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リコピンの効果とその作用

リコピンは主にトマトに含まれる有効成分。赤い色素として含まれる、カロテン類の一種です。近年では抗酸化力の高さに注目が集まり、さまざまな研究が進められています。
そんなリコピンの効果・効能や副作用についてまとめました。

こすぎレディースクリニック 椎名 邦彦監修

出産や高度不妊治療、若年層の月経トラブル、婦人科疾患・ガンの治療など多岐に渡り、長年女性の悩みと向き合う。その中で、健康や外見面の美しさ、内面的な充実、そしてアンチエイジング医療など、トータルな女性医療の重要性を実感。『癒して治す』というテーマを掲げ女性が幸せになれる医療を追求している。

リコピンとはどのような成分か

リコピンは、トマト・ニンジン・スイカ・ピンクグレープフルーツ・パパイヤなど赤色の果物や野菜に含まれる成分です。カロテンの一種で、脂溶性で熱にも強い特徴があります。

カロテンと聞くと、βカロテンを思い浮かべる人もいるでしょう。同じカロテン類であるβカロテンはビタミンA誘導体(ビタミンAの材料)としても知られていますが、リコピンはビタミンとしてはたらくわけではありません。

リコピンは近年話題のファィトケミカル(フィトケミカル)に含まれます。ファイトケミカルとは、植物が持っている色や香り、味といった成分の総称です。よく聞くポリフェノールやイソフラボンなどもファイトケミカルに含まれます。

植物が身を守るために作りだした成分であることから、ファイトケミカルは高い抗酸化力やがんの抑制、免疫力アップの効果が期待できます。

リコピンは高い抗酸化作用があり、ビタミンの中でも抗酸化力が高いビタミンE(トコフェロール)の100倍以上ともいわれています。[※1]

リコピンを豊富に含んでいるトマトは、がん予防に良い植物性食品デザイナーフーズの1つ。リコピンの持つ抗酸化作用が、がんを抑制しているのではないかと考えられています。

リコピンの効果・効能

機能性関与成分(作用が認められている成分)として、機能性表示食品に含まれているリコピンの効果は以下の通りです。[※2]

■悪玉コレステロール値の改善

リコピンは血中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値を下げる効果があります。コレステロール値が正常に近づくことで、血流の改善効果も得られるでしょう。

■目の機能をサポート

リコピンの持つ抗酸化作用により、目の機能を改善する効果が期待できます。目の識別機能を強化するルテインと一緒に摂るとより効果的です。

その他、リコピンには以下のような効果・効能があるとされています。

■がん予防

リコピンの高い抗酸化力には、細胞のがん化を防いだりがん細胞の増殖を抑制したりする効果があるとされています。

■生活習慣病予防

血流を改善し血圧を正常に近づけるため、循環器系の疾患予防につながります。

■美肌・美白効果

メラニンの生成を抑え、シミやそばかすをつくられにくい肌に。また、コラーゲン生成を促進させ、ハリのある肌へ導いてくれます。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

リコピンは活性酸素の1つである一重項酸素を除去するはたらきに優れています。一重項酸素は、空気中に存在する酸素に余分なエネルギーが与えられたもの。一重項酸素は余ったエネルギーを使い、体の組織を傷付ける性質があります。リコピンが一重項酸素のエネルギーを奪っておとなしくさせることで、体を酸化から守ってくれるのです。

細胞が活性酸素に傷付けられると、がん化や硬化の恐れがあります。リコピンの持つ抗酸化作用は、活性酸素のダメージによるがんや動脈硬化の予防に効果があるといわれています。

リコピンは悪玉コレステロール(LDLコレステロール)をつくるはたらきを阻害し、善玉コレステロールであるHDLコレステロールをつくる酵素のはたらきを活性化させます。リコピンにより、LDLコレステロールの増加が防げるとともに、HDLコレステロールがLDLコレステロールを減らしてくれるため、血中の悪玉コレステロール値が低下する仕組みです。[※3]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

リコピンには抗酸化作用とコレステロール値の正常化作用があります。そのため、生活習慣病や予備軍の人におすすめです。

また、リコピンの持つ抗酸化作用は美肌・美白効果を発揮します。紫外線によるしわやシミ、肌のたるみなどが気になる人にもおすすめしたい成分です。

リコピンの摂取目安量・上限摂取量

リコピンは摂取量の目安や上限が定められていません。一般的には1日15mg~20mgほど摂取すると効果が得られるといわれています。効果が得られる量をトマトで換算すると、大きなサイズのトマトを1日2個食べる計算になります。

