乳酸菌はプロバイオティクスとして腸内環境を整えるだけでなく、菌が死んだあとでも生菌と同じような生理活性をもつことが確認されています。整腸作用、免疫賦活(ふかつ)作用、がんや感染症の予防、花粉症やアトピー性皮膚炎の症状軽減など、腸だけでなく全身の健康に寄与します。そんな乳酸菌の効果や保健機能についてまとめました。
乳酸菌とは特定の菌種のことではなく、その性質(性状)を持つ菌類の総称です。乳酸菌は乳糖やブドウ糖などの糖類を分解して、乳酸をつくり出します。その種類は非常に多く、現在350種以上が確認されているとも言われています。[※1]
乳酸菌は、チーズ、ヨーグルト、漬け物、醤油、味噌などの発酵食品をつくるのに不可欠な菌として、昔から人間の食生活に深く関わってきました。
近年では、腸内細菌のバランスを整え健康によい影響を与える微生物「プロバイオティクス」として注目されるほか、死菌である殺菌乳酸菌にも生菌と同じような整腸作用、免疫賦活効果などがあることがわかっています。[※2]
おもな乳酸菌には次のようなものがあります。
乳酸菌は「属・種・株」という3つの呼称をもっています。同じ属でも種や株が違えば、機能性も異なります。特定の「菌株」ごとに独自の生理活性や機能性をもつのが特徴です。
たとえば、ヤクルト菌として知られる乳酸菌シロタ株と、亀田製菓が発見した白米由来の植物性乳酸菌K-1は、どちらもカゼイ種の乳酸菌で「生きたまま腸に届く」「お通じをよくする」という共通の特性をもちます。
でも、シロタ株には「花粉症を予防する効果」、K-1には「大腸がんを予防する効果」というそれぞれ別の生理活性があります。[※3]
インフルエンザ予防に効果があると一世を風靡したR-1乳酸菌をはじめ、L-92乳酸菌、KW乳酸菌、プラズマ乳酸菌など、さまざまな菌株からつくられた商品が市場にあふれています。
「アトピー性皮膚炎の改善」「コレステロール値や血糖値上昇の抑制」など期待される効果・効能も多様です。よりオリジナリティの高い機能性をもつ菌株を見つけるため、各企業がしのぎを削って研究を続けています。
乳酸菌には次のような効果・効能があるといわれています。
■整腸作用・便秘の予防および改善
乳酸菌の多くはその整腸作用や腸内環境を改善することで知られています。
■免疫力を高める効果
免疫機能の60%は腸にあるとされるため、腸内環境が改善されることで、免疫機能も強化されると考えられています。
■ピロリ菌を抑制する(胃がんの予防)
乳酸菌が産生する物質などには強い殺菌力があることがわかっており、ピロリ菌などの有害な菌からカラダを守る作用があります。
そのほかにも以下のような効果があることがわかっています。
乳酸菌は腸を通過するあいだに乳酸や酢酸などの有機酸を生成します。ウェルシュ菌や大腸菌を始めとする悪玉菌は酸性環境が苦手なため、その増殖を抑えることができ、腸内環境を健康な状態にたもつことができるのです。特に、ビフィズス菌の生成する酢酸は強い殺菌力をもっており、病原性大腸菌O-157などにも予防効果があることがわかっています。[※4][※5]
乳酸には大腸の平滑筋の運動を促進するはたらきがあるため、便通をよくします。逆に下痢ぎみの場合も症状を改善することが報告されています。[※6]
乳酸菌は腸の消化吸収にも影響を与えます。腸内環境が改善されると一般的に消化吸収がよくなりますが、ぜん動運動が盛んになるため、脂質や糖質の過剰な吸収を防ぐことができるのです。ガセリ菌SPのように、「脂質にはたらきかけて脂肪酸への分解・吸収を抑制する」「内臓脂肪が蓄積する原因となる炎症物質の流入を防ぐ」「脂質の排出を促す」という3つの作用で、内臓脂肪を低減させる乳酸菌もあります。[※7][※8]
