2014年ごろからさまざまなメディアでクルミの成分が注目されるようになり、一時店頭からなくなるくらいのブームになりました。クルミに多く含まれるn₋3系脂肪酸には、コレステロール値などを下げるなど生活習慣病の予防効果があるといわれています。クルミがどのような種実なのか、その効果や食べ方などを説明していきます。
クルミ(胡桃)は落葉高木で、主な生産地は、中国やアメリカのカリフォルニア。世界に流通しているクルミのほとんどを占めます。日本では長野県がダントツトップで、他は青森県や山形県などで生産しています。
ヒメグルミ・オニグルミなどの種類は昔から食用され、現在は改良された信濃グルミの系統が中心に出回っています。[※1]
日本の原産種はオニグルミで、非常に硬くて殻は厚みがあり実の部分が取り出しにくいですが、濃厚な味が特徴で収穫時期は9月下旬~12月ごろです。
むいたクルミは酸化しやすいので早め食べるか、タッパーなどで密封し涼しい場所で保存します。
クルミの主な栄養成分はカリウム、ビタミンB1、ビタミンB6、葉酸、ビタミンE、多価不飽和脂肪酸などです。[※2]
特に、多価不飽和脂肪酸のn₋3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)のひとつであるαリノレン酸がナッツ類の中でもっとも多く含まれ、健康志向の高い人に注目されています。また抗酸化物質のポリフェノールがクルミの皮種部分のみに多く含まれています。[※3]
クルミポリフェノールは加水分解型で構成され、主な種類はタンニンの一種であるペドゥンクラジン、エラジ酸、テリマグランジンⅠなどです。100~120度の1時間の加熱でもポリフェノール含有量は安定していて、pH試験では、酸性から中性でpHが安定する特徴があります。[※4]
クルミには、メラトニンが含まれています。[※5]メラトニンとは動物、植物などに存在するホルモンで、ヒトにおいては体内時計をコントロールする役割や、がん抑制、アルツハイマー病やパーキンソン病などの疾患の緩和などのはたらきが期待できる成分です。
クルミには次のような効果があるといわれています。
■血中コレステロールや中性脂肪の低下作用
クルミに多く含まれる食物繊維や脂肪酸のはたらきにより、コレステロールや中性脂肪が下がるとの研究結果が発表されています。[※6]コレステロールは体に欠かせない脂質で、細胞膜の材料、胆汁酸の生産、ステロイドホルモンの生産など重要な役割を果たす物質です。
■美容効果や老化防止効果
クルミには抗酸化物質のポリフェノールが多く含まれます。また、ビタミンEも含み、老化防止に効果を発揮すると考えられています。
万病の元である体内の活性酸素を減らすには、抗酸化物質を含む食品を摂取することが大事です。
抗酸化作用がある物質としては、β₋カロテン、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどがあります。
■不眠症予防作用
クルミに含まれるメラトニンによって、睡眠リズムを整え、不眠症を改善できる可能性があります。クルミを食べることで血中のメラトニン濃度が上昇します。[※5]メラトニンは睡眠ホルモンともいわれ、体内の生活リズムを調節するはたらきがあります。[※8]
■中性脂肪低下
クルミに含まれるオメガ3(n₋3系)脂肪酸は中性脂肪を下げる効果があります。クルミにはオメガ3脂肪酸の一種、α₋リノレン酸が豊富に含まれるのですが、α₋リノレン酸はDHAやEPAを作り出す材料になります。
DHAやEPAには中性脂肪を下げる作用があるため、動脈硬化や高血圧など血管系疾病の発症を抑制するはたらきがあると考えられています。[※9]
クルミに多く含まれるαリノレン酸は、コレステロール値や中性脂肪の低下に効果が期待できます。[※6]
α₋リノレン酸は青魚などに豊富に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(イコサペンタエン酸)と同じオメガ3脂肪酸(n₋3系脂肪酸)で、悪玉コレステロールを減らし、高血圧や糖尿病の予防にもつながるとしてその健康効果が注目されています。[※10]
また細胞の酸化を防ぐ抗酸化物質がクルミには豊富に含まれます。活性酸素などが増えると、細胞が傷つき老化の原因になります。クルミの抗酸化物質はナッツのなかでもダントツに多く、老化防止に役立つことが期待されています。
[※6]
食事バランスが悪い人、魚を食べない人、偏食な人、美容に関心がある人、コレステロールが高い人などに摂取してもらいたい食材のひとつです。
近年では心疾患や糖尿病予防、がん予防に効果があるとの研究結果もありますが、脂質が多い食品なので、食べすぎには注意。
医療機関を受診されている人はかかりつけの医師や管理栄養士との相談の上、適切な摂取量を摂るようにしましょう。
クルミの摂取の、目安量はありませんが、n₋3系脂肪酸の目安量で換算してみると、クルミ100g中13.3gのn₋3系脂肪酸を含みます。[※11]
