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高麗人参の効果とその作用

高麗人参は、韓国の薬膳料理や漢方薬に用いられている植物です。最近では日本の健康食品・医薬品にも配合されていますが、ほかに服用しているサプリメント・漢方薬・医薬品との組み合わせによっては、健康被害が生じるおそれがあるため注意が必要です。高麗人参の効果効能や有効成分の作用機序、注意すべき副作用や相互作用などの情報をまとめています。

高麗人参とはどのような植物か

高麗人参とは、主に中国や朝鮮半島で栽培されている多年草です。またの名を朝鮮人参やオタネニンジンといいます。名前に「人参」とついていますが、普段口にする機会が多いオレンジ色の人参はセリ科。

高麗人参はウコギ科の植物なので、まったくの別物です。中国では古くから長寿の薬と言い伝えられ、現在でも漢方に利用されています。

生薬としての歴史が長いため、古くから言い伝えられている効果効能が多く、科学的な根拠に基づく研究データは少ないようです。

高麗人参の効果・効能

高麗人参は体のさまざまな部位に影響を与え、体質を変化させるための総合健康薬です。特定の部位に対する効果はありませんが、さまざまな症状の予防・改善に役立ちます。[※1][※2][※3]

■ストレスを低減する効果

中枢神経にはたらきかけて興奮を鎮め、ストレス症状を緩和します。

■疲労回復効果

中枢神経にはたらきかけて活力を与えるため、疲労回復効果につながります。

■食欲不振を改善する効果

ストレス症状を緩和すると胃腸にかかる負担が軽減するため、食欲増進効果が期待できます。

■冷え症・血行不良を改善する効果

高麗人参には血栓ができるのを防ぎ、血管を拡張するはたらきがあるため、血行不良や冷え症の改善に有効です。

■インフルエンザを予防する効果

高麗人参を摂取することで免疫力が高まり、インフルエンザに感染するリスクを抑えられるといわれています。ただし、インフルエンザ感染後の症状を緩和する効果は確認されていません。

■抗炎症効果

高麗人参には炎症を鎮める作用をもつ成分(ギンセノシド)が含まれています。

また、高麗人参は次の疾病・疾患の治療にも利用されています。

  • うつ病
  • アルツハイマー病
  • 慢性閉塞性肺疾患(慢性的な呼吸器疾患)
  • 勃起障害(ED)
  • 多発性硬化症(神経障害が多発する疾患)

どのような作用(作用機序・メカニズム)があるか

高麗人参には、高麗人参特有の成分・ジンセノサイドが40種類も含まれています。[※4]

ジンセノサイドは中枢神経にはたらきかけるサポニンの総称で、大きく2タイプ(気分を高めるジオール系と気分を落ち着かせるトリオール系)にわけられます。

高麗人参は両方のジンセノサイドを含有。興奮状態の時にはジオール系のジンセノサイドが気分を鎮めて心と体をリラックスさせ、ストレスや疲労が溜まって気分が沈んでいる時にはトリオール系のジンセノサイドが活力を与えてくれます。[※4]

そのほか、ジンセノサイドには、血管を拡張する作用や血小板が集まって血栓をつくるのを防ぐ作用があります。そのため、体の抹消まで血液が行き渡りやすくなり、血行不良や冷え症の改善につながります。[※4]

さらに、炎症を抑える作用があるため、のどや鼻腔の腫れ、むくみや関節痛などの症状にも有効です。[※4]

ただし、発熱時や大きな腫れがある時に高麗人参を摂取してはいけません。血行促進作用によって激しい動機が起こるおそれがあるため、使用を避けてください。

また、がん細胞を攻撃したり、がんの転移を抑制したりする作用があるため、がんの予防・治療にも用いられています。[※5][※6]

どのような人が摂るべきか、使うべきか

高麗人参は体が疲れやすい、またはストレスを感じやすい人におすすめです。 ※ただし、精神系に影響する薬を服用していない人に限る

高麗人参の摂取目安量・上限摂取量

高麗人参の摂取目安量は、改善したい疾病・疾患によって異なります。

■疾病・疾患別にみる高麗人参の摂取目安量[※1]

疾病・疾患 用量/日 摂取方法
アルツハイマー病 4,500~9,000mg 1日1回摂取
慢性閉塞性肺疾患(慢性的な呼吸器の疾患) 100~6,000mg 1日1回摂取
精神疾患 200~960mg 1日1回摂取、または1日2回にわけて摂取
勃起障害 1,400~2,700mg 1日2~3回にわけて摂取
インフルエンザ(予防) 200mg インフルエンザの予防注射を受ける4週間前から単回摂取
3,000mg インフルエンザの予防注射を受ける4週間前から1日3回にわけて摂取
多発性硬化症(神経障害が多発する疾患) 250mg 1日2回にわけて摂取

どの症状においても、最長摂取期間は3か月です。長期間摂取すると副作用があらわれる可能性があるため、注意しましょう。[※1]

