イソフラボンとは大豆胚芽に豊富に含まれるフラボノイドの一種です。女性ホルモンと似た働きを持つことが知られます。日本人は昔から大豆食品の摂取量が多く、含まれるイソフラボンは日本人の健康を支え続けてきた成分のひとつとも考えられています。ここではイソフラボンの効果効能・研究成果・摂取目安量などについて詳しく解説します。
跡見学園女子大学 石渡尚子先生監修
イソフラボンとは大豆や葛(くず)などの豆科の植物に多く含まれている成分で、フラボノイドの一種です。私たちの女性ホルモン(エストロゲン)と分子構造が似ていることから、植物性エストロゲンとも呼ばれています。
ちなみにエストロゲン(卵胞ホルモン)とは、思春期頃から分泌がはじまり、女性の月経周期の調節を中心に、第二次性徴の発現や妊娠・出産、自律神経の安定や骨の健康維持、脳の働きの活性などにも関与している重要なホルモンのひとつです。
イソフラボンは特に大豆、または大豆加工食品に多く含まれます。イソフラボンにはいくつかの種類があり、大豆やほとんどの大豆食品に含まれるイソフラボンは「配糖体」として存在しています。
配糖体として摂取されたイソフラボンは、腸内細菌などの作用によって糖部分が外され、消化管から吸収されます。この糖が外れた構造のものを「アグリコン型イソフラボン(イソフラボンアグリコン)」といいます。
このアグリコン型イソフラボンにも細かくは複数の種類があります。最初からアグリコン型イソフラボンを摂取することで、吸収速度や吸収量が高まるといわれます。
そして味噌や大豆発酵食品の中にアグリコン型イソフラボンが多く含まれることも解明されています。[※1] [※2] [※3]
イソフラボンには以下のような効果・効能が期待されています。
■更年期障害の症状の緩和効果
大豆イソフラボンの継続摂取(2か月以上)で、更年期障害の症状、なかでもほてり・耳鳴り・めまいなどの症状が緩和されることが報告されています。[※4]
■骨粗しょう症の予防効果
骨粗しょう症の予防に一番大切な運動に加え、イソフラボンを摂取することで閉経後の靴粗しょう症の予防、骨密度低下の抑制効果があることが報告されています。[※5]
■美肌効果
女性ホルモンの減少により失われがちな肌の弾力やシワの増加が、イソフラボンの摂取で緩和される効果が報告されています。[※4]
■高脂血症・生活習慣病の予防効果
女性ホルモンの減少でコレステロールや中性脂肪が上昇しやすくなりますが、イソフラボンの継続摂取で緩和することが報告されています。[※4]
■女性ホルモン依存性がんの発症予防効果
疫学調査で、乳ガン・子宮ガン・卵巣ガンの発生率について、大豆製品の摂取量の多い日本や東南アジアが欧米よりも低く、大豆イソフラボンの摂取量とガンの発生率とは、大きな関係があると考えられています。[※6]
■アンチエイジング効果
大豆イソフラボンの中でもゲニステインには強力な抗酸化作用が報告されていて、体内で発生した活性酸素を中和する効果が報告されています。[※7]
大豆イソフラボンは植物エストロゲンともいわれ、化学構造が女性ホルモンのエストロゲンに似ているため、体内でエストロゲン受容体に結合するという特徴があります。
そのため促進的(足りなければ補う)、あるいは競合的(過剰であれば、先に受容体に結合することで過剰を抑制する)に、エストロゲンと似たような働きをすることが、イソフラボンがさまざまな効果を発揮するメカニズムと解明されています。[※5]
ちなみに配糖体のイソフラボンはエストロゲン受容体には結合できず、アグリコン型であると受容体に結合し、さまざまな生理機能を発揮します。
一般的に、エストロゲンの分泌は20〜30代は安定しているものの、40代からは減少することが知られており、とくに40代中盤以降の更年期は、この女性ホルモンの揺らぎにより更年期障害に悩まされる女性が少なくありません。
植物性エストロゲンともされる大豆イソフラボンを摂取しておくことで減少するエストロゲンを補うことができる、と考えられるため、特に40代後半を迎えた女性の更年期障害や骨粗しょう症予防に有効と考えられています。
一方、国内で女性の乳がんや男性の前立腺がん罹患者の増加していることについても、大豆製品の摂取量の減少との関係を指摘する研究もあります。植物性イソフラボンを十分に摂取していることで、エストロゲンの過剰を抑えることが、発がん抑制につながるのではないかと考えられているのです。[※7]
