名前から探す

ポリアミンの効果とその作用

ポリアミンは細胞の新陳代謝や記憶などに密接にかかわっている、私たち人間にとって欠かせない成分です。最近の研究では、寿命を延ばす成分として注目を集めています。ここでは細胞において重要なはたらきを持つポリアミンの効果・効能や副作用などについてまとめました。

ポリアミンとはどのような成分か

ポリアミンはウイルスから人まで、細胞を持つすべての生体でつくられている成分です。いろいろな細胞の新陳代謝を助ける働きがあります。 [※1]

ポリアミンの「ポリ」とは、「複数の・多数の」という意味。つまりポリアミンは、「複数のアミンが含まれた物質」ということです。

人体には20種類ほどのポリアミンがあるとされていますが、特に重要なのはスペルミン・スペルミジン・プトレシンの3種類。

この3つは核酸(DNAやRNA)と深くかかわっており、たんぱく質の合成促進、脳の認知機能にも作用していると考えられています。

ポリアミンの働きは、抗炎症作用[※2]や老化の抑制、DNAの保護といった効果をもたらしているとされ、多くの分野で研究が行われています。[※3]

ポリアミンは、アルギニンというアミノ酸からつくられます。まず、体内に入ったアルギニンはオルニチンというアミノ酸へ代謝され、プトレスシン・スペルミジン・スペルミンの順で合成されていきます。逆のルートをたどって、スペルミンがプトレスシンになることも可能です。[※5]

母乳にはポリアミンが豊富に含まれています。これは、赤ちゃんの未成熟な消化器官を成熟させ、免疫力をつけさせるためだといわれています。未成熟な消化器官は、食物アレルギー感染症を引き起こしやすいためです。[※6]

体内のポリアミン濃度は加齢とともに低下することから、体のあちこちで起こるさまざまな炎症疾患は、ポリアミンの不足によるものではないかと考えられています。そのため、体内のポリアミン量を増やすことで健康寿命を増やせるのではないかとして、ポリアミンの研究が注目を浴びて いるようです。[※4]

ポリアミンの効果・効能

ポリアミンは複数の成分の総称です。そのため、効果も多岐にわたります。[※2][※6][※7]

■抗炎症作用

ポリアミンは、慢性的な炎症を抑える効果があります。慢性的な炎症は、アルツハイマー病・関節炎・骨粗しょう症・糖尿病によって起きると考えられているため、ポリアミンにはこれらの疾患への有用性も示唆されています。

■爪や髪の成長促進

ポリアミンには髪や爪の主成分であるケラチノサイトの成長を促す作用があるとされているため、爪や髪の毛の成長を促します。薄毛にも効果があるのではないかと示唆されています。

■美肌効果

ポリアミンは細胞の増殖を助け、コラーゲンの生成を促してハリのある肌に導いてくれます。

■動脈硬化の抑制

ポリアミンには血栓をつくりにくくする働きがあるといわれており、動脈硬化の予防に役立つ効果が期待できます。

■DNA保護

ポリアミンは放射線からDNAを保護する効果があるとされています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ポリアミンは、たんぱく質の合成を促進します。[※8]

細胞にあるリボ核酸(RNA)のたんぱく質をつくる働きを促進することでさまざまなたんぱく質の合成が進み、アンチエイジング効果や美肌効果が見込めるのです。

合成の中でポリアミンが作用するのは、たんぱく質のコピーをつくる最初の段階。そのため、たんぱく質合成において重要な役割を担っている成分といえます。

ポリアミンには抗炎症作用があります。[※2]

ポリアミンが炎症を起こす伝達物質が過剰に分泌されるのを防ぎ、血管内の炎症を抑えてくれるのです。この作用により、動脈硬化を防ぐことができます。

また、ポリアミンの一種であるスペルミジンは、脳の神経細胞に残ったゴミをきれいにしてくれる作用(オートファジー)があることがわかりました。 [※9]

また、 スペルミンは脳細胞を長生きさせる作用や[※10]記憶を形成するのにかかわっていることがわかっています。[※11]

こうした働きから、ポリアミンは認知症やアルツハイマー病の予防・改善に効果があるのではないかと考えられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ポリアミンには、細胞の生まれ変わりを助け新陳代謝を活発にする効果があるので、美肌を保ちたい人や肌の老化が気になる人、健康長寿を目指す人におすすめの成分です。

