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乳糖の効果とその作用

母乳や乳製品に含まれる乳糖は、カルシウムの吸収を高めたり、腸内環境を整えたりする働きがあると成分です。どのようなメカニズムで体に作用するのか、乳糖の摂取目安量、乳糖が多く含まれている食品などを詳しく解説していきます。

乳糖とはどのような成分か

乳糖はラクトースとも呼ばれています。乳糖はガラクトース1分子と、グルコース(ブドウ糖)1分子から構成される二糖類です。[※1〕

糖質には小腸で吸収するグルコース(ブドウ糖)やフルクトース、ガラクトースなどの単糖類があります。さらに二糖類にはスクロース、ラクトース(乳糖)などが含まれ、多糖類はデンプンやグリコーゲンなどです。単糖類とは最小単位の糖質のことで、2つの糖質が結合したものを二糖類と呼びます。さらに単糖類がグリコシド結合したものが多糖類です。[※2]

乳糖が消化吸収されるには、小腸粘膜上皮細胞の酵素によって分解され単糖へとなり、上皮細胞内に取り込まれる必要があります。単糖に分解されることで小腸上皮細胞内から血管内に入ることができ、肝臓に送られていくのです。乳糖をガラクトースとグルコースに分解するには、ラクターゼと呼ばれる酵素が必要となります。[※2]

乳糖は乳製品のほかに、植物ではレンギョウ花粉に含まれています。牛乳は約4.5%の乳糖が含まれ、母乳中には約7%含まれることがわかっています。母乳に含まれる乳糖は、赤ちゃんの栄養補給や健康維持、発育に欠かせない成分と考えられています。

乳製品であれば牛乳、ヨーグルト、ヨーグルト飲料、乳酸菌飲料、アイスクリームなどからも摂取可能です。[※1]

乳糖の効果・効能

母乳や乳製品に含まれる乳糖には、次のような効果・効能が期待できます。

■骨を丈夫にする働き

乳糖にはカルシウムの吸収を高める作用や、骨代謝改善効果などがあることが知られています。ただしそのメカニズムについてはまだ解明されていない部分が多いのが現状です。

乳糖が多く含まれる食品といえば牛乳ですが、牛乳をたくさん飲むことでカルシウムの摂取につながり、骨粗しょう症予防にもなるという研究データはあります。骨のカルシウムと血中カルシウムは常に交換されており、一定に保つ働きがあります。血中カルシウム量が少なくなれば骨からカルシウムが流出しますが、牛乳からカルシウムを摂取すると血中濃度が高くなり、骨からの流出が少なくなるのです。乳製品の摂取量が多いと小児の骨量が増加や、閉経後の女性の骨量減少を抑制することが、厚生労働省の研究などで報告されています。[※3]

■脂質、糖質、ミネラル代謝の改善

腎臓はカルシウムやリンなどのミネラル調節作用があるほか、ビタミンD活性化にも関わる臓器です。腎機能低下は生活習慣病とも関係があり、ラクトースを短期投与することで、腎臓中のALS活性が上昇することが動物試験で報告されています 。これにより脂質代謝や糖質代謝、ミネラル代謝が増加することが示唆されています。[※4]

■腸内環境を整える働き

乳糖が体内に取り込まれると、腸内細菌の作用によって乳酸や酢酸として変化します。牛乳に含まれる乳糖は難消化性のため、一部が消化されないまま大腸まで届き、腸内細菌の作用により有機酸を発生させます。乳酸や酢酸は大腸壁細胞の栄養として使われ、さらに腸内環境を酸性に傾ける働きがあります。すると善玉菌が優位になり、悪玉菌が住みにくい環境をつくり出すのに役立ってくれるのです。有機酸は腸のぜん動運動を高め、便秘解消にも役立てられます。[※5]

どのような作用があるのか

乳糖にはカルシウムの吸収を高める作用があるとされています。特に牛乳などの乳製品を摂取することで、乳糖とカルシウムが一緒に摂取できるため、骨代謝改善効果だけでなく、骨の成長や骨粗しょう症対策に有効であると考えられています。

