リコリスはマメ科カンゾウ属のハーブで、別名・スペイン甘草とも呼ばれるもの。強い甘味が特徴で、身近なものだとキャンディの甘味料として利用されています。ここではリコリスの効果効能やその作用のメカニズム、摂取目安量や副作用、専門家の見解など、リコリスについて詳しく解説していきます。
リコリスは一般的にスペイン甘草(カンゾウ)と呼ばれるハーブです。中東アジア、ロシア、ユーラシア大陸など、幅広いエリアで生産されています。
東アジアで長年愛されている生薬・ウラル甘草(カンゾウ)と間違えられやすいのですが、厳密には別物です。
ウラル甘草はショ糖の150倍の甘さをもつ成分「グリチルリチン酸」が主成分で、漢方薬の7割以上に配合されています。 [※1]
スペイン甘草は緊張を緩和させ、鎮痛効果や解毒効果があるハーブ。その効果からかぜ薬や胃薬、医薬部外品に用いられているほか、グリチルリチン酸を抽出する原料としても使用されています。[※1]
よく似たこれらの甘草を見分けるポイントは茎の長さ。茎が長いものがスペイン甘草(リコリス)、短いものがウラル甘草です。[※1]
また園芸界では、彼岸花類の総称として「リコリス」という呼び名が使われています[※2]が、こちらも日本薬局方におけるリコリスとは異なります。
リコリスには、次のような効果・効能があるといわれています。[※3][※4]
■抗炎症・抗アレルギー効果
体質によって、じんましんや湿疹、アトピーや皮膚炎など、目に見えるアレルギー症状に悩まされている方は少なくありません。また、年を重ねるごとに関節や気管支、胃など、体内の炎症・不調も増えていくもの。
リコリスの根には、抗炎症・抗アレルギー作用をもつ成分「グリチルリチン酸」が含まれており、炎症やアレルギー症状を和らげる効果が確認されています。また、発熱や痰づまり、咳などにも効果を発揮します。
■ストレス緩和する効果
通常は副腎皮質(ふくじんひしつ)が分泌するホルモンによってストレスが制御されますが、ストレスが膨大だと副腎皮質の制御が追いつかなくなります。
リコリスに含まれるグリチルリチン酸は、副腎皮質の働きをサポートしてくれるため、ストレス緩和につながります。
■美白・美肌効果
リコリスの皮には、抗酸化作用をもつ成分・フラボノイドが含まれているため、透明感のある美白肌を目指せます。
■体脂肪減少効果
リコリスの根に含まれているグリチルリチン酸はショ糖の150倍の甘さでありながら低カロリー成分です。甘いものを食べ過ぎてしまう方は、砂糖を使ったスイーツからリコリスを使ったスイーツに切り替えることで、ダイエット効果が期待できます。
リコリスに含まれポリフェノールの一種であるグラボノイドには体脂肪を減少させる効果があることがわかり、すでにサプリメントとして販売されているようです。
■生活習慣病予防効果
体内に侵入した異物を処理する機構を強化する働きをもつリコリス。摂り入れると毒素排出による肝機能の改善、細胞内皮の抵抗力向上、胃粘膜の保護など、さまざまな面で体を守ってくれます。
また、せきを鎮める効果や体の抵抗力を高めて薬の副作用を低減する効果もあるので、かぜ薬との併用にも適しています。
グリチルリチン酸は甘みを強く感じる成分ではありますが、血糖値を上昇させて糖尿病のリスクを増やしたり、メタボの悪化を招くような心配はありません。
リコリスの主成分はグリチルリチン酸とフラボノイドです。グリチルリチン酸は根に、フラボノイドは皮に多く含まれています。
グリチルリチン酸は、抗ウイルス・抗炎症・抗アレルギー作用をもっている成分。粘膜(鼻・目・のど・胃など)の炎症を鎮める働きから、喉・鼻の腫れを抑えるかぜ薬や口腔内殺菌トローチ、アレルギー性結膜炎を抑える点眼薬などに配合されています。
粘膜への刺激が和らぐので、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、慢性肝炎やウイルス性肝炎への効果も期待できます。
また、ストレス性を抑えるホルモン「コルチゾール」の生成を促してくれるので、ストレス症状が緩和する仕組みです。 [※3]
フラボノイドはポリフェノールの一種。抗酸化・抗肥満など、女性に嬉しい作用をもつ成分です。リコリスが甘草グラブラ種(Glycyrrhiza glabra L.)に分類されることから、甘草グラブラポリフェノールとも呼ばれています。[※5]
