エラスチンは美肌と健康維持に欠かせないたんぱく質の一種です。肌の真皮や靭帯、動脈や肺などに存在し、これらの伸び縮みを高い弾力性でサポートする特性を持っており、別名「弾性線維」「弾力線維」とも呼ばれています。[※1]
一般的に、肌のハリはコラーゲンによって実現すると思っている方が多いですが、実はある意味では間違っています。コラーゲンはいわばベッドのスプリングのような働きをしているのですが、コラーゲンだけでは肌の弾力を維持することはできません。このコラーゲン同士を伸縮性のある繊維束で繋ぎ、弾力のある肌へと導く役割を果たしているのがエラスチンなのです。
ここではエラスチンの効果効能や作用のメカニズム、摂取目安量や副作用、専門家の見解を解説しています。
エラスチンとは、肌の真皮にあるたんぱく質の一種。伸び縮みする性質があり、弾力を意味する英語「elastic」が語源です。
真皮にあるコラーゲンとコラーゲンの間をエラスチンが繋ぐことで、網目状の繊維の隙間に水分が保たれて、ハリと潤いのある肌が実現します。
エラスチンは人間をはじめ、脊椎動物に存在します。人間の体にあるエラスチンは、靭帯80%、動脈50%、肺20%、真皮5%の割合。人間以外の動物だと、牛や豚の大動脈、馬の靭帯、カツオの心臓部分などに豊富に含まれています。
体内のエラスチンは20代半ばまで真皮内で増え続け、20代後半から40代にかけて緩やかに減少。40代以降は生成速度が落ち、急激に減少する傾向があります。[※2]
エラスチンを構成しているのは800個以上のアミノ酸ですが、80~90%を占めているのは以下5つの成分です。[※3]
エラスチン摂取により、次のような効果・効能が期待できます。
■ハリ・ツヤ・弾力のある肌になる効果
エラスチンはもともと肌細胞に存在し、ハリやツヤ、弾力を保ってくれている成分です。ただし、エラスチンの生成速度が遅くなる40代以降の肌はエラスチンが不足しがち。また10~20代の女性も、日常的に紫外線を浴びたり、ストレスを抱えていたりする場合は、エラスチンの繊維が切れてしまいます。
肌の弾力が足りない、または弾性繊維がダメージを受けると、目尻のしわやほうれい線、まぶたや頬、顎まわりのたるみが発生。これらの肌トラブルは、エラスチン摂取でハリと潤いのある肌へと改善可能です。 [※9]
■運動機能を向上させる効果
靭帯を構成する成分の50~70%はエラスチンです。40代以降になると靭帯にあるエラスチンは大幅に減少。すると、靭帯の伸縮性が落ちて関節の曲げ伸ばしが難しくなります。
また、エラスチンは血管の伸縮性にも影響しているため、エラスチンが減少すると血液の流れが悪くなります。年を重ねても身体機能をキープするには、エラスチン摂取が欠かせません。
細胞実験では、エラスチン摂取による関節の靭帯細胞や軟骨細胞の増殖、靭帯成分や軟骨成分の再生が明らかになったと報告されています。[※10]
■血管系疾患を予防する効果
エラスチンは動脈の柔軟性や弾力性を保ち、コレステロールやカルシウムが中膜に詰まるのを防いでくれる成分です。この働きから、日本人の成人死亡原因第2位の心筋梗塞、第3位の脳梗塞を予防する効果が期待できます。
血管系の疾患の主な原因は動脈中膜の詰まり(アテローム硬化)です。エラスチンが豊富に存在するのは、心臓内部にある動脈中膜。中膜は弾性板と呼ばれるシート状の層が連なって構成されており、弾性板の中には線維状の弾性繊維が敷き詰められています。
複雑に構成された弾性繊維の層が収縮運動に適応することで、血管が脈打つ仕組み。エラスチンが不足すると、血管壁はゆるんで厚くなり、不足状態がしばらく続くと硬化します。血管壁の効果が動脈中膜の詰まり(アテローム硬化)を招く可能性が高いことから、エラスチン摂取で予防できると考えられているのです。[※11]
エラスチンはコラーゲンとコラーゲンを結び、ハンモックのように伸び縮みする性質を活かして、ハリと弾力のある肌を構成してくれます。40代以降に肌のハリが消え、小じわやたるみが増えてしまうのには、エラスチンの減少が関与しています。