いくつもの疫学研究によって乳製品の摂取量と骨密度は関係性がある、という見方が一般的であり、骨折しにくい方は乳製品の摂取量が多いという結論が出ています。

骨量 は個人差があるものの、30代〜40代でピークを迎えると、それ以降は増えることがありません。特に女性は閉経後に著しく骨密度が低下する傾向にありますが、もちろん男性であっても50代以降は骨量が低下していきます。最大骨量を高くするには若い頃にカルシウム摂取量と吸収が不足しないように心がける必要があります。[※6]

乳糖による脂質、糖質、ミネラル代謝の関わりは、動物を用いた研究結果が報告されています。ラットに乳糖を投与したところ、小腸アルカリホスファターゼ(ALP)の活性が増加し、mRNAの顕著な発現が確認されているためです。さらに腎臓におけるALP比活性についても確認されています。[※4]

乳糖による腸内環境改善効果は、乳糖が乳酸や酢酸へと変化するためです。腸内環境の乱れは、ウェルシュ菌や大腸菌などの悪玉菌の割合が増加することから起こります。乳糖から生み出される乳酸や酢酸は、悪玉菌を減らし善玉菌を増やすため、整腸効果があると言えるでしょう。

また、乳酸は大腸の平滑筋の働きを活発にして、腸のぜん動運動を促します。さらに乳酸や酢酸は腸内を酸性に保ち、悪玉菌が住みにくい環境を作ります。コレラ菌や大腸菌は酸に弱い性質のため、腸内を酸性に保つことで増殖を防ぐことが可能です。[※7]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

母乳に含まる乳糖は、新生児や乳幼児の主要なエネルギー源となっています。そのため乳幼児は母乳または人工乳から乳糖を摂取する必要があります。母乳中の糖質の95%は乳糖が占めており、それ以外は脂質やたんぱく質です。母乳に乳糖が多く含まれているのは、新生児の腸内環境を整える働きや、中性脂肪として蓄えられる働きがあるためと言えるでしょう。[※8]

成長期の子どもも乳糖を摂取し、カルシウムの吸収を高める必要があります。高齢者の骨粗しょう症患者の乳製品摂取量を比較したところ、子どもの頃の乳製品摂取量が少ないことが明らかという報告もあります。将来、骨粗しょう症が発生かするかどうかは、子どもの頃の乳製品摂取量が関係していることが示唆されています。また、子どもの頃の骨密度増加が低い場合、大人になって乳製品を摂取しても十分なカルシウムを補うことができないとも結論付けられています。[※6]

乳糖による乳酸や酢酸をつくり出す作用は、小児から大人まで幅広い人が活用できます。特に高齢者になると排便感覚が鈍くなり、直腸性便秘になる方が増えてしまうのです。直腸性便秘には乳酸や酢酸などで腸を刺激することが有効なため、高齢者の便秘対策にも乳糖が有効です。[※9]

乳糖の摂取目安量・上限摂取量

乳糖に関する明確な推奨量は提示されていませんが、骨粗しょう症予防として牛乳や乳製品の摂取量の目安はあります。乳糖を用いて骨を強くし、骨粗しょう症を予防したい場合は、牛乳や乳製品の目安量を参考にしてみましょう。乳製品には乳糖とカルシウムが含まれており、カルシウム摂取によい食品とされています。

若い女性は将来の骨粗しょう症予防のために、できるだけ牛乳や乳製品を摂取することが推奨されています。また、その習慣を閉経後まで継続することが必要です。閉経後の女性は、骨密度をできるだけ減らさないように、毎日コップ1杯の牛乳や乳製品を摂ることが推奨されています。高齢者も骨折予防のために牛乳や乳製品の摂取が必要です。[※10]

