老化の原因である活性酸素のはたらきを抑えるβ-カロテンの含有量がひときわ多く、カルシウムもめざしなどの小魚より豊富に含んでいるモロヘイヤは「野菜の王様」といっても過言ではありません。
必須ビタミンやミネラルを豊富に含む栄養価の高さだけでなく、抗酸化物質ケルセチンや粘り成分の元である多糖類が、健康や美容に効果的な生理機能性をもつことがわかってきました。
このページでは、モロヘイヤの効果効能や作用のメカニズムについて詳しく解説します。
モロヘイヤはアオイ科ツナソ属の一年生植物で、和名はシマツナソ(縞綱麻)で、タイワンツナソ(台湾綱麻)、ナガミツナソ(長実綱麻)とも呼ばれます。
原産地はアフリカまたはインド西部とされており、エジプトを中心とした東地中海から中近東にかけて広く栽培されています。同じツナソ属のコウマ(黄麻)同様、ジュート線維の原料となりますが、若い枝葉は野菜として食用にされてきました。
この野菜で作ったスープが古代エジプト王の難病を治したという言い伝えがあり、アラビア語の「ムルキーヤ」( ملوخية ; mulūkhīya:王様のものという意味)が転じて「モロヘイヤ」と呼ばれるようになったとされています。日本では1980年代にその保健効果がマスコミに紹介されてブームとなりました。
6~8月に旬を迎える夏野菜で、ビタミンやミネラルを多く含み、β-カロテンとカルシウムは特に豊富です。粘性多糖類という水溶性食物繊維のような物質を含んでいるため、刻んだりゆでたりするとオクラやトロロのような粘りを出します。[※1]
モロヘイヤには次のような効果・効能があるといわれています。
■疲労回復効果
ビタミンB群を豊富に含み、疲労回復に効果があります。
■動脈硬化の予防
食物繊維や抗酸化作用のあるビタミン、ポリフェノールを含むため、動脈硬化のリスクを低減することができます。
■高血圧の予防
カリウムが多く、血圧を上昇させる作用をもつアンジオテンシンという生理活性物質のはたらきを抑制する成分を含むため、高血圧を予防する効果が期待できます。
■糖尿病の予防
糖の吸収を穏やかにするため、糖尿病の予防にも効果があるといわれています。
■骨粗しょう症の予防
骨の形成を助けるカルシウム、リン、ビタミンKなどを含むため、骨粗しょう症のリスクを低減することができます。
■美肌・アンチエイジング効果
β-カロテン、ビタミンC、ビタミンEなど肌の老化防止や保湿作用をもつビタミン群を豊富に含んでおり、美肌やアンチエイジングに効果が期待できます。
モロヘイヤは青菜類のなかでも栄養豊富な野菜です。特にβ-カロテンの含有量は高く、ほうれん草の約2.4倍。
可食部100gあたり10000μgを含み、ほぼ1日の必要量を摂取することができます。[※2][※3] ビタミンCとEの含有量も多く、老化や生活習慣病の原因となる活性酸素を除去し、体を若々しく健康にたもつことができます。
モロヘイヤには、ポリフェノールの一種である「ケルセチン」が含まれています。
ケルセチンは野菜や果物に幅広く含まれるフラボノイドで、タマネギの黄色色素として知られています。
フラボノイドのなかでも特に強い抗酸化活性を示すため、動脈硬化や糖尿病といった生活習慣病やがんを予防する重要なはたらきもつことがわかってきました。[※4]
近年の研究では、脳血管疾患の予防、抗がん効果、抗炎症作用などを発揮することが報告されています。[※5] また、血管平滑筋を弛緩させる作用があり、血圧を降下させる効果があることも明らかになりました。[※6]
血圧の上昇を抑えるはたらきをする成分は、ほかにもいくつか含まれています。ナトリウムを体外に排出するカリウムも豊富で、降圧効果に一役かっています。[※2]
また、ニコチアナミンというアミノ酸の一種には、降圧剤の成分として知られるACE(angiotensin-converting enzyme)阻害酵素と同じ作用があり、血圧を上昇させる生理活性物質アンジオテンシンⅡの生成を阻害することがわかりました。[※7][※8]
モロヘイヤはビタミンB群が多く含まれていることも特徴の1つです。
