もろみ酢は、沖縄のお酒(泡盛)の酒粕からつくられる清涼飲料水です。多くの人がもろみ酢を調味料の「酢」と勘違いしていますが、もろみ酢はアルコール1%未満で酢酸発酵させていないため、食酢ではありません。酢と違って酸味が弱く、マイルドな味わいが特徴。クエン酸やアミノ酸、ミネラルを豊富に含んでおり、疲労回復や脂肪燃焼を助けるはたらきをもっています。[※1]
ここでは、一般的に知られる「もろみ」と「もろみ酢」の違い、研究データにもとづいた効果効能や作用などをわかりやすく解説。摂取方法や専門家の見解、副作用などの情報もまとめています。
もろみ酢は沖縄の名産焼酎「泡盛」の酒粕からつくられます。農水省の食品区分を確認すると「第32類 酒類以外の飲料等類 (ア)から(コ)までに掲げるもの以外の非発泡性飲料(薄めて飲用されるものを含む)」となっており、正確には「清涼飲料」に区分されます。
日本酒の製造過程でつくられる「もろみ」と混同している人が多いようですが、厳密には別物です。違いを知るために、まずは「もろみ」について簡単に解説します。
■もろみについて
米麹や麦麹などに水と酵母をくわえて発酵熟成させ、どろどろになったものが「もろみ」です。もろみをこすと醤油や日本酒になり、蒸留させると麦焼酎や米焼酎になります。また、もろみの搾りかすは酒かすとよばれます。
また、もろみに蒸したさつま芋をくわえて蒸留させ、アルコール抽出したものが芋焼酎です。
■泡盛ともろみ酢ができるまで
■ほかの食酢との違いは?
穀物や果実に麹と水、酵母をくわえて発酵させるまでの工程は、もろみ酢もほかの食酢も同じです。ただし、アルコール成分ができたあとの工程が異なります。
果実酢や穀物酢、黒酢など、一般的な食酢はアルコール成分が酢の主成分・酢酸(さくさん)に変わるまでさらに熟成させるため、酸味が強くなります。
もろみ酢はアルコールを抽出し、搾ったあとの酒かすが新鮮なうちにつくられるため、主成分は酢酸ではなく「クエン酸」となっています。黒糖で味が調整されているものが多く、酸っぱいものが苦手な人でも飲めるほど口当たりがまろやかです。
一般的な食酢ともろみ酢では、成分の含有量や味、色などが異なります。食酢の中でも口にされることが多い黒酢とりんご酢との違いを以下にまとめました。
もろみ酢 | 黒酢 | りんご酢 | |
---|---|---|---|
成分の違い | ・刺激の少ない「クエン酸」が主成分 ・アミノ酸やビタミンB群、ミネラルが豊富 |
・刺激の強い「酢酸」が主成分 ・アミノ酸やビタミンB群、ミネラルが豊富 |
・刺激の少ない「クエン酸」が主成分 ・ビタミンCが豊富でアミノ酸が少ない |
味の違い | まろやか | 酸っぱい | フルーティー |
色の違い | 琥珀色 | 琥珀色 | 黄色 |
もろみ酢とほかの食酢は主成分や含有成分の量が異なるため、効果・効能や作用のメカニズムも異なります。
もろみ酢を摂取することで次のような効果効能が期待できます。[※1]
■代謝促進
もろみ酢に含まれるクエン酸が、エネルギーをつくるクエン酸サイクルを活性化して代謝を促します。
■ダイエット効果
クエン酸によって代謝が促進されることで脂肪が燃えやすくなるため、ダイエット効果が期待できます。
■疲労回復
もろみ酢に含まれるクエン酸がエネルギーをつくり、疲労物質の分解をサポートします。
■血圧調整
もろみ酢に含まれるアミノ酸は、血圧を調整する物質を生成します。ただし、一般的な酢と比べると効果は低いようです。
■血流改善
もろみ酢は、血小板の凝集や白血球の粘着力を適度に抑え、血流を改善するといわれています。
もろみ酢には、18種類のアミノ酸が含まれています。アミノ酸はたんぱく質を構成する成分です。たんぱく質は骨や筋肉を丈夫にして運動能力を向上させるほか、新しい肌細胞や髪をつくるための美容効果が期待できます。
もろみ酢に含まれるアミノ酸の中には、体内で生成されない「9種類の必須アミノ酸」もすべて含まれています。必須アミノ酸は体内で代謝されるとエネルギー源(糖とケトン体)に変化し、免疫力や体力、新陳代謝などを高めてくれるというはたらきがあります。
アミノ酸からエネルギーがつくられる作用をサポートするのは、もろみ酢の主成分「クエン酸」。エネルギーのもととなる糖を分解・代謝し、新しいエネルギーをつくるサイクルを整えてくれます。
糖が分解・代謝されやすくなると、糖の蓄積によってうまれる疲労物質「乳酸」のが溜まるのを抑えられるため、疲れにくい体に。さらにクエン酸は脂肪を分解するはたらきをもっていることから、ダイエット効果が期待できます。
また、クエン酸は水に溶けにくいミネラルの吸収をサポートするため、ミネラル不足を改善する効果も期待できます。
