ヨーロッパでは前立腺肥大の治療薬として使用されているノコギリヤシ。中国でも漢方薬として泌尿器疾患の治療に用いられてきました。日本でも前立腺肥大の予防や発毛・育毛など、男性の悩みに効果があるのではないかと注目を集めています。ここではノコギリヤシの摂取目安量や効果効能・研究成果などについて詳しく紹介します。
ノコギリヤシ(俗名:ソウルパルメット)は、北アメリカ東部に生育するヤシ科の植物で、45 cm~1mに広がる特徴的なノコギリ状の葉を持つ植物です。
秋の終わりから冬の始めにかけて、オリーブと同じくらいの大きさの赤黒い果実をつけ、この果実の部分が古くから男性の強壮、利尿、鎮静効果のある民間薬として使用されてきました。
日本ではあまりなじみがない植物ですが、他の国においては身近な健康食品のひとつとして知られています。
特に欧米での使用歴は古く、ネイティブアメリカンの間では長く滋養強壮の薬として利用されてきました。
またヨーロッパでは19世紀頃から医療ハーブとして利用され、中国でも泌尿器疾患の漢方治療薬として用いられています。このようなことから、意外にもノコギリヤシは食経験の長い植物であることがわかります。
ノコギリヤシには脂肪酸や植物性ステロール(植物の細胞膜構成成分)などの有効成分が豊富に含まれています。
そのなかでもとくにオレイン酸が多く含まれ、その薬理作用が注目されています。
オレイン酸はオリーブオイルやナッツ類などに含まれる一価不飽和脂肪酸で、酸化しにくい成分として知られています。
人の体内では活性酸素と結びつき動脈効果や高血圧、心疾患などを予防することが期待されている成分です。
またノコギリヤシ特有の有効成分として「βシトステロール」というものに注目が集まっています。
この成分単体での機能性についても研究されていますが、ノコギリヤシエキスを分離しないでそのまま摂取する方が効果的という報告もあります。
ノコギリヤシの効果やそのメカニズムについては、まだ解明されていない部分が多いというのが実情です。
[※1]
ノコギリヤシには次のような効果・効能が期待されています。[※1][※2]
■前立腺肥大症への効果
ノコギリヤシに関する複数の小規模試験において、前立腺肥大症の治療に有効である可能性が示唆されています。[※3]
■排尿障害ヘの効果
ノコギリヤシエキスには排尿障害に有効という情報が以前からよく知られています。国内でもキューサイ(株)と静岡県立大学の共同研究が行われています。 [※4]
■抜け毛予防の効果
ノコギリヤシには男性の脱毛を抑制する効果が期待されています。脱毛を促す成分「ジヒドロテストステロン」を抑制する働きがあるとされるからです。[※5]
ノコギリヤシの効果効能についてはまだ研究や根拠が不十分という意見も多く、いずれもこれからの研究が待たれるところです。
ノコギリヤシは主に男性の悩みに対する効果があると期待されている成分です。昔から伝承医学や民間療法で使用されてきた実績があります。
通称「インディアンの強壮剤」などといわれる背景があること、そしてドイツ・イタリア・フランスなどでも前立腺肥大の初期治療薬として許可されていることからも、ノコギリヤシの評価がわかります。
前立腺肥大症の原因も男性の抜け毛の原因も、加齢によって増えてしまう男性ホルモンのひとつである「ジヒドロテストステロン」が原因と考えらえられています。
ジヒドロテストステロンは、5α-リダクターゼと呼ばれる酵素の作用で、テストステロンが変化することにより発生します。
この5α-リダクターゼの活性を抑制する働きがノコギリヤシにあるため、その結果ジヒドロテストステロンの過剰産生が抑えられると考えられています。
これが前立腺肥大や抜け毛・脱毛の予防につながるメカニズムと考えられています。[※6]
ちなみに5α-リダクターゼの活性を抑制する医薬品が、脱毛の治療薬で知られる「プロペシア」です。
加齢とともにトイレの近さ・残尿感・尿のキレの悪さ、などの排尿トラブルを感じはじめた男性。加齢とともに抜け毛などが気になりはじめた男性におすすめの成分です。
しかし尿の問題、とくに前立腺のトラブルに関しては、医師の治療を受けることが優先です。
また脱毛についても医薬品での治療が可能となっているので、健康食品やサプリメントに頼りすぎないようにする必要があります。
ノコギリヤシの標準1日用量については定められていませんが、前立腺肥大に関する論文を精査すると、1日標準摂取量を106mgとしたものがほとんどです。
ただし国内で生産されているサプリメントには1日320mg摂取できるものもあることから、ノコギリヤシは多少多く摂っても安全という証左であると思います。
