アメリカのNASA(米国航空宇宙局)が、21世紀の主要食になると発表し、スーパーフードとして注目され、流行したキヌア。雑穀のなかでも栄養価が高く様々な作用が期待されています。キヌアがどのような穀類なのか、栄養素や作用、安全性などについて説明していきます。
キヌア(キノア)とは、ヒユ科アガサ属の植物で、原産地はアンデスです。アンデス高地の人々の主食とされている食材です。
主な生産地は、ボリビアやペルーで、日本でも山梨県や長野県で生産されていますが、少量のためほとんどが輸入品です。
脱穀した種子を食用し、成熟した種子は、直径1~2mmの円形で、厚さは0.5mmの小さな粒で、種子の外皮は白・黄色・紫・黒などあり、脱穀すると種子部分は白や黄色です。
主な栄養成分は、カルシウム、鉄、マグネシウム、葉酸、ビオチン、食物繊維などで、穀類のなかでも栄養価が高く、いろいろな栄養素が含まれています。また、サポニン類、フィチン酸を含みます。[※1][※2]
キヌアは、気候条件の幅が広く、マイナス4度から35度までと栽培でき、困難な状況でも栽培可能なため低コストなどの特徴があります。
キヌアには次の効果があると考えられます。
■腸内環境を整える作用
キヌアには食物繊維を多く含むため、腸内環境を整える効果が期待できます。キヌアの食物繊維は100g中6.2gで、水溶性食物繊維1.5g/不溶性食物繊維100g中4.7g含まれます。
腸内細菌のバランスが崩れる原因としては、ストレス、運動不足、偏食、食事時間が不規則など様々な原因があり、便が排泄できなく便秘になります。便秘とは「排便が1週間に3回未満の状態」ですが、便秘になると体に不要なものを排泄できないので、肌荒れなどの症状があらわれます。
■コレステロール低下作用
キヌアは水溶性食物繊維を多く含むためコレステロールを下げる働きがあると考えられます。コレステロールは体内に欠かせない脂質のひとつです。
コレステロールは肝臓で胆汁酸になり、胆汁として十二指腸に分泌されます。ほとんどは腸で再吸収され肝臓にもどりますが、小腸に水溶性食物繊維があると胆汁酸につき、便として排出されます。
■高血圧予防
キヌアの栄養成分のカリウムは、100g中に580㎎、含まれ、食物繊維(上記参照)を豊富に含むため、高血圧予防作用に期待できると考えられます。
血圧とは、心臓からの血液が血管の壁にかかる圧力のことで、血圧が高い状態が続くと血管がもろくなり動脈硬化など、さまざまな病気の原因となります。
野菜や果物には血圧を下げる働きがあるカリウムや食物繊維が含まれています。
■貧血予防
キヌアは、造血作用がある葉酸が100g中190gと豊富に含まれ、鉄は100g中4.3g含まれているため、貧血予防に最適な食材です。
ただし、鉄の吸収を妨げるフェチン酸も同時に含まれるので、大量摂取は控えましょう。
上記の栄養成分は100g中に含まれ栄養価が豊富な食品ですが、キヌアだけを毎食100g食べることは難しいため、あくまでも補助食品として取り入れるとよいでしょう。[※3]
■更年期予防
キヌアには、フィトエストロゲンが含まれ、更年期症状に期待できると考えられています。
決定的なエビデンスはありませんが、フィトエストロゲンによる治療がほてりと寝汗をわずかに減少させると報告がありました。[※9]
食物繊維が豊富まれるため、便秘解消や、コレステロールを体外に排出する、高血圧予防などです。また血糖値やインスリンの急上昇を抑える作用があると考えられます。
植物エストロゲンは、エストロゲンと似た構造から、エストロゲン様作用が報告されています。
腸内環境を整えたい人、栄養バランスを整えたい人、サプリメントではなく食品からビタミンやミネラルを摂取したい人、高血圧を予防したい人などに摂取してもらいたい食材のひとつです。
キヌアの上限値としては設定されていませんが、栄養が豊富に含まれるからとキヌアだけ大量に食べることは避けましょう。
キヌアのカロリーは100g中359kcal、精白米は100g中358kca[※2]と、ほとんど同じエネルギー量があります。
他の雑穀に比べ食物繊維やミネラルが多いことで注目されていますが、キヌアだけに特別な成分が入っているわけではありません。