また現在、脂質や糖質代謝のためや、腸内環境を整える目的での、明確な乳糖摂取推奨量は提示されていません。

乳糖のエビデンス(科学的根拠)

乳糖によるカルシウムの吸収を高める作用や、骨代謝改善効果は、そのメカニズムがわかっていない部分も多いです。反対に乳糖が含まれる牛乳を飲むことで、骨粗しょう症になりやすくなると心配している方もいるようです。しかし、国内外の骨粗しょう症に関する学会では、牛乳で骨粗しょう症になるという報告はありません。牛乳はカルシウム摂取の食品として適しており、骨粗しょう症予防になるという報告があるため、そのような心配は必要ないでしょう。[※11]

乳製品を多く摂取する欧米人に骨粗しょう症が多いのは、さまざまな要因によるものです。人種的に白人は骨粗しょう症になりやすい体質と言われており、牛乳や乳製品の影響で骨粗しょう症になりやすいという科学的根拠にはなりえません。[※11]

北欧でも骨粗しょう症が多い傾向にありますが、運動量や日光不足、カルシウム吸収などの要因によるものと考えられています。骨粗しょう症を心配して牛乳や乳製品を摂らないより、牛乳を飲むほうがカルシウム摂取につながり、骨粗しょう症予防になるという報告例も世界各国にあるのです。[※3]

研究のきっかけ(歴史・背景)

母乳には乳糖が含まれており、母乳は哺乳類動物にとって子どもの成長に欠かせない栄養素です。そのため、乳糖はそのメカニズムが発見される前から私たちは利用していたことになります。人類は家畜の乳を飲むようになり、乳糖不耐症を持つ人がいることがわかるようになりました。

専門家の見解(監修者のコメント)

専門家によると、乳糖は赤ちゃんにとって必要不可欠な栄養素とされています。

「そこでまずは母乳に多く含まれている乳糖についてまとめます。
  • 新生児の腸内細菌の中心であるビフィズス菌の繁殖を助ける
  • 中性脂肪に変えられて体内に貯蔵される
  • 身体の構成成分となる
  • 体内を循環し、エネルギーを供給する
上記したように、新生児の体内で分解された乳糖はこのような働をしています。」(川本治療所 院長:川本正己「赤ちゃんはなぜ、母乳だけで生きれるのか」より引用)[※8]

母乳に乳糖が含まれることによって、赤ちゃんの腸内でビフィズス菌が増殖し、乳糖が中性脂肪に変わりエネルギー源になります。さらに腸内では短脂肪酸が産生され、脳の発達にも役立っていると考えられています。

乳糖を多く含む食べ物

乳糖を多く含む食品は、牛乳や乳製品です。ヨーグルトなどの発酵食品は、乳糖が20~30%分解されています。チーズは乳糖がほとんど含まれていないため、乳糖摂取目的には適していない食品と言えるでしょう。[※12]

相乗効果を発揮する成分

腸内環境を整える目的で乳糖を摂取するなら、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌やビフィズス菌を摂取することで相乗効果が期待できます。乳酸菌やビフィズス菌も乳酸や酢酸を産生することができるため、乳糖が生み出す乳酸や酢酸との相乗効果が得られやすくなるでしょう。[※7]

乳糖に副作用はあるのか

乳糖を分解する酵素が不足している方や持っていない方は、乳糖不耐症になります。この症状は、子どもより大人に多くみられ、白人よりも東洋人に多いです。乳糖不耐症の方が、乳糖を含んだ牛乳を飲むと下痢になります。これは、乳糖が分解されず大腸に運ばれると、腸内細菌の働きで乳糖が分解され、その際にガスが発生して水分が多くなるためです。[※5]

乳糖代謝経路の先天性欠損や活性低下がある場合、ガラクトース血症になります。日本での発生割合は90万分の1であり、新生児から哺乳開始後までに下痢や嘔吐、食欲不振などの症状が出ることが特徴です。ガラクトース血症になった場合は、乳糖除去が必須となります。[※13]