また、慢性的な炎症や動脈硬化の予防に役立つため、生活習慣病や老化の進行が気になる人にも効果があります。

ポリアミンの摂取目安量・上限摂取量

ポリアミンには決められた摂取目安量や上限は定められていません。

ポリアミンが多く含まれている食品は、納豆や味噌・醤油・チーズやヨーグルトなどの発酵食品やキノコ類、貝類などがあります。

ただし、味噌や醤油などの調味料は塩分が多く含まれているため、食べ過ぎには注意が必要です。

みそ汁1杯の塩分量は1.2~1.5g。成人1人当たりのナトリウム摂取量は1日7~8gなので、みそ汁1杯で、1日の摂取量の17%を占めることになります。

また、チーズの場合、プロセスチーズ1個(18g)のカロリーは約60kcalとなり、成人の1日摂取カロリー目安は、男性2600kcalで1食870kcalくらい、女性2000kcalで1食670kcalくらいですので、少し高めといえます。

栄養やカロリーを考えるならひとつの食品に偏らず、キノコ類や貝類などからも摂取するなど、バランスを考えて食べるようにするとよいでしょう。

サプリメントには、1日の摂取量の目安を70mgとしている製品もあります。サプリメントでポリアミンを摂る場合は、指定されている用法用量を守って服用してください。

ポリアミンのエビデンス(科学的根拠)

さいたま医療センター循環器病臨床医学研究所の早田邦康教授は、ポリアミンが豊富な納豆を使って実験を行いました。

成人10名に毎日50g~100gの納豆を食べてもらい、2カ月後に血中のスペルミンとスペルミジン濃度を測定。すると、スペルミンの濃度は平均して1.34倍になりましたが、スペルミジンの濃度には変化がないという結果が出たのです。また、納豆を極力食べないようにしたグループではどちらの血中濃度も上がりませんでした。

このことから、高ポリアミン食品(ポリアミンが多く含まれている食品)はスペルミンの濃度を上昇させることがわかりました。スペルミンには抗炎症作用があるため、高ポリアミン食品はアレルギー疾患や炎症性疾患を抑制する可能性があると示唆されています。[※12]

早田教授はポリアミンについて、別の実験も行っています。

高齢のマウスに高ポリアミン食を与えたところ、低ポリアミン食のマウスと比べて血管の病気、腎臓や肝臓の老化などが抑制されたという結果が出ました。この結果から、ポリアミンには加齢による老化の進行を抑制すると示されています。[※13]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ポリアミンは複数の物質の総称です。最初に発見されたのは精液中に含まれるスペルミンで、1678年にオランダのレーウェンフック博士によって見つかりました。1888年にはラーデンブルク博士によって、精液を意味する「sperm(スパーム)」から「スペルミン」と名付けられています。

通常、ポリアミンは細胞の中に存在してさまざまな働きに関与していますが、近年の研究では、ポリアミンは細胞の外にあると毒性のあるアクロレインという物質を生産することがわかっています。

アクロレインは脳疾患を引き起こす可能性があるため、血中のアクロレイン量を測ることで隠れている脳梗塞リスクを測れるのではないかとして臨床研究が進められました。結果、85%の確率で自覚症状の無い脳梗塞を発見できるようになったのです。[※14]

専門家の見解(監修者のコメント)

協同乳業株式会社研究所技術開発グループの松本光晴氏は、ポリアミンについて論文で以下のように記しています。

「生体への親和性がほかの食材と比較して圧倒的に高い物質であり、一般の機能性食材の実用化における壁となる吸収や過剰摂取の問題は殆どなく、高齢化社会対策に極めて有望な物質と考えられる」(「腸内細菌由来ポリアミンのアンチエイジング機能」より引用)[※15]

ウイルスから人まで、さまざまな生物の細胞に存在する成分のポリアミン。体内で合成できない栄養素と違い、ポリアミンは私たちの体で合成できます。

つまり、栄養として摂取した場合に体に吸収しやすく、副作用の心配が少ない成分といえるのです。今後の超高齢社会において、健康寿命の延長のために期待できる成分といえるでしょう。

ポリアミンを多く含む食べ物

ポリアミンを多く含むのは、以下のような食品です。[※16]