エラスチンがコラーゲン同士をしっかりと結びつけて肌にハリが戻ることで、必然的に小じわやたるみも改善されることから、アンチエイジング効果の高い成分として注目を集めています。[※9]
自在に伸び縮みする特性は、肌以外の場面でも重要な働きをしています。たとえば靭帯の伸縮度向上は身体機能をサポートしますし、血管の弾力や柔軟性維持は動脈硬化の予防に繋がります。エラスチンは美容面だけではなく、健康面においても重要な作用を持つたんぱく質なのです。[※12]
また、エラスチンの大部分を占めている5つのアミノ酸(ロイシン・アラニン・グリシン・プロリン・バリン)の作用にも注目。[※4] [※5] [※6] [※7] [※8]
バリンとロイシンは、筋肉を維持・強化・修復してくれる分岐鎖アミノ酸です。バリンは血液に含まれる窒素バランスの調整でたんぱく質量を維持。ロイシンは体内でHMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)を生成して筋繊維の損傷を抑制しながら、新しい筋肉になるたんぱく質の合成を促してくれます。
肝臓でつくられるアラニンは、アルコールの代謝を促進しながら肝臓を保護。グリシンは睡眠の質を改善してくれます。2007年に実施された味の素株式会社のグリシンの研究では、末梢血流の増加、熱放散の促進、直腸内温度を低下させる働きなどから、睡眠の質向上への関与が認められました。[※13]
プロリンはたんぱく質相互作用の名脇役といわれているアミノ酸。関節痛緩和、脂肪燃焼、コラーゲン生成の促進など、複数の作用を持っています。
これらのアミノ酸で構成されていることを踏まえると、エラスチンが身体全体の機能をサポートしてくれる成分だと分かります。
エラスチンは美肌を目指したい方、血管や心臓の病気を予防したい方、スポーツをしている方が摂るべき成分です。
エラスチンとコラーゲンと組み合わせて摂取すると、ハンモックのような弾性繊維となってお肌のハリを保ってくれます。ハリのある肌はしわやたるみができにくいので、若々しい美肌を維持するのにピッタリの成分です。
また、エラスチンは心臓付近の弾性血管でも大きな役割を担っているので、血管や心臓の病気を予防したい方にもおすすめ。活性酸素の影響や加齢でエラスチンが減ってしまうと血管の柔軟性は失われ、動脈硬化の発症リスクが上がります。
スポーツをしている方は靭帯に大きな負担がかかりやすいので、靭帯の伸縮性を上げるためにエラスチンを摂取しましょう。
公益財団法人日本健康・栄養食品協会で公開されているエラスチンペプチドの摂取目安量は一日あたり100mgです。[※14]
肌や体の調子を整えてくれるエラスチンは、数々の大学、研究所、企業などの研究におけるエビデンスが存在します。
肌の弾力増加が認められたのは、(株)総合健康開発研究所で行われた実験です。研究内容は、一日あたり75mgのカツオエラスチンを配合した健康食品の4週間継続摂取。実験結果では、90%以上の女性の肌に弾力増加が確認されています。[※9]
また、九州工業大学情報工学部は魚類および哺乳類の弾性組織から調整されたエラスチンペプチドの働きを調査。エラスチンペプチドにはコラーゲン誘導血小板凝集を阻害する働き、ヒト皮膚繊維芽細胞の遊走および増殖を活性化する働きがあると判明しました。
これらの働きにより、エラスチンペプチドは細胞間を自由に移動できる成分であり、抗血栓、血流改善、皮膚保護などの作用があると考えられています。[※15]
靭帯に関する研究を行ったのは、三重大学大学院工学研究科。研究では、エラスチン摂取後に靭帯の伸縮性や弾力性の向上が認められたほか、靭帯のダメージ修復効果も見込めることが明らかになっています。
加えて、カツオエラスチン摂取による靭帯細胞増殖作用、たんぱく質を作る「RNA」発現を促す作用などが確認されました。
また、エラスチンが損傷靭帯の早期治療に効果的だと分かる実験データも報告されています。[※12]
エラスチンは脊椎動物に分布している身近なたんぱく質です。しかし、水にほとんど溶けない性質を持つことから、近年まで研究が進んでいませんでした。
