますが、香辛料や着色料として使う際も気を付けたほうがよいでしょう。
また、妊産婦が摂取すると、子宮の収縮や不正出血を引き起こす可能性があります。そのため、医薬品のサフランを摂取しないようにしてください。[※12]
授乳期については安全性を確認できるデータがないので、なるべく口にしないほうが安全です。
高齢者は生理機能が落ちており、少量の摂取で強い作用が現れる可能性があります。使用の際は量を減らすなど注意しましょう。[※12]