エルダーフラワーはスイカズラ科ニワトコ属の針葉樹。初夏に咲く白く可憐な小さな花は、シロップ漬けやフリッター、茶葉になります。日本では骨折を治すといわれ、接骨木やセイヨウニワトコと呼ばれています。
ヨーロッパでは花や葉、皮、根などに薬効があるため、古くから薬の代わりとして利用されてきました。そのため、「万能の薬箱」や「田舎の薬棚」と呼ばれ親しまれています。北ヨーロッパの神話などにもエルダーフラワーが登場するのだそうです。
エルダーフラワーは発汗や利尿作用、カタル症状の緩和などに効果があるハーブです。ハーブティーを飲用したり、湯につけた花弁の蒸気を吸引したりすることで効果が得られます。
エルダーフラワー(花弁)はケルセチン(フラボノイド)やクロロゲン酸(ポリフェノール)を含有。これらの成分の抗酸化効果や抗炎症効果などを期待して愛用する人も多く、海外ではインフルエンザ予防にも効果あり、という見解が知られています。[※1]
実はエルダーベリーと呼ばれ、ルチンやアントシアニン、ビタミンAやビタミンCを含んでいます。実の種を取り除き、スイーツやシロップ、ジャムなどとして食されますが、完熟していない実には青酸系の毒素が含まれているので、自家栽培のエルダーフラワーを使用して作る場合は注意が必要です。[※2]
葉は外用薬として軟膏や湿布薬として使われてきました。抗炎症・創傷治癒作用があるため、傷や日焼けなどによる炎症、関節の痛みや捻挫などに効果的です。ただし、葉には毒があるため、経口摂取はしないようにしましょう。
さらに幹や根は、古くは下剤として利用されていたようです。[※3]
■発汗・利尿作用
含まれているフラボノイドやポリフェノールの作用により、発汗・利尿の効果があります。体内の毒素を排出し、熱をとります。この効果は、関節痛やリウマチなどの症状緩和に良いとされています。毒素を排出してくれるため、むくみの改善も期待できます。[※1]
■カタル症状緩和(抗炎症作用)
エルダーフラワーは咳や鼻水、鼻づまり、のどの痛みなどのカタル症状を緩和してくれます。抗炎症作用によるものです。花粉症の症状や風邪の引き始めにも良いといわれる所以です。[※4]
■抗酸化作用
エルダーフラワーに含まれるケルセチンは、フラボノイドの中でも高い抗酸化作用を持っています。活性酸素を原因とする生活習慣病の予防[※5]や老化現象の改善に効果が期待できます。
■リラックス効果
エルダーフラワーの香りには心を落ち着かせる効果があるため、寝る前に飲むと質の良い睡眠がとれるといわれています。エルダーフラワーの香りはマスカットのような爽やかな香りです。[※1]
■創傷治癒効果
葉を煎じたものを、湿布薬として使用すると傷の治りが早くなるとされ、伝承医療として使用されてきました。抗炎症作用もあるため、皮下の痛み(関節痛や捻挫)などの症状も緩和してくれます。
エルダーフラワーにはケルセチンやクロロゲン酸といったポリフェノール類が含まれています。
エルダーフラワーに含まれるケルセチンには抗酸化作用があります。活性酸素などのフリーラジカルの原因となる有害な過酸化水素に対して触媒として作用し、酸素と水に分解してくれます。
ケルセチンは活性酸素を無効化するだけでなく、触媒酵素のカタラーゼやグルタチオンペルオキシターゼ1を誘導する働きもあるのではないかとされ、[※5]この作用が高い抗酸化力の要因ではないかとされています。
また、ケルセチンは動脈硬化の改善作用もあるといわれています。高コレステロールのウサギを使った実験では、ケルセチンを摂取したウサギは摂取していないウサギに比べ、コレステロール値や酸化ストレス値が低いというデータが得られました。
大動脈内にケルセチンが蓄積していたことから、ケルセチンが抗酸化力を用いて動脈硬化を防いだのではないかとされています。[※6]
ケルセチンの作用についてはまだまだ研究が進められている段階です。血管や血液の健康維持に貢献する成分として、作用機序の解明が待たれるところです。
