名前から探す

ゼラニウムの効果とその作用

ゼラニウムとはフウロソウ科の植物の総称です。ゼラニウムに分類される植物は数百種類もあり、大きく分けると観賞用として用いられるものと、アロマオイルやハーブとして利用されるものがあります。ここでは、種類別にゼラニウムの特徴をわかりやすくまとめてみました。ちなみに、アロマオイルやハーブとして利用されている「センテッド・ゼラニウム」という種類は、生理痛や生理不順、PMSや更年期障害といった婦人科系の症状への効果が期待できるといわれています。効能や作用のメカニズム、副作用や利用方法についても解説しています。

ゼラニウムとはどのような植物か

「ゼラニウム」とは、フウロソウ科ゼラニウム属に分類される数百種類の多年生植物のことです。フウロソウ科の植物にはゼラニウム属とテンジクアオイ属があり、以前は両方とも「ゼラニウム」とされてきました。

テンジクアオイ属は1789年に分離されて「ぺラルゴニウム」になりましたが、昔の名残から現在もなお「ゼラニウム」と呼ばれています。ゼラニウムとぺラルゴニウムの違いは花弁の形。ゼラニウムの花弁は対象、ぺラルゴニウムの花弁は非対称になっています。

ゼラニウム属、ぺラルゴニウム属の代表的な分類は以下の6つです 。

・ゼラニウム(学名Pelargonium Zonal Group)

四季咲き性で一年中開花する。園芸植物として日本に多く出回っている。

・ペラルゴニウム(学名Pelargonium Regal Group)

一季咲き性で春から初夏にかけて開花する。日本に出回っているものは少ない。

・アイビーゼラニウム(学名Pelargonium ivy-leaved Group)

四季咲き性だが高温多湿に弱い。アイビーによく似た葉と垂れ下がる茎が特徴。

・パンジーゼラニウム(学名Pelargonium ‘Splendide’)

春頃にパンジーによく似た花を咲かせる。

・スポッテッドゼラニウム(学名Geranium maculatum)

主に北アメリカ大陸に生育しており、根から薬をつくる。[※6]

・センテッド・ゼラニウム(学名Pelargonium Scented-leaved Group)

4~7月にかけて開花する多年草。ほかのゼラニウムよりも香りが強く、ハーブやオイルとして用いられる。

このページでは、主にハーブやオイルとして利用される分類「センテッド・ゼラニウム」について解説します。代表的なのはバラのような香りをもつローズゼラニウム(学名Pelargonium graveolens)です。[※1]

ゼラニウムの効果・効能

ハーブやアロマテラピー用の精油として用いられているローズゼラニウムの効果をご紹介します。[※2][※3][※4][※5][※6]

■ストレスを緩和する効果

ローズゼラニウムの葉から漂う香りには、ストレスや疲労をやわらげる効果があります。

■抗うつ効果

ホルモンバランスや神経伝達物質に働きかけてう つにアプローチします。

■40代女性のQOLを改善する効果

ローズゼラニウムの芳香成分を使った実験では、40代女性の脳構造に働きかけてQOL(生活満足度)を向上させたと報告されています。

■美肌効果

ゼラニウムの精油には、硬くなった皮膚をやわらかくしたり、たるんだ皮膚組織を引き締めたり、新しい肌細胞の成長促したりする効果があります。

■炎症を抑える効果

日焼けや皮膚のただれ、摩擦などによる炎症を抑えます。

■傷を早く治す効果

ゼラニウム精油を利用することで、怪我をしていた場所の治りが早くなります。

■体の働きを活性する効果

ゼラニウム精油には代謝を高めて体を強化する効果があります。

■抗菌・殺菌・消毒効果

ゼラニウム精油は細菌の発生や繁殖を防いでくれます。

■消臭効果

ゼラニウム精油には、汗の臭いや独特な体臭を消す効果があります。

■防虫効果

虫はローズゼラニウムの独特な匂いを嫌がるため、窓際や玄関付近に飾っておくと虫除けになります。

■下痢や便秘を改善する効果

腸内の収れん活動をサポートして下痢や便秘を改善します。

■神経障害性疼痛を抑える効果

鎮痛作用をもつゼラニウムを利用することで、神経障害が原因の痛みや炎症(神経障害疼痛)を抑えてくれます。

ローズゼラニウムのほか、スポッテッドゼラニウム(学名Geranium maculatum)にも下痢や消化不良、過敏性腸症候群、口唇潰瘍、歯肉疾患などを改善する効果があります。[※7]

