パントテン酸は肉や野菜など幅広い食材に含まれる、水溶性ビタミンです。ビタミンB5ともいわれます。体内で重要な役割をしている補酵素の構成成分で、さまざまなはたらきを持っています。
このページでは、パントテン酸の効果や効能、体でのはたらき、欠乏による症状などについてまとめました。
パントテン酸は別名ビタミンB5とも呼ばれる、ビタミンの一種。粘り気のある黄色い液体で、パントイン酸とβ-アラニンが結合した物質です。
水に溶ける性質を持ち、pH値が中性の中では安定して構造を保っています。反面、酸やアルカリ、熱には弱いといった特徴があります。
さまざまな食品に含まれていることから、「広くどこにでもある」というギリシャ語から「パントテン酸」と名付けられたといわれています。ですから普通に食事をしていれば、不足しにくいビタミンでもあります。
パントテン酸は食品のなかでは補酵素A(CoA/コエンザイムA)やパントテン酸誘導体として存在していますが、消化器官内でパントテン酸へ分解され、さまざまな役割を持つ補酵素Aとして再合成されたり、パントテン酸のまま必要なところへ運ばれたりします。
補酵素とは、酵素が物質と反応するときにはたらく低分子(小さい分子)の有機化合物の総称です。補酵素はコエンザイムやコエンチームなどといわれることもあります。ビタミン類の多くは、補酵素の役割を担っています。
パントテン酸は補酵素A(コエンザイムA)の、いわば部品。パントテン酸にいろいろな物質が結合することでコエンザイムAとなります。コエンザイムAは人間の体の中で140以上の役割を担う、なくてはならない成分です。
その核となるパントテン酸がないと補酵素Aは合成できないため、パントテン酸が不足すると体のメカニズムが狂ってしまいます。
パントテン酸はカルシウムと結合した「パントテン酸カルシウム」として、医薬品(第3類医薬品)や化粧品に配合されています。パントテン酸カルシウムはパントテン酸欠乏症の薬として使われたり、ビタミンCを助けて肌の新陳代謝を促したりします。
パントテン酸には以下のような効果・効能が期待できます。
■ストレス耐性促進作用
パントテン酸は抗ストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)を促進させるため、ストレス耐性がつくといわれています。
■動脈硬化の予防
パントテン酸は血中のコレステロールや中性脂肪を抑え、血小板の数を調整することから、動脈硬化の予防に役立ちます。
■美肌や美髪
パントテン酸はビタミンCのはたらきを助ける補酵素となり、ビタミンCの効果である美肌や美髪効果を高める効果があります。パントテン酸は薬として処方される場合、以下のような症状の改善に用いられます。[※1][※2]
■パントテン酸欠乏症
疲労感やだるさなどの消耗性疾患や甲状腺機能亢進症、妊娠、授乳などによるパントテン酸欠乏を改善します。
■脂質異常症
パントテン酸は脂質やたんぱく質の代謝を助け、血中のコレステロールや中性脂肪の値を下げるはたらきがあります。
■抗生剤の副作用
ストレプトマイシンやカナマイシンといった、抗生物質の投与による副作用の予防や治療の目的で処方されることがあります。
■接触性皮膚炎/急性・慢性の湿疹
パントテン酸が持つ代謝のはたらきがを利用して、皮膚炎の症状を改善する目的で用いられます。
■弛緩性便秘
パントテン酸は大腸のはたらきを促進します。そのため、大腸のはたらきが弱まって起こる弛緩性便秘の改善を目的に処方されることがあります。
パントテン酸は体の中のさまざまなメカニズムにおいて重要な役割を担っています。[※3][※4]その作用はパントテン酸そのものが必要な場合と、パントテン酸を使ってつくられる補酵素A(コエンザイムA)が必要な場合とに分けられます。
パントテン酸はエネルギー生産に必要な、アセチルCoA(補酵素Aの化合物)をつくるために必要です。パントテン酸から補酵素Aがつくられ、体内にある脂肪酸からアセチルCoAを作り出します。
