ヒマラヤ地方やインドが原産のダイダイの花から抽出される精油・ネロリ。フローラルな香りと柑橘系のさわやかな香りを合わせもっているのが特徴で、リラックス効果や不眠解消効果、鎮静作用などが期待できます。ここでは、ネロリの効果・効能や作用のメカニズム、相乗効果、副作用などについて解説していきます。
ネロリは、ダイダイ(別名:ビターオレンジ)の花から抽出される精油で、甘い香りのなかに柑橘系のさわやかさをもっているのが特徴です。[※1]
ネロリの原料となるダイダイの主な産地はヒマラヤ地方やインドですが、精油としてのネロリはフランスやイタリア、ポルトガル、モロッコでつくられています。[※2]ダイダイの花1tあたりからとれるネロリ(精油)は、900~1,100gと非常に少量です。そのため希少価値が高く、高価です。[※3]
また、精油を蒸留するときに、副産物としてオレンジフラワーウォーターが得られます。オレンジフラワーウォーターは、フランスで鎮静剤として使用されてきた歴史があり、現在ではオーデコロンや化粧品の原料として利用されています。
そのほかにも、お酒や菓子パンの香りづけにもオレンジフラワーウォーターが用いられています。[※4]
そんなネロリには、主に以下のような成分が含まれています。[※1][※5]
天然由来の芳香成分(リナロールや酢酸リナリル、α-テルピオネールなど)の相乗効果によって、深いリラックス効果が得られるといわれています。
ネロリには、以下のような効果・効能があるといわれています。[※2][※6]
■抗菌効果
ネロリに含まれる芳香成分には、抗菌効果があるといわれています。
■リラックス効果
ネロリの香りには心を落ち着かせる効果があり、精神的ショックを受けた際や緊張・興奮状態のときに気分を鎮めてくれます。
■不眠解消効果
含有する酢酸リナリルと呼ばれる成分のはたらきによって、不眠を解消してくれます。
■体の不調を緩和する
鎮静作用によって、頭痛や胃痛、めまい、神経痛などの症状を和らげます。
■肌の状態を改善する
肌の弾力を改善する効果のほか、くすみやしみなどの予防、妊娠線などの予防効果があります。
ネロリに含まれているネロリドールと呼ばれる成分は、更年期障害やPMS(月経前症候群)といった心身の不調を整える作用があります。[※5]
また、芳香成分であるα-ピネンには精神を安定させる作用があり、精神的なショックを受けたときや過度な興奮状態のときに心を落ち着かせる効果があります。
ほかにも、ネロリには交感神経を鎮静させる作用をもつ酢酸リナリルという成分が含まれており、不眠を解消する効果が期待されています。とくに、抑うつ症によって生じた睡眠障害に効果があるといわれています。
この鎮静作用は不眠解消だけでなく、頭痛やめまい、神経痛の改善にも役立つとされているほか、胃腸の不調も緩和してくれます。[※2]
肌への刺激が少ないネロリは、敏感肌や乾燥肌のスキンケアに適しています。皮膚細胞の成長促進作用をもっているため、肌の弾力を改善してくれます。[※6]
また、傷跡や毛細血管などを修復するはたらきもあることから、妊娠線の予防・ケアにも役立つといわれています。
リラックス効果や不眠を解消する効果、肌の調子を整える効果をもつネロリは、以下のような人におすすめです。
ネロリの使用量・使用濃度はとくに定められていません。精油のなかには、皮膚に精油を塗った状態で外出した際に強い紫外線を浴びることで皮膚刺激が生じる場合があります。
しかし、ネロリは肌への刺激が少ないため、日中でも安心して使用できます。
2012年には、韓国にある乙支大学校のKim IHらによって、ネロリを含むエッセンシャルオイルを使った血圧抑制効果に関する実験が行われました。
対象となったのは、高血圧の被験者83名です。実験では、ネロリを含むエッセンシャルオイルを吸引するグループと合成芳香剤を吸引するグループを用意し、吸引後の血圧を比較しました。
その結果、エッセンシャルオイルを吸入したグループの血圧とストレスホルモン値の低下が確認されています。このことから、ネロリオイルを含むエッセンシャルオイルには、血圧低下やストレス低減の効果があるとされています。[※9]
また、韓国の大学で研究を行っているChoi SYらは、2014年にネロリオイルが女性の更年期症状に与える影響を調べる実験を行いました。
閉経後の健康な女性63名を2つのグループにわけ、片方のグループにはネロリオイルを、もう片方のグループにはアーモンドオイルを吸引してもらう実験です。
1日2回の吸引を5日間継続したところ、ネロリオイルを吸入したグループは女性ホルモン量の増加し、更年期障害の症状の改善、性的欲求の増大、血圧やストレスレベルの低下などの効果が確認されました。
実験結果から、ネロリオイルは閉経後の女性のホルモン分泌を改善し、ストレスを軽減する効果があるのではないかと考えられています。[※7]
さらに2016年には、ネロリに多く含まれている芳香成分「リナロール」による鎮静効果が明らかになっています。
