ケルセチンは、ビタミンに似たはたらきをもつビタミンP(ポリフェノール)のひとつです。野菜や果物などに多く含まれています。高い抗酸化作用をもっており、血流の改善、動脈硬化や糖尿病の予防などに効果的だといわれています。ここでは、ケルセチンがもつ効果・効能や作用のメカニズム、研究データなどについてわかりやすく解説。ケルセチンを多く含む食べ物や相乗効果、副作用についてもまとめました。
ケルセチンは、おもに野菜や柑橘類、そばなどに多く含まれている成分です。ポリフェノールの1種で、フラボノイド(天然に存在している有機化合物群の植物色素の総称)のうちフラボノール類に分類されます。
また、ビタミンに似たようなはたらきをもっているため、ビタミンPとも呼ばれています。
ケルセチンには血流改善や血糖値の上昇を抑制する作用、関節痛の緩和など、さまざまな効果があります。
ケルセチンは水に溶けにくい性質があるため、体に吸収されにくいのですが、糖と結合すると水に溶けやすい「ケルセチン配糖体」という形になり、吸収率が高まることが明らかになっています。[※1]
その後、サントリーの研究で、ケルセチン配糖体には関節の動きをサポートする機能があることが認められ、ケルセチン配糖体は機能性関与成分に登録されました。現在はケルセチン配糖体を配合した機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)がサントリーから販売されています。[※1][※2]
また、(株)植物育種研究所では、ケルセチン配糖体を豊富に含む玉ねぎが開発され、2016年5月に機能性表示食品の届出が提出されました。
もし、届出が消費者庁に受理されれば、露地野菜(特別な設備を使わずに育てた野菜)で初の機能性表示食品となるため、注目が集まっています。[※3]
ケルセチンには以下のような効果・効能があります。[※4][※5]
■血流の改善
ケルセチンには、活性酸素が赤血球に与えるダメージを防ぐはたらきがあるため、血流を改善する効果があります。
■血糖値の上昇を抑える
インスリンの分泌を助けるはたらきによって、血糖値の上昇を抑えられます。
■動脈硬化の予防
ケルセチンには、活性酸素による酸化を防止する抗酸化作用があるため、動脈硬化の予防につながります。
■生活習慣病の予防
ケルセチンの抗酸化作用は、活性酸素が原因でもたらされる生活習慣病(糖尿病や動脈硬化など)の予防に有効です。
■抗炎症・抗アレルギー作用
腫れや炎症を起こす物質・ヒスタミンの分泌を抑制する作用があります。これにより、花粉症やアレルギーの症状を軽減する効果が期待されています。
■関節痛の緩和
抗炎症作用によって、関節痛の緩和が期待できます。
■コレステロール値を下げる
ケルセチンの摂取量が多いほど、血中のコレステロール値を下げる効果が期待できます。
■脂肪吸収抑制効果
ケルセチンには、脂肪の吸収を抑えるはたらきがあります。
ケルセチンには、活性酸素を取り除く強い抗酸化作用があります。
活性酸素には、代謝の調節や細胞内の情報伝達など、生きていくうえで重要な生理的機能がありますが、過剰に増えると赤血球やコレステロール、細胞などを傷つけるようになり、動脈硬化やがんなど、多くの疾患をもたらす原因となります。[※6]
ケルセチンには、活性酸素から赤血球を守る抗酸化作用や血管をしなやかにするはたらきがあります。[※5]
そのため、赤血球のはたらきが活発になり、血流改善効果が期待できるのです。
また、抗酸化作用によって悪玉コレステロールの増殖・蓄積量を抑えられるため、動脈硬化の予防にもつながります。
そのほか、炎症を引き起こす物質・ヒスタミンの分泌量を抑えるはたらきがあるため、腫れや痛みを鎮める効果が期待できます。
ケルセチンは、以下のような人におすすめです。
厚生労働省発表の「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」では、ケルセチンの摂取目安量・上限摂取量は定められていませんでした。
一般的には、1日あたり100~500mgの摂取が好ましいといわれています。
ハウス食品は、ケルセチンを含む玉ねぎエキスの継続摂取による血管内皮機能(血管の健康や血液の良好な流れを保つ機能)改善効果について、広島大学の東幸仁教授と共同研究を行いました。
研究では、健康な22名の男性を対象に、51mgのケルセチンを含む玉ねぎエキス粉末を1か月の間毎日摂取してもらいました。その際、食前と食後の血管内皮機能をそれぞれ測定。玉ねぎエキス粉末を摂取する前の数値と継続摂取時の数値を比較しています。
研究の結果、玉ねぎエキスを継続摂取していた期間は、摂取前と比べて血管内皮機能の改善が確認されました(※食前と食後の両方において)。
このことから、ケルセチンを含む玉ねぎエキスの継続摂取は、健康な血管・血液を維持するのに役立つことが示唆されました。[※7]
