ヨーロッパで昔からハーブとして親しまれてきたセントジョーンズワートについて紹介します。うつや不安障害、不眠症への対処法として、ドイツをはじめとしたヨーロッパのいくつかの国では、軽度のうつ病に対し医薬品としても流通しているハーブの一種です。有効成分の効果効能や作用機序、研究データ、摂取する際の目安量など、詳しい情報をまとめました。
セントジョーンズワートとは、ヨーロッパや北アフリカ、アジアなどに分布している多年草の一種です。日本では西洋弟切草(せいようおとぎりそう)とも呼ばれています。成長すると30cm~90cmまで高くなる植物です。
6月の下旬ごろになると黄色い花を咲かせるセントジョーンズワート。花はレモンのような香りがあります。楕円形の葉には蜜や粘液を分泌する小さな腺点(せんてん)がみられます。[※1]
セントジョーンズワートは、ハーブティーや食材として利用されるほか、抽出されたオイルは精油としても使用されます。
またセントジョーンズワートは、民間薬として利用されてきた歴史をもつ植物でもあります。うつ病や睡眠障害、不安神経症などの内服薬、火傷や切り傷などの外用薬として利用されてきました。[※2]
セントジョーンズワートには、次のような症状・疾患に効果的だとされています。[※3]
■うつ症状
うつの症状を改善するとされており、とくに軽度のうつ症状に関しては一部ヒトでの有効性が示されています。
■不眠症
不眠をはじめとした睡眠障害の症状を改善することが多くの臨床試験で報告されています。
■更年期障害
40歳以上の女性が摂取したところ、更年期症状であるホットフラッシュの症状改善や頻度の減少が認められています。
その他、以下のような効果があるとされています。
■傷の治癒を高める
セントジョーンズワートの抗炎症作用が傷の治りを早くすることがわかっています。セントジョーンズワートが含まれた軟膏を1日3回16日間使用することで、傷の治癒が早まることがわかりました。
■抗ウイルス作用
セントジョーンズワートに含まれるフラボノイドには抗インフルエンザウイルス作用、抗ヘルペスウイルス作用があると報告されています。しかし、この抗ウイルス作用はHIVやエイズウイルス、C型肝炎ウイルスに対しては効果がみられませんでした。
セントジョーンズワートには脳内のセロトニン濃度を高めるはたらきがあるとされています。うつのとき、脳内ではセロトニンが不足している状態。このセロトニンを増やすことで緊張や不安をやわらげ、沈んだ心を高めてくれます。
また、セントジョーンズワートに含まれる成分・ヒペルフォリンがセロトニンの性質にはたらきかけることで、脳の神経伝達物質バランスを整え、うつ症状を改善してくれます。
セントジョーンズワートは、ストレスによる気分の落ち込みにはたらくほか、女性ホルモンのバランスの乱れによる気持ちの浮き沈みにも効果を発揮。月経前症候群(PMS)や更年期障害などによる不安な気持ちも改善します。[※4]
また、炎症を鎮める作用もあることから、外用としても利用されています。皮膚の赤みや炎症が起きている箇所に抽出物を塗布すると、炎症を抑える効果があります。[※5]ただし、セントジョーンズワートは日光に強い過敏反応を起こすため、塗布した箇所を日光へ照射することは避けましょう。
セントジョーンズワートは以下のような人におすすめです。
セントジョーンズワートの摂取目安量および上限摂取量は、はっきりとわかっていません。
軽度~中度のうつ病の場合、目安として通常で1回300mgのセントジョーンズワートのエキスを1日3回経口摂取します。[※3]
フランスのUnité Institut National de la Santé et de la Recherche MédicaleのLecrubier Yらは、セントジョーンズワートと偽薬(プラセボ)による対照試験でセントジョーンズワートに効果があるかを調査しました。
対象は軽度~中度のうつ病を有する男女成人患者375名です。まず全員にプラセボを投与したあと、186名にセントジョーンズワートの抽出物、189名にプラセボを6週間摂ってもらいました。また、1、2、4、6週間後には患者へ経過の確認を行いました。
その回答をもとに分析を行った結果、プラセボと比べてセントジョーンズワート抽出物のほうがうつ病の症状が改善したという結果がでました。
このことから、セントジョーンズワートはプラセボに比べて軽度~中度のうつ病治療に有効であることが示唆されました。[※6]
また、Freiburg University ClinicのSchempp CMらは、セントジョーンズワートに含まれる成分のヒペルフォリンの抗炎症・抗菌効果について調査。
対象者は軽度~中度のアトピー性皮膚炎の症状がある21名の患者です。調査では、患者の体の左右それぞれにヒペルフォリンまたは、プラセボのクリームで4週間にわたり1日に2回治療を行い、その後、左右でアトピーの重篤度をスコアにしてはかりました。
その結果、どちらも改善はみられましたが、プラセボに比べてヒペルフォリンのクリームを塗ったほうがより効果があることがわかりました。
