オメガ3にはDHA・EPA・α-リノレン酸があり、血流促進や生活習慣病の予防効果が期待される必須脂肪酸です。米国ではサプリメントとしての人気が高く、最近では日本でも “健康にいい油”として高い関心が寄せられています。認知症の予防効果も研究され、高齢者の健康維持に役立つ成分としても注目されます。
オメガ3とは、構造に炭素の結合を2つ以上持つ不飽和脂肪酸の1種です。健康のために大切な働きをしますが、ヒトの体内では合成できないため、食品から摂取しなくてはならない必須脂肪酸に分類されています。
そもそも「不飽和脂肪酸」や「オメガ」とはなんなのでしょうか。
不飽和脂肪酸は、炭素同士に二重結合を含む脂肪酸のことで、二重結合が1カ所の一価不飽和脂肪酸と、2カ所以上の多価不飽和脂肪酸があります。
オメガはギリシャ語で「アルファベットの最後の文字」という意味です。多価不飽和脂肪酸のなかでも、端から数えて3番目に炭素の二重結合があるものがオメガ3です。[※1]
ほかに、6番目に炭素の二重結合があるオメガ6、9番目に炭素の二重結合があるオメガ9などがあります。
オメガ3は3種類に分類できます。サバやイワシなどの青魚に含まれる「DHA(ドコサヘキサエン酸)」「EPA(エイコサペンタエン酸)」、亜麻仁油やエゴマ油に含まれる「α-リノレン酸」、これらをまとめてオメガ3と呼びます。α-リノレン酸は体内に入ったあと、DHA やEPAに代謝されます。[※1][※2]
ちなみに、オメガ6はコーン油や大豆油などの油に多く含まれ、オメガ9はオリーブオイルなどに豊富に含まれます。健康維持のためには、これらの油をバランスよくとりいれることが大切です。
■血圧低下や血流の改善
α-リノレン酸には、いわゆる“血液サラサラ効果”が期待されています。血管を拡張させ、血流をスムーズにするため、栄養をからだの隅々まで運ぶことができ、代謝を促進や健康の維持につながります。
■生活習慣病の予防
EPAは、中性脂肪低下作用が期待される成分です。EPAはエパデールという医薬品として、高脂血症や閉塞性動脈硬化症の治療にも使用されています。[※3]
コレステロール値の低下や高血圧を下げる研究効果が報告されており、動脈硬化や脳梗塞などの生活習慣病の予防に効果的と考えられています。[※4]
また、心臓の機能を保護する作用も研究されていて、心筋梗塞や心不全といった心臓の病気の予防効果も期待されます。魚を週に1回以上食べる人は食べない人に比べて心臓病で亡くなるリスクが低いとの報告もあります。[※5]
■脳機能の活性化
DHAはオメガ3脂肪酸のなかでも、脳機能の活性化作用が期待されています。DHAは脳の記憶力を司る海馬に多く存在して、脳の働きを助けています。
DHAは母乳にも含まれていて、赤ちゃんの発育に欠かせない成分として、ベビーミルクにも配合されています。[※6]
■中高年の健康維持
オメガ3脂肪酸は、中高年の健康維持のためにも大切な成分です。
脳や血液中のDHAやEPAは加齢によって減少していきます。血漿中のDHAの濃度が高いほど、認知症を発症する危険が低いという調査報告もあります。[※7]
また、加齢による筋肉量や運動機能の低下を改善する効果についても、ワシントン大学が60歳以上の男女を対象に行った臨床試験の結果によって得られています。[※8]
オメガ3脂肪酸は、体内のリン脂質に含まれる成分です。リン脂質は細胞膜を構成しています。オメガ3脂肪酸は脳や血液・皮膚など全身に存在し、それぞれの細胞の働きをサポートしているのです。
オメガ3脂肪酸は、酸素や栄養を取り込みやすい形状をしているため、血管壁の細胞膜入ると、しなやかで健康な血管をつくり、血流をスムーズにしてくれると考えられます。[※9]
さまざまな効果が期待されるオメガ3脂肪酸ですが、オメガ3由来の脂質代謝物はとても多く存在していて、どの代謝物がどう作用しているかというメカニズムはいまだに解明されていない部分がたくさんあります。
