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糖鎖の効果とその作用

細胞やたんぱく質にさまざまな作用をもたらす糖鎖は、私たちの体にとってなくてはならないものです。ここでは健康の維持だけでなく美容や疾病治療にも役立つといわれる糖鎖についての効果・効能をまとめました。糖鎖を構成する「糖鎖栄養素」についても解説しています。

ナチュラルクリニック代々木院長  野本 裕子先生監修

糖鎖とは

糖鎖とは複数の単糖がグリコシド結合(水素と酸素を追い出して糖同士が結合)したひとまとまりの化合物です。

糖鎖は細胞の表面からアンテナのように伸びており、栄養素や細菌などの情報をキャッチしたり、細胞同士の情報伝達を行ったりします。[※1][※2] 糖鎖は細胞と細胞をつないでいるため、1本でも欠けると生命活動を維持することが難しくなります。

糖鎖がたんぱく質や脂質と結合すると、糖たんぱく質や糖脂質、プロテオグリカンなどの複合糖類が生成されます。細胞膜の成分や細胞どうしの情報伝達を担う物質としてはたらきます。[※3]

たとえば、体外から入ってきたウイルスの情報を免疫細胞に伝えることで、ウイルスを排除することが可能になります。ほかにもダメージを受けた細胞を見つけ、活性化や修復を行うための機能などを持っています。このように、糖鎖は体に必要不可欠な物質なのです。

また、糖鎖はさまざまなはたらきを持つことから、「第三の生命の鎖」「細胞のアンテナ」などと呼ばれています。

糖鎖の欠けや不足は、アルツハイマーや筋ジストロフィーなどの難病や生命活動の質の低下を引き起こします。

■糖鎖を構成する8種類の「糖鎖栄養素」

自然界に存在する単糖類のうち、人の細胞内で使われる糖は8種類ほどです。糖鎖を構成する8種類の単糖は「糖鎖栄養素」と呼ばれ、糖鎖はこの8種類の組み合わせによってつくられることがわかっています。[※2]

以下がその糖鎖栄養素としてはたらく8つの単糖です。

  • グルコース(ブドウ糖)
  • ガラクトース
  • マンノース
  • キシロース
  • フコース
  • N-アセチルグルコサミン
  • N-アセチルガラクトサミン
  • N-アセチルノイラミン酸

糖鎖栄養素を摂取することで、糖鎖を正常に保つ効果が期待できるでしょう。しかし、糖鎖栄養素に数えられる8種類の糖のうち、N-アセチルグルコサミンやN-アセチルガラクトサミンなど6種類は普段の食事で摂取することが難しいとされています。

糖鎖の効果・効能

糖鎖には次のような効果・効能があるといわれています。[※1][※2][※4][※5]

■細胞・たんぱく質の健康維持

老化やダメージなどではたらきが低下した細胞・たんぱく質をチェックし、取り除いたり活性化させたりする機能があります。

■免疫力の向上

ウイルスに感染したときに免疫細胞を活性化させ、免疫力を高めてくれます。

■病気の予防

糖鎖を正常に保つことで、がんや糖尿病などの疾病を防ぐことができます。

■美容に役立つ

糖鎖の一種であるヘパラン硫酸には、シミの増殖を防ぐ作用があることがわかっています。

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるのか

糖鎖はホルモンを受け取る受容体や免疫細胞に指示を出す司令塔として、さまざまな役割を担っています。[※2]

特に細胞の情報伝達で重要なはたらきをすることが明らかになっていて、糖鎖が欠ける、はたらかなくなるなどの不調が起こると、筋ジストロフィーやアルツハイマー病などの疾患にかかりやすくなることがわかっています。

最新の研究では、糖鎖が正常にはたらくことで体に起こる異常を感知し、神経系、免疫系、ホルモン系などの機能を保ち、病気や老化を防ぐことができる作用が明らかになりました。[※4]

糖鎖は細胞やたんぱく質の周りに存在していることから、老化やダメージを感知し、成長や活性化などを指示。正しく機能するようにサポートしているのです。

最近では肌の奥にある糖鎖のひとつにシミを増えにくくする作用が報告され、美容に関する効果も期待が高まっています。すでに糖鎖栄養素に着目したスキンケアコスメなども製品化されています。[※5]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

体のさまざまな箇所で作用しているため、健康や美容の維持、病気の予防をしたい人に適しているといえます。

研究によれば、糖鎖を摂取することでホルモン異常や発達障害などの改善が見られたとの報告もあるので、疾病を患っている人にもおすすめの成分といえるでしょう。

糖鎖の摂取目安量・上限摂取量

糖鎖はもともと体に存在しているため、摂取上限量は決められていません。ただし、糖鎖の構成成分である糖鎖栄養素は糖類なので、体内の代謝経路でエネルギーとして吸収され、体の不調を引き起こすこともあります。

特にグルコースは摂りすぎると血糖値を上げる原因になるので、摂取量に注意してください。

糖鎖のエビデンス(科学的根拠)

糖鎖の効果については、エビデンスが示されているものがいくつかあります。

University of CaliforniaのSee DMらは、慢性疲労症候群の症状が見られる患者の末梢(指先や足先)細胞を使い、糖栄養素の免疫調節効果を調べました。