そのほか、必須アミノ酸のひとつ「アルギニン」は、血栓予防の効果がある一酸化窒素を生成してくれます。そのため、もろみ酢を摂取すると血栓による血液関係の病気(動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞など)をある程度予防できると考えられています。[※1][※2][※3]
もろみ酢は体力が低下していると感じる人におすすめです。もろみ酢に含まれるクエン酸とアミノ酸によって新しいエネルギーをつくるサイクルが活性化され、体力をしっかり補えるでしょう。また、疲労物質が発生しにくい体になるため、運動しても疲れにくくなります。
もろみ酢は食品なので、摂取目安量や上限量はとくに定められていません。製造会社によって濃度が違うため、1日あたりの目安量も異なるようです。
商品化されているもろみ酢の平均摂取目安量は、1日あたり30~50mlでした。コップに入れてストレートで飲む、水で薄めて飲む、調味料として料理に使用するなど、いろいろ試して自分にあった摂取方法を見つけてみてください。
九州女子大学の家政学部栄養学科に所属する石橋源次教授は、鉄欠乏症に対する黒糖もろみ酢の効果を調査。鉄欠乏症のラットを用意し、鉄を除去した餌を与えるグループと、同じ餌に黒糖もろみ酢を添加したものを与えるグループに分け、比較実験を行いました。14日間の実験中、ラットは自由なタイミングで餌を食べられる環境にしています。
比較実験の結果、黒糖もろみ酢を添加した餌を与えたグループの鉄欠乏症ラットは、血中の鉄量やヘモグロビン濃度が改善したと報告されています。研究者らは、もろみ酢に含まれるクエン酸が胃酸の分泌を促して鉄の吸収率を高めたため、このような結果になったと推測。このことから、黒糖もろみ酢には鉄欠乏を予防する効果が期待できます。[※4]
また、もろみ酢の原料となる「もろみ粕」を使った実験も行われています。実験を行ったのは、鹿児島大学と琉球大学の研究者らです。コレステロール値が高い状態のラットにもろみ粕を添加した餌を与え、体重増加や健康状態、脂肪肝などの変化を観察しました。
4週間もろみ粕を添加した餌で飼育した結果、高コレステロール状態のラットの脂肪肝が改善したと報告されています。また、実験中に体重増加や健康状態の変化は見られませんでした。このことから、もろみ粕には脂肪肝を予防する効果があると考えられています。[※5]
もろみ酢は沖縄で600年以上の歴史がありますので、かなり食歴が長い食品であるといえます。
健康飲料として沖縄から全国各地に広まったのは2004年頃。当時はもろみ酢の品質にバラつきがありましたが、2005年に沖縄もろみ酢製造協議会(現在の沖縄もろみ酢事業協同組合)が設立してからはもろみ酢製品の品質が安定するようになりました。
現在、事業協同組合には13社のもろみ酢製造業者が参加して、泡盛由来のもろみ粕からつくられたもろみ酢原液を75%以上含む製品には、公式取引マークがつけられるようになっています。
また、日本記念日協会は2012年に「琉球もろみ酢の日」を制定。もろみ酢にクエン酸が豊富に含まれていることから、9(クエン)月3(サン)日が記念日として登録されています。[※6][※7]
琉球大学観光産業科学部の荒川雅志教授は、琉球もろみ酢を用いた臨床試験結果から、もろみ酢がもつ効果について次のように発表しています。
「スポーツ競技者、職業アスリートともに、疲労回復感、起床感、熟眠などにおいてプラセボ軍と比較して良い結果出ている」(第1615号2017年3月1日発行「健康産業新聞」より引用)[※8]
また、サッカー元日本代表の高原直泰氏は、もろみ酢を飲み始めてからの体の変化について次のようにコメントしています。
「アミノ酸やクエン酸を豊富に含み、疲労回復のほか、朝の目覚めが良い」(第1615号2017年3月1日発行「健康産業新聞」より引用)[※8]
このことから、もろみ酢には激しい運動による疲労感を回復する効果が期待できるでしょう。
もろみ酢を使ったレシピをご紹介します。
【用意するもの】
【つくり方】
グラスに材料を入れてスプーンで混ぜたら完成です。シェイカーやミキサーを使うと、ヨーグルトの舌触りがより滑らかになります。
もろみ酢スムージーは、もろみ酢の香りや酸味が苦手な人におすすめです。
【用意するもの】
【つくり方】
薬膳料理のほかに、はちみつと混ぜた甘ダレや、醤油や豆板醤と混ぜた万能ダレもつくれます。もろみ酢が手に入った際には、ぜひお試しください。
もろみ酢とビタミンB群を摂取することで、エネルギーをつくりだす「クエン酸サイクル(TCAサイクル)」が活性化します。[※9]
また、もろみ酢と水に溶けにくいミネラル(カルシウムやマグネシウムなど)を合わせて摂ると、吸収率が高まります。
もろみ酢の副作用は現在までに報告されていません。ただし、酢に含まれる酸は胃粘膜を刺激するため、大量摂取や空腹時に摂取すると胃が荒れるおそれがあります。[※1]
また、もろみ酢と医薬品の相互作用は現在までに報告されていません。[※1]