にがりとは海水由来の食品添加物です。にがりは海水からとれる塩化マグネシウムを主成分としており、ミネラルを豊富に含んでいるのが特徴です。
一般的には豆腐を固めるための凝固剤として知られていますが、便秘や体臭を予防する目的でも利用されます。
あまり知られていないにがりの効果効能や作用のメカニズム、摂取方法や副作用について解説しています。
にがり(苦汁)は海水から塩をつくるときにできる液体で、海水から塩の主成分である塩化ナトリウムを抜いたものです。
塩化マグネシウムが主な成分ですが、ほかにも硫酸マグネシウムや塩化カリウムなど、ミネラルが豊富に含まれているのが特徴です。[※1][※2]
古くから豆腐を固めるための凝固剤として使用されているほか、料理の味付けや食材の熟成などにも用いられています。また、不足しがちなマグネシウムを補う目的で、水でにがりを薄めた「にがり水」として使う人もいるようです。「苦汁」という名の通り、なめると独特な苦みが感じられます。
■にがりの違い
にがりはつくりかたによって味や含まれるミネラルの量が異なります。現在、大部分のにがりは以下の方法でつくられています。[※3]
この中で、海水からつくられるものは「天然にがり」と呼ばれています。
■食品添加物としての区分
また、豆腐に使われるにがりは製法によって法律で区別されています。指定添加物として安全性が認められている「塩化マグネシウム(固形)」と、国から指定されていない「粗製塩化マグネシウム(液体)」があります。
「塩化マグネシウム」は公式安全性再確認試験を通った品質管理の厳しい添加物で、国際的にも安全性が認められている成分です。[※4]
にがりには以下の効果があるといわれています。[※5][※6][※7][※8][※9]
■便通を良くする
にがりに含まれるマグネシウムは下剤としても使われており、便通を良くする効果がわかっています。
■アレルギーの抑制
にがりにはアレルギーの原因となる物質の生成を抑える効果が期待されています。
■がんの予防
研究から、にがりにはがんに対する抗腫瘍効果があることがわかりました。
■体臭予防効果
にがりを摂取することで代謝効率が上がり、間接的に体臭を改善することができると考えられています。ただし、効果のほどは明らかになっていませんので過剰な期待は禁物です。
にがりは細胞の情報伝達に重要な役割を果たすミネラルを多く含んでいるため、摂取することでさまざまな効果を得られると考えられています。
近年では研究によって、アレルギーの原因物質を抑制したり抗がん効果をもたらしたりすることがわかってきました。
実験ではにがりを薄めた水をアレルギーもちのマウスに与えたところ、症状が悪化しなかったとの報告があります。
これはにがりに含まれるミネラルが、炎症を引き起こす物質とアレルギーの原因となるヒスタミンがつくられることを抑制するため、アレルギー症状が抑えられると考えられています。[※7]
ほかにも、にがりは古くからがんに効果があるといわれています。特に海水からつくった天然にがりは、がんを発症したマウスの実験でもがん細胞を減らす効果が明らかにされている[※8]ことから、がんの治療に役立つ成分であるとの見解もあります。
にがりには塩化マグネシウムが含まれていますが、マグネシウムは医療分野で下剤として利用されているので、にがりをとることで便通を良くする効果が見込めます。[※6]
ただし、大量に口にすると下痢を引き起こす可能性が高いため、過剰摂取に気を付けましょう。
アレルギーの抑制効果が期待できるため、アレルギー体質の人に適しています。
にがりはアレルギーの症状を抑えるだけでなく、アレルギーを引き起こす物質を分泌しにくくする[※7]ので、花粉症といった季節的なアレルギー反応にも効果があると考えられます。
がんの予防効果[※8]や便通を良くする効果[※6]なども明らかになっているため、健康維持を目的として摂るのも良いでしょう。
特にお通じが少ない人は、にがりを薄めた「にがり水」を試してみるのもおすすめです。
にがりの摂取目安量については詳しくわかっていませんが、にがりの主成分は塩化マグネシウムなので、マグネシウムの必要摂取量を目安にすると良いでしょう。
必要なマグネシウムの量は体重や年齢によって増減します。1日に必要な摂取量は以下の通りです。[※10][※11]
男性
女性
食事による障害は特に報告されていないため、上限摂取量は設定されていません。ただし、摂りすぎないよう通常の食品以外からの摂取量は、成人で350mg/日の制限があります。
にがりがもたらす効果に関してはいまだにメカニズムがわかっていないものもありますが、いくつかの効果に関しては科学的根拠として論文や研究報告が挙がっています。
医療法人光ヶ丘病院で行った試験では、寝たきりの高齢者の便秘を改善するため、にがり水を飲ませて観察を行いました。
実験では対象者15名を2グループに分け、それぞれ点滴やごはんに同量のにがりを混ぜたうえで、3か月の間にどのような変化が現れるかを調べました。
実験後、方法が違ってもにがり水を与えることで排便回数が増え、便秘を改善するための処置をする回数が少なくなったという結果が出ています。このことから、摂取方法にかかわらず、にがりに便通を良くする効果があると証明されました。[※5]
また、にがりの抗がん効果を示す実験として、愛媛大学医学部附属実験実習機器センターの高久武司(技術専門員)らの研究があります。
