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ホスファチジルセリンの効果とその作用

ホスファチジルセリンは細胞の膜をつくったり神経伝達物質を合成したりする成分です。1940年代に見つかった、比較的新しい成分で、認知症やアルツハイマー病に対する効果が知られています。ここではホスファチジルセリンの効果・効能や副作用などについて解説しています。

ホスファチジルセリンとはどのような成分か

ホスファチジルセリンの正式名称はPhosphatidy lserineです。頭文字をとってPSと呼ばれたり、ホスファチジルセリンではなくフォスファチジルセリンと書かれることもあります。

ホスファチジルセリンは、脳や神経細胞の膜を形成しているリン脂質といわれるものの一種。脳全体のリン脂質のうち、18%の割合をホスファチジルセリンが占めています。

リン脂質には「水や油に馴染みやすい(両親媒性)」「脂質が二重層になっている」という特徴があります。この特徴が細胞の膜をつくるのに適しているのです。

ホスファチジルセリンは、神経伝達に深くかかわっていることから「脳の栄養素」とも呼ばれており、脳のはたらきをアップさせるブレインフードの代表格でもあります。アメリカでは、ホスファチジルセリンの研究が50年以上続けられています。[※1]

そのほか、血液を凝固させる反応を補助する因子としてのはたらきや細胞死を知らせるシグナル物質としての役割も持っている重要な成分です。

ホスファチジルセリンは牛の脳から発見されたため、昔は牛由来のホスファチジルセリンが健康食品に使われていましたが、狂牛病など感染症の懸念がありました。現在は、大豆やキャベツ由来のホスファチジルセリンが健康食品に使われていることが多くなっています。

ホスファチジルセリンの効果・効能

牛由来のホスファチジルセリンには、以下のような効果・効能があります。[※1][※2](※植物由来のホスファチジルセリンの摂取で牛由来のホスファチジルセリンと同様の効果が得られるどうかはまだわかっていません)

■脳機能改善

ホスファチジルセリンは、神経伝達機能にアプローチして脳のはたらきを良くしてくれます。

■認知症・アルツハイマー病の予防や改善

脳機能を改善してくれるため、認知症・アルツハイマー病の予防・改善効果が期待されています。

■ADHD(注意欠陥多度性障害)改善

ホスファチジルセリンの摂取によって、ADHDの症状(過活動・衝動)を抑制・改善する試験結果が報告されています。

■抗ストレス

神経伝達をスムーズにしてくれるため、ストレスを和らげるホルモンが分泌されやすくなります。

■運動パフォーマンス向上

ホスファチジルセリンには、運動機能の向上や運動時に感じるストレスの軽減作用があるため、集中力やパフォーマンスを高める効果が期待されています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

ホスファチジルセリンは、細胞を包む膜としてはたらきます。この膜は栄養素や酸素を取り込み、老廃物を排出するフィルターのような役目を持っています。

また、ホスファチジルセリンには、役割を終えて死亡した細胞を分解するマクロファージ(貪食細胞)に細胞が死んだことを伝達するはたらきもあります。死んだ細胞がきちんと処理されないと、さまざまな不具合が生じる可能性があることから、ホスファチジルセリンは体調不良を防ぐ重要な成分でもあることがわかります。[※3]

脳では、アセチルコリンやセロトニンなどといった神経伝達物質の合成を促します。このはたらきにより、記憶力や集中力を高めてストレスに対抗できるようにするだけでなく、アルツハイマー病や認知症、ADHDといったさまざまな病気や障害を改善する効果があるといわれています。

そのほか、ホスファチジルセリンは血液凝固のはたらきにもかかわっています。血管内で出血があると、血小板が血を止めるのですが、このとき血小板からホスファチジルセリンが放出され、血液を固める因子が活性化し、出血が止まります。[※4]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

ホスファチジルセリンは、脳機能に深くかかわっていることから、記憶力や集中力を高めたい人に摂って欲しい成分です。認知症やアルツハイマー病の人にもおすすめです。

ADHDにも効果があるとされていて、子ども用のサプリメントも販売されています。

ホスファチジルセリンの摂取目安量・上限摂取量

ホスファチジルセリンには、国によって定められた目安量や上限量はありません。しかし、1日300mg以上を摂取すると、まれに不眠症や胃もたれをおこすといわれているため、300mg以上の摂取は避けたほうが良いでしょう。[※2]

