コアラが唯一エサにする植物として有名なユーカリ。実は、コアラが食べるユーカリは1000種類ちかくあるユーカリの中でもほんの数種類しかありません。ユーカリは古くから葉や精油が民間医療やアロマテラピーに使われてきました。そこでここでは、そんなユーカリの効果や効能、副作用などについて見ていきましょう。
ユーカリはフトモモ科に属するユーカリ属の樹木の総称です。正式名称は「ユーカリプタス」といいます。世界で500種類以上が確認されており、亜種(変わり種)も含めると800~1000種類以上にもなります。その中でも精油が取れるユーカリはたった十数種類だけです。
ユーカリの葉には、動物にとって有害な毒が含まれることがわかっています。ところが人間はその葉をハーブとして長年愛用してきました。大量に摂取しない限り、人体に悪影響は無いとされているからです。
ユーカリから取れる精油は、アロマテラピーや香料などに利用されていますが、精油に使われている品種は主にユーカリ・グロブルス(ブルーガム)という種類です。そのほかに、ユーカリ・シトリオドラ(レモンユーカリ)やユーカリ・ラジアタといった種類を使った精油もあります。
精油に使われるユーカリの中でも代表的な「ユーカリ・グロブルス」の精油に含まれる成分のうち、約70~85%は「1,8シネオール」という香り成分です。ハッカのようにスーッとするユーカリの香りは1,8シネオールによるもの。1,8シネオールは別名ユーカリプトールとも呼ばれています。
代表的なユーカリの精油の含有成分を見てみましょう。[※1][※2]
・ユーカリ・グロブルスの精油成分
1,8シネオール、リモネン、α-ピネン、γ-テルピネンなど
・ユーカリ・シトリオドラの精油成分
シトロネラール、ゲラニアールなど
・ユーカリ・ラジアタの精油成分
1,8シネオール、α-テルピネオール、テルピネン-4-オール、α-ピネンなど
このように、ユーカリの種類によって精油に含まれる成分は異なるため、精油を選ぶ際に確認するようにしましょう。
ユーカリには以下のような効果・効能があるとされています。ただし、科学的なデータはまだまだ少ないというのが現状です。 [※1][※2][※3]
■咳や鼻づまりの解消
精油の主成分である1,8シネオールが淡を取り除き、鼻の通りを良くしてくれます。花粉症にも効果的です。
■リラックス効果
ユーカリの香りには、感情の乱れを落ち着けて集中力を上げる効果があります。
■血糖値を下げる
ユーカリの葉には、血糖値を下げる成分が含まれているため、高血糖を改善します。
■血行の促進
ユーカリに含まれる1,8シネオールには血行を促進する効果があるため、筋肉痛や肩こり、頭痛の緩和に役立ちます。
■傷の治りを早める
ユーカリには癒傷(ゆしょう)作用や抗炎症作用があるとされているため、切り傷や擦り傷などの治りを早めてくれます。
■抗菌・抗ウイルス効果
殺菌効果が高いため、感染症の予防に役立ちます。また、マウスウォッシュに使用すると、口の中を清潔に保ち、歯周病を防いでくれます。
■防虫効果
アレルギーの原因になりやすいヒョウダニを遠ざける作用があります。ヒョウダニが原因のアレルギー性鼻炎や喘息、アトピーの予防に役立つでしょう。そのほかの虫もユーカリのニオイを嫌う傾向があります。
ユーカリには、果糖の吸収を阻害する作用があります。さらに、体内に入った果糖が脂肪に蓄積される流れを抑制。これは、ユーカリに含まれるポリフェノールが関与しているとされています。[※4]このことから、ユーカリには血糖値をコントロールする作用があるといわれています。
またユーカリの精油に含まれる成分には、抗菌作用があります。広範囲の微生物に対して有効であるとされています。[※5]
ユーカリ・グロブルスには、口腔内の細菌の働きを抑制し、増殖を抑える作用があります。[※6]この作用により、歯周病の予防に有効です。
ユーカリ・シトリオドラには抗炎症作用が確認されています。これは精油に含まれる「シトロネラール」という香り成分が作用していると考えられています。[※7]