菌自体の作用ではありませんが、クレモリス菌などが発酵の途中で産生する菌体外多糖EPS(Exopolysaccharide)は特有の粘性をもつ成分で、腸管をおおって食後の血糖値の上昇を緩やかにしたり、ストレスによる肌機能を改善したりすることがわかっています。[※9]
乳酸菌が免疫力を高める作用には、「腸管免疫」というシステムが関与しています。食事由来の乳酸菌は、その生死に関わらず、腸管に到達すると異物として認識され、腸管および全身の免疫系を刺激するのです。[※10]
腸管免疫では、乳酸菌は小腸の表面にあるM細胞という取り込み口を通って、マクロファージやリンパ球からなるパイエル板という免疫組織に入り、その情報を受け取った樹状細胞が指令を出すことで免疫賦活作用が発動しますが、このとき表面にSlpAというたんぱく質が多い菌ほど、取り込み量が多くなる=免疫賦活作用が強いことがわかりました。[※11][※12]
免疫力が高まるとがん細胞などを撃退するNK細胞が増えます。「悪玉菌を減らすことによって、腸内に発がん性物質や有害物質の産出が抑えられる」「腸内の発がん物質を吸着して排泄する」といった整腸作用との相乗効果で、インフルエンザや風邪など感染症だけでなく、大腸がんのリスク低下につながるのではないかと考えられています。[※13]
ほかにも、「乳酸をエサとする腸内細菌によって酪酸が生成され、それががん細胞にアポトーシスを誘導する」[※13]「食事由来の発がん性物質を減らす」[※14]「腸内でDNAの損傷を修復するポリアミンという物質をつくる」[※15]など、菌株によってがんの発症リスクを抑えるさまざまな保健機能をもっていることがわかっています。
また、ピロリ菌を除菌する作用や、ムチン(粘性物質)を産生して胃の粘膜を保護する作用から、胃がんの予防にも効果が期待できるようです。[※16]
乳酸菌は免疫系を強化するだけではなく、過剰な免疫反応を抑えるはたらきもあります。マウスを使った動物実験では、アレルギー反応に係わるTh1細胞とTh2細胞の量を調節してIgE抗体の上昇を抑え、花粉症やアトピー性皮膚炎の症状を軽減することがわかりました。[※17]
ストレスや快眠に関する作用については、腸への刺激が自律神経を刺激し、脳にはたらきかけることに起因しています。腸を刺激して「幸せホルモン」といわれるセロトニンの放出を促進したり、迷走神経を活発化させて脳の血流を増やし、ストレスホルモンを減らしたりすることで、緊張、不安、憂うつ、不眠などを緩和します。[※18][※19]
近年では、口内環境を整えることで細菌の増殖を抑え、歯周病や口臭を予防する効果のある乳酸菌も見つかっています。[※20][※21]
整腸作用があるので、胃腸の調子が悪い人、お通じが不規則で便秘や下痢ぎみの人におすすめです。
また内臓脂肪の低下作用が期待できるので、ダイエットをしたい人、メタボリックシンドロームを予防したい人も積極的に摂取すべきでしょう。
風邪やインフルエンザなどの感染症を予防したい人、花粉症やアトピー性皮膚炎の症状を緩和したい人などは、日々の食生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
摂取目安量や上限摂取量は特に定められていません。ビフィズス菌研究の第一人者として知られる東京大学名誉教授の光岡知足先生は、過去の実験で、十分な効果を得るためには1日1兆個の乳酸菌(生死に関わらず)を摂取する必要があることを明らかにしています。[※10]
殺菌乳酸菌(死菌)を配合したサプリメントも、1日の目安量を乳酸菌1兆個としているものが多いようです。
財団法人日本健康・栄養食品協会(JHNFA)が定めた「乳酸菌(生菌)利用食品」の規定では、1gあたり1×10の8乗個以上の生菌を含む規格原末の1日の目安量を5gとしています。(菌数にして5億個)[※22]
武庫川女子大学国際健康開発研究所とフジッコ株式会社の共同研究によって次のようなことがわかりました。
