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ヒハツの効果とその作用

東南アジアや沖縄に分布するコショウ科の植物・ヒハツについて解説しています。ヒハツはインドや中国などで昔から体を温める目的や、頭痛や下痢などの治療薬として利用されてきました。
日本では香辛料として使用されるほか、生薬としても活用されています。これまでに、研究ではさまざまな健康効果が確認されており、ヒハツに含まれる有効成分「ピペリン」を機能性関与成分とした機能性表示食品も販売されています。
そんなヒハツの効果・効能や作用のメカニズム、摂取目安量などについてまとめました。

ヒハツとはどのような植物か

ヒハツとは、東南アジアを中心に日本では沖縄に分布するコショウ科の植物で、別名「ナガコショウ」「ロングペッパー」とも呼ばれています。

果穂(穂のような形で咲く花のこと)は多肉質で円筒状をしており、乾燥させたものは香辛料として使用されます。ほんのりと甘みのある独特な香りをもつのが特徴です。

沖縄では、近縁種のヒハツモドキを「ピパーツ」「フィファチ」などと呼び、「島胡椒」として琉球料理の薬味に用いています。

また、インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」によると、食欲減退や消化不良の際にヒハツを摂ると良いとされています。

昔から民間的に頭痛や下痢、嘔吐、歯痛などの治療薬として使われているほか、中国では体を温める目的でもヒハツが利用されています。

日本では、生薬として第三類医薬品としても利用されています。

また、ヒハツに含まれる成分・ピペリンを機能性関与成分とした機能性表示食品なども販売されています。

ヒハツの効果・効能

ヒハツには、以下のような効果・効能があります。[※1][※2]

■血行促進効果

血管を拡張させて血流を改善する効果があります。

■むくみの改善

ヒハツにより血液の流れが良くなることで、むくみの改善も期待できます。

■冷えの改善

ヒハツを摂取して血の巡りが良くなると末梢血管まで血液が行きわたるため、冷えが改善します。

■ダイエット効果

ピペリンによって血流が改善し基礎代謝が高まるため、ダイエットにも効果があるといわれています。

■高血圧の改善

ヒハツに含まれるピペリンという成分が血圧を正常に保ってくれます。

■抗菌・防腐作用

ピペリンという成分には、抗菌作用や防腐作用があり、保存料としても活用されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ヒハツには、ピペリンと呼ばれる辛味成分が含まれています。

ピペリンには毛細血管を拡張するはたらきがあるため、血流の促進や新陳代謝を高めるのに役立ちます。[※2]ピペリンの作用により、血行不良やむくみ、冷え症などの改善やダイエット効果などが期待されています。

またヒハツエキスは、「Tie2」という内皮細胞を活性化して、血管を守り老化を防ぐはたらきが確認されています。

もともと、私たちの体内では、毛細血管の壁細胞から分泌される「アンジオポエチン-1」と呼ばれる物質がTie2という内皮細胞とくっついて、細胞組織を活発化させることで血管を守っています。

しかし、加齢や紫外線、生活習慣の乱れなど、さまざまな要因によってアンジオポエチン-1の分泌量は減少します。アンジオポエチン-1が減るとTie2の活動も低下して、毛細血管の老化や劣化が起こるという仕組みです。

ヒハツエキスは、体内でアンジオポエチン-1と同じようにTie2を活性化するはたらきがあるため、血管の劣化・老化を予防する効果が期待されています。[※1]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ヒハツは、以下のような人におすすめしたい成分です。

  • 血圧が高めの人
  • むくみを改善したい人
  • 冷えを改善したい人
  • 血管の老化を予防したい人

ヒハツの摂取目安量・上限摂取量

ヒハツの摂取目安量および上限摂取量は明確に定められていませんが、一般的に1日に粉末を約1g(小さじ半分)摂取するのが目安とされています。多くても、小さじ1杯(約2g)以内にとどめましょう。

食品やサプリメントなどで摂取する場合は、記載されている1日の摂取量を守りましょう。

ヒハツのエビデンス(科学的根拠)

ヒハツの冷え性を改善する効果について、東京医科大学薬理学の渡辺泰雄助教授とハウス食品株式会社は次のような実験を行いました。

冷え性を自覚している20~50代の女性20名に、150mgのヒハツエキス粉末を含んだお茶を飲んでもらった後、15℃の冷水に手を浸けてもらい、30分後までの皮膚温度の回復状態をサーモグラフと体感で調査しました。