研究では、人工的にがんを発症させたマウスに天然にがりを2週間与え、その後さまざまな臓器の重量や血液成分を調べました。
血液成分を分析したところ、にがりを与えたマウスではがん化が抑制されていることが明らかになっています。加えて免疫機能障害や腎臓障害なども起こらなかったことから、有害な影響を与えずにがんを改善できる可能性が示唆されました。[※8]
日本では古くから豆腐がつくられており、それに伴ってにがりも生産されてきました。豆腐の製造技術は豊臣秀吉の時代に伝来し、にがりを製造するようになったと考えられています。
一昔前は海水を利用したにがりがほとんどでしたが、戦時中にマグネシウムをにがりから抽出し始めてからは、にがりの生産技術が工業化され、大量生産されるようになりました。[※4][※12]
その後も研究が進められ、より天然のにがりに近い製品をつくる技術が発達してきました。これにより、工業生産でも高品質なにがりをつくれるようになったと考えられます。
現在は食品添加物として使用されており、規格や品質管理も厳しいものになっているようです。にがりの種類によっては安全性の試験が数回行われ、高い安全性が確立されています。
にがりはミネラル豊富でさまざまな効果が期待されている物質ですが、使い方によっては健康に悪影響を与える可能性もあります。
にがりは塩化マグネシウムをはじめとする各種ミネラルを含んでいることから、ミネラルが不足しがちな人には役立つ食品です。ただしミネラルは体の生理機能に深くかかわっているため、摂り過ぎは体に負担をかけるリスクが高まります。
女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘氏は、にがりによって塩化マグネシウムを摂り過ぎることを危惧しています。
「マグネシウムは医薬品では下剤として使用されているもの。にがりやマグネシウムのサプリメントを多量に摂取すると、下痢を起こす可能性があります」
(日経グッデイ「あの“にがりダイエット”とは何だったのか?|知ってトクする栄養学」より引用)[※6]
塩化マグネシウムは市販の下剤にも入っている、マグネシウムをもとにした製剤の一種です。上西氏によると、腸内の水分を増やして便をやわらかくする作用があるものの、過剰摂取すると下痢の症状が出るとのこと。
下痢がひどくなると脱水症状を起こしやすくなるため、注意が必要です。
また、上西氏はこうも述べています。
「マグネシウムは尿や汗と一緒に体外に排泄されやすい栄養素です。通常の食品からとる範囲では取り過ぎの心配はありません。しかし、にがりやマグネシウムのサプリメント、マグネシウム製剤の便秘薬をとる場合、過剰摂取には注意が必要です。
とくに、腎臓に障害のある人の場合、血液中にマグネシウムが蓄積しやすくなり、高マグネシウム血症を引き起こすことがあります」
(日経グッデイ「あの“にがりダイエット”とは何だったのか?|知ってトクする栄養学」より引用)[※6]
腎臓障害を持つ人の場合、血液中のマグネシウム濃度が上がる高マグネシウム血症を引き起こすことも。高マグネシウム血症では低血圧や心肺停止の症状が出るため、放置すると命にかかわります。
腎臓の機能が低下している場合は、にがりの摂取を控えるようにしてください。
にがりを使った「寄せ豆腐」のレシピをご紹介します。にがりの量によって味や含まれる栄養分が変わるので、好みによって調整してみてください。豆乳とにがりがあればつくれるので、材料が手に入った際に試してみると良いでしょう。
【用意するもの(2人前)】
【つくり方】
にがりに含まれているマグネシウムは、カルシウムとお互いに作用することが知られています。
血管を収縮させるカルシウムと筋肉をゆるめるマグネシウムは、相乗的に作用し、血管をひろげたり縮めたりして血流をスムーズにしてくれます。そのため、血圧が安定するといわれています。
アレルギーの抑制や抗がん効果などの良い作用があるにがりですが、にがり自体は高濃度のミネラルを含む液体なので、摂取量を間違えると命の危険につながります。
健康な人がにがりを過剰摂取した場合、塩化マグネシウムの効果で腸内の水分が排泄物に集まり、下痢を起こします。[※2]そのまま過剰摂取を続けると水分がとられ、脱水症状を起こす危険性があるので注意してください。
また、腎臓障害を患っている人はマグネシウムが排出されにくくなっているため、血液中のマグネシウムが増えてしまいます。[※2][※3][※6]
悪化すると低血圧、心肺停止など高マグネシウム血症の症状が現れるおそれがあります。命にかかわる重大な症状を引き起こしかねないので、摂取しないでください。
にがりは塩をつくる過程でできる副産物ですが、調味料として使われることもあります。料理ににがりを加えるとコクやまろやかさをプラスでき、ミネラルも摂ることが可能。
塩をつくるときににがりの含有量を変えると、塩の味が変わります。あまり不純物を取り除かず、にがりを含んだままにすることで塩味を感じにくくなるため、甘みやコクが強くなるといわれています。[※13][※14]
そのため、淡白な食材や直接塩を付けて食べる料理では精製塩を使ったときと味が違うようです。ただし、にがりが多い塩はクセのある味になるため、シンプルな味わいが好きな場合はおすすめしません。
また、豆腐の成分にもにがりは大きくかかわっています。昔ながらの手作り豆腐と工業的に生産された豆腐の成分を比べた場合、にがりの含有量が多い手作り豆腐のほうが、ミネラルが多く含まれるという結果が得られています。[※15]