実際、大豆製品の摂取量が多いアジア諸国では乳がん・前立腺がんの発症率が欧米諸国と比較して低い、という疫学研究報告もあります。[※5] [※7]
またに日本国内でも味噌汁の摂取が多いほど乳がんになりにくいといったコホート研究結果が報告されているのです。[※8]
健康食品、あるいはサプリメントとしてのイソフラボンの摂取は、とくに40代以降の女性や、40代以降の女子で更年期障害を予防・緩和させたい人、いつまでも若々しくありたい女性、また豆類や大豆製品の摂取が少ない中高年の男女におすすめできるといえます。
2000年に厚生労働省から発表された「21世紀における国民健康作り運動(健康日本21)」によれば、豆類の摂取量については、1日76g〜100g以上が目標とされています。
平成27年の「平成27年国民健康・栄養調査」(厚労省)によれば、日本人の豆類の摂取量は1日平均60.3gとされ、特に40歳代以下が平均摂取量を下回るとされていますので、意識して摂取するとよさそうです。[※9]
イソフラボンの食品健康影響評価が食品安全委員会で行われ、大豆イソフラボンに関する安全評価については2006年に完了しています。
その報告によれば、日本人は日常の食生活で大豆食品を摂取していることを前提とし、それに加え「特定保健用食品でイソフラボンを継続的に上乗せして摂取した場合」、大豆イソフラボンの安全な上乗せ摂取量の上限値は30mgと設定されています。
さらに、日本人の食生活における日常的な大豆イソフラボンの1日の摂取目安量の上限は70〜75mgと設定されています。
食品安全委員会の報告によれば、大豆製品から摂取するイソフラボンと、健康食品(レポートではトクホ商品を指します)から摂取するイソフラボンの1日の合計摂取量が70〜75mgの範囲内に収まるのが望ましい、ということです。
また、この報告では妊婦、胎児、乳幼児、小児については食品に上乗せして摂取することは推奨できない、としています。[※10]
大豆食品の代わりに大豆イソフラボンの健康食品やサプリメントを摂取するのは望ましくないとしていますが、大豆そのものの安全性や有効性については認めていますので、あくまで適正範囲で摂取することが望ましいといえます。
大豆イソフラボンのエビデンス(科学的根拠)については多数報告があります。主なものとして以下のようなものがあります。
■閉経後女性の骨密度の維持
この機能については「機能性表示食品」として認められているものもあります。閉経後の女性の骨密度はエストロゲンの減少とともに低下しますが、大豆製品や、アグリコン型イソフラボンの継続摂取で骨密度の増加が報告されているのです。[※11]
■2型糖尿病に対する有効性
閉経している2型糖尿病の女性が大豆イソフラボンを摂取することで、血糖値の低下、LDLコレステロール血の低下、インスリン耐性の改善などが報告されています。[※3]
■更年期障害の緩和
大豆イソフラボンの摂取で、更年期女性のほてりの頻度や重症度を減少させる研究結果が認められている一方で、認められないという報告もあります。[※3]
■イソフラボン摂取と妊娠中うつ予防
愛媛大学が主導した共同チームの研究で、妊娠中に大豆製品、イソフラボンを摂取することで、妊娠中うつ症状に予防的な関連があることを発表しています。[※12]
大豆イソフラボンの存在は1930年頃から知られるようになったとされますが、構造や機能性の研究については1990年代から急速に進められ、現在も世界各国で研究が進められています。
1990年代にイソフラボンが注目された背景にはアメリカ国立がん研究所であるNCIが「デザイナーズ・フード・プログラム」として「大豆」を有力食品のひとつとしてリストアップしたからです。
また日本人の長寿と食生活、和食(大豆摂取量の多さ)の関係にも注目が集まり、疫学的にも大豆や大豆イソフラボンに注目が集まったことも理由のひとつでしょう。[※13]
近年、イソフラボンの研究が進むにつれ、大豆イソフラボンから代謝されてつくられる「エクオール」という成分にも注目が集り、「スーパーイソフラボン」「高機能イソフラボン」として注目されています。このエクオールはアグリコン型イソフラボンよりも更年期障害の症状緩和や骨粗鬆症の予防に対する効果が高いとされているのです。