フランスの食品衛生安全庁は、リコピンの摂取上限を1日20mgと設定。これ以上のリコピンを摂取しても、あまり健康効果が得られないとしています。[※4]

リコピンのエビデンス(科学的根拠)

オーストラリアアデレード大学のRied Kと Fakler Pらは1955年から2010年の55年間に行われた研究の情報を集めて分析し、さまざまな研究データを検証。毎日25mg以上のリコピンを摂取することで、LDLコレステロールが10%減る効果が示唆されています。[※5]

イタリアにあるSan Camillo de Lellis HospitalのRiccioni Gらは、リコピンを含むさまざまな抗酸化物質が慢性腎臓疾患を抱える患者の動脈硬化とかかわっているのか比較試験を行いました。

動脈硬化症の自覚症状が無い40名を集め、健康な人20名と慢性腎臓病患者20名を比較したところ、血中の抗酸化物質(リコピンやビタミンEなど)の濃度が低いと、動脈硬化リスクが高まることがわかりました。また、血栓をつくるフィブリノーゲンや炎症反応の指標となるC反応タンパク質の値も、抗酸化物質の濃度と関係しているのではないかとされ、リコピンを摂取することで、動脈硬化の予防ができるのではないかと示唆されています。[※6]

2018年にカゴメ(株)と名古屋大学は、リコピンはにんにくやたまねぎ・油と一緒に熱を加えたほうが体内への吸収率がアップすると発表しました。

リコピンには分子構造が違う「トランス体」と「シス体」の2種類が存在します。生のトマトには「トランス体」のリコピンが多く含まれていますが、人間の体内に吸収されやすいのは「シス体」のほうです。

研究者らは、トマトペーストとにんにくやたまねぎや他の4種類の野菜、オリーブオイルを混ぜ、80度のお湯で30分間加熱。すると、トランス体だったリコピンがシス体へと変化しているのが確認されました。より効果が高かったのが、にんにくとたまねぎでした。

この作用はにんにくや玉ねぎを加熱すると発生する香り成分「ジアリルジスルフィド」のはたらきによるものということが明らかになっています。

これまで、熱や油がリコピンをトランス体からシス体に変化させることは判明していましたが、調理で一緒に使う野菜によっても、シス体への変化を促進することがわかりました。[※7]

研究のきっかけ(歴史・背景)

昔は、フルーツや野菜から抽出される赤い色素をまとめて「カロテノイド」としていましたが、1903年に行われた研究でカロテノイドとは異なる赤い色素化合物「リコピン」が発見されました。

しかし、当時はカロテノイドと区別するためにリコピンという固有の名前がつけられただけで、リコピンがどのような作用を持っているのかわかりませんでした。

抗酸化作用や血行促進作用が明らかになったのは1980年代。1995年には、がん予防の効果が示唆されるようになり、ますますリコピンに関する研究が進められるようになりました。

現在もなお、国内外でリコピンに関する研究が進められていますが、がん予防に関する研究データに関しては、バラつきがあるようです。

専門家の見解(監修者のコメント)

日本野菜ソムリエ協会認定 野菜ソムリエ上級プロの徳元佳代子氏は、リコピンの持つ高い抗酸化作用について次のように紹介しています。

「トマトに含まれるリコピンは『カロテノイド』と呼ばれる、赤い色素のことです。(中略)このカロテノイド自体に、強い抗酸化作用があり注目されるようになりました。トマトに代表される「リコピン」の作用は、『β-カロテン』の2倍以上、ビタミンEの100倍以上にもなります」(徳元佳代子「沖縄の野菜ソムリエのベジフル生活from南の島/リコピンのしい情報♪トマトな一日」より引用)[※8]

また、リコピンのそのほかの作用や食べ方についても紹介しています。

「そのほか、「リコピン」には、『脂肪細胞』の成長抑制作用、血糖値を下げる作用もあり、美白に良いとされています。なんといってもうまみ成分グルタミン酸の量が多く、加熱調理ではだしの代わりにもなります。だから、トマトソースにしても、トマト鍋にしても、こんなふうに焼いても大丈夫。リコピンは脂溶性で加熱にも強く、体内で必要な分だけ使われるので、摂り過ぎても過剰症の心配はありません」(徳元佳代子「沖縄の野菜ソムリエのベジフル生活from南の島/リコピンのしい情報♪トマトな一日」より引用)[※8]

リコピンは、トマトやニンジン、スイカ、パパイヤなど赤い色の生で食べられる果物や野菜に含まれていて、トマトは加熱して食べてもうまみが増し、おいしくいただけるようですね。

