ロイシンは必須アミノ酸で、バリンとイソロイシンと合わせて、分岐鎖アミノ酸(BCAA)とも呼ばれます。筋肉をつくるはたらきと分解を抑制するはたらきの両方の作用で知られるアミノ酸です。
近年では、健康寿命を延ばすために中高年の人への筋トレがすすめられており、ロイシンは筋肉づくりをサポートする有効成分として、長年注目を集めてきました。そんなロイシンの効果・効能や副作用などについて、くわしく解説していきます。
ロイシンはアミノ酸の一種で、人間が体内でつくれない必須アミノ酸です。ロイシンとイソロイシン、バリンの3つのアミノ酸を合わせてBCAA(分岐鎖アミノ酸)といいます。分岐鎖アミノ酸とは、名前にある通り鎖状に分子が繋がっているアミノ酸です。[※1]
BCAAの中でも、ロイシンは筋肉を成長させるために、特に必要なアミノ酸とされています。それは、ロイシンに筋肉をつくる働きだけでなく、分解を抑制する働きがあるためです。
運動機能の向上を目指すスポーツニュートリションの分野でも注目されています。高齢者用の歩行サポート健康食品にロイシンが含まれているのは、足の筋肉を付けて落とさないようにするためです。
ロイシンにはその他にも、インスリンの分泌を促したり中枢疲労(脳が感じる疲労)を軽減させたりするはたらきがあります。血糖値が気になる人や気分を落ち着けたい人にも有効な成分といえるでしょう。
ロイシンは食事から摂る分には過剰摂取になりにくい成分ですが、ダイエットや筋トレのサポートにサプリメントを使用している人は摂りすぎないようにしましょう。
ロイシンを含むBCAAをうまく代謝できない疾患にメープルシロップ尿症(楓糖尿病)という病気があるのだそうです。
ロイシンには下記のような効果・効能があります。[※1][※2][※3]
■筋肉の強化・分解抑制
ロイシンはたんぱく質が筋肉になるのを助ける働きがあるため、筋肉を増強したり、筋肉が分解されるのを抑制したりします。
■肝機能の向上
ロイシン含むBCAAは肝臓の負担を軽減し肝機能を向上してくれます。
■ストレス緩和
ロイシンは脳内物質のエンドルフィンに似た作用を持っています。幸福感や鎮静作用が得られるため、ストレス緩和の効果があります。
■疲労抑制・回復
ロイシンには、脳が感じる疲労や筋肉疲労の抑制・回復効果があります。
■食欲コントロール
ロイシンには食欲をコントロールする働きがあるようです。暴飲暴食を抑え、食欲不振を改善してくれるでしょう。
ロイシンは筋肉において代謝され、さまざまな作用をもたらします。[※4]
ロイシンは筋繊維の主成分のため、摂取すると筋肉が付きやすくなります。[※5]運動するときにロイシンを含むたんぱく質を摂ると良いといわれるのはこのためです。
また、ロイシンには筋肉の分解を防ぐはたらきがあるため、筋肉量の減少を抑え、筋肉痛になりにくいカラダ作りに役立ちます。[※6]
さらにロイシンには食欲をコントロールする作用があるようです。血液中のロイシン含むBCAA濃度が低下していた高齢者にBCAAを摂取してもらったところ、食欲が回復した事例があります。[※7]
また、ロイシンは食欲が過剰になるのを抑える作用もあります。セロトニンというホルモンとロイシンが中枢神経に働きかけると、摂食中枢を刺激して満腹感を得るのです。[※8]
ロイシンを摂取すると、インスリンの分泌が促されます。2型糖尿病患者を対象に行われた実験では、アミノ酸とたんぱく質の混合物を同時投与した場合、インスリン応答が3倍になりました。[※9]また、インスリンが分泌されることで、糖を素早くエネルギーとして取り込めるため、運動パフォーマンス向上にも有効です。
ロイシンには躁病(そうびょう)の症状を抑えるはたらきがあります。躁病の原因のひとつにチロシンという成分があるのですが、チロシンはノルアドレナリンやドーパミンなど、興奮作用のある神経伝達物質の元です。ロイシンには、このチロシンのはたらきを抑制し、躁病の症状を緩和する作用があります。[※3]
ロイシン含むBCAAは筋肉内でアンモニアを代謝するはたらきがあります。本来は肝臓で解毒されるアンモニアですが、BCAAが筋肉内で代謝すると肝臓の負担が減少することになります。
また、BCAAは肝臓にとってもエネルギー源となる成分です。[※10]こうした働きにより、BCAAには肝機能を向上させるはたらきがあるとされています。肝臓の負担が減ることで、肝炎や肝硬変にともなってあらわれる肝性脳症の予防にも役立つとされています。肝性脳症は、体内のアンモニアが原因で脳に起こる合併症です。[※3]
