核酸は体を作る細胞に存在している成分です。遺伝情報を持つDNAとたんぱく質を合成するRNAという2つの物質を合わせて核酸といいます。
核酸は、150年ほど前にスイスで発見されてから、主に遺伝の分野で研究が進められてきましたが、現在では健康的な身体を作るのに欠かせない成分としても知られるようになってきました。詳しく解説していきます。
核酸は親から子への遺伝情報が書かれたDNA(デオキシリボ核酸)と、体内でたんぱく質の合成をするRNA(リボ核酸)の2つからなる成分です。DNAが司令塔となり、RNAがたんぱく質を合成することで体を作るという、ヒトにとって重要な機能を担っています。
核酸を構成している最小単位はヌクレオチドと呼ばれる構成要素。ヌクレオチドが鎖状に連結し、DNAとRNAとなります。
核酸の合成方法は2つあります。体内にある成分を使って肝臓で合成されるデノボ合成と、骨髄や腸粘膜などで行われるサルベージ合成です。
デノボ合成はアミノ酸やビタミンなどから新たに核酸が作られ、サルベージ合成は食物などから取り入れた核酸を再合成して作られます。
経口摂取した核酸の70%は胃や腸から吸収され、残りは骨や肝臓、脾臓、皮膚などに取りこまれます。古くなった核酸は一部は尿酸となって体外へ排出され、一部は体内で再利用されます。
DNAとRNAの働きが正常であれば問題はありませんが、ヒトの細胞はストレスや疲労、紫外線などにより常に傷つけられています。
傷付き欠損したDNAは誤った遺伝情報をもとにして、新たな細胞の設計をRNAに伝えてしまう場合があります。設計ミスのある細胞は本来の働きができなかったり、体を傷つけたりしてしまうことになります。
DNAにはもともと、自己修復機能が備わっています。修復には核酸が使われ、損害を受けたDNAを一度切り離してくっつけたり、正常な部分からコピーを持ってきたりして修復します。
修復できないまま生まれた細胞はもともと体に備わっている細胞の自死機能(アポトーシス)により焼失し、本来であれば異常に増えることはありません。
しかし、核酸が不足すると修復が追いつかなくなり、がん[※1]や脳機能の低下[※2]などを発症するリスクが高まるとされています。
核酸の効果・効能を見ていきましょう。[※3]
■血流の改善
核酸には血管を拡張し、血流を改善する効果があります。この効果により、脳梗塞や心筋梗塞といった循環器系の疾患の予防・改善が期待できます。
■美肌効果
核酸には新陳代謝を活発にする作用があります。細胞の生まれ変わりに関わっているため、肌のターンオーバーを促進してくれます。シワやシミ、乾燥の改善に繋がることがわかっています。
■白髪・薄毛予防や改善
頭皮の毛母細胞を活性化させ、髪の健康を取り戻すサポートをしてくれます。核酸によって頭皮の血流が改善されれば、発毛のサイクルが正常化されて、薄毛の改善にも役立つとされています。
■抗酸化作用
核酸が尿素に分解されることで、抗酸化力を持つ成分へ変化。体内で発生した活性酸素を抑制してくれるため、老化や病気を防ぐ効果があります。活性酸素が抑制されると体が疲れにくくなるので、疲労回復のスピードも速まります。
■免疫力向上
核酸には免疫力を向上させる効果があります。免疫反応を活性化させることにより、細菌やウィルスなどの侵入者を排除してくれます。細胞を死に追いやる作用により、がん化した細胞を死滅させる効果も期待されています。
核酸に含まれるRNAは、たんぱく質を作り出す役割を担っています。RNAはDNAが持っている遺伝情報を自身に転写(コピー)させ、その情報をもとに20種類あるアミノ酸をさまざまな組み合わせで並べ、たんぱく質へと合成します。
ヒトの体は60%~70%が水分、約20%がたんぱく質や脂質となっています。たんぱく質は、血液や筋肉、骨、臓器などの主成分。水分を除くと、たんぱく質が体組織の大部分を占めている計算になります。
ドイツで行われた研究で、悪性腫瘍の手術を受けた人にアルギニン・RNA・オメガ3脂肪酸を含む栄養を摂取してもらったところ、免疫機能を持つTリンパ球やヘルパーT細胞、Bリンパ球などの数が、栄養を摂取していないグループに比べて高い値を出しました。[※3][※4] このことから、外科手術後の免疫不全を克服するのに核酸(RNA)が役立つことがわかります。
また、核酸のうち、RNAには脳の機能改善効果に関する研究も進められています。血中のRNAの値により、アルツハイマー病を診断できるとされていることから、[※5] RNAの量が脳の活動に影響を与えていることが推察されます。核酸を補うことにより注意力や記憶力が改善に繋がるとされています。
京都大学では、点灯型蛍光プローブを生きたマウスの脳に注入した実験により、脳の中でRNAの働きを可視化することに成功。RNAがどのように作用し、振る舞っているかを一部明らかにしました。
