たんぱく質を構成するアミノ酸のうち、体内で合成できない必須アミノ酸のひとつであるリジン。肉類や魚介類などの動物性たんぱく質に豊富に含まれています。生体内の細胞の修復や体の成長に関係しているホルモンや酵素、抗体などをつくりだすはたらきをもった、私たちの体に必要不可欠な成分です。
疲労回復やヘルペスの予防・改善、肝機能の向上など、リジンの効果・効能や作用のメカニズム、副作用などを解説していきます。
リジンとは必須アミノ酸のひとつで、体のたんぱく質中に2~10%ほど含まれている成分です。[※1]
体をつくるたんぱく質は20種類のアミノ酸からできていますが、そのうちの9種類は体内でつくることができず、食べ物やサプリメントなどから摂取する必要があります。体内でつくることができない9種類のアミノ酸は必須アミノ酸と呼ばれており、そのうちのひとつがリジンです。[※2]リジンは別名「リシン」「L-リジン」などとも呼ばれています。
リジンは、ホルモンや抗体、酵素などを生成するはたらきがあることから、体の成長や細胞の修復にかかわる成分だとされています。ほかにも、体内で脂肪を燃焼するのに必要なカルニチンと呼ばれる成分の合成原料にもなります。
疲労回復や肝機能のサポート、ヘルペスの予防・改善などの効果があるほか、近年では抜け毛の予防・改善や育毛効果などが期待されています。さまざまな効果効能があることから研究が進められている成分です。[※3]
ヘルペスとは疱疹(ほうしん)のことで、小さな水ぶくれがいくつもできてしまう、急性炎症性皮膚疾患のことです。
リジンには、以下のような効果・効能があるといわれています。[※1][※4][※5]
■疲労回復・集中力の向上
リジンには、たんぱく質の吸収を促してブドウ糖の代謝をスムーズにするはたらきがあるため、疲労回復や集中力の向上が期待できます。
■肝機能を高める
老廃物の排泄やアルコールの解毒などで弱った肝臓のはたらきを活性化させる効果があります。
■ヘルペスの予防・改善
ヘルペスを引き起こすウイルスに感染するのを予防、またはヘルペスの症状を改善する効果があります。
■髪の健康を維持する
さまざまな原因で起きる抜け毛や薄毛に有効だとされています。
■脳卒中の発症を抑える
血圧を下げるはたらきがあるため、脳卒中の発症を抑える効果が期待できます。
■成長をサポートする
カルシウムの吸収を高める効果や、成長ホルモンの分泌を促進するはたらきがあります。
■脂肪燃焼効果
リジンには、脂肪を分解しやすくするはたらきがあります。
通常、体内で脳や筋肉などのエネルギーとなるブドウ糖が欠乏してしまうと、集中力が下がってしまったり疲労を感じやすくなったります。
リジンには、吸収したブドウ糖の代謝をスムーズにするはたらきがあるといわれており、集中力の向上や疲労回復に効果があるとされています。
細胞の修復や体の成長に関与しているホルモンや抗体などを生成する材料でもあるリジン。成長ホルモンの分泌を促進するはたらきや体内でのカルシウムの吸収を促す作用ももっています。[※1]
また、リジンは唇などに疱疹(ほうしん)を引き起こすウイルスの感染を予防したり、症状を改善したりする効果があります。[※3]このことから、感染症への抵抗力を高めるはたらきがあると考えられています。
リジンは弱った肝臓のはたらきを高めてくれます。肝臓に対してはたらきかけ、脂肪を分解する酵素(リパーゼ)を活発化させて脂肪酸が利用される仕組みを整えてくれるのです。
加えて血圧を下げる作用があることから、脳卒中の発生を抑制する効果も期待されています。[※4]
近年では、髪の健康を維持する効果が注目されており、育毛剤の成分としても用いられるようになりました。リジンは髪の主成分であるたんぱく質・ケラチンの生成をサポートするはたらきがあり、摂取することでさまざまな原因から起きる抜け毛や薄毛に効果が期待されています。[※1]
疲労回復や集中力の向上、肝機能を高めるなど、さまざまな効果をもつリジンは、以下のような人におすすめです。
1日あたりのリジンの摂取目安量は、750~1,000mgといわれています。これは食事でカバーできる量だとされていますが、食生活が不規則だったり栄養を吸収しにくい体質だったりする場合は、サプリメントを活用しましょう。
体内でリジンが欠乏してしまうと、疲れやすくなり集中力が低下します。ほかにも肝機能が低下してコレステロールが増加しやすくなる症状も。目の充血、吐き気、貧血といった症状を引き起こすおそれもあります。
また、著しく不足すると、免疫不全や成長障害を起こすリスクも高まります。
ただし、サプリメントなどでリジンを過剰摂取した場合は腎機能障害が生じる場合があるため、適量を守って摂取するようにしましょう。[※3]
アメリカにあるブルック陸軍医療センターのAyala Eらによって、ヘルペスの症状改善にリジン療法が効くのかという研究が行われました。
実験では、オスのモルモットに皮膚ヘルペスウイルスを接種して、その後、体に及ぼす影響を調査。ヘルペスの症状があらわれる前に、何も処置しなかったグループとL-リジンで処置したグループにわけて観察を行いました。
