大麦は世界でもっとも古くから栽培されていた作物と言われている植物です。
イネ科の植物で、胚乳や胚芽の部分に食物繊維やビタミン・ミネラルを多く含んでいます。同じイネ科の小麦との違いは、グルテン(たんぱく質の一種)がほとんど含まれていない点です。
そんな、大麦の効果効能についてまとめました。
大麦は中央アジア原産のイネ科植物です。高さ1mほどに成長します。穂の形状により、大きく分けて二条大麦と六条大麦に分けられます。
世界の国々では、主食(粥状にしたもの)や醸造酒・蒸留酒の材料として大麦が使われてきました。
日本では、麦ごはんやお味噌・醤油・麦焼酎の材料、畜産物の飼料として使われています。精麦の仕方で、押し麦・白麦・米粒麦などに分けられます。米のように炊いて食べるのが一般的ですが、デザートにアレンジして食べる人もいます。
実以外にも、若葉の粉末が健康食品に利用されたり、発芽した実が生薬として使われたりしています。このように幅広い用途があるため「大」の字があてられ「大麦」と呼ばれているという説が有力です。
大麦は、水溶性食物繊維を豊富に含んでいるのですが、大麦に含有されている食物繊維のほとんどは、βグルカンという多糖類です。このβグルカンにはさまざまな効果があると考えられています。
そのほか大麦には、ビタミンB群やカリウムやカルシウム・リンなどのミネラル類が含まれています。[※1]
■生活習慣病の予防や改善
大麦にはコレステロール値を下げる効果があります。そのため、動脈硬化や心筋梗塞・脳梗塞・メタボリック症候群といった生活習慣病の予防や改善が可能です。[※2]
■糖尿病予防
大麦の血糖値改善効果により、糖尿病の予防や症状の改善ができるとされています。[※3]
■便秘解消
大麦に含まれる食物繊維の働きにより、便通が改善するとともに、腸内環境が整います。[※4]
■疲労回復
ビタミンB群やミネラルの働きにより、疲労回復をサポートしてくれます。[※5]
■ダイエット効果
大麦には食物繊維が豊富な玄米の3倍もの食物繊維が含まれるため、大麦を食べると空腹感が抑えられ、満腹感が得られます。結果的に食事量を減らすことができて、ダイエット効果が得られます。[※6]
■健胃
生薬としての大麦(麦芽)には消化不良や食欲不振、腹部の膨満感・嘔吐・下痢などに効果があるとされています。[※7]
大麦に含まれる食物繊維のβグルカンにはさまざまな作用があります。
その1つがコレステロール値の改善です。
日本人を対象に行われた介入(臨床)試験において、対象者に大麦を摂取させたところ、LDLコレステロール値が有意に低下しました。[※8]
コレステロール値が低下した理由には、以下の2つの作用があると考えられています。
1つ目はβグルカンが胆汁酸を吸着し、一緒に排出する作用です。通常、胆汁酸は再利用されるのですが、βグルカンが吸着している場合はそのまま体外へ排出されます。胆汁酸はコレステロールから生成されているため、胆汁酸が減ることでコレステロールの減少につながります。[※9]
2つ目は、大腸内で短鎖脂肪酸を生成する働きです。βグルカンが腸内で発酵することで生成されるプロピオン酸や酪酸には、コレステロール合成を阻害する働きがあります。[※10]そのため、血中のコレステロール値を低下させることができます。[※9]
大麦由来のβグルカンは、血糖値を抑える働きも持っています。βグルカンは食事で摂った糖をジェル状に包み込み、消化吸収されにくくする働きがあります。糖が吸収されにくくなることで、血中のインスリン濃度の上昇が抑えられると考えられています。[※11]
大麦は、以下のような人におすすめの食品です。
大麦には摂取量の目安や上限などは定められていないようです。
サッポロビール株式会社の荒木茂樹氏らは高コレステロール血症の日本人男性を対象に、高βグルカン大麦と米の置き換え実験を行いました。