アセチルCoAは細胞内でエネルギー回路(TCA回路)を動かすために必須な成分で、このアセチルCoAがなければ、人間は体を動かすエネルギーをつくれません。
アセチルCoAはコリンというリン脂質と反応して、アセチルコリンという成分になります。アセチルコリンは神経伝達物質としてはたらく物質で、運動神経やリラックスにかかわる副交感神経と深くかかわっています。筋肉の収縮や心拍数の低下、手先や足先の血管拡張、胃液の分泌の促進などもアセチルコリンが関与しているのです。
パントテン酸には、副腎皮質(副腎周囲にある組織)でつくられるホルモンのひとつである、コルチゾールの合成促進作用もあります。コルチゾールをつくるためには、パントテン酸、ビタミンC、ビタミンB6が必要です。どれかが不足してしまうと、コルチゾールがうまく合成できません。[※5]
コルチゾールは、抗ストレスや抗炎症、糖新生、脂肪分解の促進といった作用があります。パントテン酸がストレス状態やコレステロール値の改善に良いといわれるのはこのためです。
パントテン酸は下記のような人におすすめの成分です。
日本人の食事摂取基準(2015 年版)によれば、パントテン酸の摂取目安量は以下のようになっています。[※6]
目安量(mg/日) | ||
---|---|---|
年齢/性別 | 男性 | 女性 |
0~5(月) | 4 | 4 |
6~11(月) | 3 | 3 |
1~2(歳) | 3 | 3 |
3~5(歳) | 4 | 4 |
6~7(歳) | 5 | 5 |
8~9(歳) | 5 | 5 |
10~11(歳) | 6 | 6 |
12~14(歳) | 7 | 6 |
15~17(歳) | 7 | 5 |
18~29(歳) | 5 | 4 |
30~49(歳) | 5 | 4 |
50~69(歳) | 5 | 5 |
70以上(歳) | 5 | 5 |
妊婦 | - | 5 |
授乳婦 | - | 5 |
Consiglio Nazionale delle RicercheにてGaddi Aらは、高脂血症にたいしてパントテン酸が有効であるかどうか試験を行いました。対象となったのは、2B型と4型の高脂血症患者です。
パントテン酸を摂取するグループと偽薬を摂取するグループに分け、8週間にわたって摂取させたうえで、血中の中性脂肪値を測定しました。
2B型の患者では、悪玉コレステロール(LDL)の減少や善玉コレステロール(HDL)の増加が見られました。
4型の患者は善玉コレステロールは増えなかったものの、パントテン酸の投与量によってLDLコレステロールの量に変化がみられました。投与量を増やすと、LDLコレステロールの値は減少する傾向にありました。
こうした結果を受けて、パントテン酸は副作用がほとんどない高脂血症患者にたいして有効な治療手段だと考えられています。[※7]
協和ファーマケミカル株式会社(旧第一ファインケミカル株式会社)の東野勲氏と山西敏夫氏は、メタボ対策にパントテン酸が使用できないか、臨床試験を行いました。
ウエスト85cm以上の成人男性20名をA・B・C・Dの4グループに分けて、A・Bは「パントテン酸のみ90mg」、B・Cは「L-カルニチンのみ375mg」を投与。1日3回3カプセル服用してもらい、2週間後に最初の測定を行いました。
結果、4つのグループすべてでエストサイズがダウンし、L-カルニチンを摂取していたB・CグループはLDLコレステロールの値も低下していました。
その後、AとDは「パントテン酸とL-カルニチンを併用」、B・Dは継続して単独使用を2週間続け変化をみました。
併用と単独使用の結果に大きな差はありませんでしたが、どのグループもウエストサイズの減少がみられました。このことから、パントテン酸とL-カルニチンには、メタボリック症候群の改善効果が期待できるとしています。[※8]
パントテン酸は1931年、生化学者ロジャー・ウィリアムスらが、酵母菌から分離した物質です。1933年には、酵母菌の成長に不可欠な成分であることがわかり、さらに動物や植物にも広く分布していることから「どこにでもある」という意味の「パントテン(ギリシャ語)」から「パントテン酸」と名付けました。
