マルチビタミンは、2種類以上のビタミンが配合されたサプリメントのこと。単独でビタミンを摂取するよりも効果を期待できます。ここでは、マルチビタミンの効果・効能や作用のメカニズムについて解説。摂取目安量や副作用、効率良く摂取する方法などもまとめました。
マルチビタミンとは複数のビタミンという意味で、主に2種類以上のビタミンを配合したサプリメントのことを指します。市販されているマルチビタミン剤は、メーカーによって配合しているビタミンの種類や量が異なるのが特徴。
ビタミンは単独で摂取するよりも組み合わせて摂取するほうが効果を期待できるため、複数のビタミンを配合したサプリメントを販売されています。
マルチビタミンに配合されるビタミンは、12種類(A、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸)が一般的です。
ビタミンKは、摂り過ぎると薬との相互作用があらわれる可能性があるため、サプリメントにはあまり配合されません。[※1]
また、ビタミンはミネラルと一緒に摂ることで効果が高まると考えられており、ミネラルを配合したマルチビタミンサプリメントも数多く販売されています。
特に配合されることが多いミネラルは、現代人に不足しがちな鉄分や亜鉛など。ミネラル配合のマルチサプリメントは貧血や免疫低下の予防効果が期待できます。
マルチビタミンは各種ビタミンを配合しているため、以下のような効果が期待できます。[※1][※2][※3]
■シミや炎症の予防
マルチビタミンには抗酸化作用を持つビタミンが多く含まれていることから、過剰な活性酸素を減らし細胞のダメージを軽減してくれます。そのため、シミや炎症などの肌トラブルを予防できるのです。
■感染症のリスクを低減
マルチビタミン中のビタミンB群は、体内でエネルギーの生産や皮膚・粘膜を正常に保つはたらきを担っています。そのため、マルチビタミンの摂取で、感染症のリスクを下げられます。
■目の機能を向上させる
マルチビタミンに含まれるビタミンA(βカロテン)は光を感じる成分ロドプシンの原料となるため、目の機能が向上します。
■がんの発症リスクを下げる
健康調査の結果、マルチビタミン剤を毎日飲むことで、がんの発症リスクが低下することがわかっています。ただしがん予防効果はないとする研究もあり、効果の真偽についてはくわしくわかっていません。
マルチビタミン剤に含まれるβカロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンEは、増えすぎた活性酸素を減らす抗酸化作用を持っています。[※4]
過剰に増えた活性酸素は細胞にダメージを与え、炎症やメラニン色素の過剰生成など、肌トラブルの原因をつくります。そのため、抗酸化作用を持つビタミンを補うことで、シミやニキビを予防できるのです。
また、ビタミンB群は体内でエネルギーの生産や皮膚・粘膜の健康維持のサポートをすることから、健康な皮膚や粘膜を維持でき、感染症のリスクが低減します。[※2]
ビタミンAは光を感じる機能に必要なロドプシンをつくる原料としてはたらきます。その結果「夜に周りが見えなくなる」「光がまぶしく感じる」などの症状がなくなり、夜盲症の予防につながります。[※1]
ほかにも、マルチビタミンを摂ることでがんのリスクが低下したという研究結果が報告されています。[※3]しかしがんの発症を予防する効果はなかったとする研究も発表されており、実際に抗がん作用があるかどうかの真偽は明らかになっていません。
マルチビタミンは、以下のような人におすすめです。
マルチビタミンのサプリメントを販売する各メーカーは、基本的に厚生労働省が定める基準値に合わせて栄養成分を配合しています。そのため、マルチビタミンを摂取する際は、商品パッケージに記載されている摂取量を目安にしてください。
ほとんどのメーカーは、マルチビタミンサプリメントは1日1粒が摂取目安量となっているようです。
マルチビタミンの効果を示すエビデンスとして以下のような研究が報告されています。
開業医のRobert G. Smith氏は、約15,000人の高齢男性を対象に、臨床試験を行っています。対象者を2グループにわけ、片方のグループにはマルチビタミンサプリメント、もう一方のグループにはプラセボ(偽薬)を摂取してもらいました。
その後に対象者のがん発症率を調べたところ、マルチビタミンサプリメントを摂取していたグループはプラセボ摂取グループよりも発症率が低かったことがわかっています。
このことから、マルチビタミンを摂取することでがんの発症率を下げられる可能性が示唆されました。[※3]
ただし現在はがんに効果がないとの研究が発表されており、効果の真偽に関してはまだ研究段階です。
ビタミンを初めて発見したのは、日本人の農芸化学者・鈴木梅太郎だとされています。鈴木氏は、1910年に米ぬかからのちのビタミンとされる成分・オリザニンを抽出。オリザニンについての論文を発表しましたが、日本語での発表だったため、世界では認知されませんでした。
その翌年の1911年、生化学者であるカジミール・フンクが米ぬかに含まれる有効成分を抽出することに成功。1912年には、その成分に生命のアミンを意味する「vitamine」と命名しました。それがのちのビタミンB1となります。