内臓脂肪面積・LDLコレステロール・総コレステロールを計測したところ、すべてにおいて値が減少したことが報告されています。このことから、大麦にはコレステロールを減らし、脂肪面積も減少させる効果が期待できます。[※12]
帝京大学の山崎正利客員教授らが行ったマウスの実験では、大麦由来のβグルカンが体内に入ると、免疫細胞(好中球)の量が増加したという結果が報告されています。さらに、伝達物質中のサイトカインが増えマクロファージが活性化するなど、免疫亢進作用も認められました。[※13]
大塚女子大学家政学部の青江誠一郎教授らが22名の女性を対象に行った研究もあります。研究では、大麦を50%配合したご飯を朝食に食べた場合、昼食の摂取カロリー量が減ったという結果が出ています。
夕食時までその効果が持続したわけではありませんが、大麦が食欲を抑え、摂取カロリーを減らしてくれることがわかりました。[※14]
キリンホールディングス株式会社が行った発芽した大麦食品を潰瘍性大腸炎の患者に与えた実験では、潰瘍性大腸炎の症状が軽くなったという結果が出ています。[※15]この結果を受けて、潰瘍性大腸炎患者向けの個別評価型病者用食品(特別用途食品)として発芽大麦を販売しています。
イギリスの王立がん研究基金やオックスフォード大学らの黄疸研究によると、食物繊維を摂取している人は摂取していない人に比べて、排便回数が多いことが示されています。[※4]特に菜食主義であるビーガンの人たちは、排便回数が多い傾向です。
このことから、食物繊維が豊富な大麦を摂取することは、排便回数を増やすことに繋がるとしています。
世界最古の穀物といわれる大麦。1万年以上も前から、中央アジア周辺で栽培されていました。当時は大麦を粉にして水に溶かし、粥状にして食していたそうです。
古代エジプトでは主食のパンの材料として使われていたことが、ヒエログリフにも描かれています。古代エジプトでは、すでにビールも作られていました。
ヨーロッパではゲルマン人たちが、ビールを醸造して飲んでいたという記録があります。
世界に広がった大麦は、やがて主食の座から転落します。グルテンを含まないためパンや麺に不向きとされたからです。その後、酒の原料や飼料として使われるようになっていきます。
日本には弥生時代に伝来。奈良時代には全国で麦が栽培されるようになりました。鎌倉時代には二毛作が主流になり、さらに栽培地域が拡大。製粉する必要がなく、米のかさましにも使える大麦は、当時の日本人たちに大変重宝されたそうです。
しかし、明治時代に入ると大麦のイメージは悪いものになってしまいます。田舎の人が食べる貧しいものだというレッテルが貼られ、人々は白米を主食にすることへ強い憧れを持つようになったのです。
白米を主食とする人々の間で脚気が流行ったときも、当時の日本海軍が白米に代わって麦飯を取り入れたことで脚気患者を減らしたという話が知られています。
現代の大麦は、昔ながらの食材としてだけでなく健康食品として注目を集めています。
大麦の食物繊維とメタボリック症候群の研究を行っている大妻女子大学の青江誠一郎教授は、大麦の持つ効果について以下のようにインタビューに答えています。
「糖尿病や脂質異常症など生活習慣病の予防に役立つことがわかっています。17の研究を統合解析した結果、穀物からの摂取量を多くしたほうが糖尿病のリスクが低く、野菜からの摂取量とは関連が見られなかったという報告もあります」
[日経TRENDYネット 「現在もっとも注目される食材“大麦”その知られざるパワーとは?~大妻女子大学 青江誠一郎教授」より引用][※16]
また、1日どのくらいの大麦を摂取するのがいいのかについては、
「日本人は水溶性食物繊維を野菜や果物から1日3グラムくらいしかとっていませんが、できれば6グラムはとってほしいですね。大麦を50グラム食べれば3グラムプラスできる計算になります」[日経TRENDYネット 「現在もっとも注目される食材“大麦”その知られざるパワーとは?~大妻女子大学 青江誠一郎教授」より引用][※16]