ユーカリオイルに含まれる1,8シネオール(ユーカリプトール)には、抗炎症作用や抗酸化作用などがあり、これらは慢性疾患や神経疾患に有効といわれています。[※8]
ユーカリは以下のような人におすすめです。
ユーカリの摂取量目安や上限摂取量は定められていません。しかし、長期間にわたって継続使用は控えるようにとされています。
高麗大学校看護学科のSeol GHと嘉泉大学校の Kim KYらによれば、1,8シネオール(ユーカリプトール)は、呼吸器系疾患・膵炎・結腸損傷を含むさまざまな疾患の炎症を抑え、抗酸化作用が働くとされています。
1,8シネオールが、炎症を誘発する物質の生産を抑え、ラジカル(活性酸素)を消去する働きがあると示しています。また、1,8シネオールは、血液と脳にある組織液の間を通り抜けることができるため、薬剤を届ける運び屋としての応用がすすめられるのではないかと考えられています。[※8]
ベナン大学のGbenou JDらは、抗炎症作用をもつユーカリ・シトリオドラとレモングラスの精油を使い、炎症関連疾患に対する効果を比較する実験を行いました。実験ではホルムアルデビドによってむくみや腹部痙攣を誘発した状態のラットを使い、それぞれの精油の効果を比較しています。
実験の結果、ユーカリほうが鎮痛性と解熱性が高かったと報告されており、炎症関連疾患の症状を緩和する効果が期待されています。[※9]
ユーカリは、オーストラリアやタスマニア島などに分布している植物ですが、オーストラリアの先住民族のアボリジニは、ユーカリを傷薬や鎮静剤として利用していました。彼らはユーカリを「万能薬」と呼んで重宝していたそうです。
19世紀には、ドイツ人医師で植物学者のミラーがユーカリをヨーロッパに持込み、世界的に広がったとされています。
ユーカリの木は根がとても深くまで届くため、地下水を吸い上げる力が強く、成長が早いという特徴があるため、蒸気機関車の燃料とされたり、紙の材料(パルプ)にされたりしてきました。
インド北部パンジャブ州にある国道1号線沿いには、470kmのユーカリ並木がありますが、これは砂漠化した地域の緑化のために、日本人の杉山龍丸(注1)が提案して実現したものです。
オイルやハーブとしての利用以外に、木材やパルプとしての利用など、幅広い用途をもつユーカリ。現代では、ガーデニングを楽しむ人にも愛されている樹木となっています。
(注1)インドの「グリーン・ファーザー」と呼ばれる人物で、砂漠化したパンジャブ州に私財をなげうって植樹した日本人。
ユーカリは精油やドライハーブ、香料などとして活用されています。そんなユーカリについて日本アロマ環境協会認定のアロマテラピープロフェッショナルで生活の木プランニングマネージャーの佐々木薫さんは、以下のように自著に記しています。
「スーッとする爽快な香りが特徴のハーブ。抗菌作用や抗ウイルス作用にも優れているため、風邪や花粉症による鼻水・鼻詰まり・のどの痛みなどに効果を発揮。ハーブティーにして飲むほかに、フェイシャルスチームやうがいに使うのも良い方法。口の中を清潔に保つために、マウスウォッシュとして使うのもおすすめです」(佐々木薫 『心と体に効くハーブ読本』より引用)[※10]
ユーカリのハーブティーはスッキリとした味ですが、香りにややクセがありますが、ハチミツを混ぜると飲みやすくなります。
ユーカリの味が苦手でどうしても飲めないという場合は、佐々木さんのコメントを参考に、蒸気を吸入してみると良いでしょう。
ユーカリの精油は刺激が強いため、取り扱いには注意が必要です。原液には触れないようにしてください。
ユーカリの精油は、芳香浴や塗布、ハウスキーピングなどに使えます。[※1][※2]精油が1瓶あるだけで、幅広い用途に使えるのが特徴です。
■芳香浴
ユーカリの精油をティッシュやタオルに1~3滴ほど染み込ませ香りを楽しむのがいちばん手軽な芳香浴の方法です。香りが強いので1滴ずつ垂らして様子をみましょう。
ただし精油には直接手を触れないようにしてください。湯を張ったマグカップに垂らしたり、ディフューザーを使ったりすれば安全です。
