「若返りのハーブ」とも呼ばれるローズマリーは、 肌や脳のアンチエイジング効果が注目されています。ヨーロッパでは古くから万能薬として重宝され、今でも世界中で愛用されるハーブのひとつです。
最近の研究ではローズマリー由来の成分に、アルツハイマー型認知症の予防効果があることも明らかになっています。そんなローズマリーに含まれる成分の特徴を詳しく解説します。
ローズマリーはシソ科マンネロウ属の低木で、原産地は地中海地方です。ローズマリーの学名「Rosmarinus」は、ラテン語で「海のしずく」という意味で、水辺に多く自生していたことや、小さな花がしずくのように見えたことからその名がついたといわれています。
種類によって異なりますが、草丈は大きいもので2mの高さになるものもあります。葉は細い針のような形状で、常緑なのでハーブとしていつでも利用できるのが魅力です。[※1]
生葉や乾燥させた葉・成分を抽出したエキスは、料理・美容・薬用・芳香剤・食品の防腐剤としてなど幅広い用途があり、世界的にも非常にポピュラーなハーブのひとつです。精油には刺激的で爽やかな香りがあり、美容や健康、メンタルケアなどの効果が期待されます。
食べても体に塗っても、さらに香りを嗅ぐことでも優れた作用をもたらすローズマリー。ヨーロッパでは古くから伝統的な万能薬として民間療法に重宝されてきました。
近年、抗酸化成分であるロスマリン酸やカルノシン酸などの成分が注目され、日本でも科学的な根拠にもとづいた研究が進みつつあります。
ローズマリーは優れた抗酸化作用や、脳の記憶力や認知機能の改善作用が知られていて、「若返りのハーブ」としても有名です。
具体的な効果として、以下が挙げられます。
■記憶力の向上
ローズマリーには記憶力を向上させる効果が期待されています。ローズマリー由来であるカルノシン酸の摂取で、記憶力や脳の認知機能が向上するとの研究結果が報告されています。[※2]
■集中力を高め、頭をすっきりとさせる
ローズマリーの香りには、頭をクリアにして集中力・注意力を高める効果があるといわれています。精神を安定させたり、物事に対する意欲を高めたりするメンタルケアハーブとしても人気です。
■アンチエイジング、美肌
ローズマリーは「若返りのハーブ」との異名もあるとおり、アンチエイジング効果が有名です。ローズマリーには抗酸化成分であるロスマリン酸やカルノシン酸が含まれています。
これらの成分には酸化ストレスから体を守ってくれる作用があり[※3]、細胞の老化や、シミ・シワの原因となる活性酸素を除去することで、健康で若々しい体づくりをサポートしてくれます。
また、ロスマリン酸に含まれるタンニンには、肌の収斂作用※があり、引き締まった美肌づくりに効果的です。
■リウマチや関節痛などの症状の緩和
ヨーロッパではローズマリーはリウマチの外用薬にも利用されており[※4]、リウマチや神経痛などの痛みを緩和する効果が期待されています。
■血流促進
ローズマリーに含まれるフラボノイド(ジオスミン)には、しなやかで丈夫な血管をつくり、血行を促すことで代謝をアップさせる作用があります。冷えやむくみの解消にも効果的です。
■美髪・AGAの予防
ローズマリーのもつ収斂作用や抗菌作用、血流促進作用は、頭髪のトラブルにも有効であるといわれています。頭皮のべたつきやフケを予防し、美髪効果が期待されています。
また、男性型脱毛症(AGA)は、5αリダクターゼという酵素と男性ホルモンであるテストステロンの結合により生じますが、ローズマリーの葉の抽出物を用いた動物実験[※5]では、5αリダクターゼの働きを阻害することがわかっており、AGAの予防効果も期待されます。
そのほかにも、ローズマリーには食べ物を腐りにくくする効果もあり、ローズマリー由来の成分は食品の防腐剤などにも使われています。[※6]
※収斂(しゅうれん)作用とは、収縮させたり、引き締めたりする働きのこと
ローズマリーの成分には、精油(シネオール、モノテルペン炭化水素、ボルネオール、カンファーなど)、ジオスミンなどのフラボノイド類、フェノール酸、ロスマリン酸、カルノシン酸などがあります。その中でもとくに注目されているのが、ロスマリン酸とカルノシン酸です。