肌細胞を酸化させるのは、ストレスや疲労、紫外線などによって増殖する「活性酸素」。フラボノイドには活性酸素を抑える働きがあるため、シミやくすみができにくい肌になります。また、血液循環を良くしてくれる作用もあるので、老廃物の溜まりにくい体になるでしょう。[※6]
リコリスの抗肥満作用については、まだはっきりと分かっていません。しかし、BMI24~30の軽度肥満者103人を対象とした研究では、リコリス由来のフラボノイド100mgを毎日摂取した結果、体重増加の抑制が認められています。
また、BMI24~30の軽度肥満者81人を対象とした別の研究では、一日あたり300mgの摂取で体重・BMI・内臓脂肪面積・血中コレステロールの低減が認められました。これらの結果を踏まえると、抗肥満作用はグラボイドによるものという説が濃厚です。[※5]
リコリスには炎症やアレルギー症状、ストレスを抑える成分が含まれていることから、肌荒れやストレスから抜け出せずにいる方におすすめです。
敏感肌やアレルギーの方は、度重なる肌トラブルによってストレスが溜まりやすい傾向があります。ストレスが溜まるとメラニンは増え、炎症やアレルギー症状が悪化して、ホルモンバランや自律神経が乱れます。そうなると、肌トラブルとストレスのループから抜け出せず、負のスパイラルに陥ってしまう可能性が高いのです。
リコリスがもつ抗炎症・抗アレルギー・抗ストレス作用を利用すれば、肌荒れやストレスによる負のスパイラルから抜け出しやすいでしょう。
一日あたりの医薬品最大配合量に関して、2017年時点ではリコリス5g(エキスの場合は原生薬に換算する)、リコリスの根に含まれるグリチルリチン酸は200mgと定められていました(※現在は厚生労働省の制限が廃止されています)[※7]。
しかし、リコリスの耐用量には大きな個人差があります。臨床試験では、わずか1gの摂取で副作用が出る人がいることもわかっています。摂取する場合は、まずは少量を試してから、経過をみて1~3gと量を増やしていくとよいでしょう。
ちなみに、リコリスと同じくグリチルリチン酸を含むウラル甘草は、日本で用いられている一般漢方処方薬の200種のうち70%に配合されています。[※8]
リコリスを含む鎮静剤やアレルギー用薬、内容痔疾用薬において、リコリスのエキスが1g未満、またはグリチルリチン酸が40mg未満の場合は配合量が記載されないものもあるため注意が必要。[※9][※10][※11]
リコリスが配合されている漢方薬やかぜ薬などの医薬品とサプリメントを併用した場合、いつの間にかリコリスを過剰摂取してしまう可能性があるからです。
BMI24~30の軽度肥満健常男女を対象とした「天草フラボノイドオイルによる体脂肪および内臓脂肪の減少(ダブルプラインド、プラセボ対象試験)」の論文資料によると、甘草グラプラポリフェノールを一日あたり100mg以上、8週間摂取し続けることで約1kgの脂肪量減少が確認されています。[※5]
また、韓国科学技術院生命科学研究科のデータによると、リコリスは酵素・チロシナーゼの働きを阻害し、メラニン生成を穏やかにすると報告されています。[※12]
Darou Pakhsh製薬研究センターの研究では、リコリスでコーティングしたアスピリンは、アスピリン誘発胃潰瘍指数を96%から46%まで減少させたとのこと。この結果から、リコリスは胃潰瘍を緩和する働きがあると考えられています。[※13]
甘草は、紀元前5世紀につくられた「ヒポクラテス全集」に薬草として使われていたと記述がある植物です。エジプトのファラオ時代には、喉を潤す植物として使用されてきた歴史があります。
長期に渡って漢方薬に用いられてきたのはウラル甘草。ウラル甘草と同様にグリチルリチン酸を豊富に含む変種がリコリス(スペイン甘草)です。
リコリスのほかにもウラル甘草の変種は存在しますが、医薬品に用いられる変種はリコリスだけです。
日本では、昭和29年より北海道農業研究センターにて甘草の研究・栽培が進められていたものの、グリチルリチン酸の濃度が輸入品よりも低くなってしまう課題を抱えていました。
リコリスの種子が導入されたのは昭和41年。栽培密度試験や肥料試験などを実施した結果、ウラル甘草よりもリコリスのほうがグリチルリチン酸の濃度が高いと判明したのです。
