パーム油はスナック菓子やインスタント食品などに使われることが多く、私たちは気が付いていないところで摂取している可能性があります。パーム油には飽和脂肪酸が多く、現代人は飽和脂肪酸の割合が高くなっているため、適切な摂取量にとどめる必要があるでしょう。パーム油の効果・効能や、摂取したい量などを紹介します。
パーム油は、アブラヤシの果実から抽出される植物油です。アブラヤシとは熱帯雨林に植生するヤシ科の植物で、成長すると25mもの大きさになります。植物のなかでも、特に油脂が大量に取れることで知られ、うずらの卵サイズの実が集積した果房をつくるのが特徴です。
アブラヤシから採取される油は、果肉から採れるパーム油と種子から採れるパーム核油のふたつがありますが、いずれも食用や加工用として世界中で利用されています。なかでも、量が多く採れるパーム油は世界で最も消費されている植物油で、日本国内でも菜種油に続いて第2位の消費量とされています。[※1]
各国で重宝される理由は、常温で固形と液体の両方の性質を持つことが挙げられ、常温では半固体状態で存在します。パーム油は、約50%がパルミチン酸(飽和脂肪酸)で、45%がオレイン酸(不飽和脂肪酸)で構成されていて[※2]、両者の融点の差で分別することで、常温で液体のパーム・オレインにしたり、固体のパーム・ステアリンにしたりすることが容易にできます。
食用として使われるのは常温で固体のパーム油が多く、例えば、温度が上がると滑らかになる、チョコレートやマーガリンに活用されるのがイメージしやすい例です。ただしパッケージには「植物油」と表示されていることが多く、パーム油と知らずに口にしている場合が殆どです。
また、パーム油のうちパーム・オレインは酸化しにくいのが特徴で、即席めんやスナック菓子の加工や揚げ物の冷凍食品に利用されています。さらに、生産量が多く、価格も低いため、食用以外にも、洗剤や塗料、化粧品にも応用されており、活用の幅が広いことも特徴です。
パーム油そのものは少し赤いオレンジ色をしています。これはβカロテンの色素です。
パーム油の主成分は、飽和脂肪酸のパルミチン酸と不飽和脂肪酸のオレイン酸です。各成分には、次のような効果や効能が期待できます。
■パルミチン酸の効果
パルミチン酸は飽和脂肪酸の一種です。飽和脂肪酸は、体内でビタミンAの働きを助けたりする役割がありますが、摂取しすぎると血液中の中性脂肪やコレステロール値を上昇させる作用があるため、摂取量に注意が必要です。[※3]
■オレイン酸の効果
パルミチン酸とともに豊富に含まれているオレイン酸には、生活習慣予防の効果が期待されています。
健康的な油として知られるオリーブ油にも豊富に含まれるのがこのオレイン酸で、一価不飽和脂肪酸とも言われます。オレイン酸は善玉コレステロールを減らさず悪玉コレステロールだけを減少させる作用があり、それが健康的な油とされる所以でしたが、近年は悪玉コレステオールを増やさない、善玉コレステロールも減らさない、多量摂取は冠動脈疾患のリスクにもつながる、と考えられています。[※11]
さらに、オレイン酸には酸化しづらいという特徴もあります。そのため、体内で活性酸素と結びついて過酸化脂質になることが少なく、過酸化脂質による生活習慣病等のリスクも数ないとされるため、オレイン酸の健康効果に注目が集まっているのです。[※4]
■レッドパーム油には抗酸化作用も
パーム油は、精製する前にはβ-カロテンが含まれており、オレンジ色であることも特徴です。精製すると、この成分は失われますが原産地の伝統製法をはじめとした特殊な製法を用いたパーム油ではβ-カロテンを残した状態のものがつくられ、レッドパーム油(カロチーノルオイル)と呼ばれています。国内でも専門店などで手に入れることが可能です。
このレッドパーム油(カロチーノルオイル)には、β-カロテン、ビタミンE、コエンザイムQ10などの抗酸化作用が期待できる成分が含まれており、アンチエイジング効果に注目が集まっています。[※5]食用油として利用したり、スキンケアに使用したりする方法で摂取可能です。
パーム油に多い飽和脂肪酸は、血中コレステロールの増加といった悪い作用に目が行きがちですが、エネルギー生成に役立つ成分でもあります。
実に1gで約9kcalのエネルギーを生成するため、効率的なエネルギー源といえます。また、血管や生体膜をつくる成分にもなるため、適度な飽和脂肪酸摂取を心がけましょう。