ロイシンは以下のような人におすすめです。
ロイシンの摂取目安量は以下のようになっています。この値は体重1kgあたりの目安量です。[※12]
年齢 | 体重1kgあたりの必要量 |
---|---|
0.5 | 73mg |
1~2 | 54mg |
3~10 | 44mg |
11~14 | 44mg |
15~17 | 42mg |
18以上 | 39mg |
成人で体重が50kgの人であれば、1日のロイシン摂取量は1950mgとなります。ロイシンは動物性たんぱく質に多く含まれているため、菜食主義の人は不足しがち。サプリメントや健康食品などで補うようにしましょう。
運動中は、エネルギー消費や筋繊維の破壊が起こります。ロイシンを含むBCAAにはこうした消費や破壊を抑制する働きがあるため、運動前から運動中、運動後にかけて2000mgほどのBCAAを摂取すると筋肉トレーニングに効果的とされています。[※12]
ロイシンの摂取上限は定められていません。
味の素(株)は、ロイシンを高配合した必須アミノ酸混合物製品の開発時に、ロイシンには筋疲労回復効果があるかの評価試験を行っています。ラットとヒトの両方で効果を検討した結果、ロイシンを高配合した必須アミノ酸には、運動によって破壊された筋肉を回復し、筋肉疲労を軽減する効果が示されました。[※13]
イタリアの Azienda Human ServiceのRondanelli Mやノースダコタ大学の Lukaski Hらによる試験では、筋肉量が減り身体能力が低下している高齢者130人を対象に、乳清(ホエイ)たんぱく質・ビタミンD3・必須アミノ酸(ロイシン40%含有)を配合したサプリメントを摂取してもうグループとそうでないグループに分けて比較を行いました。
12週にわたり摂取してもらった結果、サプリメントを摂取していたグループは体重・筋肉量の増加が見られたほか、栄養状態が回復しQOLも上昇しました。[※14]
アメリカのカンピーナス大学のMiyaguti NADSらは、魚油とロイシンを担がん状態にしたラットに与え、肝機能について観察しました。ラットは、「何も与えない」「魚油だけ」「ロイシンだけ」「魚油とロイシンの両方」を摂取する4つのグループに分けられました。
結果、ロイシンを摂取したグループは、肝機能が向上。魚油とロイシン両方の成分を摂取したグループがいちばん良い結果を示しました。[※15]このことから、ロイシンには肝機能を向上させる作用があることがわかりました。
ロイシンを発見したのは、アメリカの生化学者であるウィリアム・C・ローズ教授です。1913年、ドイツのフライブルク大学にて栄養や代謝にかんする研究を行うために留学し、1938年にロイシン・イソロイシン・バリン(BCAA)を含む8種類のアミノ酸を発見しました。
これらのアミノ酸は人間にとって必要不可欠な栄養分であることから、必須アミノ酸の概念が出来上がったのです。
現在では、サプリメントや健康食品にもロイシンは利用されています。食事の量を増やせない人や菜食主義の人でも、ロイシンを補給しやすくなっています。
東京大学大学院総合文化研究科と新領域創成科学研究科に所属する石井直方教授は、ロイシンの効果について著書で次のように記載しています。
「ロイシンには、筋肉中のタンパク質合成を促す作用があることがわかっています。一方、トレーニングそのものにも筋の合成を高めて筋肉を太くする効果があります。つまり、トレーニング後にロイシンを摂取すれば、ダブルの効果が期待できるのです」(石井直方 『確実にやせる筋トレ術』より引用) [※16]
石井教授は、ボディビルダーやパワーリフティング選手としても活躍しています。過去には、日本ボディビル選手権大会で優勝した経験もあります。ボディビルディングはトレーニング科学の最先端をいくスポーツですので、石井教授の発言には説得力があります。
また、ロイシン摂取のタイミングや摂取方法について、次のように紹介しています。
「『トレーニング後、できるだけ早い時期に』を心がけて、ロイシンを豊富に含む食事を摂るようにすればいいでしょう。ロイシンを含むのは分岐鎖アミノ酸、そして分岐鎖アミノ酸が豊富なのは、肉や魚、乳製品や卵ですから、それらを食べればいいわけです」(石井直方 『確実にやせる筋トレ術』より引用)[※16]