エルダーフラワーに含まれるロロゲン酸は、コーヒーの成分から見つかったことから、コーヒーポリフェノールともいわれる成分です。[※7]クロロゲン酸には糖新生を抑制し、インスリンの分泌を促す効果があります。一日90 mg摂取すると、食後の血糖値の上昇を15%~20%抑えたという結果が出ていることから、[※8]糖尿病の症状改善や抑制に効果があるとされています。
海外では風邪の予防としてエルダーフラワーのシロップが活用されていますが、日本では鼻炎や花粉症に悩む方、ストレスを感じやすい方がハーブティーやシロップ、サプリメントを使って飲用しているケースが多いようです。
エルダーフラワーには決められた摂取量目安や上限は決められていません。しかし、薬効があるため過剰摂取は控えるようにしましょう。
ハーブティーにして服用する場合について見てみましょう。
使用する茶葉の量はお湯200mlあたり大さじ2~4杯です。
飲む量は1日にティーカップ2~3杯が目安。[※10]ティーカップは1杯あたり140ml程度なので、280mlから420mlぐらいとなります。
エルダーフラワーの発汗作用や利尿作用、抗炎症作用については、信頼できる充分な科学的根拠はなく、まだきちんと解明されていません。しかし、ポリフェノール類やミネラルなどが関与しているのではないかとされています。
抗炎症作用についての論文があります。エルダーフラワーから抽出した物質がヒトの歯周病菌の働きを抑制しました。この結果から、エルダーフラワーには歯周炎を抑制する働き、すなわち抗炎症作用があると結論付けられています。[※4]
エルダーフラワーは花や葉、皮、根っこなどすべてに薬効があるため、「万能の薬箱」として古くから人々の傍にありました。また、薬が高価で都会でしか買えない時代に、田舎の人々に重宝されたため「田舎の薬箱」とも呼ばれています。[※1][※3]
エルダーフラワーの歴史は古く、紀元前の石器時代には食べ物とされてきました。古代ギリシャの医師ヒポクラテスが紀元前5世紀ごろに残した文献にも名前が載っていて、そのころには食べ物ではなく薬として用いられていたようです。
17世紀ごろには咳やタンを抑える効果があるため、うがい薬として知られるようになりました。[※1]
エルダーの語源はアングロサクソン語の「火」を意味する「エルド」から。エルダーの枝は中が抜けストロー状になることから、火起こしに使われてきた歴史もあるようです。
また、空洞を活かして男たちがパイプにしたり、子どもたちが空気銃などの遊び道具に使ったりしていたようです。エルダーフラワーは人々の生活に密着した存在であることがわかります。[※3]
また、薬としてだけでなく、魔除けにも使われ、伝承やおとぎ話の題材にもなっています。日本にあるニワトコも小正月の飾りに使われていました。
現代では、花を乾燥させたドライハーブやシロップ漬けにしたコーディアルなどが一般的に流通しています。体調を整えたり症状を緩和させたりするだけでなく、美味しい飲み物として取り入れている方も。アロマを焚いて香りを楽しむ方もいます。
多彩な薬効を持つエルダーフラワー。アメリカのロサンゼルスで自然療法を推奨している小澤栄治医師(自然療法専門医)は、
「エルダーフラワーには発汗作用、緩やかな緩下剤、利尿作用、体質改善、緩下剤、抗痙攣、抗リューマチ、カタル、胃腸内のガスを排出などがあります」[自然療法専門医 Dr.Ozのひとりごと エルダーフラワー より引用][※9]
と、その効果を認めています。
新潟でハーブ教室を営む上級ハーブインストラクターの難波さんは、ハーブウォーターは夏の暑い日の水分補給にピッタリだとコメントしています。
エルダーフラワーはマスカットのような爽やかな香りが特徴。そのため、難波さんは夏場にリフレッシュしたいときにおすすめだといいます。
水にエルダーフラワーとレモンや砂糖、クエン酸を加えることで、汗をかいたあとの栄養補給にもなるそうです。[※10]
エルダーフラワーは市販されているハーブティーやシロップ(コーディアル)、サプリメントなどを利用すると手軽に摂取できます。
