グルタチオンは私たちの体内をはじめ、動植物や微生物の細胞内に存在する、生命維持に重要なはたらきを行う成分。グルタミン酸とグリシン、そしてシステインと、3つのアミノ酸が結びついているためトリペプチドと呼ばれています。高い抗酸化作用や解毒作用をもつグルタチオンは、美容や健康などの分野で利用されており、近年ではパーキンソン病の治療においても効果が期待されています。
グルタチオンは、グルタミン酸とグリシン、システインの3つのアミノ酸が結合してできたトリペプチド。ペプチドとは、数個のアミノ酸が結合した構造をもつ成分のことで、アミノ酸が3つつながっているためトリペプチドといいます。[※1]このつながったアミノ酸の種類により、さまざまな作用が期待されています。
グルタチオンは動植物や微生物の細胞内にあり、生命維持にかかわる重要な役割をもつ成分です。人間の体内では、肝臓や目、皮膚などに多く存在するといわれていますが、浴びる紫外線や加齢の影響などによって、体内のグルタチオンが減少しやすいとされています。
グルタチオンには、高い抗酸化作用があります。この抗酸化作用によって、過剰な活性酸素から体を守ってくれます。そのほかにも毒素を排出する解毒作用などもあるため、健康面だけでなく美容の面でも注目されています。[※2]
また、近年では、グルタチオンはパーキンソン病の治療薬としても利用されるようになりました。[※3]脳内のグルタチオンが減少するといわれているパーキンソン病患者に対して、抗酸化作用をもつグルタチオンを点滴投与する「グルタチオン点滴療法」を行い、さまざまな有害物質から脳を守ります。
グルタチオンには以下のような効果・効能があるといわれています。[※2][※4]
■生活習慣病を予防
グルタチオンは抗酸化作用をもっているため、生活習慣病を予防できます。
■美白効果
紫外線を浴びた際に起こるメラニンの生成を抑制する作用があるため、美白効果が期待できます。
■肝臓の機能を高める
肝臓の毒素を排出する作用を活性化させるはたらきがあるため、肝機能が高まります。
■眼病予防効果
角膜疾患や白内障といった眼病を予防する効果があります。
グルタチオンは優れた抗酸化作用をもっており、紫外線のほか飲酒や喫煙、ストレスなどが原因で発生する活性酸素のダメージから細胞を守ってくれます。
性酸素とは、ほかの物質を酸化させるはたらきが強い酸素のこと。殺菌力が強く、通常は体内のウイルスや細菌などを撃退するはたらきをもっている活性酸素ですが、増加しすぎると正常な遺伝子や細胞まで攻撃し酸化させてしまいます。
その活性酸素によって生じる老化、高血圧や動脈硬化といった生活習慣病などを、グルタチオンは予防してくれるのです。[※2]
活性酸素が原因で生じるシミやくすみなどの予防にも効果があるとされています。そのため、グルタチオンは美白効果につながると考えられ、美容業界でも利用されるようになりました。
また、白内障も活性酸素が原因とされており、グルタチオンを摂取することで白内障の予防になるともいわれています。目は表面から酸素を取り入れていますが、眼球は脂の被膜に覆われています。
そのため、取り入れた酸素によって眼球が酸化、それが長い間続くことによって白内障の原因になるとされています。活性酸素による酸化を抑えることによって、白内障を予防できるといわれています。
実際、目のなかを循環する液体のなかにグルタチオンやビタミンCなどが多い人は、高齢になっても白内障の症状がでないことが報告されています。[※5]
グルタチオンは栄養素の代謝を行う肝臓に多く存在します。グルタチオンには解毒するはたらきがあり、肝臓に運ばれた有害物質と結びつきます。
3つのアミノ酸が結合してできているグルタチオンは、その3つの成分で有害物質を包むように閉じ込めます。その後、有害物質によってグルタミン酸とグリシンが最終的に切り離されて、有害物質とシステインだけが尿として排泄されるのです。
グルタチオンには、解毒作用や抗酸化作用があります。解毒作用によって肝臓の機能が高まるため、肝機能の向上を図りたい人は積極的に摂取すると良いでしょう。
また、抗酸化作用により高血圧や動脈硬化の改善にもつながるとされているため、生活習慣を整えたいと考えている人に向いている成分といえます。ほかにも、抗酸化作用によりシミの原因を予防できるため、シミやそばかすなどの症状に悩んでいる人にもおすすめです。
また、グルタチオンは目のなかの角膜や水晶体にも存在しており、グルタチオンを補うことで、角膜障害の軽減や白内障の発症を予防する効果があるともいわれています。[※2]
厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」には、グルタチオンの摂取目安量は記載されていません。2018年現在では、グルタチオンの摂取目安量や上限摂取量などは定義されていないようです。
食事からグルタチオンを摂取したい人は、レバーやアボカドなどのグルタチオンを多く含む食品を積極的に摂るとよいでしょう。摂取量が気になる場合は、栄養バランスが良い食事を心がけてみてはいかがでしょうか。