このことから、軽度~中度のアトピー性皮膚炎の局部治療において、ヒペルフォリンは改善効果が高いことが示唆されました。[※7]
セントジョーンズワートの歴史をみていきましょう。[※5]
イエス・キリストに洗礼を施したといわれる聖ヨハネにちなんで名前がつけられたセントジョーンズワート。医療的な記録は古代ギリシャまでさかのぼるほど、古くから薬効があるとして使用されてきた植物です。
ヒペリシンという色素が、無数の斑点となって葉や花の部分にあらわれています。その斑点を指でこすると血のような赤い液がにじみ出てくることから、古代ヨーロッパでは神聖な植物として考えられ、魔除けにも利用されていました。
セントジョーンズワートは、心の暗闇を照らす「サンシャインハーブ」と呼ばれ、ヨーロッパでは古くから不眠症やうつ病に効くハーブとして愛好されてきた歴史があります。
精神疾患や神経痛の治療に使われるほか、オリーブオイルに浸した赤い油を傷や打撲痕に塗布する外用薬としても利用されてきました。
また、ネイティブアメリカンは人工妊娠中絶薬や抗炎症剤、収れん剤や消毒剤など、幅広く利用していたといいます。
中国では貫葉連翹(カンヨウレンギョウ)と呼ばれ、解毒や止血、清熱の効果があるとして「中薬大辞典」に記されており出血や火傷、下血に効く薬として使用されてきました。
世界中で古くからさまざまな症状の処置に用いられているセントジョーンズワート。ヨーロッパでは伝統的な医薬品として今も広く流通していますが、日本では基本的に食品の扱いです。
手に入れたい場合は薬局やドラッグストアでドライハーブのティーバッグやサプリメントとして購入することができます。
北陸大学薬学部・医療薬学講座代替医療薬学分野の光本泰秀教授は、セントジョーンズワートの作用について、以下のように述べています。
「軽度から中度のうつ様症状及びいらいら,不眠に悩む更年期障害や自律神経失調症,ストレスの緩和などにも有用であるとされている」
(特定非営利活動法人 医療教育研究所「セント・ジョーンズ・ワートの謎」より引用)[※8]
セントジョーンズワートは、心を落ち着かせる効果をはじめ、うつ症状の改善や更年期障害の緩和、不眠の解消などが期待されています。
しかし、医薬品との相互作用については以下のように述べています。
※下記にあるSJWはセントジョーンズワートのこと
「医薬品との相互作用については,インジナビル(抗HIV薬),ジゴキシン(強心薬),シクロスポリン免疫抑制薬)の他,ワルファリン,主にCYP3A4で代謝される経口避妊薬,主にCYP1A2で代謝されるテオフィリンについて,SJW含有製品との併用により血中濃度の低下又は作用の減弱が見られた症例が報告されている」
「また抗うつ剤の中には,SJWを併用することにより効果が増強され,セロトニン症候群を引き起こすおそれがあるので注意が必要である」
(特定非営利活動法人 医療教育研究所「セント・ジョーンズ・ワートの謎」より引用)[※8]
多くの医薬品と相互作用があることがわかっており、厚生労働省からは摂取の際に十分注意するようにと喚起されています。
とくに抗うつ薬や避妊薬、鎮痛薬などの医薬品を服用する場合は、セントジョーンズワートの摂取を控えてください。
また、一緒に摂取してよいかわからない場合は、医師に相談するようにしましょう。
セントジョーンズワートをアルコールに漬けたチンキ剤は、消炎や鎮痛、かゆみ止めとして利用されます。また、セントジョーンズワートの葉や花を植物油に漬けこんだものは、捻挫や傷、火傷などを治療するのに用いられます。
ほかにも、ハーブティーや精油として使用されています。ここではセントジョーンズワートティーのつくり方を紹介します。
【用意するもの】
【つくり方】
かすかに苦みのあるセントジョーンズワートティーですが、さっぱりと飲みやすい味が特徴です。
セントジョーンズワートは、ほかのハーブとブレンドしてもおいしくいただけます。気分が晴れないときには以下のようなハーブとブレンドしてもよいでしょう。
またルイボスとブレンドすることで、お茶感覚で飲むこともできます。ニルギリやウバ、キャンディなどの紅茶と合わせてもよいでしょう。
経口摂取の場合、短期間であれば安全だといわれています。しかし、人によっては不眠や悪夢、不安感、頭痛、めまい、腹痛、下痢、神経過敏といった副作用を起こすおそれがあります。
また、セントジョーンズワートに含まれる成分によって、肌が日光に対して強い過敏反応を引き起こす可能性があります。
妊娠中や授乳中の人は、危険性が示唆されているので、使用は避けましょう。[※3]
セントジョーンズワートと併用することで相互作用が確認されているのは、以下のものになります。[※3]
その他、麻薬性鎮痛薬と併用すると鎮痛薬の作用が増強されて副作用が強くでるおそれがあります。また、セントジョーンズワートは光の過敏性を高めるため、アミノレブチリン酸塩酸やシプロフロキサシンなど、光への過敏性を高める光感作性薬と併用すると日光皮膚炎や水泡、発疹が生じる可能性が高くなるおそれがあります。