ただしヨーロッパではノコギリヤシは医薬品として扱われていますから、大量摂取による副作用が生じないとは限りません。
1か月程度継続して利用してみて、体調などに変化がないか、ご自身で観察するようにしましょう。
ノコギリヤシの効果効能については多数の研究論文がありますが、その効果について「有効」と断定されているものは現状ない状態です。
今後さらなる大規模試験や研究が待たれるところです。
■前立腺肥大に関する論文
ノコギリヤシが前立腺肥大症に有効とする根拠については、いくつもの小規模試験が行われていきました。
最新のものでは、2011年に高齢男性369人を対象とした試験で、ノコギリヤシ抽出物を最大で標準1日用量の3倍(320 mg)投与しても、プラセボと比較して症状が軽減されなかったと報告されています。
さらに、2009年のレビューでは、ノコギリヤシは前立腺肥大症に対してプラセボと同等の効果しかないという結論が出されています。[※2]
■消費者庁による評価
消費者庁はいくつかの機能性成分に関して、各国から論文を集め検証し、それをA〜Fの6段階で評価するという「食品の機能性評価モデル事業」に取り組んでいます。
このなかでノコギリヤシが取り上げられており、「軽度から中程度の良性前立腺肥大にともなう頻尿、排尿障害の改善」に関して、一貫性が弱いながらも公的的な論文もあるため総合評価を「B」と判定しています。[※7]
ノコギリヤシはアメリカ、特にフロリダに多く自生しています。最初にこの植物の効果に気づき利用していたのは、そこに住むインディアンのセミノール族たちだったといわれます。[※8]
彼らはノコギリヤシの果実を伝統食、スタミナ食として用いてきただけでなく、民間療法でも使用しており、それがヨーロッパからの移民によって、イギリスやフランスに持ち込まれ、化学的に研究されるようになったのです。[※9]
現在ではドイツ、イタリア、フランスなどでノコギリヤシのエキスが医薬品として用いられています。[※10]
AGAヘアクリニックで院長を務める水島豪太氏はノコギリヤシの育毛効果について、「医師が教える薄毛やAGAの治療・対策メディアAGAタイムス」で以下のように話しています。
「ノコギリヤシの成分は、あくまでAGAの原因となる酵素を抑制する効果が期待されているのであって薄毛全般に効果があるわけではありません。
また直接発毛を促すわけでもないので、ノコギリヤシ配合のサプリメントを服用したからといって劇的に髪が生えるかというと、それは少し期待しすぎかもしれません。
しかし、原因が抑制されることで発毛のサイクルが正常化し、徐々に抜け毛が減っていく可能性はあるでしょう。
結論としては、薄毛予防のためにノコギリヤシ配合サプリメントを服用するのはありですが、薄毛を改善して髪を生やすことをゴールとするのであれば、やはりAGA専門クリニックなどで診断を受けて医学的な処置を受けることがもっとも確度が高いといえます」(医師が教える薄毛やAGAの治療・対策メディアAGAタイムスより引用・抜粋)[※9]
ノコギリヤシは現在のところ健康食品やサプリメントからの摂取に頼るのが一般的と考えられていますが、実は「お茶」で飲むことも可能です。
乾燥したノコギリヤシの果実がお茶用に販売されているので、これを煮出して飲むことになります。実際に飲んでみると甘みがあっておいしいと評判です。
ハーブティーの部類になるので、ほかのハーブとブレンドするのも良いでしょう。
また最近はノコギリヤシオイルという油も流通しているので、これを使った加工食品が近く登場するかもしれません。
男性ホルモンを原因とする問題(主に抜け毛)を緩和させる目的でノコギリヤシを摂取するのであれば、亜鉛・大豆イソフラボン・ビタミンEと相性がよいとされています。
また泌尿器系の問題であればリコピン、かぼちゃ種子エキスと一緒に摂取することで、相乗効果が期待できるとされています。 [※6]
ほとんどの人に安全だとされています。ノコギリヤシの果実は、天然成分であるため、副作用が少ないという利点があります。
しかし、過剰な摂取には注意が必要です。吐き気やめまい、便秘、下痢などを引き起こす可能性も指摘されています。
またノコギリヤシが肝障害と関係しているという報告や、膵臓障害と関係しているという報告もあります。
胎児や乳児のホルモンバランスに異常をきたす恐れもありますから、妊娠中および授乳中は使用を控える必要があります。
薄毛や前立腺肥大の治療をしている人はサプリメントの服用については医師に相談するようにしましょう。