体内の糖質や脂質をエネルギーに変換し、脳や肝臓のはたらき、そして全身の生理代謝を整える役目を担うビタミンB群は、体や脳の健康維持、疲労の回復に欠かせない栄養素です。
皮膚や毛根に栄養を与えるパントテン酸(ビタミンB5)、皮膚の健康をたもつビオチン(ビタミンB7)、DNAの合成を促進する葉酸(ビタミンB9ほか)なども多いため、肌の健康維持にも役立ちます。[※2][※9]
日本人に不足しがちなカルシウムも豊富です。骨ごと食べるめざし100gに含まれるカルシウム量が180mgなのに対し、モロヘイヤは260mgと非常に多く、ゆでた後でも100g中170mgを含みます[※2][※10]
カルシウムのほか、マグネシウム、リンなど骨の材料となるミネラルも豊富です。銅や亜鉛、ビタミンKなど、骨の形成と強化に必要な成分がバランスよく含まれているため、骨粗しょう症の予防が期待できます。[※2]
モロヘイヤの粘り成分は以前「ムチン」という糖タンパクとされてきましたが、現在はいくつかの粘性多糖類の混合物であることがわかっています。
おもな成分は、グルクロン酸、ガラクツロン酸などのウロン酸類と、ラムノースとよばれるデオキシ糖の一種です。
グルクロン酸はグルコース(ブドウ糖)が酸化したもので、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などの重要な構成成分です。
ガラクツロン酸はガラクトース(乳糖の主成分)が酸化したもので、その重合体であるポリガラクツロン酸はペクチンの主成分として知られています。[※11][※12]
これらの粘性多糖類は体内で水溶性食物繊維と同じようなはたらきをするほか、免疫機能の中心的役割を担うマクロファージを増加、また活性化することがわかりました。[※13]
こうした性質はがんの予防やがんに対する免疫療法の大きなカギとなる可能性もあり、現在も粘りに含まれる成分の分析や、免疫賦活作用のメカニズムについて研究が進められています。
疲労回復効果の高いビタミンB群をバランスよく含む野菜です。疲れやすいかた、休んでも疲れがとれないかた、集中力が続かないかたに摂取をおすすめします。
食物繊維や抗酸化作用のある機能性成分がたくさん含まれています。生活習慣病のリスクが気になるかた全般にもおすすめです。
整調作用でお腹をすっきりさせる食物繊維、むくみを解消するカリウムなども豊富です。β-カロテン、ビタミンC、ビタミンEは紫外線による肌のダメージを軽減し、活性酸素から肌を守ります。肌を健康にたもつ成分も豊富なので、美容や美肌に関する効果も期待できるでしょう。
モロヘイヤはカルシウムの含有量が大変多い野菜です。カルシウムが不足しがちなかた、骨粗しょう症が心配なかたはぜひ食事に取り入れてみてください。
モロヘイヤは野菜なので摂取目安量や上限摂取量は特に定められていません。モロヘイヤ100gで一日に必要とされるβ-カロテンをほぼカバーできるので、最大100gを目安に、日々の食材の1つとして活用してみてはいかがでしょうか。
島根大学医学部と島根県産業技術センターが共同で行ったケルセチンの機能性に関する実験では、次のようなことが報告されています。
マウスを3グループにわけ「高脂肪食」「高脂肪食プラス1%のモロヘイヤ葉粉末」「高脂肪食プラス3%のモロヘイヤ葉粉末」を8週間与えた結果、モロヘイヤ粉末を与えられたグループは高脂肪食だけのグループに比べて体重がそれほど増加しておらず、3%のグループでは、血糖、中性脂肪、遊離脂肪酸が有意に低いことがわかりました。
また、1%、3%のグループとも、肝臓中の中性脂肪量が低値で、活性酸素によるダメージ量も低く、インスリンの効きやすさが改善(血糖値が下がりやすい)していることがわかりました。[※14]
モロヘイヤの原産地はインド西部、またはスーダン中央部のコルドファン地方から熱帯アフリカにかけてといわれています。やせて乾燥した土地でも栽培がしやすく、栄養豊富であることから、5000年以上前から野菜や動物の飼料として活用されてきました。[※15]