また、飽和脂肪酸が不足すると血管がもろくなり、脳出血や脳卒中リスクが高まります。ただし、近年は飽和脂肪酸の摂取量が多い方が増えており、生活習慣病リスクが高まる恐れがあることが指摘されています。[※6]
オレイン酸もパーム油に多く含まれる成分ですが、こちらには酸化しにくく、抗酸化作用が期待できるほか、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の濃度を増やさない油とされています。[※7]
パーム油そのものは「隠れた油」ともいわれ、知らないうちに口にしていることが多いものです。そのため、近年は摂りすぎに注意が向きます。
しかし「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」が比較的バランスよく摂取できる便利な油です。同じパーム油でも先に紹介した「レッドパーム油」を選べば、より高い抗酸化作用が期待できるでしょう。
食品から摂取する油は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸をバランスよく摂取することが大切ですが、パーム油には不飽和脂肪酸のオレイン酸が含まれており[※2]、その点が優れている、誰にでも使いやすい、といえる理由です。
特に、コレステロール値が気になる方や抗酸化作用を期待したアンチエイジングを考えている方にはよりオレイン酸を多く含むレッドパーム油や種子からつくられるパーム核油が良いでしょう。
いずれも口当たりがよいのが特徴で、レッドパーム油は過熱により黄色がかった色に変化するため、ドレッシングとして利用して彩りを加えたり、パーム核油の口どけのよさや酸化のしづらさを活かして揚げ油として使ったりと幅広く使用できます。
厚生労働省はパーム油単体の摂取量の目安は提示していませんが、脂質の摂り方の目安は開示しています。
年齢や体重により差異はありますが、1日に必要なエネルギーのうち、脂質は20%から30%以内に収めることが基準とされています。[※8]備考として、体重や運動量が変化しない状態では、脂質摂取量が増加すると炭水化物は減少し、脂質摂取量が減少すると炭水化物は増加しています。そのため脂質の摂取量は目安量ではなく、目標量として設定されています。
また、同省の発表では飽和脂肪酸の摂取量は、男女共にエネルギー比率の7%以下にすべきとされます。[※8]
パーム油自体の健康効果について、研究例は多くありません。しかし、パーム油に含まれている飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸については、幾つかの研究内容があります。[※8]
低脂肪食となるとエネルギー源を確保するため、炭水化物の摂取量が増加しやすくなります。このような食事では食後の血糖値が上昇し、血中中性脂肪量が増大することが知られます。
また脂肪が少なくなればビタミンAやビタミンEといった脂溶性ビタミンの吸収が低下し、たんぱく質の摂取量も減りやすくなります。[※8]
そのため、適度な脂肪の摂取が望ましく、厚生労働省では、適切な脂肪摂取量は20%から30%と推奨しています。しかし、飽和脂肪酸の摂取が増えすぎると、動脈硬化や心筋梗塞のリスクが増大することが予想されており、全エネルギーのうち7%にとどめるべきと提示しており、多量の摂取は控えるべきです。
脂質摂取量と冠動脈疾患との関係性や、がんとの関連性は明らかになっていません。しかし、肥満との関連性は明らかになっています。摂取のし過ぎは上述のような疾患リスクを高めるだけでなく、肥満にもつながることが知られます。
ところが、BMI30以上の人に対する研究では、エネルギー制限を用いず高脂肪・低炭水化物食のほうが、エネルギー制限を行った低脂肪・高炭水化物より体重減少効果が高いことがわかっています。このことから高脂肪・低炭水化物の食生活は肥満の方に有効な習慣といえるでしょう。[※8]
飽和脂肪酸の摂取においては、摂取量の不足や過剰摂取によって、生活習慣病リスクが高まることが示されています。広島、長崎在住の男性1366人に対し4年間脳出血の状態を調べたところ、1日5g以下で増加することがわかりました。飽和脂肪酸の摂取量が多いと動脈硬化リスクが高まりますが、食物繊維の量を多くすることで心筋梗塞リスクは減少しやすく、年齢によっても影響が変わることがわかっています。[※8]