どのような作用があるのか

ローズゼラニウムの葉には芳香成分が複数種類含まれており、芳香成分の作用によってさまざまな効果がもたらされています。

とくにローズゼラニウムの精油の30%を占める芳香成分「シトロネロール」は、ストレス反応の調整を行う副腎(ふくじん)や自律神経系の中枢にある視床下部(ししょうかぶ)に働きかけ、ホルモンの分泌量や自律神経のバランスを整える作用をもっています。ホルモンバランスが整うとイライラや緊張、不安などが緩和するほか、生理痛や生理不順、情緒不安定や月経前緊張、PMSや更年期障害といった婦人科系の症状の改善も見込めます。

また、ローズゼラニウムの芳香成分には強い抗菌・殺菌作用があるため、傷の悪化や細菌の繁殖を防げます。芳香成分シトロネラールには血管を収縮する「収れん作用」があり、血液とリンパの流れを強壮してくれるため、むくみづらい体になります。[※6] [※8]

また、スポッテッドゼラニウム(学名Geranium maculatum)の場合、根に含まれる「タンニン」の乾燥作用が働くため、下痢の症状が改善すると考えられています。[※7]

どのような人が使うべき成分か

面接や試験前で緊張しているとき、または日々のストレスでイライラしているときは、ゼラニウムオイルを使ったアロマテラピーが良いでしょう。ゼラニウムの濃厚な香りが緊張した心と体をリフレッシュしてくれます。ホルモンバランスが崩れやすい生理前、もしくは生理中に利用するのもおすすめです。

ゼラニウムの摂取目安量・上限摂取量

ゼラニウムは食品ではないため、摂取目安量や上限摂取量はとくに定められていません。

ゼラニウムのエビデンス(科学的根拠)

ローズゼラニウム(学名Pelargonium graveolens)の芳香成分がもつ効果の研究が進められています。

公益社団法人日本アロマ環境協会のアロマサイエンス研究所に所属する熊谷千津所長(薬剤師兼、農学博士)は、ゼラニウムの芳香成分によるQOL(生活満足度)の変化を調査しました。研究の対象となったのは30名の40代女性。ゼラニウム精油を芳香器に入れ、月経周期中に毎日吸引してもらったところ、大脳皮質(GM-BHQ)の数値が上がり、以前よりも若々しさが増したと感じる女性が増えたそうです。

熊谷所長は、ゼラニウム精油の芳香刺激が脳構造に反映してアンチエイジング効果が得られたのではないかと示唆しています。

この研究結果から、ゼラニウムの芳香成分は更年期女性のQOLを改善する効果が見込めます。[※4]

またユニ・チャーム株式会社はローズゼラニウムの香りを使った実験にて、ストレスに対する効果を確認しています。実験では計15名の女性を被験者として、8名の女性をローズゼラニウムの精油を塗布したマスク群として、7人の女性をプラセボ(ゼラニウムだと偽った精製水を塗布したマスク)群としました。

それぞれマスクを15分間着用した後にストレス課題を15分実施してもらい、6つの感情(緊張・抑うつ・怒り・活気・疲労・混乱)とコルチゾール(ストレスを感じたときに分泌されるホルモン)量を測定したところ、ゼラニウム群に顕著な結果が出ています。実験結果から、ゼラニウムの香りは女性のストレスをやわらげつつ、疲労と無気力を抑える効果が示唆されました。[※5]

研究のきっかけ(歴史・背景)

ゼラニウムは、傷や出血、腫れや下痢の治療薬としてアメリカで何世紀にもわたり使用されてきた歴史があります。

一方、アフリカや西洋では悪霊払いや虫除けのハーブという言い伝えがあったそうです。ゼラニウムの消臭効果は17世紀ごろに注目され、革製品独特の臭いを消す香料として利用されてきました。治療薬のほかに、香りを活かした香水や殺菌作用を活かした石けんなどにも使われています。[※6]

日本でゼラニウムが知られるようになったのは江戸時代。葉に美しい模様が入ったゼラニウム「ゾナーレ種」が入ってきたため、江戸から大正にかけて観賞用植物として広まりました。