グルタチオンはさまざまな研究機関で調査が行われ、効果に関するエビデンスが報告されています。
東北大学微生物学科では、グルタチオンがメラニンの合成を阻害するメカニズムについて調べています。[※6]
調査の結果、グルタチオンには血液中のチロシンが酸化してできる神経伝達物質「L-DOPA」のはたらきを阻害する効果があることがわかりました。このことから、グルタチオンにはシミやそばかすの原因となるメラニンをつくりにくくする作用が示唆されています。
白内障予防に関しても、ラットおよびマウスを使用した研究が行われました。[※7]通常水晶体に含まれるグルタチオンは必須アミノ酸のメチオニン、あるいはアセチルシステインなどから合成されますが、年をとったマウスはメチオニンからグルタチオンの合成ができないことが確認されました。
このことからグルタチオンは白内障発症にかかわると推測されました。また、グルタチオンの含有量を増加させることでレンズを保護でき、結果的に白内障の発症を予防することができる可能性も考察されました。
シンガポール国立大学では、糖尿病による合併症予防についての研究が行われました。その結果、糖尿病による合併症を予防するのにグルタチオンが役立つと示唆されました。[※8]
糖尿病患者は病原菌が原因の感染リスクが高いことがわかっています。免疫細胞のナチュラルキラー細胞などの活性をうながす免疫調節物質のIL-12のはたらきが低下することにあり、この原因にグルタチオンの欠損がかかわっていることがわかりました。
このことから、グルタチオンを使った糖尿病の治療法が生まれる可能性が考えられます。
グルタチオンの研究は1888年からはじまり、[※9]グルタチオンから牛の肝臓や仔牛の小腸、ヒツジの脳、酵母などに硫化水素を発生させるトリペプチドが発見されました。
当時はトリペプチドではなく「フィロチオン」と名付けられましたが、イギリスの生化学者であるホプキンスの研究によって、グルタミン酸とグリシン、そしてシステインの3つからなるトリペプチドであることが確認されたのです。
日本では、1969年に初めて医薬品の原料として販売されるようになり、それ以降、医薬品として利用されるようになりました。現在では老化防止や美白効果などから美容点滴、抗酸化作用による生活習慣病などの予防と治療薬として利用されています。[※2]
高い抗酸化作用や解毒作用をもつとされるグルタチオン。パーキンソン病における点滴治療にも効果を発揮するといわれています。
この点滴治療において、日本における点滴療法の第一人者といわれている柳澤厚生先生は、自身の著書にて以下のように述べています。
「パーキンソン病では、脳にとって最も重要な抗酸化物質のひとつであるグルタチオンが減少していることがわかっており、グルタチオンの点滴投与も友好な治療のひとつです」柳澤 厚生『点滴でアンチエイジング』より引用)[※10]
また、グルタチオンの美白効果についても以下のように記載しています。
「美容の面からみると、グルタチオンには美白作用があり、シミ対策にもよい点滴です。ビタミンCと同じくメラニン生成を抑えるはたらきがあり、紫外線防止などのスキンケアをしながら補充することで、シミや肝斑に効きます」 (柳澤 厚生『点滴でアンチエイジング』より引用)[※10]
グルタチオン点滴によるパーキンソン病治療の効果や美白効果は医師が認めるほどのものです。グルタチオンがもつはたらきは、さまざまな分野から高い評価を受けており、今後も幅広く利用されていくでしょう。
グルタチオンは、以下のような食品に多く含まれています。[※4][※11]
・肉類
・レバー
・マダラ
・赤貝
・ほうれん草
・アスパラガス
・ブロッコリー
・キウイフルーツ
・アボカド
・パン酵母
・小麦胚芽
上記の食材のなかでも、肉類なら牛レバー、果物類ならアボカド、野菜類ならアスパラガスがグルタチオンを豊富に含んでいるため、おすすめです。
肉類や酵母といった食品に多く含まれているグルタチオンですが、水に溶けやすいうえに熱に弱いため、加熱調理などによってグルタチオンの含有量が減少する場合があります。この点に配慮して摂取すると良いでしょう。
グルタチオンはビタミンCと相性が良いとされています。グルタチオンには還元作用があり、酸化したビタミンCをもとの状態のビタミンCに戻すはたらきがあります。[※4]
また、ビタミンB2とグルタチオンを一緒に摂ることで、一度は酸化したグルタチオンをビタミンB2が再生させて相乗効果が生まれ、過酸化脂質や活性酸素を分解するはたらきをうながすと考えられています。[※12]
現在のところグルタチオン摂取による重大な副作用は確認されていません。
ただし、グルタチオンを含む医薬品を摂取・投与した場合、極まれに一時的な吐き気や頭痛を引き起こすおそれがあります。体調に異変を感じたら使用を中止して、医師に相談しましょう。[※3]
また、妊娠中・授乳中の女性が摂取した場合の安全性に関するデータは不十分なため、該当する人はグルタチオンを含む医薬品の摂取・投与を避けたほうがよいでしょう。[※13]