ケルセチン配糖体に関しても、さまざまな機関で研究が行われています。
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社の研究部に所属する中村淳一氏は、ケルセチン配糖体を配合した飲料を継続摂取した際の体脂肪低減効果を調査しました。
対象者はBMIが25以上30未満の男女200名(20歳以上65歳以下)です。対象者を2グループにわけて、ケルセチンを配合した飲料と配合していない飲料をそれぞれ1日1本、12週間継続して飲んでもらいました。その際、運動や食事には、大きな変化がないように指導しています。
12週間後に対象者全員の脂肪をCT スキャンで調べた結果、ケルセチンを配合していない飲料を摂取したグループは、摂取開始時よりも腹部の脂肪面積が増加。
一方、ケルセチンを配合した飲料を摂取したグループでは、摂取開始時よりも腹部の脂肪面積が減少していました。
このことから、ケルセチン配糖体を配合した飲料は、体脂肪を減らす効果が認められています。[※8]
ケルセチンという名前は、ラテン語でオークの森を意味する「quercetum」が由来だとされており、1857年にこの名前が使用されるようになりました。
ケルセチンは黄色い色素をもつ成分で、古い時代から染料としても利用されてきた歴史があります。
1990年代には、ケルセチンの摂取が心血管の健康に関わることが疫学的エビデンスによって示されました。
その後、ケルセチンが水に溶けにくいこと、糖と結びついたケルセチン配糖体は水に溶けやすいことなどが明らかになりました。
現在は、健康食品や飲料などに利用されています。
栄養学博士で心療カウンセラーでもある白鳥早奈英氏は、玉ねぎに含まれるケルセチンについて著書で以下のように述べています。
「ケルセチンには『ビタミンCの吸収を助ける作用』があり、自らも抗酸化作用があることから、活性酸素による細胞や血球のダメージを防ぎ、血管をしなやかにする作用があるといわれています」
「加齢とともに増えてくるのが関節痛ですが、その原因の一つが活性酸素で、ケルセチンはこの活性酸素を除去して、炎症や痛みを抑制してくれるとされています。
抗酸化力の強いビタミンEよりはるかに強力です」(白鳥早奈英「長生きしたけりゃ、トマトとたまねぎを食べなさい」より引用)[※5]
血管の健康を保ち、血液の流れを改善するはたらきをもつケルセチン。強い抗酸化作用により、動脈硬化をはじめとする生活習慣病の予防、関節痛への効果などが期待されています。
白鳥氏は、ケルセチンの効率的な摂取方法について以下のようにコメントしています。
「たまねぎの皮をよく洗って煮出した汁をお茶として飲んでも良く、可食部は煮物やスープにしても手軽にケルセチンが摂れます」
(白鳥早奈英「長生きしたけりゃ、トマトとたまねぎを食べなさい」より引用)[※5]
たまねぎの皮にはケルセチンが豊富に含まれています。可食部を食べるのはもちろん、普段は捨てている皮も煮出して上手に利用するとよいでしょう。
ケルセチンは、以下のような食品に多く含まれています。
なかでもケルセチンが豊富なのは玉ねぎです。100g中に約28~50mg含まれています。[※9]ここで重要なのは玉ねぎの皮。なんと可食部の20倍以上ものケルセチンが含まれています。
剥いた皮はよく洗って、水と火にかけて沸騰したら茶こしでこし、「玉ねぎの皮茶」として摂取しましょう。皮をミキサーなどで粉末状にしたものを、お茶やお浸し、お味噌汁などにふりかけて摂取することもできます。[※10]
ちなみに、皮を剥いた玉ねぎを1週間ほど日光に当てると、ケルセチンを増量させることができます。日光に当てたあとは新聞紙に包み、野菜室で保存しましょう。[※11]
また、油と一緒に食べることでケルセチンの吸収率が高まります。そのため、植物油や肉類、乳製品などの油脂食品と調理して摂取するとよいでしょう。[※12]
ケルセチンには、ビタミンCの吸収を助けるはたらきがあります。[※13]また、ケルセチンとビタミンCには、どちらにも抗酸化作用があるため、一緒に摂取すると抗酸化作用が高まることが期待されています。[※14]
ケルセチンは、食事から摂取する場合基本的に安全です。ケルセチンが濃縮されたサプリメントも、短期間で適切に摂取すれば安全だとされています。
ただし、高濃度ケルセチンを長期間継続摂取した場合や過剰摂取した場合には、頭痛や胃腸障害、血腫などの副作用が起こるおそれがあります。
また、妊娠中の人や授乳中の人の場合、ケルセチンを濃縮したサプリメントなどを摂取したときの安全性に関する十分な情報が確認されていないため、使用を避けましょう。
ケルセチンは、以下のような医薬品との相互作用があるといわれています。[※15]服用している医薬品がある人は、ケルセチンを摂取する前に必ずかかりつけ医に相談しましょう。