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梅肉エキスの効果とその作用

青梅の搾り汁を煮詰めてつくられた梅肉エキスは、病気の予防やアンチエイジングなど、さまざまな効果が期待できる成分です。その効果・効能について、科学的根拠をもとに解説。合わせて梅肉エキスに関する基礎知識や摂取目安量などもまとめています。

梅肉エキスとは

梅肉エキスとは完熟寸前の青梅を収穫し、搾って煮詰めたものです。長時間煮詰めて濃縮するので、青梅1kgに対して20gほどの量しかとれません。そのため、非常に希少な食品といえます。

梅肉エキスは梅干しの数十倍の有効成分を含んでおり、疲労回復や消化不良の改善に役立つとして、古くから利用されてきました。近年では研究が進み、さらに多くの効果・効能が明らかにされています。殺菌作用や病気の予防に役立つ効果などが次々と発見されており、さまざまな疾病への効果が期待されている成分です。[※1]

また、梅肉エキスには血流を改善する効果がある「ムメフラール」が含まれています。ムメフラールは梅を加工するときにできる物質で、生の梅の実には含まれていません。

青梅の搾り汁は半透明でうす緑色をしていますが、加熱することで梅に含まれる糖とアミノ酸・たんぱく質が結びつき、褐色物質や香味物質を作り出します(メイラード反応)。加熱後の梅肉エキスが真っ黒に見えるのは、メイラード反応が起こって茶色く変化するからです。

このメイラード反応により、梅肉エキス中の有効成分であるムメフラールがつくられます。[※1]

梅肉エキスの効果・効能

梅肉エキスには次のような効果があるといわれています。[※1][※2]

■血圧の安定化・血液サラサラ効果

梅肉エキスを摂ることで血圧を上げる酵素のはたらきが阻害され、血圧を一定に保つことが可能です。また、血を固まりにくくして血の流れを良くしてくれます。

■抗アレルギー作用

梅肉エキスには、アレルギーを引き起こす物質が放出されるのを抑える効果があるため、アレルギー症状を軽減することができます。

■アンチエイジング効果

梅肉エキスの酸味で分泌される唾液には「パロチン」と呼ばれる若返るホルモンが含まれています。これが、増えすぎた活性酸素を減らしたり、生活習慣病や老化を防ぐ手助けをしてくれたりして、アンチエイジング効果が得られます。

■抗ストレス作用

ストレスの原因となるホルモンを減少させ、ストレスが原因で起こる症状を軽減する効果が期待できます。

■病気・感染症の予防

梅肉エキスは免疫細胞を活性化し、ウイルスや細菌などの侵入を防いでくれるほか、インフルエンザウイルスの活動を低下させるはたらきなどを持っています。そのため、いろいろな病気や感染症を予防する効果が期待できます。

■がんの予防

梅肉エキスを摂取することで、毒性の高い物質による細胞の変化を抑制し、がん発症のリスクが下がります。また、梅肉エキスに含まれている成分には以下の効果があります。[※1][※2]

■殺菌作用

梅肉エキスには菌の繁殖を抑えるクエン酸が含まれており、食中毒や感染症になりにくくする作用があります。

■疲労回復

梅肉エキス中のクエン酸が乳酸の生成を抑えることで、疲れがとれやすくなります。

■臓器の保護・強化に役立つ

梅肉エキスに含まれる有機酸は、胃液の分泌を正常化して消化・吸収の機能を改善してくれることがわかっています。

■痛みを抑える効果

梅肉エキスに含まれる配糖体「ベンジル-β-D-グルコピラノシド」には、解熱鎮痛剤と同じ程度の鎮痛作用があるといわれています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

梅肉エキスはさまざまな有効成分が入っている栄養豊富な食材です。体のさまざまな箇所にはたらきかけ、健康を保つサポートをしてくれます。

梅肉エキスは、ウイルスや細菌を排除する免疫細胞「マクロファージ」を活性化する効果があります。マクロファージが強化されることで、ウイルスや細菌が原因となる病気を防ぎます。