研究が進むうち、パントテン酸は補酵素Aに必要な成分であることがわかりました。
日本では、昭和30年代にパントテン酸欠乏の症状を訴える患者が多くいたようです。マルチビタミンのサプリメントはあったものの、パントテン酸の含有量が少なかったり、間違った栄養知識によってパントテン酸が不足していたりしたようです。そうした人たちには、パントテン酸を注射して治療していました。
現代では、パントテン酸欠乏症予防のために、薬が処方されています。本来は、同時摂取するとそれぞれの吸収を妨げてしまうとされていたパントテン酸とビタミンCを配合した錠剤も開発されました。[※9]
栄養士で食事カウンセラーの笠井奈津子さんは、パントテン酸について以下のように述べています。
「ちょっとしたことで落ち込みやすい、そんな神経過敏な状態のときは、神経伝達物質が正常に分泌されていないことも考えられます。こんなときに有効なのは、ビタミンB群の1種、パントテン酸。神経伝達物質や抗ストレス作用を持つ副腎皮質ホルモンの合成に関与しています」(DIAMOND 男の健康 「落ち込みやすい人、落ち込まない人の食事の違い」より引用)[※10]
さらに、食事から摂取する際の注意点も教えてくれています。普段の食事がレトルトや加工食品ばかりという人は、パントテン酸やその他の栄養が不足しているかもしれません。
「問題は、何を食べているか、よりも、調理済み食品の多さにあります。ある程度日持ちする食品は、一般的には、加工食品であることが多いですよね。加工の過程で減ってしまう栄養は、パントテン酸だけに限りません。ストックしてあるもので済ますことが多かったり、惣菜など中食中心の食生活になってしまうと、普通に食べているつもりが、思っているよりも“普通には食べていない”ということになりかねません」(DIAMONDオンライン 男の健康 「落ち込みやすい人、落ち込まない人の食事の違い」より引用)[※10]
仕事や家事、育児などが忙しく、便利な調理済み食品や加工食品に頼ってしまいがちな人は、お腹は膨れても必要な栄養素がきちんと摂取できていない可能性があります。
パントテン酸に限らず、ビタミン類は体内でほぼ合成できないか、必要量を合成できない栄養素であるため、食事やサプリメントなどで補うことが大切です。
100gあたりのパントテン酸が多い食品をまとめました。[※11]
パントテン酸は熱が加わると壊れやすい性質があります。ただしパントテン酸を効率よく摂りたいからといって、レバー類を生で食べるのはリスクがあるため推奨できません。
ほかにも納豆やアボカド、ローヤルゼリーにも多くのパントテン酸が含まれていますが、製品によりばらつきがあるため正確な含有量は不明です。
パントテン酸は、ビタミンC(アスコルビン酸)のはたらきを助ける作用があります。例えば、副腎皮質ホルモンの生成を促したりビタミンCの血中濃度上げたりするはたらきです。
そのため、パントテン酸を摂取するときはビタミンCも一緒に摂ると良いでしょう。
パントテン酸は適切に使用する場合、副作用の心配はほとんどありません。しかし、過剰摂取すると下痢を起こす可能性があります。
妊娠中や授乳中の過剰摂取に関する安全性のデータは不十分なので、摂りすぎないようにしましょう。アメリカで定められている摂取量目安は、妊娠中が6mg、授乳中が7mgとなっています。
パントテン酸は、通常の食事をしていれば不足しにくいビタミンです。しかし、水に溶けだしやすく熱に弱い性質があるため、加工品ばかりの食事をしていると、不足してしまうことも充分にありえます。
パントテン酸欠乏の症状[※12]
初期症状は以下のようなものです。年齢や忙しさのせいにしがちな症状ですが、パントテン酸不足からくるものかもしれません。
さらに欠乏状態が進むと以下の症状があらわれます。パントテン酸は神経伝達物質としてはたらくため、不足するとこれらの症状が起こりやすくなるのです。
欠乏が深刻化すると、症状も辛く重いものになります。日常生活にも支障をきたすため、これらの症状が出始めた場合は、はやめに医療機関を受診しましょう。