女子大生75名を対象に、クレモリス菌FC株を含む発酵乳を1日200g、8週間摂取してもらったグループとプラセボ群の比較実験を行いました。
その結果、発酵乳を飲んだグループは、排便日数、排便回数、排便量すべてにおいて有意に改善されていました。
また、発酵乳を飲んだグループのうち便秘傾向だった学生は、排便回数が大幅に増加するなど顕著な改善をみせました。
これにより、クレモリス菌FC株を含む発酵乳には整腸効果があり、便秘の改善を期待できることがわかりました。[※23]
17世紀ごろにはすでに、歴史上初めて顕微鏡を使って微生物を観察し、「微生物学の父」と呼ばれるオランダの科学者・レーウェンフックによって発見されていたといわれています。その後、「近代細菌学の開祖」とされるパスツールによって本格的な研究が始まりました。
1899年には、パスツール研究所のティシエが、乳酸菌の1つであるビフィズス菌を発見します。その翌年、オーストリアのモローがアシドフィルス菌を分離したことが確認され、乳酸菌の特定に関する研究が進みました。[※24]
20世紀の初頭、パスツール研究所のメチニコフは、ブルガリア南部に長寿者が多いのを見て、その秘密は彼らが常食とするヨーグルトにあると考えます。そして、乳酸菌が腸内に定着して悪玉菌の害を抑えて健康に寄与する「ヨーグルト長寿説」を唱えます。
これがきっかけとなり、ヨーロッパではヨーグルトが大流行。そして、発酵乳や乳酸菌の栄養・生理学的な効果についての研究が世界中に広まっていったのです。[※25]
乳酸菌はプロバイオティクスの代表として挙げられる微生物ですが、死菌であっても生菌と同じような免疫活性をもっています。そのため、前述の東京大学・光岡先生は、乳酸菌に対して「バイオジェニックス」(腸内フローラを介することなく直接生体に作用して生理活性を発揮する物質)という新しい定義を提唱しています。
「生菌を主とするプロバイオティクスや、エサとなって増殖を促すプレバイオティクスと区別するために、加熱されて死菌となった乳酸菌をはじめとして、生体に直接作用し、免疫機能促進や抗酸化作用などをもつビタミン類やフラボノイドなどをバイオジェニックスと呼んでいます。人間の免疫機能を向上させるためにもっとも重要なのがこのバイオジェニックスなのです」[※26]
多種多様な生理機能性をもつ微生物の場合、どこまでが生菌でどこからが死菌の作用であるか、その境界がはっきりしないことも多いといいます。
プロバイオティクスに関する研究が進めば、そのラインがやがて明らかになるかもしれません。
また同時にプレバイオティクス(最近のエサとなるオリゴ糖や食物繊維)を摂取することによって、乳酸菌などの菌類増殖を促進することもわかっており、このプレバイオティクスにも注目が集まっています。
ヨーグルトや乳酸菌飲料には多くの乳酸菌が含まれています。一方、チーズや漬け物などの発酵食品には、あまり含まれていません。食生活に取り入れるならば、ヨーグルトや乳酸菌飲料を選ぶようにしましょう。
乳酸菌の数を多く摂るならば、サプリメントにはかないません。200mlのヨーグルトには約20億の乳酸菌が含まれていますが、殺菌乳酸菌を錠剤にしたサプリメントならば、わずか数グラムで1~2兆の乳酸菌を摂取することができるのです。[※27]
食物繊維やオリゴ糖など、乳酸菌の「エサ」となる物質を摂取するとより乳酸菌が効果を発揮しやすくなるでしょう。プルーンなどのドライフルーツを混ぜたり、オリゴ糖で甘みをつけたりするのはいかがでしょうか。
乳酸菌は酸に弱い(腸まで届かない)ので、胃酸の影響を受けにくい食後にとるのがおすすめです。
ただし、製品によっては「腸まで届く乳酸菌」などとうたわれていることもあるようです。
腸内の善玉菌でもあります。乳酸菌自体に副作用はなく、乳酸菌をつかった健康食品も摂りすぎなければとくに問題はありません。