高麗人参のエビデンス(科学的根拠)

日本生命済生会附属日生病院に所属する山元昌弘らは、高麗人参の粉末が脂質代謝に及ぼす影響を調べるために、ラットを使った動物実験を行いました。[※7]

実験では、まず実験用のラットに脂肪分の多いエサを与えて血中コレステロール値を測定。その後は、引き続き脂肪分の多いエサを与えつつ、筋肉内注射でジンセノサイド(高麗人参の有効成分)を2週間投与して、血中コレステロールを測定・比較しています。

実験の結果、次のような変化が確認されました。

■脂肪分の多いエサのみを与えた場合

  • 血中コレステロール値が上昇
  • コレステロール中の放射能濃度が増加
  • コレステロールの排出量が少ない

■脂肪分の多いエサ+ジンセノサイド(筋肉内注射)を与えた場合

  • 血中コレステロール値の上昇を抑制
  • コレステロール中の放射能濃度が低下
  • コレステロールの排出量が増加

実験の結果から、脂っこい食事を食べている場合でも、ジンセノサイドを豊富に含む高麗人参を併用摂取することで、高脂血症を予防できる可能性が示唆されています。

研究のきっかけ(歴史・背景)

高麗人参は、2000年以上前に書かれた中国の医学書「神農本草経」に不老長寿の薬として記されているほど歴史の長い生薬です。

日本に渡来したのは奈良時代。当時は国内栽培がなかなか成功せず、朝鮮半島からの輸入に依存していたため、位の高い人しか口にできない高級品でした。高麗人参の国内栽培が成功したのは江戸時代中期。成功させたのは徳川吉宗の命を受けた田村藍水医師です。

現在は福島、島根、長野で高麗人参の栽培が行われ、日本漢方製剤や健康食品などに高麗人参が利用されています。しかし、安全性に関する研究は残念ながらまだまだ不十分です。[※3]

独立行政法人国民生活センターは、高麗人参を含む健康食品被害について次のように公表しています。

「PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)には、高麗人参を含む『健康食品』についての相談が約 5 年間で 1,497 件(2001 年 4 月~2006 年 11 月 30 日までの登録分)寄せられており、そのなかでも『糖尿病に効くという健康食品を使用したら、血糖値や血圧が急にあがった』『体質改善にいいと高麗人参茶を購入したが、始めの 1 週間発疹が出続け、下痢、吐き気の症状があった』などの危害情報が 103 件寄せられている」

「高麗人参の有効成分であるジンセノサイド量は銘柄によって差が大きく、医薬品でも含まれている量はまちまちであった。
高麗人参は、高血圧等の人には摂取に気をつけなければならない食品なので、これらを主原料とした『健康食品』を摂取する際も少量から試すことが望ましい。気になる場合には医師や薬剤師等に相談して、安易に自分で判断しないこと」

(独立行政法人国民センター記者説明資料「高麗人参を主原料とした「健康食品」(概要)」より引用)[※8]

専門家の見解(監修者のコメント)

銀座東京クリニックの院長をつとめるかたわら、国立がん研究センター研究所でがん予防の研究に取り組んでいる福田一典氏は、高麗人参について次のように解説しています。

「高麗人参は、各種の悪性腫瘍によって引き起こされる貧血、気力減退、食欲不振、倦怠感などの改善に有効で、さらにがんの侵襲的治療(手術、抗がん剤、放射線照射)による骨髄障害や肝障害、免疫機能低下を抑制し回復を促進する効果もあります」

(がんサポート「治癒力を引き出す がん漢方講座 第6話 高麗人参の正しい使い方」より引用)[※6]

高麗人参は、がんによって起こる症状を改善します。また、抗がん剤や放射線治療による体力の低下を防ぐために用いられています。

「最近では、がん細胞の増殖や転移を抑制する効果や、がんの発生を予防する効果が報告されていて、がん治療後の再発予防にも効果が期待されています」

(がんサポート「治癒力を引き出す がん漢方講座 第6話 高麗人参の正しい使い方」より引用)[※6]

高麗人参に含まれるジンセノサイドは、がん細胞の増殖と転移を抑えるため、がん治療を終えた後の再発予防に役立つようです。

また、福田氏はがん治療中の高麗人参の利用についても解説しています。状況によってはがんが悪化するケースもあるため、次のように注意を促しています。

「がん細胞の増殖が強い時には、人参の蛋白合成亢進作用などががんの悪化につながる可能性もあり、単独での過剰摂取は推奨できません」

(がんサポート「治癒力を引き出す がん漢方講座 第6話 高麗人参の正しい使い方」より引用)[※6]

「蛋白合成亢進作用」とは、体内にある栄養素からたんぱく質を合成する機能や、たんぱく質を分解してエネルギーをつくる機能を向上させる作用です。

疲労状態の体にとっては良い作用ですが、がん細胞が増殖しやすい体においては悪影響となる可能性があるそうです。がんの悪化を防ぐためには、自己判断せず、必ず医師に相談したうえで摂取するようにしてください。

