脳から分泌される睡眠ホルモンであるメラトニンは、睡眠と覚醒のリズムを整え、自然な眠りにいざなう効果があります。ほかにも抗酸化作用によるアンチエイジング効果や自閉症の改善効果があるといわれており、研究が進められている成分でもあります。
ここでは、メラトニンの効果・効能や作用のメカニズム、副作用などについて解説しています。摂取目安量やメラトニンを多く含む食べ物もまとめています。
メラトニンとは、脳内にある松果体(しょうかたい)と呼ばれる内分泌器から分泌されるホルモンのことです。また、必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンを摂取した際にも、体内で代謝されてメラトニンがつくられます。[※1]
メラトニンは体内時計にはたらきかけることで、睡眠と覚醒のリズムを調整して自然な眠りを誘います。そのため、メラトニンは別名「睡眠ホルモン」と呼ばれています。
しかし、メラトニンの分泌量は10歳ごろをピークに減少し、50代以降はほとんど体内でつくられなくなってしまいます。そのため、年齢を重ねるごとに体内時計を調整する機能が弱まり、夜中に何度も目が覚める、朝早い時間に目が覚める、睡眠時間が短くなるなどの変化が起こると考えられています。
またメラトニンには抗酸化作用もあります。抗酸化作用によって細胞の酸化が抑えられるため、老化防止にも効果的だといわれています。[※2]
メラトニンには、以下のような効果・効能があります。[※1][※3]
■睡眠の改善
睡眠リズム・覚醒リズムを調整するはたらきがあるため、睡眠時間や眠りの深さを改善する効果があります。
■老化防止
抗酸化作用をもっているため、アンチエイジング効果が期待できます。
■自閉症の改善
メラトニンを摂り入れて睡眠リズムが整えられると、自閉症の改善にもつながるとされています。
そのほか、骨粗しょう症の予防効果もあるといわれています。
睡眠と覚醒のリズムを整えるメラトニンの分泌量は、光で調節されているといわれています。
朝日を浴びて体内時計が進むと脳内が活動的な状態になり、信号が送られてメラトニンの分泌がストップします。起床してから14~16時間ほど経つと、再び信号が送られてメラトニンが分泌されるという仕組みです。メラトニンが分泌されると体内の深部体温が下がり、眠気を感じます。
ただし、夜に強い光を浴びると体内時計が乱れてしまい、メラトニンの分泌が抑制されてしまうおそれがあります。こうしてメラトニンの分泌量が減ることで睡眠と覚醒のリズムが崩れてしまい、眠りが浅くなったり、寝つきが悪くなったりするので注意しましょう。[※2]
メラトニンは、以下の内容に該当する人におすすめです。
医薬品としてのメラトニンの摂取目安量は、改善したい症状によって異なります。
不眠症の場合、0.3~5mgを就寝前に経口摂取することが推奨されています。
また旅行中の時差ぼけ解消を目的とする場合、目的の場所についた日を摂取開始日として、就寝前に0.5~5mgのメラトニンを2~5日間継続摂取します。[※4]
メラトニンと睡眠に関する研究は数多く行われています。
スウェーデンの研究者Eckerberg Bらが行った研究によると、メラトニンは子どもの就寝習慣を整える効果があることがわかりました。
実験では、日中の眠気を訴える14〜19歳の学生21名を対象とし、学校に通う日(6日/週)のメラトニン摂取を5週間継続してもらいました。
実験の結果、メラトニン摂取後は摂取前よりも就寝時間が早まり、睡眠時間が長くなったと報告されています。また、実験期間の日中は、眠気を誘発するメラトニンの分泌量が低下していたことがわかりました。
実験の結果から、学校が休みの日に不規則な睡眠習慣を続けても、メラトニン摂取によって平日の睡眠習慣が整えられることがわかっています。[※5]
また、イスラエルのWolfson Medical Centerに所属するGarfinkel Dらは、不眠症に悩んでいる12名の高齢者を対象に、メラトニンによる睡眠の質改善効果を調査しました。
1日2mgの徐放性メラトニン(メラトニンが徐々に放出されるタイプの製剤)を3週間摂取したのち、偽薬を3週間摂取してもらい、睡眠の変化を比較しています。
調査の結果、徐放性メラトニンを摂取すると就寝時間が早まり、眠りが深くなったことが報告されています。[※6]
このような実験データから、メラトニンの摂取は老若男女問わずに睡眠の質を改善できると考えられています。
メラトニンは、アメリカにあるイェール大学病院の皮膚科に所属していたアーロン・ラーナー医師によって発見されました。アーロン・ラーナー医師は、牛の脳(松果体)でつくられているメラトニンを発見し、人間の脳(松果体)でもメラトニンがつくられていると仮定して、研究を進めました。
ヒトにメラトニンを投与する研究では、メラトニンを注射した被験者のほとんどの人が眠ってしまったことから、メラトニンに睡眠を誘発する効果があることがわかっています。
睡眠の質を改善する効果のほかにもさまざまな効果が期待されているメラトニンですが、新しく開発された成分ではなく人体にもともと備わっている成分なので、残念ながら研究の対象として取り扱われる機会が少ないようです。
