名前から探す

グリシンの効果とその作用|サプリメント大学

グリシンとは生体を構成するアミノ酸で、体内で合成されるので「非必須アミノ酸」の一種です。不眠の改善効果や統合失調症の症状緩和、体内では中枢神経系において抑制性神経伝達物としてはたらきます。食品添加物としても使用され、安全性などついても詳しく説明します。

グリシンとはどのような成分か

グリシンは、たんぱく質を構成するアミノ酸の一種です。

人間のカラダを構成している成分は、水分が60~70%を占め、たんぱく質は20%程度しかありません。皮膚や筋肉などを作るたんぱく質を構成しているのがアミノ酸です。

たんぱく質を構成するアミノ酸は20種類あり、その中でも「体内で合成できるアミノ酸」と、「体内で合成できないアミノ酸」に分けられます。

体内で合成できるアミノ酸を「非必須アミノ酸」、体内で合成できないアミノ酸(食事から摂取する必要があるアミノ酸)を「必須アミノ酸」と呼びます。

グリシンは、体内でセリンなどから合成される非必須アミノ酸の一種です。体内ではプリン体、コラーゲン、ポルフィリン、グルタチオン、クレアチンなどの重要な物質を生成する役割を持っています。

脳幹や脊髄においては、中枢神経系の抑制性神経伝達物質としてはたらきます。[※1][※2]

グリシンの効果・効能

グリシンには次のような効果が有るといわれています。

■睡眠によい効果

グリシンは質のよい睡眠など睡眠に対する良い効果があります。

睡眠不足になると、うつ、物忘れ、免疫力の低下、生活習慣病の罹患リスクを高めるなど、さまざまな病気の原因となるため、質のよい睡眠は病気の予防にもつながると考えられています。

不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害や、夜勤などによる慢性的な睡眠不足によって体内時計のリズムが乱れてしまうことなどが問題となっています。

これらは、精神疾患や身体疾患の発症原因に関与していることがわかり、休養には睡眠が大切とされています。[※3]

近年では睡眠の質を高めるグリシン入りのサプリメントなども販売されています。

■統合失調症(陰性症状)の減少

統合失調症の患者にグリシンの投与で陰性症状が減少したとの試験結果が報告され、効果が期待されています。[※15]

統合失調症とは、何らかの原因で情報に対して対応できなくなり、感情や思考をまとめる機能がうまく働かない(脳内の統合する機能が失調している)状態のことをいいます。

■急性脳卒中の治療効果

グリシンの投与により、急性脳卒中の治療に効果がみられ、治療の効果が期待されています。[※7]
脳卒中とは脳の血管が詰まる、血管が破裂するなど脳細胞に酸素や栄養が行き届かなくなり脳神経細胞が侵される病気です。

原因によって分類され、脳出血(脳血が詰まる)、脳梗塞(血管が破れる)、一過性脳虚血発作(脳梗塞の症状が一時的に起こる)、くも膜下出血(動脈瘤が破れる)などがあります。

■菌を抑える静菌作用

グリシンには(加熱での殺菌が難しい耐熱性芽胞菌などの)菌を抑える静菌作用があり、いろいろな食品などに利用されています。

食中毒が発生しやすい要素は「栄養・水分・温度」などの条件がそろったときに発生します。細菌などの付着を避ける、細菌の増殖を防ぐ、細菌を死滅させる(加熱の目安は中心部75度1分以上)などで予防します。[※8]

一方、市販品の対策としては、調理過程で上記に注意し、菌が増えない添加物を加えることで食中毒を予防しています。

コンビニエンスストアで販売されているお弁当やおにぎり、洋菓子、和菓子など幅広く使用されています。[※9]

どのような作用があるのか

グリシンは次のような作用があるとされています。

グリシンは、神経細胞の神経伝達物質の原料となります。脳内の神経細胞末端に情報を伝えるシナプスがあり、シナプスから神経伝達物質を放出することで、次の神経細胞の受容体に伝わり情報が伝達します。