大正の末頃には見た目重視の品種改良が進められ、昭和頃にはカラフルなゼラニウムが高値で取引されるようになっていきました。

ゼラニウム精油は、1819年にフランスの科学者レクルーズが高価なローズ油の代用品として製造したのが最初だといわれています。日本では太平洋戦争の末期頃に生産が始まり、鹿児島県や香川県、愛媛県などで製油用のローズゼラニウムが栽培されています。[※6]

薬理効果が注目されて研究が実施されるようになったのはここ数年です。ハーブ、もしくは観賞用の植物として使われてきた歴史が長いため、科学的な根拠に基づいた研究データはまだ少ないようです。

専門家の見解

東京大学医学部薬学科出身で2008年以降は秩父ハーブ研究開発(株)に参画していた井上重治博士は、ローズゼラニウムについて自身の著書に次のように記しています。

「ローズゼラニウムのハーブは昔からすばらしい治癒力を持つ植物とみなされて、創傷、腫瘍、骨折の薬として使用されました。皮膚に対しては皮脂のバランスを保ち、湿疹やホルモン異常による皮膚の乱れに用いられました。その精油はラベンダーやジャーマンカモミールに匹敵するかそれ以上の抗炎症効果を示します」(井上重治『ハーブウォーターの世界:サイエンスの目で見る:方向蒸留水』より引用)[※6]

井上博士によると、ローズゼラニウムの精油は、高い抗炎症効果をもつラベンダーやジャーマンカモミール以上の抗炎症効果があるそうです。肌が敏感で炎症を起こしやすい人は、ローズゼラニウムの精油を使ったアロマテラピーを試してみると良いでしょう。

ゼラニウムの利用方法

ゼラニウムの精油を使ったむくみ取りの方法を解説しています。

■ゼラニウムフットバス

【用意するもの】

  • ゼラニウム精油
  • 重曹
  • ふくらはぎまで浸かる深めの洗面器

【利用方法】

  1. 重曹小さじ1杯とゼラニウム精油1滴を混ぜ合わせる
  2. 洗面器に40~45度のお湯を溜める
  3. お湯に(1)を入れてよく混ぜる
  4. 両足を5~10分浸ける

ゼラニウムの収れん作用によってむくみが解消されます。

ゼラニウムと相性のいいアロマオイル

ゼラニウムオイルは薔薇の花のように香りが強いのが特徴です。濃い香りをやわらげるには、フローラル系や柑橘系、ハーブ系のアロマオイルと組み合わせましょう。

■フレッシュな柑橘系アロマオイル

  • グレープフルーツ
  • オレンジ
  • ベルガモット
  • メリッサ
  • レモングラス

■香りをやわらげるフローラル系アロマオイル

  • ラベンダー
  • ローズ
  • カモミール
  • ジャスミン
  • ネロリ

■さわやかハーブ系アロマオイル

  • ペパーミント
  • クラリセージ

ゼラニウムに副作用はあるのか

これまでに重篤な副作用は報告されていません。ただし、まれにローズゼラニウムの利用でアレルギー反応が起こるケースがあります。また妊娠中や授乳期は、安全性の問題から収れん薬にあたる量のゼラニウムの服用が禁止されています。[※7]

注意すべき相互作用

ゼラニウムの安全性に関する研究はあまり進んでおらず、医薬品の相互作用はまだ明らかになっていません。[※7]

参照・引用サイトおよび文献

  1. NHK出版「みんなの趣味園芸」
  2. 稲垣栄洋「身近な花の知られざる生態」(PHP研究所 2015年9月発行)
  3. 梅原亜也子『新版これ1冊できちんとわかるアロマテラピー』(マイナビ出版 2016年2月発行 p34-37)
  4. 【PDF】熊谷千津ほか「40代女性のQOLと脳構造に与えるゼラニウム 精油嗅覚刺激の影響」(アロマテラピー学雑誌、第18巻(2017)1号 p1-7)
  5. ユニ・チャーム「ゼラニウムの香りのストレス緩和効果に関する研究」
  6. 井上重治『ハーブウォーターの世界:サイエンスの目で見る:方向蒸留水』(フレグランスジャーナルp190-195)
  7. 田中平三ほか『健康食品・サプリメント[成分]のすべて 2017 ナチュラルメディシン・データベース』(株式会社同文書院 2017年1月発行)
  8. 和田文緒『アロマテラピーの教科書』(新星出版社 2008年8月発行 p124)