と、答えています。米は、炊くと約2.3倍の大きさになります。大麦は水をよく吸収するので、2.5~3倍ほどになると考えていいでしょう。50gの大麦を炊くと125g~150gほどになる計算です。これはご飯茶碗1杯分ぐらいの量なので、1日1膳で不足しがちな食物繊維が補えると考えて良いでしょう。
大麦の小麦との大きな違いとして、グルテンをほとんど含まない点があげられます(グルテンに似たアミノ酸のホルディンは含有しています)。グルテンの量を抑えてダイエットをする場合、下記のように大麦を利用すると良いでしょう。
■パン
普段、小麦を使ったパンを食べている人は、大麦パンに替えるだけで、グルテンの量を抑えられるため、カロリー減につながります。
■麦ごはん
いつものご飯に大麦を加えます。大麦は吸水性が高いので、水の量は多めにしましょう。加える水は、麦の量に対して約2倍~2.2倍です。
■ハンバーグ
パン粉の代わりに大麦粉を使う方法もあります。ひき肉の量を減らして大麦を使うことでカロリーを減らせます。
■ケーキやクッキー
小麦粉の量を減らして大麦粉を加えます。粘りが出にくいため、卵黄を一定量増やして作ります。
相乗効果が期待できる食材には、以下のようなものがあります。
■小麦・小麦ブラン
大麦を配合しているグラノーラ製品には、小麦ブランも一緒に入っているものが多くあります。大麦の食物繊維とカルシウムや小麦に含まれるフラクトオリゴ糖、イヌリンが作用しあい、腸内環境が整いやすくなります。
また、両方を摂ることで、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよく取り入れることが可能です。[※17]
■ヨーグルト
ヨーグルトに含まれるカルシウムが内臓脂肪が溜まるのを抑えてくれます。また、乳酸菌が体脂肪を減らしてくれるため、大麦と相性の良い食品といえるでしょう。[※18]
大麦は食品のため、副作用はありません。また、過剰摂取による問題も報告されていません。
しかし、小麦アレルギーの人は注意が必要です。大麦を食べた場合、約20%の確率で小麦アレルギーの症状が現れる危険性があります。大麦に含まれている小麦に似た成分に抗体が反応してしまうためです。[※19]
マウス実験において、βグルカンのほか免疫活性剤と非ステロイド性抗炎症薬の併用によって、有害作用が確認されています。[※20]ヒトでの実験ではありませんが、非ステロイド性の抗炎症薬を使用している人は、βグルカン摂取前に医師に相談するようにしましょう。
グルテンフリーという考えは、元をたどると食事療法から生まれました。欧米ではグルテンを摂取すると免疫系が過剰反応してしまう「セリアック病」という病気があります。アメリカでは現在300万人もの人がセリアック病だと推定されています。
グルテンフリーはもともと、このセリアック病の患者が行う食事療法だったのです。
2010年ごろ、健康維持やダイエットに有効として海外セレブたちがグルテンフリーダイエットをしていると公言。すると、一般の健康な人々にもグルテンフリーの食事が広まりました。
グルテン=健康に害を及ぼすもの、というイメージがありますが、アメリカで1986年から2004年の26年間、4年ごとにグルテンの摂取量と冠動脈疾患の関係を調べた研究があります。
グルテンが悪さをしているのなら、1日当たりのグルテン摂取量が多いほど、冠動脈疾患を発症する割合も高まるはずです。しかし、摂取量が多い人と少ない人で冠動脈疾患を発症する割合の差は見られないという結果が出ています。
それだけでなく、全粒小麦を摂取していた人は、冠動脈疾患のリスクが15%低下していたことがわかりました。
こうした結果を受けて、研究者らは「グルテンフリーを意識しすぎて体に良い全粒小麦を避けると、疾病リスクが上がってしまう。セリアック病でない人が冠動脈疾患の予防のためにグルテンフリーダイエットをするのは本末転倒になりかねない」と苦言を呈しています。[※21]