しかし最近の研究では、心臓の機能の保護[※10]や皮膚アレルギーを抑制する作用[※11]について、関与するオメガ3脂肪酸の代謝物が特定されており、病気の治療や予防へ役立つことが期待されています。
健康のためには“オメガ6脂肪酸を少なめに、オメガ3脂肪酸を多めに”摂取することが大事だとよく指摘されます。[※12]
肉料理・揚げ物といったオメガ6脂肪酸に偏った食生活は生活習慣病を招く原因になります。
外食やインスタント食品が多く、食生活が乱れていると感じている人は、バランスをとるために普段からオメガ3脂肪酸を意識して摂取しましょう。
また、オメガ3脂肪酸は、中高年の健康維持に効果的な成分としても知られています。加齢による不調を感じる人も、オメガ3脂肪酸を摂ることで、健康寿命の延伸に役立てましょう。
オメガ3脂肪酸は欠乏すると皮膚炎を発症する恐れがあるため、日本人の食事摂取基準では1日の目安量が以下のように設定されています。[※13]
オメガ3脂肪酸の期待される効果と摂取量との関係を決定づけるデータは得られていないため、上限量や目標量としては設定されていません。[※13]
オメガ3脂肪酸のα-リノレン酸が高血圧を抑制する作用については、日清オイリオグループとお茶の水女子大学の共同研究で、ヒト試験の結果により効果が示されています。
正常高値血圧および軽症高血圧者111名を、高α-リノレン酸油14g(α-リノレン酸含有量は2.6g)を含むパンを食べるグループと、サラダ油を含むパンを食べるグループに分け、12週間摂取させました。
試験開始2週間前、試験期間中および試験終了4週間後の血圧を測定したところ、高α-リノレン酸を摂取したグループに、試験食摂取4週、8週および12週で収縮期血圧の低下が認められたということです。[※14]
オメガ3脂肪酸はうつ病の改善効果が期待されていて、いくつかのヒト試験においても可能性が示唆されています。[※7][※15]
しかし一方で、試験により知見が異なったり、改善の数値が軽微であることなどを理由に、現在のところうつ病への影響を確認できるじゅうぶんなエビデンスはないという意見もあります。[※16]
日本人のうつ病と診断される患者数は年々増加しており[※17]、日本社会が抱える大きな問題と言えます。今後の研究により、オメガ3脂肪酸のうつ病改善効果が明らかにされることが期待されます。
オメガ3脂肪酸は、イヌイット民族が脂肪分の多いアザラシやシロクマを食べて生活しているにも関わらず、心臓病や生活習慣病になる人が少ない理由について1960~70年代に研究が重ねられ、注目を浴びるようになった成分です。
サプリメント先進国であるアメリカでは、DHAやEPAなどのオメガ3脂肪酸を補うためのサプリメントが人気を集めています。2012年の国民健康調査では、魚油のサプリメントは、ビタミンミネラルを除いて、最も多く利用されているという報告があります。[※18]
日本でも数年前から油に対する意識に変化がみられ、「オメガ3」「からだにいい油」などのワードは、テレビや雑誌、インターネットなどでもよく目にするようになりました。
日本人の魚の摂取量は年々減っていて、とくに若い人ほどその傾向は顕著です。[※19]DHA・EPAは青魚に含まれる成分のため、魚を食べる量が減るとおのずと摂取量が減っていきます。そのため日本でも、DHAやEPAをサプリメントで摂取しようとする考えが広まり、オメガ3のサプリメントが多く販売されています。
池谷医院院長兼理事長で医学博士の池谷敏郎氏は、日本製粉のWEBサイトの対談中でオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の関係について、次のように語っています。