■入浴
ぬるめの湯を張ったら、湯船に数滴の精油を垂らして30~40分ほど浸かります。香りの効果でリラックスできます。シャワーだけの人は、お風呂場の床にオイルを垂らして楽しむことも可能です。
■塗布
精油を植物油やクリームなどの基剤に混ぜて、症状が気になる箇所に塗る方法です。濃度は1~3%程度になるようにしましょう。
■ハウスキーピング
精油を無水エタノールと水で希釈してスプレーすると、殺菌や抗菌の効果が期待できます。防虫効果もあるので、ダニが気になる布製品に使うのも効果的です。洗濯物をすすぐ際に洗濯槽に精油を数滴垂らして使うこともできます。
ユーカリのドライハーブを使用するときは、以下のハーブと組み合わせるとより効果的とされています。[※10]
・タイム
タイムとユーカリは高い抗菌作用をもっているため、一緒に使うことで風邪の引き始めに効果的です。タイムとユーカリのドライハーブをそれぞれ小さじ1杯ずつ熱湯300mlに入れ、蒸気を吸入します。
・タイム、セージ
タイムとセージには高い抗菌作用があるため、ユーカリと一緒にマウスウォッシュに使用すると、口臭予防に効果的です。セージにはホワイトニング効果も期待できます。
これらのドライハーブを湯で煮だしたものを小さじ1杯ずつ、300mlの水に入れ、口をすすぎます。
精油を薄めて使う、香料や添加物として食品に含まれている量を使用するのであれば、ほとんどの人に安全です。
炎症を伴う胆管と消化管・肝疾患を患っている人のユーカリ使用は禁忌とされていますので、これらの疾患がある人は使用しないでください。
妊娠中や授乳中、幼児が使用して安全かどうかも科学的なデータが少ないため、使用は控えるようにしましょう。
また、てんかんの発作がある人や高血圧の人も使用は避けるようにしましょう。[※3]
過剰摂取においては、臨床データなどが不十分のため使用の際は用量を守って使うようにしてください。経口摂取でも吸入でも同様の毒性が引き起こされる可能性があります。[※3]
日本中毒情報センターによると、ユーカリ精油を経口摂取した場合、下記のような症状が現れます。[※11]
みぞおちあたりの痛みや嘔吐、下痢が起こり、2~3分で意識がもうろうとしてくるでしょう。それから15~30分ほどで昏睡を伴った中枢神経の抑制が起こり、うまく話せなかったり体が動かせなかったりします。この症状は4時間ほど経って起こることもあります。
その他の症状は下記のようなものがあります。
皮膚への刺激によって、接触性皮膚炎やじんましんが出ることもあります。症状は24時間以内に回復しますが、死亡例もあることから、迅速な対応が求められるでしょう。
万が一、ユーカリの精油を飲んでしまった場合は、無理に吐かせようとすると症状が悪化する可能性があるため、速やかに医療機関へ連絡して処置してもらってください。
ユーカリには下記の相互作用が確認されています。[※3]
・糖尿病治療薬
ユーカリ葉エキス(希釈したオイルやハーブティーなど)には、血糖値をコントロールする効果があるため、糖尿病治療薬と併用すると血糖値が下がりすぎてしまうおそれがあります。
・肝臓で代謝される薬
ユーカリ精油に含まれる成分には肝代謝される薬の副作用を増強するおそれがあるため、併用しないようにしましょう。 肝代謝される薬はとても多いため、注意が必要です。
・ペントバルビタールカルシウム
鎮静催眠薬であるペントバルビタールカルシウムの使用時にユーカリを吸入すると、脳へ届くペントバルビタールカルシウムの量が減少し、効果が弱まるおそれがあります。
・PAsを含むハーブおよび健康食品やサプリメント
PAs(注1)を含んでいるハーブやサプリメントとユーカリを併用すると、毒性が増強されるおそれがあります。現在、販売が中止されているアミノピリン系薬品やアンフェタミン系の薬剤の使用中にユーカリの香りを吸入すると効果が弱まるおそれがあるとされています。
(注1)ピロリジジンアルカロイド類の総称。ハーブに含まれる化合物で、肝毒性があるとされている物質。