また、以下の症状を改善する目的でホスファチジルセリンが投与されるケースもあります。

アルツハイマー病・老人性認知症など
1回100mgを1日3回(経口摂取)
ADHD(注意欠陥多動障害)
小児の場合 1日200mg~300mg(経口摂取)

ホスファチジルセリンのエビデンス(科学的根拠)

Memory Assessment ClinicsのCrook THらは、加齢による記憶障害症状がある患者149人を2つのグループ(ホスファチジルセリン100mg摂取と偽薬摂取)に分けて、12週の比較試験を行いました。

2つのグループを、日常生活の学習能力と記憶力の試験で比較した結果、ホスファチジルセリンを摂取していたグループは、偽薬を摂取していたグループよりも良い結果を示しました。[※5]

このことから、ホスファチジルセリンには加齢に伴う記憶力の低下を抑える効果があるとされています。

イスラエルのManor Iらは、ADHDの子ども200名にPS-Omega(ホスファチジルセリン300mgとオメガ3脂肪酸120mgを混合したもの)または偽薬を15週摂取させる比較試験を行いました。

試験の結果、PS-Omegaを摂取したグループは、偽薬を摂取させたグループよりもADHDの症状が抑えられました。とくに、そわそわと体が動いてしまう過活動性や考える前に行動してしまう衝動性などの症状に対して有効であったと報告されています。[※6]

このことから、ホスファチジルセリンはADHDの症状を改善する効果があるといえます。

ドイツのHellhammer Jらは、健康な男性60名を対象にOmega-3 PS(ホスファチジルセリンとEPA・DHAを混合したもの)と偽薬のいずれかを12週間与えて、ストレスに対する効果を比較しました。

その結果、全体としてのストレス評価に影響は見られませんでしたが、慢性的に高ストレスを抱えているグループにおいては、ストレス評価が改善したことが示されました。[※7]

この結果から、ホスファチジルセリンには抗ストレス効果があるといえます。

研究のきっかけ(歴史・背景)

ホスファチジルセリンは、1941年のアメリカで生化学者フォルシュが牛の脳から発見した成分です。脳に含まれていた成分だったため、重要な役割があるだろうと研究が進められました。

1980年代に入ると、ホスファチジルセリンに、脳内のブドウ糖(脳の栄養となる成分)の濃度を上げるはたらきがあることがわかりました。さらに、動物実験によって記憶障害を回復させるはたらきも明らかとなったのです。

1986年には、牛の脳から分離されたホスファチジルセリンがヒトに経口投与され、認知症が改善したという研究結果が残っています。

脳機能に関するさまざまな効果あることが明らかとなりましたが、これらの研究に用いられたのは牛由来のホスファチジルセリンです。牛由来のホスファチジルセリンは1頭の牛から1gしかとれないことや狂牛病など感染症のリスクがあるため、別の安全なホスファチジルセリンが求められていました。

そこで登場したのが植物由来のホスファチジルセリンです。現在では、牛由来のものにかわり大豆やキャベツ由来のホスファチジルセリンが使用されています。牛由来のホスファチジルセリンと比べて効果に違いがないか、研究が進められている段階です。

専門家の見解(監修者のコメント)

ホスファチジルセリンは脳の機能を高める食品「ブレインフード」と呼ばれ、認知症予防に効果があるという研究結果が出ています。

東海大学医学部の抗加齢ドック教授である久保明氏は、ホスファチジルセリンをはじめとする以下の成分がブレインフードに該当すると紹介しています。

「ブレインフードには、イチョウの葉、アスタキサンチン(鮭など)、GABA(発芽玄米など、トコトリエール(ビタミンE)、EPA(青魚など)、DHA(青魚や魚の眼の裏のゼリー状部分など)、ミルクペプチド(牛乳など)、ホスファチジルセリン(大豆など)、テアニン(緑茶など)などがあります。これらは認知症の予防にも効果がありますので覚えておくといいでしょう」

(ダイヤモンドオンライン 「脳・メンタルのアンチエイジングと食」より引用)[※8]