茶葉は100gが1500円ほどから購入可能です。シロップは1本2,100円ほどから販売されています。サプリメントは45粒入りが3,000円ほどです。
■エルダーフラワーティーの淹れ方
1. ティースプーン2杯ほどの茶葉をポットに入れる
2. 熱湯150mlを注いで3分ほど蒸らす
3. 茶こしでこしながらカップに注いで飲む
一日に2~3杯ほどが目安といわれています。
■エルダーフラワーシロップ(コーディアル)ドリンク
シロップは炭酸水で割ったりフルーツと合わせてゼリーにしたりもできますし、ワインに加えてカクテルを作ることもできます。砂糖の甘味があるので、子どもでも飲みやすいのが特徴です。
■サプリメント
エルダーフラワーのみを配合したタブレットタイプのサプリメントが主流ですが、商品によってはほかのハーブとブレンドされているものもあります。
エルダーフラワーを使ったハーブティーは、ほかのハーブと組み合わせることが可能。得たい効能に合わせてブレンドすると良いでしょう。ハーブティーの香りには、アロマオイルのような効能があるとされているため、味だけでなく香りも一緒に楽しみながら飲むよとより効果的です。
また、ハーブティーのブレンドの割合は1:1が基本です。
■花粉症の症状を和らげたいとき
エルダーフラワー・ローズヒップ・ヒソップの3つのブレンドティーが、アレルギー反応を抑え、鼻水や鼻づまりなどの辛い症状を緩和してくれます。割合は1:1:0.5です。[※11]
■消化を助けたいとき
エルダーフラワーとペパーミントを合わせてみましょう。エルダーフラワーの抗炎症や抗菌作用に加え、ペパーミントの消化を助ける効能がプラスされスッキリします。[※12]
■風邪の引き始めに
エルダーフラワーとジャーマンカモミールを合わせると、体を温める効果が得られます。冷え性対策や風邪の引き始めの冷えを取り除いてくれます。[※12]
■気分を落ち着けたいとき
エルダーフラワーとリンデンフラワーのブレンドが良いでしょう。エルダーフラワーの爽やかな香りとリンデンフラワーの甘味は心を落ち着けてくれます。[※12]
熟していない実や種、新鮮な葉には青酸系の毒素が含まれているため、自宅で栽培して服用しようと考えている方は注意してください。服用すると嘔吐や下痢、頭痛、痙攣などを引き起こすおそれがあります。[※13]完熟させた実の種を取り除いて使用しましょう。
エルダーフラワーに関しては、科学的に充分なエビデンスが揃っていない状態です。そのため、妊娠中や授乳中、子どもの過剰摂取には充分注意してください。
また、エルダーフラワー以外のハーブをブレンドして服用する場合に、消化管の障害やアレルギー反応が出るケースがあります。エルダーフラワー自体にアレルギーを起こす可能性もあるため、服用していて違和感を覚えたら使用を中止しましょう。
そのほか、利尿作用があるため利尿剤を服用している方は注意が必要です。
[※13]
日本におけるエルダーフラワーの相互作用は明確にされていません。
しかし、海外において、4歳の男児が風邪薬を飲んだ後にエルダーフラワーを含むハーブシロップを服用したところ、胃腸出血を起こしたという被害報告があります。シロップに入っていたサルチル酸が原因ではないかとされています。男児はその後回復しました。[※14]
また、飲み合わせを控えた方が良いとされている薬の組み合わせも存在します。
■経口血糖降下薬
エルダーフラワーにインスリンの放出作用があるため、血糖値を下げる薬との相性は良くないとされています。[※15]
■利尿剤
エルダーフラワーには利尿作用があるため、利尿剤を使用している方は、注意が必要です。[※13]
また、エルダーフラワーに含まれるケルセチンはシプロフロキサシンやエノキサシンなどの抗生物質の効果を低下させるおそれがあります。[※16]
これらの薬を服用している場合は、エルダーフラワーの利用を控えるか医師に相談のうえ使用しましょう。