高麗人参の有効成分を効率的に摂るには

高麗人参の有効成分・ジンセノサイドはすべての部位(根・葉・茎・実)に含まれています。しかし、興奮状態を鎮めるジオール系と活力を与えるトリオール系がバランスよく含まれているのは「根」のみ。効率よく有効成分を摂取するには、高麗人参の根を利用すると良いでしょう。[※4]

相乗効果を発揮する生薬

高麗人参は、複数の生薬と組み合わせることで相乗効果が期待できます。ただし、高麗人参を用いた漢方のなかには、相互作用が起こる可能性がある生薬(例:ショウガ)もあるため、安易に組み合わせて摂取するのは危険です。

どうしても相乗効果を得たい場合は、医師に相談のうえ、安全性試験をクリアしている医療用漢方製剤を服用してください。

高麗人参の副作用

高麗人参を6か月以上摂取する、または大量に摂取した場合、次のような副作用が起こる可能性があります。[※1]

  • 睡眠障害
  • めまい
  • 頭痛
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 高血圧または低血圧
  • 心拍の上昇
  • 月経不順など

高麗人参が禁忌となる人

次の疾病・疾患に該当する人は病状が悪化するおそれがあるため、使用を避けてください。[※1]

  • 統合失調症
  • 出血性疾患
  • 心疾患
  • 糖尿病
  • 自己免疫疾患(関節リウマチ、ループス、多発性硬化症など)
  • 婦人系疾患(乳がん、子宮がん、卵巣がん、子宮内膜症、子宮筋腫など)

また、子どもに高麗人参を与えるのは危険です。乳児の場合、最悪死に至る可能性もあります。妊娠中・授乳中における安全性も確認されていないため、摂取を避けましょう。

注意すべき相互作用

高麗人参と併用することで相互作用が起こる可能性がある薬・ハーブ・植物をまとめています。[※1]

■血糖値を下げる薬・ハーブ

高麗人参にも血糖値を下げるはたらきがあるため、併用すると血糖値が過剰に下がるおそれがあります。

【該当する医薬品】 【該当するハーブ・植物】
  • 糖尿病治療薬
  • インスリン製剤など
  • ニガウリ
  • ショウガ
  • フェヌグリーク
  • ウィローバークなど
■抗うつ剤(フェネルジンやトラニルシプロミン)

併用すると体が過度な興奮状態になり、頭痛や不眠、情緒不安定などの副作用があらわれます。

■不整脈を誘発する薬・ハーブ

併用すると体が過度な興奮状態になり、心拍異常が起こります。命にかかわる場合もあるので、絶対に併用しないでください。

【該当する医薬品】 【該当するハーブ・植物】
  • エピネフリン(強心剤)
  • フェンテルミン(抗肥満用製剤)
  • プソイドフェドリン(鼻づまり薬)など
  • マオウ
  • カントリーマロウ
  • ダイダイなど
■血液凝固を抑制する薬・ハーブ

血液凝固を抑制する作用をもつ薬(抗血栓薬や消炎剤、鎮痛剤など)、または血液凝固を抑制する成分が含まれるハーブと高麗人参を併用すると出血リスクが高まります。

【該当する医薬品】 【該当するハーブ・植物】
  • アスピリン
  • シロスタゾール
  • クロピドグレル硫酸塩
  • ジクロフェナクナトリウム
  • イブプロフェン
  • エノキサパリンナトリウム
  • ヘパリン
  • チクロピジン塩酸塩
  • ワルファリンカリウムなど
  • アンゼリカ
  • クローブ
  • ショウガ
  • イチョウ
  • レッドクローバー
  • ウコン
  • ヤナギなど
■肝臓で代謝される薬

高麗人参と併用すると薬の作用・副作用が増強されます。肝臓障害を起こす可能性が高いため、注意が必要です。

【該当する医薬品】

  • 高血圧治療薬(カルシウム拮抗薬、ロサルタンカリウム、プロプラノロール塩酸塩、メトプロロール酒石酸塩)
  • 抗がん治療薬(メサドン塩酸塩)
  • 抗真菌薬(真菌症治療薬)
  • 鎮静剤(フェンタニルクエン酸塩、ミダゾラム、ペチジン塩酸塩、フェンタニルクエン酸、トラマドール塩酸塩)
  • オメプラゾール(胃酸抑制剤)
  • クロルゾキサゾン(筋弛緩)
  • テオフィリン(気管支拡張剤)
  • 抗精神病薬(アミトリプチン塩酸塩、クロザピン、オランザピン、トラゾドン塩酸塩)
  • コデインリン塩酸水和物(鎮咳剤)
  • ドネペジル塩酸塩(認知症治療薬)
  • フレカイニド酢酸塩(頻脈性不整脈治療剤)
  • ラルテグラビルカリウム(抗HIV薬)など
■免疫抑制剤

高麗人参には免疫力を高める効果があるため、併用すると免疫抑制剤の効果が弱まります。