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エリスリトールの効果とその作用

エリスリトールとは糖アルコールの一種で、カロリーゼロの甘味料です。近年では、虫歯の原因となる酸を作らない成分として、注目を集めている成分です。糖代謝への影響や緩下作用などが抑えられるという効果も。ここでは研究の結果で分かってきたエリスリトールの効果や作用などについて掲載しています。

エリスリトールとはどのような成分か

エリスリトールは糖にアルコール基が付いた、糖アルコールと呼ばれる成分です。グルコースを酵母発酵させることで生産されます。

天然の甘味料として知られており、砂糖に対する相対甘味度が約75~85%と、かなり甘みを感じる成分です。厚生労働省のエネルギー評価法でエネルギー値が0kcal/gと評価されており、カロリーゼロの成分として扱われています。[※1]

エリスリトールは口から摂取すると小腸で吸収されますが、体内で代謝されないため糖代謝の過程を経ず、尿と一緒に体外に排出されます。[※2]その性質から、糖尿病の食事療法にも利用されている成分です。

消化の過程で起こる緩下作用も糖アルコールの中では軽く、下痢や軟便を起こしにくいことが知られています。[※1]

エリスリトールの効果・効能

糖代謝に影響しない甘味料として利用されているエリスリトールには、さまざまな効果が期待できます。最新の研究では皮膚炎に対する効果も報告されており、今後の研究結果に期待が集まっています。
広く知られているエリスリトールの効果・効能は以下の通りです。

■虫歯予防

エリスリトールはミュータンス菌のエサにならないため、虫歯の原因となる酸を発生させません。加えてエリスリトールはミュータンス菌の増殖も抑制するので、菌の住みかとなる歯垢ができにくい口内環境になります。[※1][※3][※4]

■口臭予防

口内にできる細菌の集合体を分散させるため、口臭の原因となる歯垢や舌苔(ぜったい)が作られにくくなります。加齢やストレス、疲労などで唾液の分泌が減ると、歯や舌で細菌が繁殖するように。エリスリトールを摂ることで細菌を引き離され、口臭が予防できます。[※3][※5]

■血糖値の上昇を抑える

エリスリトールは体内で代謝されず、大半が尿として排出されます。そのため糖代謝に影響を与えないため、血糖値は大きく変動しません。食後高血糖を抑え、インスリンの働きにも影響を与えないため、糖尿病の食事療法にも用いられます。[※1][※3]

どのような作用があるのか

虫歯の原因であるミュータンス菌は、糖類を食べて酸を出し、歯を溶かして虫歯を作ります。しかしエリスリトールはミュータンス菌に食べられてもエネルギーとならないため、虫歯予防が可能です。[※1][※3][※4]

細菌のエサにならないので菌が増殖せず、細菌の集合体である歯垢が増えません。加えて細菌の分散作用もあり、より細菌の集合体を作りにくくしてくれます。[※3][※5]

歯垢や舌苔(舌にできるコケのようなもの)ができると口臭が出るため、エリスリトールを摂取することで口臭予防にもつながります。

また、エリスリトールは体内に入ると糖類を消化するα-グルコシダーゼの働きを阻害し、糖類の吸収を阻害することが分かっています。この作用を調べた研究では、エリスリトールの摂取後に食後の血糖値を保つ働きが確認されました。[※6]

エリスリトールは糖代謝に使われないため、吸収された後もほとんどエネルギーにならずに排出され、血糖値を上昇させません。その効果から、糖尿病の治療にも用いられています。

どのような人が摂るべきか、使うべきか

エリスリトールは虫歯予防に役立つ作用があるので、軽い虫歯や予備軍の方が摂る場合に効果を発揮します。

摂取するだけでは進行してしまった虫歯が治せるわけではありませんが、軽い虫歯であれば歯磨きとの併用で改善するケースがあります。虫歯の懸念がある方は砂糖や果糖ではなく、エリスリトールを摂りましょう。

エリスリトールはゼロカロリーの甘味料で血糖値にも影響しないため、ダイエット中の方や糖尿病の方にも適しています。カロリーや血糖値を気にしている時、どうしても甘いものが欲しくなった場合に活用するといいでしょう。

エリスリトールの摂取目安量・上限摂取量

エリスリトールはWHO/FAO合同食品添加物専門家会議(JECFA)により、上限摂取量を設定しない食品として扱われています。

米国食品医薬品庁(FDA)でも、1g/kg体重/日の摂取では消化管に影響を起こさないとされ、安全な食品添加物として認可されました。[※7]

ただし国内では食品安全委員会による評価がされていないため、正確な摂取目安量は分かっていません。

EUではエリスリトールの最大無作用量を設定するため、4~6歳の子どもを対象にエリスリトールを2.5%使用した飲料の実験を実施。1日の摂取量と下痢との関係について研究しました。

その結果、ほかの食品から摂取するエリスリトールも考慮すると、安全上の懸念があるという結果が出ています。[※9]