今後、さらに研究が進んでいけば、製薬研究のためのスクリーニングにも役立つと考えられています。[※6]
核酸は新陳代謝を高め免疫力をアップしてくれるので、肌の乾燥やシミが気になる人、髪や頭皮の状態が気になる人、体調を崩しやすい人に向いている成分です。
核酸は体内産生されるものなので、規則正しい生活とバランスの良い食事をしていれば、通常は不足することはありません。
しかし、ストレスが多い環境や不規則な生活、栄養バランスがとれていない食事などにより、肝機能が弱まったり代謝スピードが上がったりすると核酸の量が減ってしまいます。
核酸不足は思わぬ病気を呼び込むことにもつながりますので、食品やサプリメントで不足分を補うように心がけると良いと思います。
核酸には国が定めた摂取量目安や上限などは設けられていません。しかし、一般的には1,000mg~2,000mgといわれています。
サプリメントはあくまで不足している栄養素を補給する目的で使用すべきものですので、サプリばかりに頼らず、偏った栄養バランスを正す努力も必要です。
脳神経と核酸(RNA)についての研究報告をご紹介していきましょう。
脳と心臓以外の細胞は、日々新しく作られ入れ替わっていきます。核酸がたんぱく質を合成しているためです。しかし、脳と心臓は一度作られるとずっと同じ細胞が使われる、特異性がある臓器。
生まれ変わることのない部位であるにも関わらず、じつは脳の神経細胞内にRNAが多量に存在していることがわかりました。
岡山大学医学部の浜田日佐夫氏は、たんぱく質を作る必要のない脳にRNAが多量にあるのは、神経細胞に関係があるのではないかと考え、実験を行いました。動物を使った実験では、RNAを分解する酵素を脳に注入し、動物の挙動や脳神経の状態を確かめました。
分解酵素の濃度が0.1%・0.2%のものは差異が無く0.5%・1%のものは動きが無くなりエサも食べなかったそうです。脳を調べたところ、脳の活動の程度をはかれるニッスル小体が消失していたことがわかりました。
この結果から、RNAは脳の神経伝達に重要な役割を持っていると推察され、[※2] ヒトにおいては認知症やアルツハイマー病などの疾患にもRNAがかかわっているのではないかと考えられています。
核酸は1869年、スイスの生化学者ミーシェルによって発見されました。ミーシェルは傷を受けた患者の膿を集め、白血球に含まれる高分子物質の取り出したのです。
さらには、1929年に核酸にはDNAとRNAの2つがあることがわかり、1953年に構造が明らかとなりました。DNAは2重のらせん構造であると分かったのは、この年です。
2003年には、ヒトの遺伝情報であるヒトゲノムが解明され、話題となりました。
遺伝物質として注目を集めてきましたが、近年では遺伝伝達の機能だけでなく免疫機能や抗酸化作用なども発見され、美容健康の分野や医療分野においても核酸を使った薬の開発などが進められています。
核酸は細胞を作り出すのに必要な成分のため、さまざまな分野での利用が研究されています。
医療分野では核酸医薬品の開発が進められており、2017年の7月には筋委縮症治療薬として認可された薬もあります。
国立医薬品食品衛生研究所の井上博士は
「そのような核酸医薬シーズを化学-生物-DDS-臨床の分野が連携することで効率よく発掘し、産官学の連携で強力に研究開発を推し進めれば、日本発の核酸医薬品を創出する基盤が構築できると考える。」[(株)技術情報協会2017年4月発刊「先端治療技術の実用化と開発戦略(核酸医薬、免疫療法、遺伝子治療、細胞医薬品)」抜刷より引用][※7]
と、紙面上でコメントしています。誰の体にも存在している核酸を使った新薬が、近い将来もっと身近な存在になるかもしれません。
核酸を多く含む食べ物には、以下のようなものがあります。100gあたりの含有量を見てみましょう。
核酸の1日の摂取量目安は一般的に1,000mg~2,000mgといわれています。核酸は生物ならほとんどが持っている成分なので、バランスよく食事をすれば必要量は摂取できます。
核酸の主な代謝機能はたんぱく質の合成です。たんぱく質の合成にはアミノ酸や補酵素となるビタミン群が必要です。したがってサプリにはビタミンCやビタミンB群が一緒に配合されています。
材料がなければ体内のたんぱく質も作れませんので、体内で生成できない必須アミノ酸をメインに、バランスよく栄養を摂取するのが望ましいとされています。
核酸は人間の体内でも作られる重要な役割がある成分のため、副作用はないといわれています。ただし、サプリメントなどの摂取による副作用の有無についてはまだ研究が進んでいない分野でもあるため、妊娠中・授乳中の方は摂取を控えるのが良いでしょう。
稀に、核酸不足の方が急に成分を補給した場合「好転反応」が起こるケースがあるようです。お腹の張りや下痢、眠気、発疹などが現れた場合は、摂取量を減らしてようすを見るようにしましょう。