神経伝達物質はアミノ酸(グリシン、グルタミン酸、GABA、タウリンなど)、アミン類(ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、メラニン、ヒスタミンなど)、ペプチド類(インスリンβ―エンドルフィンなど)の3つに分類されます。

その中でも作用によって興奮性伝達物質(アドレナリン、ドーパミンなど)と、抑制性伝達物(GABA、グリシン)に分類されます。

加熱調理食品は加熱後に残存する耐熱性菌(バチルス菌など)が増殖するのですが、グリシンにはこの耐熱性菌増殖阻害効果があります。

グリシン添加による静菌作用は以下のようにはたらきます。アラニン(アミノ酸の一種)がペプチドグリカン(細胞壁)に取り込まれますが、グリシンを摂取すると、アラニンの代わりにグリシンがペプチドグリカン(細胞壁)に取り込まれます。

ペプチドグリカン合成酵素との反応が弱くなり合成が阻害され、ペプチドグリカンの構造が不安定になり微生物の生育を阻害します。

グリシンの量はある程度添加しないと上記の作用が働かないため、保存効果を期待する場合、食品に対して1%は必要だと考えられています。

無臭、呈味効果、静菌効果にPHの影響を受けないなどの特徴もあり、幅広く使用されています。また、他の保存料と一緒に添加することで、静菌効果はさらに高まると考えられています。[※10] [※11 ]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

睡眠の質を改善したい人などにおすすめする成分のひとつです。そのほか、統合失調症や脳卒中で治療を受けている方は、必ず病院の医師に相談してから摂取するようにしましょう。

グリシンの摂取目安量・上限摂取量

食品に含まれるグリシンを摂取する場合、安全とされ摂取上限は設定されていません。サプリメントについては、メーカーの上限・摂取量を守り使用しましょう。

日本では、食品添加物として使用が認められています。動物試験において投与したグリシンは細胞内のたんぱく質で代謝に利用され蓄積することがないので安全であると考えられています。

動物用医薬品では代謝性薬剤、飼料添加物では栄養成分や有効成分の補給目的に使用、ヒトの医薬品では低たんぱく血症、低栄養状態におけるアミン酸補給目的で使用されています。[※12]

グリシンのエビデンス(科学的根拠)

■味の素株式会社の研究では、グリシンが睡眠の質を改善する効果についてさまざまなエビデンスがあることを明らかにしています。

人の脳は試験ではグリシン摂取により、早期に徐波睡眠が出現、さらにレム睡眠やノンレム睡眠が安定し、徐波睡眠やレム睡眠に達するまでの時間が短縮されました。[※13]

■女性19名を対象とし、二重盲検無作為交差試験法により実施。グリシン3g摂取により目覚め感に効果の有無について試験が行われました。その結果、被験者15名に有効性があるとされました。
グリシン3gの摂取が起床時の疲労感が改善、気分の改善が期待できると考えられています。[※14]

■イスラエルにおいて統合失調症の患者11名を対象に二重盲検が行われました。被験者に6週間抗精神病薬に加え、グリシン0.8g/kg/日を併用し、クロスオーバー治療試験を実施しました。その結果、陰性症状、抑うつ症状および認知症状の改善がみられました。[※15]

多くの文献では統合失調症の陰性症状の改善などが報告されています。一方、以下の文献では、グリシンの併用は影響がなかったとの報告もあります。

■アメリカにおいて統合失調症の患者27名を対象に二重盲検プラセボ比較試験が行われました。被験者に8週間、非定型抗精神病薬(クロザピン)に加え、グリシン60g/日を併用し実施しました。その結果、陰性症状・陽性症状・認知機能に影響が認めらませんでした。[※16]

■ロシアにおいて急性虚血性脳卒中患者200名を対象とし、グリシンの安全性及び有効性を評価するための二重盲検プラセボ試験が行われました。

5日間、グリシン0.5g/日、グリシン1.0g/日、グリシン2.0g/日と分け投与したところ、1.0~2.0g/日摂取群で脳卒中発症30日後死亡率の減少、脳脊髄液中GABAの増加、酸化ストレス指標の減少などがみられグリシンが急性脳卒中の治療に改善があることが示唆されました。[※17] 