エリスリトールのエビデンス(科学的根拠)

エリスリトールの効果に関しては、多くの研究者や医師が研究論文を発表しています。

Mäkinen KKらの実験では、キシリトールやエリスリトールが歯垢や唾液中のミュータンス菌に対してどのような影響を与えるか確認しています。
実験では98名の対象者にキシリトールとエリスリトールを1:1で混ぜたものを一日2.7g投与し、64日間口内の観察を実施。実験後の菌の生育状況を調べています。
64日後にプラーク内のミュータンス菌を観察したところ、生育が抑制されたことから、キシリトールとエリスリトールが虫歯を予防することがわかりました。[※8]

また、大阪大学の学位研究では、細菌の集合体である混合バイオフィルムの形成において、エリスリトールがどのような影響を及ぼすのか実験しています。
口内の細菌を培養した寒天培地にそれぞれ0.8%、5%、10%の濃度でエリスリトールを加え、経過を観察。結果、エリスリトール濃度の高さによって菌の生育が阻害されました。この実験から、口内の細菌集合体である歯垢や舌苔に対して改善効果が期待されています。[※5]

ほかにもエリスリトールに関係するエビデンスとして、Wen Hらの研究があります。この実験では糖尿病のマウスにエリスリトールを与えた後、胃の中の血糖の変化をモニターしました。
実験でエリスリトールを与えたマウスには血糖値の上昇が見られなかったことから、エリスリトールには糖を分解・消化する酵素を阻害する効果があることが示されました。この結果から、エリスリトールは食後の血糖値上昇を抑えられると考えられています。[※6]

エリスリトールは現在も研究が進んでいる成分で、虫歯予防や血糖値改善以外にもさまざまな効果が期待されています。培地や動物実験だけでなく臨床研究も行われており、今後も注目すべき成分といえます。

エリスリトールの歴史

エリスリトールは糖アルコールの一種として、食品や化粧品、サニタリー製品などに利用されている成分です。特に低カロリー製品やシュガーレス菓子に応用されていて、あらゆる食品に甘味料として入っています。

初めは日本で工業生産の方法が確立されましたが、現在は欧米やアジア諸国での生産が大部分です。生産方法だけでなく産生する微生物についても研究が進んでおり、発酵生産や用途研究開発も検討されています。

近年では自然界に存在する数少ないC4化合物(炭素が4つ含まれる化合物)として、バイオ樹脂などへの利用法が研究されている成分です。

専門家の見解(監修者のコメント)

エリスリトールは虫歯予防の効果以外にも、いろいろな効果が分かってきています。JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門委員会)により安全性が保証されているため、専門家である医師や研究者も肯定的に捉えている方が多くいます。

高尾病院の江部康二医師は、エリスリトールの安全性について

「糖アルコールは、極めて安全性が高いとされています。妊婦にも大丈夫です」(ドクター江部の糖尿病徒然日記「エリスリトール、糖アルコールの安全性」より引用)[※11]
と述べており、安全に利用できる成分だとしています。

江部医師はエリスリトールと血糖値との関係についても言及しており、血糖値を全く上げない成分として解説しています[※11]。エリスリトールは体内に吸収されても糖代謝に影響せずに排出。そのため、血糖値を上昇させません。

また、ほとんどが体内に吸収されることから、糖アルコールの摂取時に起こる緩下作用(おなかが緩くなる症状)も、ほかの糖アルコールに比べて抑えられると言われています。

エリスリトールを多く含む食べ物

エリスリトールは果実に多く含まれており、特にメロンやブドウ、梨は含有率が高い食品です。グルコースを原料とした酵母発酵で生産されるため、豆や果実などを使ったしょうゆや味噌、ワインなどの発酵食品からも摂取できます。

カロリーゼロのため、ダイエット食品・飲料に添加物として利用されています。風味や味をととのえる効果から、ジャムやゼリー、ドレッシングなどにも含まれている成分です。

相乗効果を発揮する成分

エリスリトールは虫歯を作るミュータンス菌の栄養になりにくいため、菌を徐々に減らす効果が期待できます。歯を強化するフッ素と併用すると、歯のエナメル質にフッ素が付いて酸に溶かされにくいフルオロアパタイト結晶に変化。 [※10]そのため、合わせて摂取することで高い虫歯予防効果が期待できます。

また、エリスリトールにはビタミンを安定化させる作用があります。構造が不安定なビタミンと併用すると、ビタミンを安定化させて十分な効果が得やすくなるでしょう。

エリスリトールに副作用はあるのか

エリスリトールは体に吸収されない糖アルコールです。そのため一度に大量摂取すると腸の水分吸収が阻害され、下痢や軟便を引き起こす場合があります[※9]

エリスリトールは糖アルコールの中でも緩下(おなかが緩くなる)作用を起こしにくい成分ですが、摂取量や体質によってはうまく消化できなくなったり、腸の消化機能に影響を与えたりする可能性があります。大量摂取は避けましょう。