他の食材とバランスよく使用するのをおすすめします。
■キヌアなどの全粒食品を摂取している高齢者は、ほとんど摂取しない人に比べ長寿であることが確認され医学誌に掲載されました。
米国で1990年~2009年に50歳~71歳の約37万人対象に、パンやシリアルなどの穀物製品に使用される全粒穀物種子の摂取量に着目し追跡調査が行われました。
その結果、全粒穀物に含まれる繊維質の摂取量が多いほど、がんや糖尿病になる比率も低くなり、死亡数が少ない結果となりました。そのため、キヌアを含め全粒穀物に摂取でさまざまなリスクを低下させると考えられています。[※5]
■各疾患マウスを用いてキヌアを与えたところ、大腸炎の疾患に体重減少や血便減少がみられ、腸炎が抑制されました。
動物試験のため信頼性は低いですが、大腸炎の改善になんらかの効果が期待できると考えられています。[※6]
アンデス地域では、インカ帝国の遺跡などから、キヌア貯蔵倉庫が発見されるなど、昔から主食として食べられていたことがわかりました。
約5000年以上前から栽培され、インカ帝国の、皇帝はキヌアに敬意をあらわし、種まきの時期には儀式が行われていたとされています。
またキヌアは栄養価が高いため、アメリカのNASA(米国航空宇宙局)が「21世紀の主要食になる」と発表し、世界中から注目され流行しました。
2013年には、国連食糧農業機構(FAO)が「国連キヌア年」と定めました。この国連キヌア年は、「キヌアの生産や持続的販売に協力する、キヌアの性質など一般的な知識の向上、キヌアの利用を多様化する」などの目的で計画された、国際的なキャンペーン。世界中の幅広い層のキヌア支持者を対象に、飢餓の緩和の可能性に働きかける活動をしています。[※7]
世界のスーパーモデルが愛用し、さらに注目されるようになり、日本でも2014~2015年に流行しました。メディアや雑誌で取り上げられるようになったことから日本でも認知度があがり、最近では近所のスーパーでも手軽に手に入るようになりました。
キヌアと、同じ南米産雑穀のアマランサスの食品栄養学的研究をしている大阪市立大学大学院生活科学研究科の小西洋太郎教授によると、
「他の雑穀に比べて、まずタンパク質の含有量が多いうえに、私たちの体に不可欠な必須アミノ酸組成が優れていることが挙げられます。またカルシウムやマグネシウム、鉄、亜鉛などの必須ミネラル、食物繊維が多いのも特徴です。
そのことから血中と肝臓のコレステロールの低下作用や抗酸化活性、血圧上昇の抑制作用が認められています。こうしたことから、アンチエイジングや動脈硬化、高血圧の予防が期待されているわけです」
(AERdot. 週刊朝日 小西洋太郎教授 取材記事 引用)[※8]
と解説をしています。
人体試験の文献は見当たりませんが、キヌアに含まれる栄養素が、これからの研究に期待できると考えられています。
キヌアは脱穀したものを加熱して使用します。主な用途は、白米に混ぜて炊く、スープの具、サラダ、パン・お菓子に混ぜる、など幅広く使用されています。
生産地のペルーやボリビアは山岳地帯で、標高が高いので、平均的に気温が低く、特に朝晩が冷えこむため、キヌア入りの温かいスープが定番料理として、昔から親しまれています。
サラダなどに使用する場合は、茹でる、又は炊いておくと手軽に摂取できます。水溶性栄養素を多く含むため、水に溶けやすく、茹でこぼすと、水に溶けて出てしまうため、炊く、炒める、煮るなどの調理法がおすすめです。
炊飯釜に洗ったキヌア1カップを加え、水1カップを入れ、炊飯器で通常通り炊きます。
粗熱がとれたら容器に入れ、2~3日冷蔵庫での保存が可能です。冷凍の場合、2週間ほどを目安に使いきりましょう。
鉄の吸収を阻害するフィチン酸が含まれるため、鉄の吸収を高めるビタミンCを一緒に摂取しましょう。ビタミンCが多い食品としては、ブロッコリー・ピーマン、レモンなど野菜や柑橘類に含まれます。
キヌアにはアレルギーによる報告があり、アナフラキシーを起こした症例があるため、注意が必要です。
種子の表面には、毒性のあるサポニンがあり、血液に入ると赤血球を破壊する働きがあります(水溶性のため、洗うと水に溶けて除去できます)。