例えば、18~49歳女性の場合 n₋3系脂肪酸の1日目安量は1.6gです。[※12]
クルミのn₋3系脂肪酸含有量からで換算すると約12gで、5~6粒に相当します。食べても1日5~6粒程度で十分なn₋3系脂肪酸を摂取できます(n₋₋3系脂肪酸の1日目安量は年齢・性別により異なります)。
上限摂取量はありませんが、炒りクルミの栄養価は100g中674キロカロリーあります。たとえば、30~49歳女性の場合、一日の推定エネルギー量は2000キロカロリーです。[※13]
もし100g食べた場合、約1食分(1日の1/3量)の摂取カロリーに相当しますので、過剰摂取は避けましょう。12g食べた場合、約81キロカロリーのエネルギー量に相当します。
■スペインで高コレステロールの男女49名を対象にクルミを6週間摂取させたところ血中トリグリセリド、LDLコレステロールが減少、HDLコレステロールの増加がみられました。[※14]
■フランスでは食事と血中コレステロールの関係を調査したところ、クルミを摂取している人が、HDLコレステロール値が増加する傾向が見られたと示唆されています。[※15]
■オーストラリアで2型糖尿病患者58名を対象とした試験で6か月間、低脂肪食、又は低脂肪食に30gのクルミを含めた食事をそれぞれ摂取し比較しました。その結果、HDLコレステロールとHDL/総コレステロール比の増加がみられましたが、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、体脂肪、体重などには影響がありませんでした。[※16]
■2017年、ハーバード大学医学部で肥満の被験者10名を対象にクルミ48g(米国糖尿病協会(ADA)のガイドライン推奨量)入りスムージーを、5日間2回摂取し、食欲との関係を試験しました。その結果、脳のはたらきを活性化がみられ食欲を抑制効果がありました。[※17]
■2017年8月、クルミ摂取による腸内の善玉菌増加について試験が行われました。ラットに、人間で約57gに相当する粉末状クルミの餌、一方はクルミなしの餌を10週間与えました。その結果、クルミ入りの餌を食べたグループは有益な細菌(乳酸菌のクラトバチルスやルミノコッカスなど)が増加しました。このからクルミ摂取が腸内環境に影響すると考えられます。[※18]
クルミの歴史は紀元前7000年前から食用としてされた最古のナッツともいわれています。日本でも縄文時代の遺跡からも発見され、DNA鑑定により野生種ではなく栽培されていたことが証明されました。[※1]
クルミなどに含まれるn₋3系脂肪酸は医療現場でも治療に効果あると認識され、効果が期待され、重要なはたらきをすると考えられています。
医療法人社団池谷医院 院長の池谷敏郎先生によれば、「医療現場でも食習慣を整えてくれるオリーブオイル的なものがありますが、それだけで治療するよりは、オメガ3(n-3系)脂肪酸のEPAやDHAを併用することで、より明らかに乱れた食習慣が整ったというデータが日本で得られています。
その結果、私たちの医療現場でも、健康を維持し食習慣を整えてくれるEPAやDHAといったオメガ3(n-3系) 脂肪酸の油が重要と認識されるようになりました。オメガ3(n-3系) 脂肪酸を摂ることによって様々な予防につながる可能性が高いと思います。[※19]」(健康をサポートする食を考える
対談 「取るべき油、摂らない油 ₋オメガ3(n₋3系)脂肪酸について₋」より本文引用)
クルミは「むきグルミ」として売っている状態がほとんどですが、日本の生産地1位の長野県東御市周辺では殻のままで売っているのをよく見かけます。
「クルミ割り器」も色々な種類があり、硬い殻でも簡単に割れ、中身をきれいに取り出せるものもあります。クルミ割り器がない場合は、コンクリートに新聞をしき、トンカチでたたくと簡単に割れます。
長野県東御市は「クルミの町」とよばれ、クルミの栽培で有名ですが改良を繰り返し「手でも殻が割れるクルミ」が販売されています。[※20]
旬の山菜(うど・こごみなど)や野菜をゆで、信州味噌、砕いたクルミ、砂糖少々加えた「クルミ和え」など、長野県では昔から日常的にクルミを使用した家庭料理が親しまれています。その他、東日本を中心に身近な食材だったとされています。
料理では、クルミ入りサラダ、炒め物(じゃことクルミの甘辛炒め)などいろいろな料理にあう食材です。
その他、黒糖クルミ、クルミゆべし、クルミパン、クルミケーキ、クルミクッキー、クルミ入りブラウニーなどいろいろな菓子などにも使用されています。
コンビニやスーパーでも手軽に買えるので、そのまま食べても美味しく、おやつ代わりに食べても歯ごたえがあり、満足感を得られる食材です。
クルミは、活性酸素を阻害する抗酸化作用があるビタミンEが含まれているので、抗酸化ビタミンのβ―カロテンやビタミンCを含む食品を一緒に摂取すると抗酸化作用が高まります。
副作用は発表されていませんが、ナッツアレルギーやクルミアレルギーがある方は摂取を避けましょう。