アブラヤシは15世紀ころから食用として使われてきました。原産は西アフリカや中南米で、面積当たりの油脂量が圧倒的なことで知られ、その量は4トン/1ヘクタールです。
他の植物油の原料となる大豆は、1ヘクタールあたり0.36トン、菜種は0.59トンであるため、比べるとパーム油は驚異的ともいえます。この生産効率に注目され、赤道に近い、マレーシアやインドネシアへの大規模なプランテーション開発が進み、大量生産が1960年代以降はじまり、人口の増加とともに需要も増え、2005年に世界で一番生産される植物油となっています。[※9]
こうした大規模な開発は、パーム油が多用途に利用できるからです。食用、化粧品用にとどまらず、生活用品である、洗剤、塗料、ろうそくといった製品にも活用されています。
パーム油のなかでもレッドパーム油に含まれるビタミンEの一種であるトコトリエノールが脳卒中による脳の損傷を軽減し、間接的に認知障害に効果があるのではないかという報告が行われています。
この報告のなかでは以下のようにレッドパーム油のトコトリエノール濃度が高く、臨床試験の結果も示されています。
アメリカのトコトリエノールメーカーとしては最大のエクセルバイト社のCEOWH LEONG氏は著書の中で以下のように報告しています。
「トコトリエノールの天然の供給源には、未精製のレッドパーム油、米 ぬか油、大麦、ライ麦などがあります。これらの供給源のなかでも、レッドパーム油―理想的にはマレーシアなどにある持続可能なパーム 農園で採れたもの―は最もトコトリエノール濃度が高く、 最大 800 ppm に達します。また、レッドパーム由来の油は、先程 挙げた 4 種類すべてのアイソフォームを高濃度で含む最も完璧なト コトリエノールのプロファイルを示しています。」[※12]
「アメリカ心臓協会(American Heart Association)の会誌 「STROKE」で発表されたヒトを対象とした最近の臨床試験では、 エヴァノール スープラバイオ TM というバイオ強化した天然のフルスペク トラム・パーム・トコトリエノール複合体 200 mg を 1 日 2 回、2 年 間にわたり服用した結果、ヒトの脳における WML 発症の進行が遅延したことが報告されました」[※12]
さらに、同レポートでは、他の研究結果として、ヨーロッパでの実験についても触れられています。
「600 人以上の高齢者が参加した計 4 件の発表済み研究は、フル スペクトラム・ビタミン E(トコフェロールおよびトコトリエノール)の血漿中濃度の高さが高齢者における認知機能の改善およびアルツハイマー病のリスク低減と関連しており、リスク低減率は総トコフェロールが 45%、総ビタミン E が 45%であったのに対し、総トコトリエノールは 54%であったことを明らかにしました」[※12]
専門家の見解によると、レッドパーム油には、トコトリエノール濃度が高く、認知機能をサポートする物質になりえるとされています。トコトリエノールはビタミンE類の半数を占めるビタミンです。パーム油に含まれるこの成分を上手く活用することによって、認知機能の低下抑制が期待されています。
パーム油はスナック菓子やインスタント食品の揚げ油として使われており、間接的に取り入れていることが多くなっています。しかし、精製過程で失われてしまう成分や、精製時の成分調整によって摂取できる栄養が変化します。
抗酸化成分をパーム油で摂取するなら、特殊製法により成分が損なわれていないレッドパーム油を活用しましょう。
飽和脂肪酸の摂取量が多くなりすぎると、生活習慣病リスクが高まるため、不飽和脂肪酸とのバランスに気を付けましょう。n-6系脂肪酸やn-3系脂肪酸は体内で合成ができないので、食事からとる必要があります。これらが不足すると皮膚炎がおこりやすくなるため、摂取を心がけましょう。[※8]n-6系脂肪酸は大豆油、コーン油に含まれています。n-3系脂肪酸は植物油や魚介類などが摂取源です。[※10]
いずれも油となることも多いため、同時は難しいかもしれませんが、どちらかに偏った使用は避けたほうがよいでしょう。
パーム油自体に副作用はありませんが、飽和脂肪酸の過剰摂取によるリスクが指摘されます。飽和脂肪酸も人体に必要な栄養素ではありますが、近年肉類の飽和脂肪酸摂取量が増加しており、過剰摂取となる危険性があります。飽和脂肪酸の摂り過ぎは、冠動脈性心疾患リスクや、肥満などの原因となることが予想されるものなので注意が必要です。[※10]