研究を行ったのは、鹿児島大学大学院の田代章悟助教授らです。6種類の匂い分子を使って、マウスに対する鎮痛効果を比較する実験を行いました。
実験でもっとも疼痛閾値(痛みを感じる最少刺激の数値)が向上したのはリナロールだったと報告されています。また、この実験では、リナロールに痛みを処理する特殊な神経細胞を活性化する作用があることが解明されました。[※8]
ネロリという名前の由来は、17世紀イタリアのネロラ公国公妃だったアンナ・マリアが関わっているといわれています。
当時貴族の間で革手袋が流行していましたが、革製品の悪臭を消すため精油が利用されていました。公妃アンナ・マリアはネロリ(精油)を手袋に浸みこませて使っていたとされています。
香りが浸みこんだ手袋は、アンナ・マリアがネロラ公国公妃だったことにちなんで「ネロリの手袋」と呼ばれ、精油もネロリという名前になったといわれています。公妃アンナ・マリアは手袋だけでなく、髪や体を洗う際にもネロリ(精油)を使用していたようです。
ヴィクトリア朝時代には芳香品の成分として利用されていたネロリ。きつく締めあげるコルセットによって気分が悪くなった女性たちの気付け薬として利用されていたといわれています。
そんなネロリは故ダイアナ妃にも愛用されており、毎朝の洗顔時に使用していたそうです。
また、ヨーロッパでは、ネロリがとれるダイダイの白い花が「純潔」の象徴とされていて、花嫁のブーケや髪飾りとして伝統的に使用されてきました。[※2]
精油やオーガニックコスメを販売するイギリスのニールズヤードレメディーズ社の情報を元に書かれた『エッセンシャルオイルブック』。著者のスーザン・カーティスは、ネロリがもつ心への効果について以下のように記しています。
「ネロリは主に神経系に作用する、抗うつ効果の高いオイルです。極度の疲労感、抑うつ、不安、混乱している人を眠りに誘い、リラックスさせ、気分爽快にして気持ちを引き立てるのに役立ちます。ショックやヒステリーの応急手当てにも有効です」(スーザン・カーティス 『エッセンシャルオイルブック』より引用)[※10]
ネロリはダイダイという柑橘類の花からとれるため、柑橘系のさわやかな香りと花特有の甘くやさしい香りを合わせもっています。その香りには、欝々とした気持ちを明るくしてくれるほか、急な感情の変化を落ち着かせる効果もあると、スーザン・カーティスはコメントしていました。
ちなみに、柑橘系の果実からとれる精油には光毒性があるものが存在しますが、ネロリは果実ではなく花から抽出される精油なので光毒性はありません。スーザン・カーティスは、ネロリの毒性や肌への効果について、以下のように記しています。
「ネロリは、肌にもさまざまな効果があります。毒性がとても低く、肌の回復作用をもつので、乾燥、老化した肌、毛細血管が切れてしまった肌やシワのトリートメントに有効です。妊娠中に塗ると、妊娠線ができるのを防ぎます」
(スーザン・カーティス 『エッセンシャルオイルブック』より引用)[※10]
肌にやさしいネロリは、キャリアオイルとして肌に利用することも可能です。
ネロリは入浴や芳香浴、スキンケア、トリートメントなど、さまざまなシーンで使われています。ネロリの代表的な使用方法をご紹介します。
■洗濯物の香りづけ
心をリラックスさせるはたらきがあるネロリ。洗濯のすすぎに利用することで、洗い上がりの衣類についた香りが心をおだやかにしてくれるでしょう。衣類にネロリの香りをつける場合は、小さじ1のエタノールに対して2~3滴のネロリを混ぜたものを洗濯のすすぎの際に入れます。
■アロマトリートメント
【使用する材料】
【使い方】
ホホバオイルにネロリ精油とゼラニウム精油を加えて混ぜたものを手のひらに取り、温めるようにしながら両手になじませます。温まったら首筋~肩にかけてオイルを塗り、5~10分ほど揉みほぐすことで、気持ちも一緒にほぐれることでしょう。[※1]
■眠る前の芳香浴
ネロリは香りが2~3時間続く特性をもっているため、就寝前にアロマを炊いて芳香浴をすれば、やさしい香りに包まれながら眠りに入ることができます。[※6]
ネロリの香りの系統はフローラル系で、同じフローラル系統の香りをもつ精油と相性が良いとされています。とくに相性が良いとされているのは、ラベンダーやジャスミン、ローズなど。ブレンドしたアロマオイルを利用することで、より心をリラックスさせることができます。
また、気持ちを明るくしたい人には柑橘系とのブレンドがおすすめです。ほかにも、オリエンタルな香りが特徴のイランラインやサンダルウッドとの相性も良いといわれています。[※1]
ネロリは安全性が高い精油で、禁忌事項はとくにありません。ただし、ほかの精油よりも比較的香りが強いため、使用する際は少量ずつ使いましょう。[※1]
また心を鎮めるネロリを利用すると、眠気を引き起こしやすくなります。[※6]そのため、集中力が必要な場面(例・車の運転)での使用は避けるようにしましょう。[※2]