この実験の結果、ヒハツエキス粉末を含んだお茶を飲むと手先の温度回復が早い傾向があることがわかりました。

また、この実験では、75%の人がヒハツ入りのお茶を飲んだことで手先の冷えの回復を実感したと報告されています。

この結果から、ヒハツエキス粉末には、血管を広げて血流量を上昇させる作用があり、手足の冷えを改善する効果が期待できると示唆されました。[※3]

また、芝パレスクリニックの小池田崇史らは、ロングペッパー(ヒハツ)が高血圧を改善するという研究結果を報告しています。

研究では正常範囲で高めの血圧の人と一次高血圧患者120名を、プラセボ(偽薬)緑茶を摂取するグループ、ヒハツ抽出物入りの緑茶を摂取するグループに分け、1日1回12週間、対象の緑茶を飲んでもらいました。その後、収縮期・拡張期血圧や体重、心拍数などを測定しています。

結果として摂取開始後1週間から、ヒハツ抽出物入りの緑茶を摂取したグループでは、プラセボ(偽薬)群に比べて血圧が下がったことがわかりました。

副作用や有害反応がなかったことから、ヒハツ抽出物入りのお茶は安全に高血圧を改善できることが示唆されました。[※4]

研究のきっかけ(歴史・背景)

「香辛料の王様」として親しまれてきた胡椒の歴史は長く、ヨーロッパにおいては紀元前400年ごろには、すでに知られていたとされています。

古代ギリシャ・ローマ時代では、胡椒といえばヒハツ(長コショウ)とされていました。ギリシャの哲学者の文献にも、ヒハツ(ロングペッパー)とブラックペッパーに関する内容が記されています。[※5]

しかし、中世ごろになると現在のような球形のものが胡椒と呼ばれるようになりました。

中世では食事を長い期間保存できる胡椒は必要不可欠とされ、金や銀などの通貨と同等の高い価値があるといわれていました。そんな胡椒を手に入れるため、大海原へ船を出して新大陸を目指したことから、大航海時代を生き抜くための原動力でもあったとされています。

中国では、唐時代に記された書物『新修本草(しんしゅうほんぞう)』に、胡椒についての記述が残されています。その時代ではすでに香辛料や生薬として胡椒が使われていたことがわかります。

専門家の見解(監修者のコメント)

薬剤師であり医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シーの取締役を務める堀美智子氏は、ヒハツについて以下のように述べています。

「ヒハツはまた、『食べるカイロ』とも呼ばれるように、からだを温める働きがあります。カプサイシンのように汗が噴き出すという激しいものではなく、手足がじんわり温かくなるような、比較的おだやかな作用といわれています」(公園前薬局「ヒハツ」より引用)[※6]

また、ヒハツに含まれているピペリンについて以下のようにコメントしています。

「ヒハツの辛味の成分は、ピペリン。トウガラシの辛味成分であるカプサイシンに比べると、辛味の強さは100分の1ほどですが、よい香りも有することから、食欲を増進させ、消化を促進する作用を期待して民間薬のように使われていたこともあるようです」

「ふだんの生活の中で摂るヒハツ(ピペリン)の量はごくわずか。大きな問題になることはまずないと思われますが、たくさん摂りすぎると、喘息の治療薬(テオフィリン)やてんかんの治療薬(フェニトイン)などの作用に影響があるという報告もあります」

(公園前薬局「ヒハツ」より引用)[※6]

ヒハツの有効成分・ピペリンには、血液の流れを改善して体を温めるはたらきがあり、冷えや血圧、食欲促進や消化不良を改善する効果が期待できるようです。

ヒハツは、一般的に薬味や香辛料として利用されているため、1日に摂取する量はあまり多くありません。普通に摂取していれば、過剰摂取のリスクは低いといえるでしょう。ただし、ヒハツと併用することで相互作用を引き起こすおそれのある医薬品やハーブがあるので、十分に注意しましょう。

ヒハツを使ったレシピ

ヒハツは手に入りにくいため、ここでは比較的手に入りやすい近縁種・ヒハツモドキ(ピパーツ)を使ったレシピをご紹介します。

■ヒハツモドキ風味のじゃがいものガレット

【用意するもの】
・じゃがいも 250g
・天ぷら粉 大さじ1.5
・ピパーツ 小さじ1/2
・サラダ油 大さじ1.5
・塩 ふたつまみ

【調理方法】

  1. じゃがいもを薄切りにした後、さらに細切りにします
    ※その際に水には絶対さらさないようにしてください
  2. 細切りにしたじゃがいもと天ぷら粉、ヒハツモドキ、塩をボウルに入れて混ぜ合わせます
  3. フライパンにサラダ油を入れて熱し、そこに(2)を敷きつめるように入れます
  4. 入れたら表・裏ともに中強火で焼き色がつくまで、じっくりと焼いていきます
  5. 焼きあがって6等分にカットしたら完成です

