今や全国各地で手に入る「海洋深層水」ですが、実は海洋学上の深層水とは少し定義が異なります。海洋学上では北大西洋のグリーンランド沖、または南極海の海底にある海水を指し、産業利用上の海洋深層水は取水場所を問わず、200m以深にある海水すべてを指します。
ミネラルの含有量は取水場所によって異なりますが、「太陽の光が届かない深層にある」という点は海洋学上の深層水と同じです。
ここでは産業利用上の海洋深層水の効果効能、機序作用のメカニズムやエビデンス(科学的根拠)、摂取目安量や摂取方法などの情報を分かりやすく解説しています。
産業利用上の海洋深層水は200m以深にある海水です。200m以深の海水は基本的に約2~4℃で一定に保たれています。低温なので細菌や有機物はほとんど繁殖しません。また生活排水や産業排水、化学物質による汚染が少ないため、清潔で澄んでいます。
表層の海水と海洋深層水の違いはミネラルの含有量です。表層では、植物プランクトンが光合成を行う度に海水中のミネラル(リン・窒素・ケイ素など)が消費されてしまいます。一方、海洋深層水は日光が届かない深層にあり、植物プランクトンは休眠状態。光合成は行われないため、深層水にはミネラルがたっぷり含まれています。[※1]
海洋深層水がもつ、代表的な効果・効能をご紹介します。
■アレルギー症状の悪化を防ぐ効果
海洋深層水を摂取すると必須ミネラルが補われ、毒性ミネラルが減少するため、アレルギー症状の悪化を防げると考えられています。[※2]
■軽度の片頭痛を改善する効果
月に10回ほどの発作が起こる片頭痛患者が海洋深層水を摂取すると、発作回数の減少や痛みをやわらげる効果が期待できます。[※3]
■冷えやすい部位を保温する効果
温めた海洋深層水に入浴すると、海洋深層水に含まれるミネラルが肌に付着して汗の蒸発が防がれるため、保温効果が続くと考えられています。[※2]
■代謝を促進して健康機能を保つ効果
海洋深層水に含まれるミネラルは、悪玉コレステロールや老廃物などの排出を促してくれる成分。血流を改善して、高血圧や動脈硬化などの生活習慣病を遠ざけてくれます。[※4]
■むくみを抑える効果
ミネラル不足で足がむくみやすい人は、ミネラルが豊富に含まれる海洋深層水を摂取することで、むくみの症状を抑えられます。[※5]
■便秘を改善する効果
便秘は水分不足によって起こることがほとんど。飲料化された海洋深層水は水分補給に適しています。
また海洋深層水に含まれるマグネシウムが、消化器官を刺激しながら便を柔らかくしてくれます。[※6]
■丈夫な骨をつくる効果
海洋深層水にはカルシウムが豊富に含まれているため、骨の健康維持に役立つ可能性があります。[※12]
■免疫力を高める効果
海洋深層水に含まれるミネラルのひとつ「亜鉛」は免疫力を維持するのに欠かせない成分です。
とある実験では、海洋深層水を使った高ミネラル飲料の摂取で免疫機能が向上したと報告されています。[※8]
■肥満予防効果
海洋深層水には、中性脂肪やコレステロールの吸収を抑える効果があるため、食事と合わせて摂取することで肥満予防につながる可能性があります。[※9]
■白内障予防
海洋深層水に含まれるマグネシウムは、白内障の原因のひとつ「細胞内に蓄積したカルシウム」を汲みだして、水晶体上皮細胞を保護してくれます。[※10]
■腸内環境を守る効果
海洋深層水に含まれるミネラルが腸内細菌のエネルギーとなり、腸内環境が活性化すると考えられています。[※11]
■口内の免疫力を高める効果
海洋深層水に含まれるミネラルには、口腔内にウイルスが侵入するのを防ぐ粘膜免疫機構の働きを高める効果があります。[※12]
■がん細胞の増殖を抑える効果
海洋深層水に含まれるたんぱく質が、がん細胞の増殖抑制に関与すると考えられています。[※13][※14]
補酵素としてミネラルが働いてくれなければ、人間は代謝活動ができません。そんな重要なミネラルをふんだんに含んだ海洋深層水は、人間の体をメンテナンスしてくれる存在でもあります。