マクロファージは、ほかの免疫細胞にウイルスや細菌の侵入を伝える役割も担っているため、活性化することでより体を健康に保ちやすくなるでしょう。

梅肉エキスに含まれるムメフラールは、血流改善作用が研究によって明らかになっています。

血流を良くするためには、赤血球が血管内を自由に移動できるようにすることが重要です。

ムメフラールには赤血球が自由に形を変える「赤血球変形能」を高める効果があるため、赤血球の直径よりも小さな毛細血管まで血液を循環させてくれます。[※3][※4]

「赤血球変形能」を高まると血液が固まりにくくなって血流が改善され、代謝を良くすることが可能です。

また、梅肉エキスには、血圧を安定させるクロロゲン酸やベンジル-β-D-グルコピラノシドが入っています。

クロロゲン酸は血圧を上げる酵素のはたらきを阻害し、血圧を保ってくれることが明らかになっています。

ベンジル-β-D-グルコピラノシドはナトリウムを吸収させやすくするホルモン「アルドステロン」の産生を抑制。高血圧を防いでくれます。

また、梅にはクエン酸が豊富に入っています。

クエン酸はエネルギーの生産に深くかかわっており、筋肉中にある疲労の原因となる物質「乳酸」をエネルギーに変換してくれます。加えて乳酸の生成も抑えてくれるため、梅肉エキスを口にすることで疲労回復の効果が期待できるのです。[※1][※4]

ほかにもクエン酸には殺菌作用や食欲増進などから、健康維持の効果が示唆されています。

最近の研究では、梅肉エキスには血糖値やコレステロールを下げる効果があることもわかってきました。

マウスを使った実験では、梅肉エキスを与えたマウスの血中コレステロールや血糖値が下がったと報告されています。[※5]

しかし、くわしいメカニズムはまだわかっていないため、今後の研究に期待が高まっています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

現代社会では食生活や生活習慣が乱れている人が多く、体はさまざまな影響を受けています。

梅肉エキスには、免疫機能の向上や血流の改善など健康維持に役立つ作用も報告されています。生活が乱れがちな人は、疲労回復や消化器の調子を整える効果を持つ梅肉エキスが最適です。 

梅肉エキスの摂取目安量・上限摂取量

梅肉エキスの摂取目安量は販売メーカーによって定められており、1日3gほどが理想とされています。

上限摂取量は、とくに定められていないようです。ただし、梅には血液が固まるのを防ぐ成分が含まれている[※6]ため、抗血栓薬などを使用している人は量や回数を減らして使いましょう。

梅肉エキスのエビデンス(科学的根拠)

梅肉エキスは幅広い作用が期待できる成分で、いろいろな研究によって効果が実証されています。

独立行政法人食品総合研究所の忠田吉弘らは、梅肉エキスの血流改善効果について実験を行っています。

実験では比較的血の流れが悪い34名の人を対象に、1週間梅肉エキスを食べてもらい、血流が一定の箇所を流れる時間を測定しました。

その結果、梅肉エキスを摂取する前は血液が流れ切るまでに77秒以上かかっていましたが、摂取後は約55秒まで短縮。血の流れる速度が速くなったことで、梅肉エキスには血流を改善する効果が示唆されました。[※7]

滋賀県立大学看護短期大学部の藤田きみゑらが行った実験では、梅肉エキスの殺菌効果が明らかになっています。

藤田らは梅肉エキスを0.156%、0.313%、0.625%、0.9%の濃度に調製した液体を使い、胃粘膜から採取したピロリ菌10種類の発育が阻害されるかを観察。

結果、0.156%濃度の梅肉エキス液では4種類の菌の成長が、0.313%濃度の梅肉エキス液を与えると6種類の菌の成長が阻害されることがわかりました。

また、濃度を0.3%と0.9%に調整した梅肉エキス液を与えた5~15分後に99%のピロリ菌が減ったことから、強い殺菌作用が示されています。[※8]

研究のきっかけ(歴史・背景)

古くから民間薬として用いられている梅は、2000年前にはすでに薬として文献に記されていたようです。日本に伝来したのは青梅を燻製にして乾燥させた烏梅(うばい)と呼ばれるものが最初で、薬用として使われていたといわれています。

日本で梅肉エキスが研究されるようになったのは、江戸時代後期。医師の衣関順庵(きぬどめじゅんあん)が発表した、当時の民間療法を集めた医学書『諸国古伝秘方』には、食中毒や消化不良などの治療薬として、簡易的な梅肉エキスのつくりかたが記されていました。