実験前のデータで、慢性疲労症候群の人は正常な人に比べ、細胞表面にある糖鎖が少ないことがわかっています。実験では慢性疲労症候群の細胞に糖栄養素を加えて観察。

結果として、糖栄養素を加えた慢性疲労症候群の細胞は、実験前と比べ免疫細胞が活性化したことがわかりました。

このことから、低下している免疫機能を改善する機能が示唆されています。[※6]

また、Howard UniversityのStancil ANらは糖栄養素の認知や記憶に対する影響を報告しています。

実験では62名の大学生を2グループに分けて、一方には糖栄養素を与え、もう一方にはプラセボ(偽薬)を与えました。その後、視覚や作業記憶のテストを行い、記憶力に変化があるかを調べています。

実験後、糖栄養素を摂取したグループでは、記憶力が顕著に高くなったという結果が得られました。このことから、脳の機能を高める効果があるのではないかと考えられています。[※7]

研究のきっかけ(歴史・背景)

糖に関する研究は古くからあり、エネルギー源となるグルコースやグリコーゲンなどの研究が進むにつれて、細胞膜上にある糖が鎖状に連なった物質(糖鎖)が発見されました。

その後、細胞に含まれる物質として糖鎖が抽出されたことで、化学的な解析が可能になり、その機能が調査されるようになったのです。

生化学の分野の1つとして考えられてきた糖鎖科学が注目され始めたのは2000年以降です。

2002年に人間の細胞の構造が解明されたことで、体内のたんぱく質の研究が進みました。すると、たんぱく質が合成された後に付く糖鎖にも重要な役割があることが明らかになりました。このことから、糖鎖科学は重要な基礎生物学として研究されるようになったのです。

現在は糖鎖が結合したんぱく質の構造を分析する技術や、質量を調べる技術が開発されたことで、さらに研究の幅が広がっています。

アメリカでは糖鎖研究をするための拠点をつくり、国立衛生研究所が10年もの間巨額の予算を使って研究を進めています。

専門家の見解(監修者のコメント)

糖鎖は1960年代から研究されており、効果や作用についてさまざまなことがわかってきています。

特に免疫系やホルモン系などでは重要な役割を担っていることから、さまざまな研究者が糖鎖についての見解を述べているようです。

ナチュラルクリニック代々木の会長である神津健一医師は、糖鎖について以下のようにコメントしています。

「健康を維持できるか否かは、糖鎖が細胞の表面に十分あって、きちんと機能しているか否かでもあると言えます」(レシチン博士【神津健一】情報館「第一章 第4の医療革命 -糖鎖の秘密-」より引用)[※8]

「外部のストレスから身を護るための自己制御機能(自律神経系、内分泌系、免疫系)があり、異物や自己と他を認識する能力、傷を癒してくれる自己再生・自己修復機能があります。これらのいずれにも糖鎖が深く関わっているのです」(レシチン博士【神津健一】情報館「第一章 第4の医療革命 -糖鎖の秘密-」より引用)[※8]

糖鎖は人間の体の細胞すべてにあり、情報の伝達を行っています。もし、糖鎖がうまくはたらかず情報伝達ができないと、異常な反応が現れることになるのです。

また、体内の自律神経系や内分泌系などに深くかかわっているため、糖鎖の不調で細胞の再生や修復の機能が低下してしまうことも考えられます。

だからこそ、糖鎖が十分にはたらく環境を整えることが大切なのです。現在では糖鎖を補うことでさまざまな疾病を改善できるという報告が出てきています。

さらに神津医師は、疾病との関係についてもコメント。

「ガンや糖尿病をはじめとする、殆どの生活習慣病の克服に頭を痛めてきた現代医学の行き詰まりの中で、糖鎖は救世主となるかもしれません。」(レシチン博士【神津健一】情報館「第四章 生活習慣病の救世主となるかもしれない」より引用)[※9]

がんや糖尿病など、現代人が悩まされている病気を治療できる可能性から、新しい治療法としての利用が期待される糖鎖。

今後も研究が進めば、多くの疾病を治療できる可能性が高まるでしょう。

糖鎖栄養素を多く含む食べ物

糖鎖を構成する8種類の単糖「糖鎖栄養素」は、さまざまな食品に含まれています。以下に糖鎖栄養素を多く含む食材をまとめています。

  • グルコース(ブドウ糖)
    ほとんどの植物、キノコ
  • ガラクトース
    乳製品や砂糖の原料となるテンサイ、ツバメの巣など
  • マンノース
    キノコやアロエ、コンニャクなど
  • キシロース
    穀物やキノコ、メープルシロップなど
  • フコース
    藻類(モズクやひじきなど)
  • N-アセチルグルコサミン
    ツバメの巣、カニやエビなどの甲羅
  • N-アセチルガラクトサミン
    ツバメの巣やキノコ、サメの軟骨、牛乳など
  • N-アセチルノイラミン酸
    ツバメの巣、母乳