海洋深層水を摂取すると必須ミネラル(カルシウム・リン・カリウム・硫黄・塩素・ナトリウム・マグネシウムなど)が補われ、体内に蓄積している毒性ミネラル(アルミニウム・水銀・鉛)が減少します。このミネラルのコントロール力こそ、アレルギー症状の悪化を防ぐメカニズムです。[※2]
通常は、ヘルパーT細胞(大きく分けてTh1 Th2がある)がアレルギー反応を抑制してくれていますが、ミネラルバランスが乱れると免疫寛容の仕組み(自分の細胞を攻撃攻撃して免疫反応を起こさないようにすること)が崩れ、アレルギー症状が悪化します。つまり、海洋深層水はミネラルバランスを保つことで、免疫細胞の暴走を防いでいるのです。[※15]
また海洋深層水は脂肪の吸収も抑えてくれます。通常は、食事の影響で脂質を運搬するリポタンパク質(小腸由来)が増殖して、体に脂肪酸が蓄積されていくのですが、海洋深層水を用いた研究では、海洋深層水の摂取によって脂質を運搬するリポタンパク質の上昇が抑えられました。この研究結果から、海洋深層水の摂取が肥満や高脂血症の予防につながると考えられています。[※16]
病原菌やウイルスが侵入しやすい口腔の環境は、粘膜免疫機構によって守られています。海洋深層水に含まれるミネラルは、粘膜免疫機構の働きを高めてくれるため、外因性の病気になりにくくなると考えられています。[※12]
また、海洋深層水には悪玉コレステロールや老廃物の排出を促すカリウムも含まれており、生活習慣の乱れによってドロドロになった血流を改善してくれます。[※17]
■海洋深層水に含まれる「マグネシウム」の作用機序
海洋深層水に含まれるミネラルの中で、とくに注目すべきは「マグネシウム」です。
片頭痛は、何らかの影響で脳血管機能のバランスが崩れ、血管が過剰に拡張された際に起こる症状。[※18]マグネシウムは神経を安定化して脳血管機能のバランスを落ち着けてくれるため、片頭痛の症状がやわらぎます。[※3]
また、マグネシウムには消化器官を刺激しながら便を柔らかくする働きがあり、水分不足で硬くなってしまった便の排泄をサポートしてくれます。[※6]海洋深層水ならマグネシウムと水分を効率的に摂取できるので、便秘改善効果が期待できますよ。
また、若くして白内障を発症する原因のひとつに、蓄積したカルシウムが水晶体細胞に流入するケースがあります。[※19]海洋深層水に含まれているマグネシウムには、細胞内に蓄積したカルシウムを汲み出す働きがあるため、白内障の予防に効果があるとされています。また、マグネシウムには水晶体上皮細胞を保護する作用も備わっています。[※10]
海洋深層水は、ミネラルが不足している人に飲んでいただきたい水です。ミネラル不足によって起こる体調不良や病気には以下のようなものがあります。
■海洋深層水の摂取が推奨される「ミネラル不足」の症状[※29]
不足しているミネラルの種類によって症状が異なります。豊富なミネラルが含まれている海洋深層水なら効率よく摂取できるため、症状にひとつでも当てはまる人は一度試してみるとよいでしょう。
飲料化されている海洋深層水の摂取目安量や配合ミネラル量は、商品によって異なります。
ミネラルごとに、30~49歳の1日あたりの摂取目安量(推奨量・目標量を含む)と上限量をまとめました。マグネシウムの耐容上限量は、通常の食品以外から摂取した場合の数値となっています。
■海洋深層水に含まれる代表的ミネラルの摂取目安量と上限量[※20][※21]
摂取目安量 | 耐容上限量 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
モリブデン | 30μg | 25μg | 550μg | 450μg |
亜鉛 | 10mg | 8mg | 45mg | 35mg |
セレン | 30μg | 25μg | 460μg | 350μg |