調査の結果、何も処置しなかったグループのモルモットが3日後までヘルペスの症状を示したのに対して、L-リジンで処置したグループのモルモットの皮膚は健康な状態のままだったことが報告されています。
このことから、リジンがヘルペスの改善に有効であることがわかりました。[※6]
また、ヘルペス感染におけるリジンの効果について、別の研究も行われています。
ウォルシュDEらは、口唇ヘルペスや口内炎、性器ヘルペスなどを治療した1543人を対象に、アンケート調査を行いました。
調査の結果、アンケートに答えた人のうち84%がリジンを摂取することで再発が予防された人と、ヘルペスに感染する頻度が下がった人がいると報告されました。
加えてリジンを摂取した場合、83%の人が5日以内で治ったと答えましたが、摂取しなかったケースでは90%の人が治るまでに約6~15日ほどかかったとの結果が出ています。
この結果から、リジン療法はヘルペス感染の治療に有効であると示唆されました。[※7]
リジンが発育や成長に及ぼす影響についての実験も行われています。
京都学芸大学の山岡誠一らは、ラットに栄養素をバランスよく配合したエサを用意して、リジンを加えたものと加えていないものでどのような発育の違いがあるかを調査しました。まそれぞれのラットは毎日80分の運動を行わせるグループと、安静に過ごすグループにわけて観察を行いました。
調査の結果、運動の有無にかかわらず、リジンを加えたエサを食べたラットのほうが、普通のエサを食べたラットよりも発育が良かったことがわかりました。
加えて、運動を行ったラットではリジンの添加量に比例して体重が増加し、筋肉量が多くなったことも明らかになりました。[※8]
必須アミノ酸であるリジンは、牛乳中から発見されました。
動物性たんぱく質に多く含まれるリジンは体内での合成はできず食べ物からの摂取で取り入れる必要がありますが、日本人はお米中心の食生活だったため不足しがちだとされていました。
そこで協和発酵バイオは、リジンの発酵生産研究を行い、1958年に生産する菌を人工で突然変異させてリジン生産菌をつくりだすことに成功させました。
それ以降、その技術がさまざまな物質の発酵生産に利用されるようになったのです。[※9]
女子栄養大学の専任講師である浅尾貴子氏は、リジンを含むアミノ酸の摂取方法について、以下のように述べています。
「米のたんぱく質はリジンという必須アミノ酸が少なく、大豆にはリジンが多く含まれています。しかし大豆にはメチオニンというアミノ酸が少なく、米にはメチオニンが多く含まれています。
したがって、食事の献立において米と大豆を組み合わせて食べると、アミノ酸のバランスからみてもお互い足りないところを補ってくれることになります。
ご飯と納豆、ご飯とお味噌汁といった組み合わせは日本の食文化の基本でもありますが、健康的な意味でも相性がよいのです」(味の素株式会社「Vol.1栄養士直伝!アミノ酸を効果的に摂るおすすめ食事術」より引用)[※10]
主食となる米や麦などの穀類にもリジンは含まれていますが、含有量が少ないため不足してしまいます。おかずとして大豆製品や肉類、魚介類、乳製品など、リジンを多く含む食品を一緒に摂ることで、リジンを効率よく補うことができます。
食習慣で穀類ばかり食べている人は、大豆製品や魚介類なども加えた栄養バランスの良い食事を心がけましょう。
リジンは、以下のような食品に多く含まれています。100gあたりのリジンの含有量も紹介します。[※11]
リジンを含む食品 | 100gあたりの含有量(g) |
---|---|
かつお節 | 6.6 |
ビーフジャーキー | 4.6 |
するめ | 4.3 |
豚ヒレ肉(焼き) | 3.5 |
凍り豆腐(乾) | 3.5 |
しらす干し | 3.5 |
湯葉(干し) | 3.5 |
鶏むね肉(焼き) | 3.4 |
ナチュラルチーズ(パルメザン) | 3.4 |
紅鮭(焼き) | 2.6 |
リジンが多く含まれているのは、肉類や大豆類、魚介類、乳製品などです。とうもろこしや小麦、米といった穀類にもリジンは含有していますが、摂取できるリジンの量としては少ないため体内で不足してしまいがちです。
主食ごはんなどの量や比率が多い人は、魚や肉、大豆製品など、バランス良く食事をとってリジンを摂取すると良いでしょう。
髪や肌、爪などをつくるたんぱく質・ケラチンを生成するはたらきがあるリジン。髪の健康を保つ効果があるといわれているリジンは、ケラチンの材料となるアミノ酸・シスチンと一緒に摂取することで相乗効果を発揮します。
またリジンと同じように、体の成長に関与するはたらきや脂肪燃焼効果が期待できるアルギニンもおすすめ。同じようなはたらきをもつ2つの成分を一緒に摂取することで、相乗効果が得られると考えられています。
一般的に、適切に使用すれば経口摂取の期間が1年間までは、安全だとされています。ただし、場合によっては下痢や胃痛などを引き起こすケースが報告されています。
また、妊娠中の人や授乳中の人が使用した場合の安全性については十分な確認がとれていないため、使用は避けるようにしましょう。[※12]
リジンは、以下のようなサプリメントとの相互作用があると考えられています。[※12]