サラダやスムージーで手軽に摂ったり、パスタや鍋など料理に使ったりと、日々のメニューに積極的に取り入れてみましょう。

リコピンを効率よく摂取するには

リコピンを効率よく摂取するポイントは「火と油」です。リコピンを含む食品を加熱調理することで、リコピンを包んでいた細胞が壊れ、体に吸収されやすい形に変化します。また、リコピンは油に溶けやすい性質があるため、調理する際に油を加えると吸収率が高まります。[※9]

リコピンを効率よく摂取するポイントをふまえたレシピをご紹介します。

■トマトのアヒージョ

【用意するもの】

  • ミニトマト…8個
  • にんにく…1片
  • オリーブオイル…適量
  • 塩コショウ…適量

【つくり方】

  1. にんにくの皮をむいて薄くスライスします
  2. フライパンを弱火にかけ、オリーブオイルでにんにくを炒めます
  3. にんにくがきつね色になったら火をとめます
  4. ミニトマトを水洗いしてヘタをとり、半分に切ります
  5. 深さのあるオリーブオイルを入れて弱火にかけます
  6. オリーブオイルの香りがたったらミニトマトと炒めたにんにくを入れます
  7. お好みで塩コショウをふったら完成です

相乗効果を発揮する成分

リコピンと一緒に摂ると良いのは、ルテインです。ルテインはブロッコリーやカボチャ、ほうれん草など緑黄色野菜に含まれているカロテノイド類の一種。

ルテインには、強力な抗酸化作用があり、有害な光や老化から目を守る効果があります。リコピンは、ルテインの酸化を防止し、ルテインが効果的にはたらくのを助けます。

リコピンとルテインを一緒に摂ることで、目の老化が原因の白内障や加齢黄斑変性や糖尿病による網膜症などの予防や改善に役立つことがわかってきています。[※10]

リコピンの副作用

リコピンはトマトやニンジンといった食品から摂取する場合、安全だとされています。

しかし、サプリメントのように成分が凝縮されているものについては、科学的なデータが不十分です。どのような副作用があるかわかっていないため、摂り過ぎないようにしましょう。

注意すべき相互作用

リコピンは医薬品との相互作用が明らかになっていません。

他の成分との相互作用について、見てみましょう。

β-カロテンとリコピンを併用すると、リコピンの吸収量が増えるとされています。

また、オレストラという人口代替油脂とリコピンを一緒に摂取すると、リコピンの吸収を妨げるおそれがあるとされています。オレストラはアメリカ産のポテトチップスに使用されている場合があります。[※11]

参照・引用サイトおよび文献

  1. カゴメ株式会社 「トマト大学|トマトに含まれるリコピンとは?」
  2. 機能性表示食品データベース「リコピン」
  3. 【PDF】「作用機序に関する説明資料 」
  4. 「フランス食品衛生安全庁(AFSSA)、リコピン使用に関するリスク評価意見書」
  5. Ried K, Fakler P. Protective effect of lycopene on serum cholesterol and blood pressure: Meta-analyses of intervention trials. Maturitas. 2011 Apr;68(4):299-310. doi: 10.1016/j.maturitas.2010.11.018. Epub 2010 Dec 15.Review. PubMed PMID: 21163596.
  6. Riccioni G, D Orazio N, Scotti L, Petruzzelli R, Latino A, Bucciarelli V, Pennelli A, Cicolini G, Di Ilio E, Bucciarelli T. Circulating plasma antioxidants, inflammatory markers and asymptomatic carotid atherosclerosis in end-stage renal disease patients: a case control study. Int J Immunopathol Pharmacol. 2010 Jan-Mar;23(1):327-34. PubMed PMID: 20378019.
  7. 【PDF】カゴメ株式会社|ニュースリリース「~カゴメ・名古屋大学 共同研究~トマトに含まれるリコピンの構造変化 (*1) (トランス体からシス体)を促進する新事実を発見 トマトをにんにくやたまねぎ、油と一緒に加熱することで、おいしさだけでなく、リコピンが体内に吸収されやすくなることが期待できる」
  8. 徳元佳代子 「沖縄の野菜ソムリエのベジフル生活from南の島/リコピンのしい情報♪トマトな一日(2011年10月26日)」
  9. カゴメ株式会社 「トマトの加熱調理により、リコピンの体内への吸収・蓄積が増加することを確認」
  10. Brazionis L, Rowley K, Itsiopoulos C, O'Dea K. Plasma carotenoids and diabeticretinopathy. Br J Nutr. 2009 Jan;101(2):270-7. doi: 10.1017/S0007114508006545.Epub 2008 Jun 13. PubMed PMID: 18554424.
  11. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)