ロイシンはトレーニング後30分以内に摂取するのが良いといわれていますが、石井教授の見解では30分以内を厳守する必要はなく、「なるべく早く摂取する」を意識するだけで良いそうです。食品から手軽に摂取しやすい成分なので、筋力アップ目的のトレーニングを行っている人は実践してみてください。
ロイシンは以下の食べ物に多く含まれています。ロイシンは、バランスの良い食事をしていれば、不足しにくい成分でもあります。
食品100gあたりのロイシン含有量をまとめました。[※17]
■ロイシンを多く含む食品(単位:mg)
肉類 | 魚介類 | その他 |
---|---|---|
豚ヒレ肉:3200 | 乾燥かずのこ:7300 | メレンゲパウダー:7300 |
鶏むね肉:3100 | するめ:4300 | ゆで卵:1100 |
豚スモークレバー:2700 | 貝柱煮干し:4100 | 湯葉:4400 |
牛ヒレ肉:2400 | 焼き紅鮭:2200 | パルメザンチーズ:4300 |
食習慣や体質・病気などで体内のロイシン量が減ることがあります。ロイシンが不足すると、肝機能やインスリン分泌が低下します。その分血糖値が上昇し、筋力も低下します。
また、ロイシンは脳内物質のエンドルフィンに似た作用を持っていることから、ロイシンが少なくなるとイライラしてしまうこともあります。
必須アミノ酸は、バランスよく摂取することが望ましいとされています。それは、必須アミノ酸はそれぞれが互いに作用しあっているため。いちばん摂取量が少ないものに合わせて働く性質があるので、摂取量に偏りがあるとうまくはたらいてくれません。
食品単体で考えるのではなく、いろいろな食品を使いバランスの良い食事を心がけることが大切です。以下に、1日に必要な必須アミノ酸量を記載しました。
必須アミノ酸と1日の摂取量目安(体重1kgあたり)
バリン/26mg | ロイシン/39mg | イソロイシン/20mg |
トリプトファン/mg | リシン/mg | メチオニン(システイン)/15mg |
フェニルアラニン(チロシン)/25mg | トレオニン/4mg | ヒスチジン/10mg |
体内に入った食品が分解されるには、酵素が必要です。酵素のはたらきを助けるビタミン類や、体をつくるはたらきを助けるミネラル類などの栄養素も一緒に摂取するようにしないと、ロイシンを摂取しても効果が感じられないかもしれません。
ロイシンを含むBCAAは、副作用として以下の症状を生じる可能性があるとされています。
長期にわたり過剰摂取を続けると、筋肉内で代謝できる容量を超えてしまい、ロイシンは肝臓や腎臓で代謝されることになります。[※18]臓器に負担をかけるおそれがあるため、注意しましょう。
また、BCAAの過剰摂取では、代謝されたケトン体が増えすぎてしまう分岐鎖ケト尿症を発症するおそれがあります。これら過剰摂取により起こり得る症状は毎日60000mg以上のBCAAを毎日・数年にわたり摂取した場合とされています。
ロイシンを代謝する酵素が分泌されない遺伝子を持っていると、メープルシロップ尿症(楓糖尿病)を発症するおそれがあります。
「ナチュラルメディシン・データベース」によれば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が分岐鎖アミノ酸(BCAA)を摂取すると肺機能不全になり死亡リスクが上がるとされ、摂取しないようにと記載があります。[※3]
ロイシンやロイシンを含むBCAAと薬品についての相互作用をまとめました。ハーブやサプリメント・健康食品との間の相互作用は、まだ確認されていません。[※3]
近年、HMBサプリメントが注目を集めています。HMBとは、ロイシンが代謝されてつくられる物質です。正式には、「βヒドロキシβメチル酪酸」「ビス-3-ヒドロキシ-メチルブチレートモノハイドレート」と呼ばれます。
HMBはロイシンが持つ筋肉をつくる・分解を抑制するはたらきを担う物質です。近年はロイシンと合わせてHMBを摂取することで、筋肉の増強や分解抑制効果をより高めることに注目が集まり、HMBサプリメントが開発販売されています。
筋繊維の主成分であるロイシンと、そのはたらきを助けるHMBを同時に摂取することで、筋肉トレーニングの効果がアップするといわれています。