ロスマリン酸はポリフェノールの一種で、1958年にローズマリーから発見された成分です。優れた抗酸化作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用などが知られていましたが、最近では脳の健康維持に役立てる研究も進められています。[※7]
カルノシン酸も、ローズマリーに含まれる抗酸化物質のひとつで、紫外線やストレスなどで生じる活性酸素の害から体を守る作用が認められてきました。最近の研究では、脳神経への作用が動物実験[※2]により立証され、今後のアルツハイマー病の予防や治療への応用が期待されています。
ロスマリン酸やカルノシン酸の作用からもわかるように、ローズマリーは、体はもちろん心(脳)のアンチエイジングにも大きく貢献してくれます。
日本は先進諸国の中でも類を見ない超高齢社会へと進んでいることは紛れもない事実で、高齢者が生き生きと健康に暮らせることが大きな意味をもたらします。そのための課題のひとつが、認知症の予防や対策です。認知症患者の全体の約7割を占めるのが、アルツハイマー型認知症です。
ローズマリーに含まれるカルノシン酸の摂取[※2]や、アロマテラピーとしての利用[※8]で、アルツハイマー病の予防や治療への効果が期待されています。わたしたちの細胞は老化を免れませんが、そのスピードを緩やかにするために役立つのがローズマリーです。
古くから万能薬として重宝されてきたようにその効果は多岐にわたり、若者からお年寄りまで、幅広い人におすすめできます。認知症予防や美容・健康のサポート以外にも、落ち込んだ気分を立て直したいときや、物事に打ち込みたいときにも効果を発揮します。
勉強中や運転中など集中力を高めたいときに、ハーブティを飲んだり、アロマの香りを利用してみるのもおすすめです。
ローズマリーを料理のスパイスやハーブティなどの食品として摂る場合、とくに明確な摂取量や上限量などは定められていません。通常考えられる量であればおそらくおそらく安全だと考えられます。
サプリメントで摂取する場合は、商品に記載されている摂取目安量を守るようにしましょう。
ヨーロッパでは代替療法やメディカルアロマテラピーでも活用されているローズマリーですが、最近の研究で、脳神経への作用に関する科学的根拠が示されました。
東京工科大学の研究チームによると、ローズマリー由来のカルノシン酸には、アルツハイマー病を抑制する効果があるということです。[※2]
アルツハイマー病は、老化などによるベータアミロイドというタンパク質が異常に蓄積されることが原因とされています。
この実験では、アルツハイマー病モデルマウスにカルノシン酸を経口投与したところ、マウスの脳内のとくに海馬と呼ばれる神経細胞で、ベータアミロイドの沈着が減少したことを突き止め、記憶機能が回復することも確認されました。
ただし、ヒトでの臨床試験データがまだないことや、揮発成分ではない(つまり香りを嗅ぐことでは吸収できない)カルノシン酸をどのように効率的に体内に取り入れるかなどの課題もあり、アルツハイマー病の予防や治療に応用するための今後のさらなる研究成果が期待されます。
ローズマリーの歴史は古く、古代エジプト時代のお墓からローズマリーの枝が発見されるなど、万能薬としてはもちろん、魔除けや宗教儀式などにも使われてきました。
14世紀、当時70歳を超えていたハンガリー女王のエリザベート1世がローズマリーを主成分にしたチンキ(ハーブをエタノールに漬けたもの)を使用したところ、持病の痛みが消え、肌のハリがよみがえり、隣国ポーランドの若き王子に求婚までされたという話は有名です。
それ以来、ローズマリーのチンキはハンガリアンウォーターとして、美容や健康への優れた効果が広く知られることになったといいます。
現在でもローズマリーは、料理やハーブティ、アロマテラピーなど、幅広い分野において世界中で愛用されています。
ところで、ローズマリーはヨーロッパではメディカルアロマテラピーとして医療現場でも活用されていますが、日本におけるメディカルアロマテラピーは、いまだに研究やエビデンスが充分とはいえず、確立されていない分野でもあります。[※9]