エルマー・ヴァーナー・マッカラムは、1913年にネズミの成長に必要な成分が卵黄やバターの脂肪中にあることを発見。翌年には抽出に成功しました。
抽出した成分はフンクが見つけたビタミンとは異なっていたため、マッカラムが抽出した成分を「油溶性A」、フンクが抽出した成分を「水溶性B」と分けました。
1920年には、イギリスの生化学者であるジャック・セシル・ドラモンドが、柑橘系から壊血病(体の各器官で出血を引き起こす病気)の予防に効果がある成分を抽出。
その成分をビタミンCと名付けました。それに合わせて「油溶性A」や「水溶性B」も、各々ビタミンA、ビタミンBとなりました。
その後、新しく発見された成分の正式な化学構造がわかるまでの仮称としても、ビタミンという言葉が使われるようになりました(ビタミンDやビタミンE)。
このように、数多くの研究者によって発見されてきたビタミン群。現在では、まとめて摂取することで効果が高まることがわかり、マルチビタミンとして販売されています。
マルチビタミン剤は必要なビタミンを一度に摂れることから多くの人に利用されています。しかし、最近ではマルチビタミンに頼る現状に否定的な意見も出てきました。
ジョンズ・ホプキンス大学のエドガー・ミラー教授は、マルチビタミンの効果について以下のように述べています。
「実際に調べてみると、長期的な恩恵を裏付ける証拠は存在しない。脳卒中や心臓発作を予防する効果もない」
(CNN「マルチビタミン剤はお金の無駄? 米医学誌」より引用)[※5]
エドガー教授の見解では、ビタミンやサプリメントの効果はサプリメントを飲んで状態が改善された人の事例をもとにしているだけであり、実際には長期的に飲んでも効果があらわれるとは限らないとのこと。
エドガー教授らが行った研究では、マルチビタミンサプリメントを飲んでも心臓発作や認知症への効果は確認できなかったそうです。
それに対して、自然食品業界団体に所属するカラ・ウェルチ氏は、次のように反論しています。
「我々の多くは必ずしもバランスの取れた食生活を送っていない。バランスが取れていたとしても栄養が不足することもあり、マルチビタミンでそれに対応できる」
(CNN「マルチビタミン剤はお金の無駄? 米医学誌」より引用)[※6]
実験が行われたアメリカでは栄養バランスが良くない食事を摂る人が大半であり、そういった調査では、十分な結果が得られないと述べています。さらにマルチビタミンは栄養不足にも対応できるため、効果がないと決めつけるのは早いとの意見を示しています。
まだまだ研究段階にあるマルチビタミンは、多くの議論が交わされています。マルチビタミンの明確な効果は、今後の研究でわかってくるでしょう。
マルチビタミン剤に配合されているビタミンは、大きく分けて水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンがあります。
摂りたいビタミンのタイプに合わせて効率良く摂取できるタイミングで飲むと、より高い効果を得られるでしょう。
■水溶性ビタミン
ビタミンB群、ビタミンC、葉酸などは、摂取しても体に蓄えられる量が少なく、余分なビタミンは体外へ排出されます。そのため、こまめに摂取したほうが良いでしょう。
1日2~3回に分けて、食後に摂取するのが効果的だとされています。ちなみに、抗酸化作用を持つビタミンCは就寝中に吸収率が高くなるため、就寝前に飲むのがおすすめです。
■脂溶性ビタミン
ビタミンA、D、E、Kなどの脂溶性ビタミンは脂に溶けやすいため、脂分が多い食品と一緒に摂取すると吸収されやすくなります。摂取するタイミングは、食事中や食後がおすすめです。[※7]
マルチビタミンには抗酸化作用を持つビタミンが配合されているため、同じ抗酸化作用を持つポリフェノール類やカロテノイドを合わせて摂ると相乗効果が期待できます。
また、一部のミネラルにも抗酸化作用が確認されているので、ミネラルが配合されたマルチビタミン剤を摂取するのも良いでしょう。
ほかにも皮膚や粘膜の健康維持を助けるビタミンB群は、亜鉛と一緒に摂ることでより効果が高まると考えられています。
パッケージに記載されている摂取目安量の範囲内であれば、安全だとされています。
しかし、配合されているビタミンの種類によっては、大量に摂取すると副作用が起こる可能性があります。
ビタミンAの場合、過剰摂取すると吐き気や下痢、睡眠障害などを起こす可能性があります。[※8]また、脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・K)は、肝臓に蓄積される傾向があるため、大量に摂り過ぎると過敏症を引き起こすおそれがあります。[※9]
ほかのビタミンにおいても、体質によっては副作用が起こる可能性があります。摂り過ぎないように、パッケージに記載されている摂取目安量を守りましょう。
マルチビタミンサプリメントには、ビタミンKを含んでいるものと、そうでないものがあります。
ビタミンKを含むマルチビタミンサプリメントの場合、抗凝固薬として用いられるワーファリンとの相互作用が懸念されています。
ビタミンKには血液を凝固させるはたらきがあり、一緒に摂取すると、ワーファリンの作用を弱める可能性があるためです。ワーファリン服用中の人は、マルチビタミンを摂取する前に医師に相談しましょう。[※10]