「実は、オメガ3(n-3系)脂肪酸とオメガ6(n-6系)脂肪酸は、体の中、細胞膜の上で椅子取りゲームをしています。我々の体を守っている白血球。この白血球の膜に脂肪酸の入り込む椅子が在るのですが、この椅子を巡ってオメガ3(n-3系)脂肪酸とオメガ6(n-6系)脂肪酸が取り合いをするのです。そしてオメガ3(n-3系)脂肪酸が勝つと、身体をガードし健康を維持してくれます。逆にオメガ6(n-6系)脂肪酸が勝つと炎症を起こし易くなり、老化、動脈硬化を引き起こすことにつながります」
(日本製粉 「対談 摂るべき油、摂らないでいい油-オメガ3(n-3系)脂肪酸について-」より引用)[※20]
そのため、健康ためにはオメガ6脂肪酸を控えめにして、オメガ3脂肪酸を積極的に摂ることが必要であると述べています。
「青魚やアマニに含まれるオメガ3(n-3系)脂肪酸の摂るべき油をいつでも摂れるように心がけ、実践していただくことで、身体を若々しく保ち、健康で楽しい毎日を過ごしていただきたいと思います」(引用)[※20]
オメガ3脂肪酸のなかでも
などにとくに豊富に含まれています。[※21]
注意したいのは、オメガ3は酸化スピードが非常に速いことです。酸化した油は、細胞の老化や生活習慣病などを引き起こす原因になります。
熱や光、空気の影響で酸化しやすいため、植物油の場合は
ことを心掛けましょう。[※22]
青魚も煮たり焼いたりするより、生の刺身で食べたほうが効率的にオメガ3を摂取できます。
オメガ3脂肪酸の弱点は、酸化が進みやすいことです。そのため、抗酸化作用のある成分と一緒に摂取することで、効果が高まることが期待されます。
大豆イソフラボンに代表されるポリフェノールやゴマのセサミンなどは、抗酸化作用が高く、オメガ3とどうように血液をサラサラにする効果なども期待されています。
魚の刺身と納豆や味噌汁、野菜のゴマ和えなどといった定番の和食メニューでは、オメガ3の効果を高める成分とともに無理なく摂取することができます。
オメガ6脂肪酸の過剰摂取はアレルギーなどを引き起こす原因とされています。オメガ3脂肪酸を積極的に摂取する和食は、アトピー性皮膚炎の治療においても推奨されています。[※23]
オメガ3脂肪酸に副作用の報告はありません。ただし魚アレルギーのある人は、アレルギーを起こす恐れがあるため、オメガ3のサプリメントを選ぶさいに注意が必要です。
オメガ3は健康のために大切な成分ではありますが、多く摂れば摂るほど効果が高まるわけではありません。摂りすぎると脂肪となって蓄えられ、肥満の原因になります。
また一方では、オメガ3脂肪酸について、気になる報告もされています。
これまで、オメガ6脂肪酸であるアラキドン酸由来の酸化脂肪酸には、アレルギー反応を促す作用があるとされてきました。しかし2017年東京大学の研究チームは、アレルギー反応を引き起こす細胞に、EPAやDHAが酸化したエポキシ化オメガ3脂肪酸が関与していることを明らかにしました。[※24]
オメガ3系の脂肪酸はこれまで健康に役立つ脂肪酸として知られてきただけに、今回の発見は意外なものです。
だからといって、オメガ3系脂肪酸がただちに、悪い影響を与えるということではありません。上記の発見は酸化したオメガ3脂肪酸のひとつの側面であり、オメガ3脂肪酸には、かぶれなどの皮膚アレルギーを改善させるという報告もあります。[※11]
現時点での専門家の見解や研究結果からは、オメガ3脂肪酸の摂取は、健康維持のために有効であるという意見でほぼ一致していると考えられます。
過剰摂取には注意しつつ、食生活のなかに積極的にオメガ3系脂肪酸を摂ることが健康維持につながります。
オメガ3脂肪酸を含むサプリメントは、血液を固まりにくくする作用があり、抗凝固剤や非ステロイド系抗炎症剤などの薬により相互作用を起こす可能性があります。[※5]