  • マッシュルームやしいたけなどのきのこ類
  • 醤油や味噌、納豆などの大豆製品
  • チーズやヨーグルトなどの発酵製品
  • ナッツ類
  • 貝類
  • 内臓を含んだ魚類

そのなかでもポリアミンを多く含んでいる食品は、発酵製品やキノコ類・大豆製品です。ヨーグルトやチーズには微生物がつくりだしたポリアミンが豊富に含まれています。また、大豆を発酵させてつくられた醤油や味噌、納豆などにも、微生物が生成したポリアミンが高濃度に含有されています。

ポリアミンは新生児の発育と消化器官の発達や腸のバリア機能の向上にもかかわっており、赤ちゃんが生まれてすぐ 飲む初乳に多く含まれています。

ただし、ポリアミンをつくる機能は加齢とともに減少します。中年期以降の人はポリアミンが多く含まれる納豆やチーズなどの発酵食品や白子や貝類などを積極的に摂るとよいでしょう。

一緒に摂るべき成分

ポリアミンは細胞の新陳代謝に深くかかわっています。肌や爪、髪などをつくる細胞は、たんぱく質や脂質などをメインに多数の栄養素から成り立っているため、細胞の新陳代謝を活発にしたいなら、バランスの良い食事をすることが大切です。

特にビタミン類は細胞の代謝に欠かせないため、充分にとっておきたい栄養素といえます。

和食の伝統的な発酵食品(醤油・味噌・納豆など)や地中海料理(イタリア・スペイン・ギリシャ料理)はポリアミンを多く含む食事だといわれています。不飽和脂肪酸やポリフェノールといったそのほかの栄養成分も豊富なので、和食や地中海料理のメニューを参考に献立を考えてみてはいかがでしょうか。

ポリアミンに副作用はあるのか

ポリアミンを摂取することによる副作用は確認されていません。しかし、がんを患っている人がポリアミンを積極的に摂取すると、ガンの進行を促進するという報告があります。[※16]

がんを患っている人は、高ポリアミン食品を避けたり、ポリアミンを合成させないようにすることが必要です。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 【PDF】 『化学と生物』,「ポリアミンが仲立ちをする細菌間コミュニケーション」(日本農芸化学会 53巻11号 2015年11月 p756-p762)
  2. 【PDF】 一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 はっ酵乳、乳酸菌飲料公正取引協議会|食生活と健康情報 「抗炎症物質とアンチエイジング」
  3. 株式会社アミンファーマ研究所 「ポリアミン」
  4. 【PDF】公益社団法人 日本生物工学会 「バイオミディア|ポリアミンのとても多彩な機能」
  5. Kuniyasu SODA, Nutritional components and cancer, Jomyaku Keicho Eiyo, Released October 25, 2011, Online ISSN 1881-3623, Print ISSN 1344-4980, https://doi.org/10.11244/jjspen.26.1211, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/26/5/26_5_1211/_article/-char/en, Abstract: [in Japanese]
  6. ビフィズス菌LKM512 「ポリアミンについて」
  7. オリザ油化株式会社 「ポリアミン」
  8. 【PDF】『化学と生物』,「神秘の生命物質ポリアミン その生理的役割と細胞内濃度調節機序」(日本農芸化学会 35巻6号 1997年 p442-p450)
  9. 現代ビジネス 「奇跡の腸内物質「スペルミジン」で長生き、そして認知症も防げる」
  10. 褚,鵬江(1994) 「天然ポリアミンおよび構造類似体の脳神経細胞に対する作用」 薬学系研究科学位論文要旨(未公刊)
  11. 【PDF】『YAKUGAKU ZASSHI』,「ポリアミンの生理機能解析とその濃度調節機序」(2006年126巻7号 p455-p471)
  12. 『Biotherapy』(癌と化学療法社 2007年 21巻 p161-p162)
  13. Soda K, Dobashi Y, Kano Y, Tsujinaka S, Konishi F. Polyamine-rich food decreases age-associated pathology and mortality in aged mice. Exp Gerontol. 2009
  14. 株式会社アミンファーマ研究所 「脳梗塞リスク評価について」
  15. 【PDF】松本光晴「腸内細菌由来ポリアミンのアンチエイジング機能」(日本ポリアミン学会 ポリアミン Vol.4 No.2 Nov. 2017)
  16. 【PDF】早田邦康「がん病態と栄養成分−ポリアミン、脂肪酸、ポリフェノールについて−」