しかし、近年その関心が少しずつ高まりつつあり、産婦人科や心療内科をはじめとして、アロマテラピーを導入する医療機関も増えてきました。
2005年に発表された論文「アルツハイマー病患者に対するアロマセラピーの有用性」[※8]では、ローズマリーを配合したアロマオイルが、アルツハイマー型認知症の知的機能を改善するとの結果が報告されています。
今後日本で、代替医療としてのアロマテラピーが浸透していくためには、さらなる研究や科学的根拠にもとづいたデータを積み重ねることが必要と考えられます。
社会問題ともいえる認知症の予防・治療への応用が注目されるローズマリーの研究は、日本のメディカルアロマテラピーの確立にもつながると期待されます。
長瀬産業と京都大学の名誉教授藤多哲朗氏による2006年の日本薬学会での発表の中では、動物実験での研究成果をふまえて、
「今後さらなる検証をしていき、中枢機能維持およびアンチエイジング素材としてのローズマリーの有効性を確立していく」(「『脳を守るローズマリー』ローズマリーが神経ネットワーク形成を促進させ、記憶力を高めることを発見」[※10]より引用)と、今後の展望が示されています。
2016年には東京工科大学の研究チームによってローズマリー由来のカルノシン酸のアルツハイマー型認知症を抑制する効果が発見され、その方向性は明確になってきました。
「ハーブ・ローズマリー由来のカルノシン酸が、アルツハイマー病の予防治療などに応用できる可能性が示さました。(中略)医薬品や健康食品への応用、新たな治療法の開発などを目指します。」(東京工科大学プレスリリース「ローズマリー由来の物質がアルツハイマー病を抑制」[※2]より引用)
ローズマリーはこれまでの伝統的な万能薬という立場から、科学的根拠にもとづいた医薬成分への展開が期待されています。
幅広い効能が知られるローズマリーは、その利用法も多岐にわたり、葉や茎は生でも乾燥させても使うことができます。
すっきりとしたやや刺激的な香りは、肉や魚料理の臭みを取り除いてくれる効果も。ソテーやオーブン焼きにローズマリーをのせて焼き上げれば、料理に爽やかな風味がプラスされ、見た目にも華やかに仕上がります。
ローズマリーをオリーブオイルやビネガーに漬けておけば、香りとコクがオイルやビネガーに溶け出し、出来上がった料理にかけるだけで深みのある味わいになるでしょう。
料理の風味を深めるとともに、美容や健康効果も期待できるローズマリーは、まさに万能といえます。
ハーブティにすれば、目の覚めるようなすっきりとした香りが広がります。ハーブは乾燥しても香りが持続するためリースやサシェにして、部屋の消臭や、クローゼットの防虫対策にするのもおすすめです。
また、ローズマリーの精油はお風呂やフットバスにも使えますが、覚醒効果があるため、就寝前よりも朝の利用が好ましいでしょう。
精油成分を肌や髪につけることで美容効果も期待できますが、刺激が強いので原液を肌に直接つけることはやめましょう。キャリアオイルや、エタノールと精製水で薄めたり、精油成分が配合されている化粧品を選ぶと安心です。
日本における認知症研究の第一人者、鳥取大学の浦上克哉教授によると、アルツハイマー病の予防や認知機能の改善のためには、ローズマリーとレモングラスの香りをお昼に、ラベンダーとオレンジの香りを夜に嗅ぐことが効果的だということです。[※11]
集中力や記憶力を高める刺激的な香りと鎮静作用のある穏やかな香りを昼と夜で使い分けることで、相乗効果により自律神経を整える働きが期待できます。
多岐にわたる利用法と効果、効能が魅力のローズマリーですが、刺激が強いハーブでもあるので、使用量や使い方には注意が必要です。食品に通常含まれる量を摂取するのは問題ありませんが、ローズマリーオイルを飲用するのは危険です。
ローズマリーには子宮刺激および月経刺激作用があるため、妊産婦の使用は危険です。授乳期についても過度な摂取は避けたほうがよいでしょう。
また、ローズマリーと、鉄分を含むサプリメントを併用すると、鉄分の吸収率が低下することがあります。[※12]鉄欠乏性貧血の女性は特に注意が必要です。