カリカリに焼いたジャガイモとヒハツモドキの香りがマッチして、おいしくいただけます。

相乗効果を発揮する成分

ヒハツに含まれるピペリンと一緒に摂取すると良いとされているのが、ウコンに含まれるクルクミンという成分です。

ピペリンには体内への吸収を高めるはたらきがあります。クルクミンを一緒に摂取することで、クルクミンの吸収率をアップさせ、より肝機能を活発にします。

ヒハツの副作用

食品としてヒハツを摂取する場合、安全だとされています。

妊娠中の人や授乳中の人に関しては、安全性についての情報が不十分です。安全を考えて摂取は控えるようにしてください。[※7]

注意すべき相互作用

ヒハツは、以下のような医薬品との相互作用があります。[※7]

■プロプラノロール塩酸塩(降圧薬・β遮断薬)

降圧薬などとして利用されるプロプラノロール塩酸塩と併用すると、プロプラノロール塩酸塩の作用や副作用が強く出るおそれがあります。

■テオフィリン(気管支拡張薬・テオフィリン薬)

ヒハツと併用すると、テオフィリンの体内吸収量が増えてしまうため、テオフィリンの作用や副作用が強く出る可能性があります。

■フェニトイン

ヒハツと併用すると、フェニトインの体内吸収量を増加してしまうため、フェニトインの作用や副作用が増強するおそれがあります。

また、ヒハツは以下のハーブとの相互作用も懸念されています。

■エニシダ

ヒハツにはピペリン、エニシダにはスパルテインと呼ばれる化学物質が含まれています。

ヒハツとエニシダを一緒に摂取すると、ピペリンがスパルテインの体内吸収量を増加させます。スパルテインが多量になることで有害になるおそれがあるため、併用は避けてください。

ヒハツが予防する「ゴースト血管」とは

最近の研究では、ヒハツが流を改善して血液がすみずみまで行きわたらせることが明らかになりました。このはたらきは、血管に血液が流れなくなる「ゴースト血管」を予防できるといわれています。

ゴースト血管とは非常に細い毛細血管の中で、血液が流れなくなった血管のことを指します。血液が流れない状態が続くと、その血管はいずれ消えてしまうため、ゴースト血管と呼ばれています。

毛細血管には隙間があり、そこから血液中の栄養や酸素を周辺の細胞にわたしています。そのため、毛細血管がゴースト化して消えると細胞に栄養や酸素が行き届かなくなり、細胞が死んで健康や美容に大きく影響するのです。

最近では、ゴースト血管が認知症やアルツハイマー、骨粗しょう症などのリスクを高めることもわかっており、早めの改善が必要だといわれています。

現在、ゴースト血管を細胞レベルで改善する目的で、ヒハツが注目されています。ゴースト血管を改善するには、血流を良くすることが大切です。血流改善効果をもつヒハツやシナモンを摂取すれば末梢の血管まで血を巡らせることができるようになります。

こうしたことから、ゴースト血管を改善することにつながると考えられています。[※8]

参照・引用サイトおよび文献

  1. 健康産業新聞「丸善製薬、ヒハツ抽出物のTie2活性化で特許取得」
  2. 鈴木洋 著『カラー版 健康食品・サプリメントの事典』(医歯薬出版株式会社 2011年2月発行 p151-p152)
  3. 日経メディカル「ハウス食品、冷え性対策の粉末茶を商品化 沖縄コショウのヒハツを配合、ヒト試験で改善効果を確認」
  4. ライフサイエンス出版「Randomized Double-blind Comparative Study to Examine the Efficacy for Blood Pressure Control and Safety of Powdered Green Tea Containing Long Pepper Extract for Long Term Intake in Individuals with Blood Pressure in the High Normal Range and Patients with First-degree Hypertension.」
  5. 野田浩資 著『ドイツ修道院のハーブ料理:中世の聖女、ヒルデガルトの薬草学をひもとく』(誠文堂新光社 2016年1月発行)
  6. 公園前薬局「ヒハツ」
  7. 田中平三 ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)
  8. NHK「NHKスペシャル|“ゴースト血管”が危ない~美と長寿のカギ 毛細血管~」