加齢による物忘れや、認知症の予防効果が期待されるイチョウ葉エキス。ドイツでは医薬品として認められている注目の成分です。日本ではサプリメントなどの食品に配合され、機能性表示食品の関与成分にもなっています。効果が示唆される一方で、体内でのメカニズムについてははっきりとわかっていない部分も多くあります。
イチョウ葉エキスとは、イチョウの緑色の葉を乾燥させて、アルコールで抽出したエキスのことをいいます。
イチョウは中国を原産とする落葉高木です。およそ2億5000年前の古生代からすでに存在していたとされ、ほとんど姿形を変えず、現在まで生き続けてきたと考えられています。
イチョウ葉エキスには血流改善作用があるとされ、認知症やもの忘れの予防効果を期待するサプリメントの成分として人気です。
ドイツをはじめヨーロッパの多くの国では医薬品として認められていますが、日本やアメリカでは食品やサプリメントに配合する成分として扱われています。
イチョウの葉には有効成分のほかに、ギンコール酸という有害物質が含まれているため、ギンコール酸がしっかりと除去されている商品を選ぶ必要があります。
ギンコール酸はイチョウにだけ存在するアレルギー物質です。ギンコール酸は葉に含まれ、実である銀杏にはほとんど含まれていません。[※1]
ドイツのコミッションE(注1)で医薬品として認められているイチョウ葉エキスは、「フラボノイド、テルペノイドの含有量が示され、ギンコール酸が除かれたエキス」(引用)[※1]です。
成分の含有量が示されていないイチョウ葉エキスは、効果が期待できないばかりか、ギンコール酸によってアレルギーを起こす恐れがあるため注意が必要です。
(注1)日本の厚生労働省にあたるドイツ保険庁の専門委員会で、ハーブを医薬品として利用する場合の効果と安全性の評価や承認をする、世界的権威のある機関
イチョウ葉エキスには以下のような効果・効能が期待されています。
イチョウ葉エキスの有効な成分は、フラボノイドとテルペノイドだとされています。
フラボノイドとは植物の色素成分のひとつです。イチョウ葉エキスにはケルセチン、ケンフェロール、イソラムネチンなど約20種類のフラボノイド類が含まれています。[※1]
フラボノイドには血流促進作用や抗酸化作用があり、生活習慣病の予防や健康で若々しい細胞を維持する効果が知られています。
イチョウ葉エキスのもうひとつの有効な成分は、植物に含まれる油成分のテルペノイドです。
テルペノイドのなかでもギンコライドはイチョウにだけ存在する特殊な成分です。[※1]ギンコライドは血栓を予防し、血流の流れを改善する作用が注目されています。
イチョウ葉エキスは、フラボノイドとテルペノイドの相乗効果により、細胞の酸化を防ぎ、脳内の血流を促進させることで認知症の改善や予防に効くのではないかと考えられています。[※4]
しかし、今のところそのメカニズムは、はっきりと実証されていません。イチョウ葉エキスの認知症の予防効果などについては研究段階といえます。
イチョウ葉エキスは、加齢により物忘れがひどくなったと感じる人、認知症を予防したいという人に人気の成分です。
ただし効果の検証は高齢者を対象としていて、子どもや若者の記憶力や学習能力を高める効果については検証されていません。[※5]
また、めまいの改善効果も研究されています[※2]が、サプリメントだけで治そうとするなど過度な期待は症状を悪化させる恐れがあります。めまいなどの症状が現れた場合、まずは医療機関を受診しましょう。
イチョウ葉エキスは、日本では食品扱いですので国としての成分規格はなく、摂取量なども示されていません。
ドイツで医薬品として扱われるイチョウ葉エキスには、以下の成分含有量の規格が定められています。
この基準を満たしたイチョウ葉エキスの1日の摂取目安量は120mgとされています。[※1]
日本で市販されているイチョウ葉エキスのサプリメントの品質は、ドイツのように厳密に管理されているわけではありません。
有害物質とされるギンコール酸の含有量によってはアレルギー反応を起こす恐れもあります。
サプリメントを選ぶさいには、パッケージに記載されている成分の含有量をチェックしましょう。とくにギンコール酸に関しては、安全性が確認されている5ppm以下であるかを必ず確認してください。
イチョウ葉エキスの効果が認められたという決定的なエビデンスは、今のところ存在しません。
過去には少人数の限定的な試験により、認知症の予防効果などが示唆されてきましたが、最近の大規模な臨床試験では、イチョウ葉エキスの効果については否定的なものが多いようです。
アメリカ国立補完統合衛生センター(NCCIH)が行った、3000人以上の高齢者を対象とする大規模な臨床試験では、認知症または認知機能低下の予防効果は認められませんでした。[※6]
ただし、明確なエビデンスは示されていないものの、イチョウ葉エキスに必ずしも効果がないとはいい切れません。
イチョウ葉エキスを利用した補完代替療法では、有効性を示す試験結果が報告されています。
補完代替療法とは、ハーブやビタミン療法に代表される、伝統的な治療法です。近代的な西洋医療は、病気そのものを治療する「対症療法」が中心となっていますが、[※7]補完代替療法には心身全体を診ることで病気を癒したり予防したりする「原因療法」という治療概念があります。
近代的な西洋医療は、病気そのものを治療する「対症療法」が中心となっています。[※7]
補完代替療法のなかには、じゅうぶんな科学的根拠が示されていないものもありますが、一方で効果が得られたという声が多いのも事実です。[※4]
補完代替療法においては、イチョウ葉エキスについて、以下の実験結果が報告されています。