ホスファチジルセリンのほかにも、さまざまなブレインフードがあることがわかります。さらに久保教授は、脳とブレインフードについて以下のように記しています。

「新しいことを覚えるのに何度も聞かないといけなかったり、脳トレをやったりと皆さん工夫をしていらっしゃるようです。勿論そうした努力は大事ですが、脳のはたらきを強化するといわれている食品、ブレインフードを摂ることも一つの手です」

(ダイヤモンドオンライン 「脳・メンタルのアンチエイジングと食」より引用)[※8]

ブレインフードは物忘れや認知症の予防に効果的なので、ホスファチジルセリンをはじめとするブレインフードを積極的に摂っていきましょう。

ホスファチジルセリンを多く含む食べ物

ホスファチジルセリンは、肉や大豆などから摂取できる成分ですが、食品に含まれる量は多くありません。1日に100mg摂取するには、大豆を約3kgも食べる必要があります。

ホスファチジルセリンは成分そのものを摂取するだけでなく、ほかの栄養素(リンやアミノ酸など)を使って体内で合成することも可能なため、バランスの良い食事を心掛けると良いでしょう。[※9]

不足しているホスファチジルセリンを補い、効率的に摂取したい場合は、サプリメントという選択肢もあります。

相乗効果を発揮する成分

ホスファチジルセリンはDHA・EPA、イチョウ葉エキスと一緒に摂取すると良いといわれています。

DHAやEPAは脳のはたらきをサポートする作用があるため、ホスファチジルセリンと一緒に摂取することで脳機能改善の相乗効果が見込めます。DHAやEPAは青魚に多く含まれています。

イチョウ葉エキスは記憶力を高める効果がある成分です。ホスファチジルセリンと併用することで、記憶力向上が期待できます。イチョウ葉エキスはサプリメントとして販売されています。

ホスファチジルセリンの副作用

ホスファチジルセリンを過剰摂取した場合、まれに胃腸の不調(300mg以上)や不眠(600mg以上)といった副作用があらわれるケースがあるので、摂りすぎには注意が必要です。

また、妊娠中や授乳中の安全性については信頼できるデータが揃っていないため、妊婦・授乳婦は摂取を控えるようにしましょう。

注意すべき相互作用

相互作用をおこす可能性のある医薬品は以下です。[※2]

アセチルコリンエステラーゼ阻害剤/コリン作動薬
ホスファチジルセリンと併用すると、血中アセチルコリン値を上昇させ、副作用が出る可能性があります。
抗コリン剤
ホスファチジルセリンと抗コリン剤を併用すると、薬の効果が減少するおそれがあります。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 健康博覧会 「PS(ホスファチジルセリン)商品分野広がり、安定成長」
  2. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)
  3. 【PDF】長田重一 「研究領域『アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症 機構と治療技術』」
  4. 京都大学「血小板において止血の引き金となるリン脂質の暴露に関与する因子の同定-ヒトの遺伝病(スコット症候群)の原因遺伝子の同定」
  5. Crook TH, Tinklenberg J, Yesavage J, Petrie W, Nunzi MG, Massari DC. Effects of phosphatidylserine in age-associated memory impairment. Neurology. 1991 May;41(5):644-9. PubMed PMID: 2027477.
  6. Manor I, Magen A, Keidar D, Rosen S, Tasker H, Cohen T, Richter Y, Zaaroor-Regev D, Manor Y, Weizman A. The effect of phosphatidylserine containing Omega3 fatty-acids on attention-deficit hyperactivity disorder symptoms in children: a double-blind placebo-controlled trial, followed by an open-label extension. Eur Psychiatry. 2012 Jul;27(5):335-42. doi:10.1016/j.eurpsy.2011.05.004. Epub 2011 Jul 31. PubMed PMID: 21807480.
  7. Hellhammer J, Hero T, Franz N, Contreras C, Schubert M. Omega-3 fatty acids administered in phosphatidylserine improved certain aspects of high chronic stress in men. Nutr Res. 2012 Apr;32(4):241-50. doi:10.1016/j.nutres.2012.03.003. Epub 2012 Apr 30. PubMed PMID: 22575036.
  8. ダイヤモンドオンライン 「脳・メンタルのアンチエイジングと食」
  9. 【PDF】「ホスファチジルセリン(PS)の概要とその機能」