研究のきっかけ(歴史・背景)

フランスの化学者アンリ・ブラコノーが1820年にゼラチンから単離しました。甘味があったのでギリシャ語の「glykys」にちなんで「glycocoll(グリココル)」と名付けられ、その後「glycine(グリシン)」に改名されました。[※18]

専門家の見解(監修者のコメント)

良質な睡眠が健康につながり、日常のパフォーマンスの向上になります。

早稲田大学スポーツ学科学術院教授であり、睡眠医療認定医師の内田直先生によると

「ストレス過多の現代社会においてますます睡眠環境が厳しくなっています。睡眠の質の低下は不十分な疲労回復、仕事の意欲の低下、仕事効率の悪化を招き、ともするとそれが『負のスパイラル』となり生活に悪影響を及ぼします」(味の素HP 「運動と睡眠の深い関係」より引用)[※19]

と話し、運動習慣から質のよい睡眠、グリシンなどの併用をアドバイスされています。

グリシンを多く含む食べ物

グリシンはほとんどの食品に含まれているアミノ酸のひとつです。

その中でも、車エビ(生)2600㎎/100g 、芝エビ(生)1200㎎/100g、するめいか(生) 950㎎ /100g、またこ(生)950㎎/100g、ズワイガニ、毛カニ 1100㎎ /100g、と比較的多く、魚には100g中平均1000㎎前後含まれており、魚介類に多いアミノ酸です。

その他、大豆、肉類、ナッツ類、卵などたんぱく質に多く含まれています。[※20]

相乗効果を発揮する成分

保存料の添加物として使用する場合、酢酸や素ルビン酸、プロタミン、ポリリジンと併用することでグリシンが抑えられない菌を静菌し、微生物の増殖を抑制できると考えられています。

グリシンに副作用はあるのか

サプリメント服用の副作用としてはまれに上部消化管の不快感や吐き気などが報告されています。
妊娠期・授乳期・小児に関しては安全なデータが見当たらないため服用は避けましょう。

統合失調症の治療薬クロザピンとの併用は症状が悪化したとの報告もあるため、併用は避けるかかかりつけ医に相談してから摂取するようにしましょう。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 『栄養の教科書』新星出版社刊 医学博士・聖徳大学名誉教授/ 中嶋洋子著
  2. 有機合成薬品工業株式会社 「グリシン百科」 グリシンって何?
  3. 厚生労働省
    生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
  4. 厚生労働省 健康日本21
  5. 統合失調症ナビ
  6. 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス 「脳卒中」
  7. Cerebrovasc Dis. 2000 Jan-Feb;10(1):49-60. PMID: 10629347
  8. 【PDF】食中毒ってなあに? 農林水産省 消費安全局 消費・安全課
  9. 有機合成薬品工業株式会社 「グリシン百科」 グリシンのはたらき
  10. JBacteriol.1973Nov;116(2):1029-53 PMID: 4200845
  11. 【PDF】日本食品微生物学会雑誌「主要な保存料・日持向上剤の抗菌メカニズム ―どこまで解明されているか?」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社・小磯 博昭)
  12. 【PDF】食品安全委員会肥料・飼料等専門調査委会(対象外物質評価書 グリシン)
  13. 味の素株式会社「いきいき健康研究所」 アミノ酸“グリシン”が「睡眠の質」を高めます
  14. 味の素株式会社「いきいき健康研究所」 アミノ酸“グリシン”が起床時の疲労感を軽減し、爽快感を増すことを確認
  15. Br J Psychiatry. 1996 Nov;169(5):610-7. PMID: 8932891
  16. Am J Psychiatry. 2000 May;157(5):826-8. PMID: 10784481
  17. Cerebrovasc Dis. 2000 Jan-Feb;10(1):49-60. PMID: 10629347
  18. アークレイ株式会社「からだサポート研究所「グリシンとは」
  19. 味の素株式会社「いきいき健康研究所」 運動と睡眠の深い関係
  20. 文部科科学省「日本食品標準成分表2015年改訂版(七訂)」準拠
    食品成分表2017 資料編