さまざまな食品から糖鎖栄養素を摂ることが可能ですが、糖鎖は複数の糖によってつくられるため、特定の糖鎖栄養素だけを摂っても糖鎖にはなりません。糖鎖を補うためには、偏りなく糖鎖栄養素を摂ることが大切です。

しかし、普段の食事でバランスよく糖鎖栄養素を摂取することは困難なので、糖鎖栄養素を含む食品をうまく組み合わせて活用してください。

相乗効果を発揮する成分

細胞膜で情報伝達を行う糖鎖と体内の代謝機能を担うレシチンは、どちらかが欠けると体が正常に動けず、健康のバランスが崩れてしまいます。

そのため、レシチンと糖鎖栄養素を合わせて摂ることで、体の状態を根本から改善することができるといわれています。

糖鎖に副作用はあるのか

糖鎖はもともと細胞に存在しているため、糖鎖をつくる糖鎖栄養素を摂取しても副作用が起こることはほとんどないと考えられています。

ただし、体内で病気を引き起こす糖鎖がつくられることもあります。糖鎖の中でも、脳に存在するバイセクト糖鎖(たんぱく質に糖が鎖状につながった糖鎖)は、アルツハイマー病の症状を進行させることがわかっています。[※10]

また、糖鎖もしくは糖鎖栄養素を主成分とするサプリメントについては、効果が実証されているわけではなく、サプリメントに配合したときの作用については詳しくわかっていません。

思わぬ副作用が起こる可能性もあるため、サプリメントで糖鎖を補おうと考えている場合は注意が必要です。

糖鎖とさまざまな疾病の関係

研究により、たんぱく質の50%以上には糖鎖が結びついており、たんぱく質のはたらきに大きく影響を与えることが示されました。

糖鎖がくっついた糖たんぱく質の構造が解析され研究が進むことで、さまざまな疾病の治療に役立つのではないかと考えられています。[※1][※11]

特に糖鎖とかかわりが深い疾病はがん(悪性腫瘍)です。

細胞ががん化する際に糖鎖の形が変わることが知られています。通常の細胞ではほぼ見られない大きな糖鎖がつくられると、がんの症状を促進し、体中の細胞に転移しやすいがん細胞ができると考えられています。

そのため、細胞についている糖鎖の形を調べることで、がん細胞かどうかを判断することができます。

近年では糖鎖を利用したがん治療の研究が進められており、ワクチンやがん細胞にある巨大な糖鎖の合成できなくする「糖鎖合成阻害剤」が開発されています。[※5][※12]

骨格筋が壊死して運動機能が下がる筋ジストロフィーにおいて、一部の先天性筋ジストロフィーは糖鎖異常が原因で発症することがわかりました。[※13]

また、糖鎖は神経細胞の異常が原因で起こるアルツハイマー病とも深いかかわりが示唆されています。[※10][※14]

ほかにも、糖鎖はホルモンを機能させる受容体としてもはたらくため、糖鎖に異常が起こるとホルモンが役割を果たさなくなり、糖尿病を引き起こすことが明らかになっています。[※1]

糖鎖は神経障害の治療にも応用されていることから、ADHDなどの発達障害の改善にも役立つのではないかと考えられているようです。

まだまだ研究段階ではありますが、細胞の多くが糖たんぱくのはたらきに依存していることを踏まえると、糖鎖が医学の末来を変える可能性すらあるのかもしれません。

参照・引用サイトおよび文献

  1. 生化学工業株式会社「糖質科学とは?」
  2. 【PDF】弘前大学大学院泌尿器科講座「糖鎖の基礎知識」
  3. 医科学創薬株式会社「糖鎖とは?~なぜ糖鎖~ 糖鎖の視点」
  4. 【PDF】大山力、羽渕友則、加藤哲郎「糖鎖と癌治療」(Drug Delivery System Volume 19(2004)Issue 1 p51-55)
  5. 【PDF】資生堂ニュースリリース「資生堂、肌の奥※1からシミを増殖させる新たなメカニズムを解明」(2012年9月)
  6. See DM, Cimoch P, Chou S, Chang J, Tilles J.「The in vitro immunomodulatory effects of glyconutrients on peripheral blood mononuclear cells of patients with chronic fatigue syndrome.」 PubMed- Integr Physiol Behav Sci. 1998 Jul-Sep;33(3):280-7.
  7. Stancil AN, Hicks LH.「Glyconutrients and perception, cognition, and memory. 」PubMed- Percept Mot Skills. 2009 Feb;108(1):259-70.
  8. レシチン博士【神津健一】情報館「第一章 第4の医療革命 -糖鎖の秘密-」
  9. レシチン博士【神津健一】情報館「第四章 生活習慣病の救世主となるかもしれない」
  10. 理化学研究所「アルツハイマー病を進行させる糖鎖を発見|プレスリリース(2015年)」
  11. 【PDF】J-オイルミルズグループ「糖鎖と疾病」
  12. 生化学工業株式会社「糖質科学へのイントロダクション - 第8回」
  13. naturejapanjobs「変わる糖鎖の世界」
  14. 【PDF】遠藤玉夫「脳老化に伴う糖鎖の変化と老化関連疾患」(生化学 第83巻第3号 p197-204 2011)