ただしイソフラボンからエクオールを産生する能力には個人差があり、日本人でも2人に1人しかエクオールが作れないとされています。
エクオールを作れるかどうかの違いは腸内細菌叢にあるとされ、現在は、大豆イソフラボンが速やかにエクオールに代謝されるための食品開発に期待が寄せられています。[※14]
跡見学園女子大学 マネジメント学部で教授を務める石渡尚子先生は、当サイトの中で大豆イソフラボンについて以下のように話しています。
「オススメは一日2食大豆製品を食べること、そしてベジファースト(野菜から食べよう)ならぬソイファースト(大豆から食べよう)です。
1日1食大豆製品を加えるだけなら簡単ですが、変化は起こりにくいです。でも1日2食にすると3食のうち1食はおそらく和食よりになります。
そのため食事のバランスが自然に改善され、腸内環境も整うのです。しかも大豆製品はコンビニでも売っていますから、誰もが続けられます。
ベジファーストもいいですが、1食分の食物繊維の量は大豆のほうが多い(丸まま食べた場合)ので血糖値のコントロールにより役立ちます。
また、大豆は女性だけでなく、男性の前立腺がん予防や血中脂質の改善にも有効です。一時期、大豆イソフラボンの1日摂取量が話題になりましたが、食品で摂る限り1日3食大豆製品を食べてもなんの問題もありません。
もちろん健康に役立つ成分でも摂り過ぎはよくありません。いろいろなものを食べることは腸内環境を整えるだけでなく、食品によるリスクを低減することにもなるのです。
そのことを頭にいれて、大豆製品を日々の食生活に取り入れてください。」
(「サプリ」専門家インタビューより引用・抜粋)[※15]
大豆イソフラボンは、大豆加工食品のほとんどすべてに含まれています。しかし原料となる大豆の種類や製造方法の違いなどによって、イソフラボンの含有量は異なるとされています。
食品安全委委員会の評価では、
各大豆食品 100g中の中に含まれる大豆イソフラボン(アグリコン型として)の含有量が記載されています。
尚、同レポートでは平成14年の「国民栄養調査」の結果をもとに、大豆、大豆製品、醤油、みそなどの食品摂取量から試算した大豆イソフラボンの摂取量について16〜22mg/日、と報告しています。[※1]
大豆イソフラボンと相性の良い成分として以下の成分があります。
■乳酸菌
「スーパーイソフラボン」「高機能イソフラボン」とも呼ばれる「エクオール」は大豆イソフラボンから腸内細菌によって作られますが、乳酸菌の「ラクトコッカス20-92」「ビフィズス菌ブレーベ15700」「ビフィズス菌bb536」という成分が、エクオール産生菌ともいわれ、イソフラボンがエクオールに代謝するのを手伝う乳酸菌であることが解明されています。[※16]
どんな乳酸菌でも摂取することはよいことですが、エクオール産生菌とされる乳酸菌を意識してみるのもひとつです。
■明日葉カルコン
明日葉に含まれ、明日葉特有の機能性成分とされる「カルコン」。この明日葉カルコンと大豆イソフラボンの相乗効果で、カルコンのアディポネクチン増強作用が高まることがタカラバイオ株式会社によって報告されています。[※17]
アディポネクチンは「スーパー善玉ホルモン」といわれ、メタボリックシンドトームの予防にも重要なホルモンです。
■ビタミンC、E
ビタミンCやEにも抗酸化作用があり大豆イソフラボンとの相乗効果が期待できます。
食品から摂取する大豆イソフラボンについては問題となるような副作用、健康被害の報告は今のところないようです。
また大豆を1日60g(イソフラボンとしては最大185mg)4か月摂取した研究と、大豆イソフラボン90mgを2か月摂取したいずれの試験でも安全性が確認されています。
注意すべき人としては
とされています。
アグリコン型サプリメントを長期間・高用量摂取した場合の安全性についてはわかっていないため、食品安全委員会の指針である1日の摂取目安量の上限値(70〜75mgアグリコン型として)を守ったほうがよいでしょう。
ただしこの上限値は毎日欠かさず長期間摂取する場合を想定していて、大豆食品からの摂取量がこの上限値を超えたからといって健康被害に直結するわけではない、と強調しています。
またこの上限値に関しては多数の専門家からも疑問視する声が上がっています。農林水産省は「大豆イソフラボンの過剰を心配して大豆食をやめると健康を損なう可能性がある」と注意もしています。[※1] [※2] [※3]