当時はグリチルリチン酸を豊富に含むリコリスの栽培・収穫技術開発、除草剤登録、品種開発などの例がなかったため、平成22~24年の3年間でリコリスの選抜が行われました。現在は800個体あるリコリスの中からグリチルリチン酸の濃度が高い37個体に絞り込まれ、高い効果が期待できる医薬品や医薬部外品、サプリメントなどが登場しています。[※14][※15][※16][※1]
リコリス(スペイン甘草)に詳しい医師のコメントをご紹介します。
■抗炎症・抗アレルギーについて
「甘草の主要薬効成分であるグリチルリチン酸は膜安定化作用を有するため(この効果から肝障害やアレルギーの治療薬になっています)、神経の異常興奮を抑制している可能性があります。」(『なりたい薬剤師になるPharmaTribune/こむらがえり-治療につかう漢方薬-」』 より引用)[※17]
亀田総合病院の東洋医学診療科に所属する南澤潔医師は、上記のような見解を述べています。グリチルリチン酸の膜安定化作用によって粘膜が強化され、粘膜下への刺激が抑えられる仕組みです。そのため、アレルギーの原因となるアレルゲン物質や肝障害から体が守られるのでしょう。
■足つりについて
「甘草に含まれるグリチルリチン酸などの成分が筋肉を弛緩させることで、「足つり」の痛みとこわばりを治してくれるといわれています。」(『2時間29分のランニングドクターが教える「足つり」撃退の4つのポイント』より引用)[※18]
医療法人社団美心会・黒沢病院の整形外科に勤務している諏訪通久医師のコメントです。足つりに関するメカニズムは解明されていませんが、フルマラソンを走っている医師のコメントなので説得力があります。
リコリスを使った食品の中でも有名なのは、ヨーロッパや北アメリカで古くから愛されている「リコリス菓子」。黒いグミのような見た目をしているのが特徴です。また、フィンランド発のお菓子「サルミアッキ」やアメリカ発の薬草飲料「ルートビア」にも使用されています。
リコリスに含まれている甘味成分「グリチルリチン酸」を食品には、次のようなものが挙げられます。[※19]
※甘味料・糖類は天草のみ使用されているもの
リコリスは、複数の成分と併用摂取することで相乗効果を発揮するハーブです。リコリスのもととなるウラル甘草に各成分の有効性を高める作用があります。
たとえば、虚弱体質向けの葛根湯には効果の弱い生薬が複数配合されています。そこにウラル甘草が配合されることで相乗効果が生まれ、体が弱い方でも少ない副作用で鎮痛・解熱作用を感じられるのです。[※20]
このウラル甘草の作用が、同様の成分を含むリコリスにも当てはまると考えられます。
リコリスは長期間に渡り大量に摂取すると、副作用が現れる場合があります。根に含まれるグリチルリチン酸の過剰摂取で引き起こされるものです。
とくに多いのが、血圧の上昇やむくみなどが起きてしまう「偽アルドステロン症」です。グリチルリチン酸を過剰に摂取すると、体内のカリウムを排出してしまい偽アルドステロン症の症状のひとつ「低カリウム血症」を引き起こす可能性があります。
カリウムには私たちの体のナトリウム濃度を保つ調整役としての働きがあるため、カリウムが減ることで、体内のナトリウム濃度が濃くなり血圧の上昇やむくみといった症状が現れます。[※21]
症状が悪化すると全身の力が抜けてしまったり、不整脈を誘発してしまったりする可能性があります。さらに重症化すると横紋筋融解症という、細胞が溶け出してしまう事態を招いてしまいます。グリチルリチン酸が肝臓の働きに影響をおよぼし、ステロイドの代謝を阻害するためではないかとされています。[※22]
グリチルリチン酸の含有量が高いリコリスを摂取する際には、体調や相性などを踏まえる必要があります。サプリメントでの摂取を検討している方は、病院で薬を処方してもらう際に医師に相談しましょう。
リコリスをはじめとする甘草エキスを摂取する際には、相互作用の危険を防ぐために以下の薬剤との併用を避けてください。
これらの薬剤と甘草エキスを併用すると、高血圧やむくみの症状が表れる偽アルドステロン症や、筋力低下をきたすミオパチー発症などにつながります。
また、グリチルリチン酸と利尿剤によるカリウム排泄促進の相互作用によって、低カリウム血症のリスクも上がります。
すでにアルドステロン症、ミオパチー、低カリウム血症の患者においては、症状が悪化する危険性が高いため、甘草エキスの摂取そのものが禁忌とされています。[※23]