その後、専門の研究機関や大学が協力し、梅の研究が進められてからは、徐々に梅肉エキスの効果も注目されるように。現在では研究論文や実験などの報告も多く挙がっており、健康維持に役立つ効果が発見されています。

専門家の見解(監修者のコメント)

梅肉エキスは昔から民間薬として用いられており、近年では効果についての研究も進んできました。

独立行政法人食品総合研究所の忠田吉弘氏は、自身の研究報告の中でこう述べています。

「梅の産地では、梅肉エキスは古くから民間薬として用いられてきた。薬効はいろいろ知られてはいたが、そのほとんどが民間伝承によるものであった。しかし、本研究を契機に、梅肉エキスについての研究が行なわれるようになり、科学的にその生理的作用が解明されつつある」(忠田吉弘「梅肉エキスに秘められた血流改善効果」より引用)[※7]

忠田氏は梅肉エキスが古くから使われている民間薬であるとともに、研究によって効果を確認できたとコメントしています。忠田氏の研究によって梅肉エキスの血流改善作用が証明されたことで、梅肉エキスの研究はさらに活発化し、より具体的な生理作用を発見するに役立ったと考えられます。

最近は梅肉エキスの研究が進み、20近い作用が明らかになりました。健康を維持するために必要な栄養を備えている梅肉エキスは、今後さまざまな分野で欠かせない存在になっていくでしょう。

梅肉エキスを上手に摂取するには

あらゆる効果が期待できる梅肉エキスは、うまく使えば疾病予防や美容だけでなく、アレルギー症状やストレスを軽減する作用も得られます。

たとえば1日3gの梅肉エキスを摂取することで、ウイルスのはたらきを阻害したり、アレルギーを引き起こす物質の生成を抑えたりする効果が期待できるのです。

しかし、梅肉エキスはクエン酸を含んでおり、かなり酸味の強い食品です。そのため、1日の推奨量である3gをヨーグルトやお湯、シロップなどと混ぜて摂取するのがおすすめです。

暑い夏は水と梅肉エキス、シロップを混ぜて氷を浮かべるだけで、甘酸っぱい梅ドリンクができます。適度な酸味がある梅ドリンクは、夏バテ防止にも効果的です。

すっぱいものが苦手な場合は、カプセルや錠剤のサプリメントでとるのも良いでしょう。酸味がほぼ感じられないため、味を気にせず手軽に梅肉エキスを摂取できます。

相乗効果を発揮する成分

梅肉エキスと相乗効果を発揮する成分は、梅肉エキスと同じく血液サラサラ効果を持つ黒酢です。梅肉エキスと黒酢を合わせて摂ることで、血流がより良くなり、代謝を上げることができます。

また、黒酢にはアミノ酸も豊富に含まれているため、体の疲れをとることができます。梅肉エキスに含まれるクエン酸との相乗効果で、高い疲労回復効果が期待できるでしょう。

実際に梅肉エキスと黒酢を一緒に配合したサプリメントや食品も販売されており、評判が高いようです。

梅肉エキスに副作用はあるのか

梅肉エキスは完熟寸前になった青梅の搾り汁を使ってつくられるため、青梅に含まれている有毒なシアン化合物はほとんど含まれていません。搾り汁は長時間加熱するので、有毒物質が分解されて安全に食べられます。

ただし、梅肉エキスは血流を良くするため、血液の凝固作用を弱めると考えられています。手術時に血が止まりにくくなる可能性があるため、2週間以内に手術を控えている人は摂取しないようにしてください。

注意すべき相互作用

梅には血流を良くする作用があるため、血液を固まりにくくします。そのため、血液をサラサラにする抗血栓薬と合わせて使用すると、紫斑が出たり出血量が多くなったりするケースがあります。

イブプロフェンやナプロキシン、クロピドグレル硫酸塩などの抗血栓薬とは併用しないでください。

イブプロフェンは市販薬に含まれていることもあるため、イブプロフェンが含まれる市販薬を使っている人は、梅肉エキスを摂取する前に医師に相談すると良いでしょう。