メニエール病患者15人に対して、イチョウ葉エキスをブレンドしたハーブティを1日2回、1年間服用させたところ、始めて6か月以降からめまい発作の回数の減少が認められたということです。[※2]
補完代替療法は即効性に欠け、効果については不安定な面があるものの、毒性が少なく、患者への負担が少ないなどのメリットもあります。
通常の治療と併用して取り入れることで効果をもたらす場合もあり、対症療法と原因療法を連携させた「統合医療」も広まりをみせています。
ただし、イチョウ葉エキスの効果については研究の段階であり、自己判断で病気の治療に取り入れるのは危険です。
補完代替療法の選択は、医療機関に相談のうえ行ってください。
ヨーロッパでは30年以上も前から、イチョウ葉エキスが研究されてきました。1965年、ドイツでは世界で初めて血液循環改善剤の医薬品としてイチョウ葉エキスが販売されます。[※8]
その後もイチョウ葉エキスの研究は進められ、現在、ドイツ、フランス、スイス、イタリア、オーストリアなどで医薬品として認められています。
日本では医薬品ではなく、健康食品やサプリメントの成分として利用されてきましたが、医薬品のように厳格な品質管理がされておらず、商品によって成分に違いがあることが問題視されるようになりました。
そこで2002年に、市販されているイチョウ葉エキスについて、国民生活センターの調査結果が発表されました。
この調査では、有効な成分とされるテルペノイド、フラボノイドが記載の量と実際の量に相違があるもの、有害成分であるギンコール酸が残留しているものなどがイチョウ葉エキスとして販売されていることが判明しています。[※1]
日本ではイチョウ葉エキスを含む食品に成分の含有量を表示する義務はありませんが、サプリメントを選ぶさいには、成分量が表示されている安全な商品をしっかりと見極めることが必要です。
めまい治療を専門にする医師の二木隆氏が監修を行った資料のなかで、イチョウ葉エキスは以下のように評価されています。
「人間は歳をとれば、大なり小なり血管が硬化します。ただ、偏った食生活や運動不足、ストレス、そして活性酸素が、その進行を早めます。
伝統的に高カロリー・高脂肪食を摂るヨーロッパの人々は、血管の硬化を起こす危険性が特に高いので、イチョウ菓エキス製剤への期待もことのほか大きかったのでしょう。
日本の食生活は、米、野菜、魚を中心としたバランスのよい伝統食から、いまや欧米型の食事が主流となり、その 弊害(生活習慣病)が蔓延し始めています。
血管を正常に保つことで、体の老化や疾病を防ぐことを考えれば、まさにイチョウ葉は、人々の救世主となる可能性を秘めているといえるでしょう」
(中野薬房医学薬学情報研究室「イチョウ葉エキスの効用」より引用)[※8]
血管の健康を維持することは、わたしたちの健康寿命を伸ばすうえで必要不可欠です。また、高齢化社会において、認知症の治療や予防は重要な課題です。
今後、イチョウ葉エキスの研究が進み、動脈硬化をはじめとする生活習慣病の予防や、いまだに治療薬がみつかっていない認知症の改善や予防効果が明らかにされることが期待されます。
イチョウは身近な樹木ですが、自分で葉を集めて煮出したお茶を飲むことは厳禁です。
イチョウの葉にはギンコール酸という有害物質が含まれているため、安全に摂取するためにはギンコール酸を除去しなくてはいけません。煮出したお茶にはギンコール酸が大量に含まれている可能性があります。[※5]
イチョウ葉エキスは天然の植物由来の成分ですので、産地や収穫する時期、エキスの抽出方法などで品質や効果が変わってしまいます。
ヨーロッパで医薬品に使われるのは、栽培から抽出工程までを厳格に管理されたイチョウ葉エキスです。[※8]
そのためドイツやフランスで栽培されたイチョウ葉は質が高いとされています。サプリメントに原産地の記載がある場合は参考にしてみましょう。
ドイツの製薬会社であるシュワーベ社によると、イチョウ葉のフラボノイドのなかでもケルセチン、 ケンフェロール、イソラムネチンの3つの含まれる割合が24%のとき、もっとも高い効果を発揮するということです。[※8]
また、品質のバラつきを改善するため、現在は日本でも、(財)日本健康・栄養食品協会によってドイツの規格とほぼおなじイチョウ葉エキスの規格基準[※9]が示されています。
基準を満たした食品にはJHFAマークがついているので、安全性を確かめる目安にするとよいでしょう。
サプリメントによっては、イチョウ葉エキスにほかの成分を配合することで、相乗効果を期待するものもあります。
認知症の予防効果を期待する場合、よく一緒に配合されているのが「DHA」です。
DHAは青魚などに含まれる不飽和脂肪酸で、血流促進作用や、脳機能を向上させる効果などが期待されている成分です。
DHAはイチョウ葉エキスとどうように認知症の予防効果が示唆されているため、相乗効果が期待できます。
有害物質であるギンコール酸が適切に除去され、成分規格を満たしたイチョウ葉エキスは、健康な人が適量摂取する場合、安全であると考えられます。
ただ、イチョウ葉エキスには、まれに脳や目の出血、手術中の出血が止まりにくいといった副作用が出ることが報告されています。手術の予定がある人や、妊娠中の女性などは使用を控えましょう。[※6]
イチョウ葉エキスは抗血小板凝集作用があり、ワルファリンなど血液を薄める薬と併用すると作用が強くなりすぎてしまう恐れがあります。[※10]
薬を飲んでいる人がイチョウ葉エキスのサプリメントを使用する場合、まずは飲み合わせに問題がないかを、かかりつけ医や薬剤師などに相談してください。