東京医科歯科大学の服部淳彦教授は、メラトニンの量を増やす方法について、以下のように述べています。
「朝、午前中に日の光を浴びる、外に出るのが一番。すると午前中のメラトニンが抑えられることへのリバウンドのように、夜メラトニンがあがってくる。例えば、会社へ行くときもできたら近くの駅から乗るのではなくて、1駅歩いて、日の光を浴びて、次の駅から会社へ行くのも効果的でしょう」
(NHK「美と若さの新常識 カラダのヒミツ/睡眠は最強のアンチエイジング」より引用)[※7]
日中に日光を浴びていれば夜間のメラトニン分泌量は増えますが、夜に強い光を浴びているとメラトニンの分泌量が減り、体内時計が乱れ、睡眠と覚醒のリズムが崩れてしまいます。
メラトニンの分泌量を増やして睡眠と覚醒のリズムを整えるために、夜は室内照明やブルーライト(パソコンやスマートフォンなどの光)を浴びる時間を極力抑えるようにしましょう。
メラトニンは、必須アミノ酸であるトリプトファンから段階を経て生成されます。トリプトファンは体内で生成されない成分なので、食べ物から取り入れる必要があります。そのため、メラトニンの生成量を増やすには、トリプトファンが含まれた食品を食べましょう。
■トリプトファンが含まれている食品
また、トリプトファンを摂取する際は、一緒にビタミンB6を摂取するのが大切です。ビタミンB6は、トリプトファンからメラトニンがつくられるのをサポートをする補酵素として機能してくれます。
■ビタミンB6が含まれる食品
かつおやマグロはトリプトファンとビタミンB6の両方を含んでいるので、メラトニンを効率よく産生する効果が期待できます。
さまざまな効果が期待されているメラトニンですが、日本では医薬品の原材料にあたるため、メラトニンの製造・販売自体が認められていません。また、人体の中にもともと存在するホルモンであり特許権が取りづらいため、製薬会社での研究もあまり進められていないというのが実情です。[※8]
日本では2010年より、メラトニンのはたらきをサポートする成分を配合した「ロゼレム®錠」が不眠症治療剤として販売されています。[※9]
一方アメリカでは、快眠や時差ボケの解消などを目的とした栄養補助食品にメラトニンが使用されています。海外旅行のお土産としても、一時ブームとなったほどです。
自己責任でアメリカのメラトニン配合サプリメントを購入することは可能ですが、安全性は保障されません。これまでに過剰摂取による中毒事故をはじめ、多くの副作用が報告されているので、注意が必要です。[※8]
安全性を考えるなら、サプリメントを個人輸入するのではなく、医師に睡眠障害を相談したうえで、安全性が確保されている医薬品を処方してもらいましょう。
メラトニンには副作用として頭痛やめまい、日中の眠気、かんしゃくなどを引き起こすケースがあります。そのほか、血圧の変化や嘔吐、疲労感、悪夢などの症状が起こるおそれもあります。
また、メラトニンを服用後4~5時間は、機械の操作や車の運転を避けるようにしましょう。
子どもの場合、成長ホルモンに影響して発育が妨げられる可能性があるため、メラトニンを使用しないでください。妊娠中の人、授乳中の人も十分な安全性が確認されていないため、使用を避けましょう。[※4]
メラトニンは、以下の医薬品と一緒に摂取することで相互作用が起こります。[※4]メラトニンサプリを摂取する前に、かかりつけ医に相談すべきでしょう。
■鎮静薬
メラトニンと鎮静薬は、どちらも眠気をもたらします。そのためメラトニンを摂取したときに鎮静薬を投与すると、過度の眠気を引き起こす可能性があります。
■免疫抑制薬
メラトニンには免疫機能を向上させるはたらきがあるため、免疫抑制薬の効果を弱めてしまう場合があります。
■糖尿病治療薬
血糖値を下げるために使用される糖尿病治療薬ですが、メラトニンと併用することで治療薬の効き目を強めてしまったり、反対に弱めてしまったりする場合があります。
■血液凝固を抑える医薬品
血液の凝固を抑える医薬品の服用時にメラトニンを摂取すると効果が強まるため、出血や皮下出血による紫斑が生じるおそれがあります。
■経口避妊薬
避妊薬には体内でつくられるメラトニン量を増加させるはたらきがあり、メラトニンと併用摂取すると体内のメラトニンが過剰になる可能性があります。
■カフェイン
カフェインは体内にあるメラトニンの量を減少させるため、併用摂取するとメラトニンの効果を弱めてしまうおそれがあります。
■フルボキサミンマレイン酸塩
フルボキサミンマレイン酸塩と一緒に摂ると、メラトニンの効果が増強して強い副作用が出る場合があります。
■ベラパミル塩酸塩
ベラパミル塩酸塩は、メラトニンの排出を促進させます。そのため、ベラパミル塩酸塩を服用しているときにメラトニンを摂取すると、メラトニンの効果を弱めてしまう可能性があります。
■ニフェジピン
血圧を下げるニフェジピンですが、メラトニンと併用することで効果が弱まる可能性があります。
■フルマゼニル
フルマゼニルと併用することで、メラトニンの効果が弱まると考えられています。