食用にするだけではなく、古代エジプト人たちはモロヘイヤの葉のペーストを顔パックとして使用し、しわやたるみを和らげていたという記録があり、クレオパトラもこのパックを愛用していたという話が残っています。[※16]
日本で栽培が行われるようになったのは1980年代。アラビア語学者で中東研究を専門としていた拓殖大学名誉教授の飯森嘉助先生が紹介したことがきっかけです。飯森先生はその後「モロヘイヤ普及協会」を設立してその普及につとめ、やがて日本でも健康野菜として注目されるようになりました。
現在は、全国シェア25%の群馬県を筆頭に日本各地で生産されています。宮城県大郷町などでは特産品としてモロヘイヤを展開しており、生鮮野菜のほか、うどん、ラーメン、焼き菓子、アイスクリームなどさまざまな加工品が店頭にならび人気となっているようです。[※17][※18]
モロヘイヤの大きな特徴の1つである「粘り」は、そこに含まれる機能性成分の研究に今後の期待がかかっているだけでなく、粘りそのものもさまざまな可能性を秘めていると考えられています。関東学院大学管理栄養学科准教授の津久井学先生は食品の粘りについて次のようにコメントしています。
“植物性のねばりと一口に言っても、ヤマイモ、モロヘイヤ、ナメコ、海藻などの食品が持つねばりには、一つとして同じものはありません。成分や構造もまったく違うものなのです。
だからこそ、それぞれのねばり成分は、はんぺんなどの練り製品、まんじゅうの皮などの食材から、肌の保湿剤、水の浄化などに至るまで、さまざまな用途に利用することができます。”[※19]
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が、モロヘイヤの粘り成分がどのような物性をもち、どんな形で利用できるか研究した結果、水溶性の粘性多糖類をアルカリ抽出した場合は乳化剤として、酸抽出した場合はカルシウム強化食材として、残りの不溶性多糖類は保水剤として利用できることがわかりました。[※20]
粘り成分は加工することでより多くの用途に使えると津久井先生は述べています。
“研究が進み、まだまだ知られていないねばりの構造と性質を解明していけば、より多くの活用法を見出すことができるでしょう。
農家などの生産者にも大きな経済的なメリットをもたらし、地域の活性化をはかることもできると考えられています。”[※19]
構造的な解明に加え、機能性成分の作用機序などが明らかになれば、さらなる活用法が生まれるかもしれません。
茎は固いので柔らかい葉の部分だけを食べます。鮮度が落ちると葉も固くなるので、手に入ったら早めに食べるようにしましょう。
アク成分であるシュウ酸を含んでいるため、生食はせず、ゆでてから調理をするようにします。くせがなく食べやすい野菜なので、おひたしやてんぷらにしたり、刻んで納豆とまぜたり、スープや炒め物の具にしたりと、調理のアレンジが効きます。豊富なビタミンCを壊さないように、加熱時間は短めにするのがコツです。
モロヘイヤにはあまり含まれないたんぱく質と一緒にとることで、バランスよく必須栄養素を摂取することができます。肉、卵、豆腐とあわせたメニューがおすすめです。
抗酸化物質のケルセチンは、油と一緒に摂取すると吸収率が高まることが報告されています。[※4] 炒め物やてんぷら、マヨネーズをつかった料理など、油脂を使用する調理法で機能性成分を効率良く摂取しましょう。
ビタミンKを多く含むため、抗血液凝固薬のワルファリンを服用している場合は注意が必要です。
家庭菜園で育てていらっしゃるかたは、種子にストロファンチジンという強心配糖体(迷走神経を興奮させ心拍数を増大させる)が含まれているので誤って口にしないよう注意してください。
内閣府の食品安全委員会と国立衛生試験所によると、ストロファンチジンが含まれるのは成熟した種子やさや、発芽から間もない若葉のみで、収穫期の葉、茎、根には含まれないとのこと。また、野菜として販売されているモロヘイヤおよびモロヘイヤ加工食品からは検出されないことが報告されているので、市場に流通しているものならまず安心といえるでしょう。[※21][※22]