エラスチンを溶剤に溶かす方法が開発されてからは研究が進められ、体内での役割や性質が分かりはじめました。現在では美容成分としてだけでなく、血管や心臓の病気との関わり、再生医療への応用など、注目される範囲が広がっています。
日本では九州工業大学がエラスチンを長年研究しており、新たなエラスチン抽出技術を開発しました。特許を取得したこの技術は高純度かつさまざまな分子量のエラスチンを得られることから、幅広い分野で活用されています。[※15]
エラスチンは美容・健康・再生医療など、今後活躍の場が増えていくでしょう。九州工業大学所属の前田衣織准教授は、ECヘルスケアの研究でエラスチンの美肌効果について以下のように述べています。[※16]
「最近の研究ではコラーゲンだけでは肌のシワ・たるみなどの老化を食い止められず、コラーゲンと「エラスチン」を組み合わせることで美肌効果が得られることが分かってきました。」(ECヘルスケア「エラスチン研究者の声」より引用)
コラーゲン摂取だけで老化を食い止めるのは難しい、エラスチンとの併用摂取が大切だという前田衣織准教授の見解は、「コラーゲン=美肌」という一般的な美容知識を覆す内容です。最近は研究によって高純度なエラスチンの抽出が可能になったため、高い美肌効果が期待できます。
また、九州工業大学が新たに開発した抽出技術は分子量を選択できることから、美容だけでなく多くの分野で利用されるようになりました。前田衣織准教授はエラスチンの今後の展望について次のようにコメントしています。
「最近になって研究が進んだことから、素材としてのエラスチンには医療・健康・美容をはじめとする大きな可能性があることが注目を集めるようになりました。」(ECヘルスケア「エラスチン研究者の声」より引用)
「エラスチン研究の最前線で日々研究を進める研究者という立場からも、純度の高いエラスチンを供給することによる品質の向上、市場の活性化、社会貢献には大変大きな期待を持っています。」(ECヘルスケア「エラスチン研究者の声」より引用)
今後、エラスチンに関わる研究や市場はさらに大きくなっていくことが予想されます。
エラスチンは「柔軟性や弾力性が高い部位」に多く含まれている成分です。摂取しやすい食品となると牛すじ、手羽先、軟骨、魚・鶏の皮、鰹節、小魚、しらす干し、煮魚などがあげられます。そのため魚は皮ごと食べるのが望ましいでしょう。
1日あたりの摂取目安量は100mg[※14] と食品で補える量ですが、エラスチンの分子は大きいため体内へ吸収されにくい傾向があります。そのため食品からの摂取だけではなく、サプリメントやドリンク剤、美容液などを併用して摂取するのが効率的です。体の内と外からエラスチンを補い、柔軟性の高い肌と体をつくりましょう。
ちなみに、肌は眠っている間に新陳代謝が進むため、美容の観点では就寝前にエラスチンを摂取するのが有効とされています。
エラスチンはコラーゲンを併用することで肌の弾力性に相乗効果が生まれます。コラーゲンが多く含まれているのは鶏の皮や軟骨、魚の皮など。これらの食品にはエラスチンも含まれているため、併用摂取しやすいでしょう。
また、エラスチンの膝関節痛軽減効果を上げるためには、グルサミンを一緒に摂取するのが良いとされています。グルコサミンはカニやえびなどの甲殻類、うなぎ、牛や鶏の軟骨、きのこ類、山芋などに含まれます。
林兼産業株式会社の研究によると、カツオエラスチン75mg単体を12週間摂取し続けた結果、膝関節痛は約20%低減したという結果が出ました。同じ期間、グルコサミン1,000mgを併用摂取し続けた結果は約25%低減したと報告されています。[※9]
また、ビタミンAやビタミンKはエラスチンの合成を促進する成分です。ビタミンAはレバー、うなぎ、モロヘイヤなど、ビタミンKはほうれん草、納豆、わかめなどに含まれています。
エラスチンはもともと体内に存在するので、摂取することによる副作用の心配はありません。ただし、エラスチンが豊富に含まれているのは肉や魚などの動物性食品。アレルギー反応が起こりやすい傾向があるので食べ過ぎには注意しましょう。