鉄 | 7.5mg | 6.5~10.5mg | 55mg | 40mg |
ナトリウム(食塩相当) | 1.5g | 8g未満 | 7g未満 | |
銅 | 1.0mg | 0.8mg | 10mg | |
マグネシウム | 370mg | 290mg | 350mg | |
リン | 1,000mg | 800mg | 3,000mg | |
カリウム | 2,500~3,000mg | 2,000~2,600mg | - | |
マンガン | 4.0mg | 3.5mg | 11mg | |
ヨウ素 | 130mg | 3,000mg | ||
カルシウム | 650mg | 2,500mg | ||
クロム | 10mg | - |
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年板)の概要」
体に吸収されやすい豊富なミネラルが含まれる海洋深層水。その効果のメカニズムを明らかにするため、大学や企業の研究所、医療機関や研究所などで研究が進められています。産業利用上の海洋深層水の効果を裏付ける、エビデンス(科学的根拠)をまとめました。
■アトピー患者のミネラル数値に関するエビデンス
東北大学未来科学技術共同研究センターでは、アトピー性湿疹/皮膚炎症候群(AEDS)の患者を対象とした海洋深層水摂取の研究が行われました。摂取後には髪のカルシウム・マグネシウムの値が正常に戻り、毒性ミネラル(アルミニウム、水銀、鉛など)が減少したという報告があります。[※2]
■片頭痛症状軽減に関するエビデンス
海洋深層水の摂取により、片頭痛が軽減することが確認されています。対象者は片頭痛もち41人(男性5人、女性36人)。 1リットルあたりマグネシウム200mgを含む深層水を摂取したところ、51%の有効率が認められました。
そのうち、片頭痛患者層は72%、変容性片頭痛患者層は36%でという結果です。海洋深層水は頭痛薬と違って副作用なく片頭痛の症状をやわらげてくれるので、頭痛薬を服用できない人は試してみると良いでしょう。[※3]
■皮膚表面の保温効果に関するエビデンス
海洋深層水の摂取により、片頭痛が軽減することが確認されています。対象者は片頭痛もち41人(男性5人、女性36人)。 1リットルあたりマグネシウム200mgを含む深層水を摂取したところ、51%の有効率が認められました。
そのうち、片頭痛患者層は72%、変容性片頭痛患者層は36%でという結果です。海洋深層水は頭痛薬と違って副作用なく片頭痛の症状をやわらげてくれるので、頭痛薬を服用できない人は試してみると良いでしょう。[※3]
■皮膚表面の保温効果に関するエビデンス
加熱した海洋深層水と水道水を用いて手温浴を行い、実施したところ、海洋深層水で手温浴したほうの手は20分経過しても皮膚表面温度が冷めにくいことが確認されています。[※2]
■血圧・血流をはじめとする代謝機能のエビデンス
「第58回日本栄養・食糧学会」で発表された研究データによると、海洋深層水を調整した高ミネラル水には血圧上昇の抑制、血清脂質濃度と大動脈硬化病変を改善する効果などが認められています。[※22]
また、別の研究では、海洋深層水由来のミネラル飲料摂取による血流改善、肝機能・筋・脂質代謝・腎機能・糖代謝指標における一時的な増減なども報告されています。[※4]
■むくみ抑制効果に関するエビデンス
赤穂化成株式会社と近畿大学薬学部が日本薬学会で発表した内容によると、Mg2+(マグネシウム)を含む海洋深層水100%のにがり水をラットに投与し続けた結果、むくみ抑制効果や胃粘膜生涯抑制効果が確認されています。[※5]
■便通改善に関するエビデンス
便通が1週間に2~5回の頻度のヒトを対象に、マグネシウム含有の深層水を飲んでもらう実験では、1日あたりの平均排便回数が増加しました。また、腹部の残便感や不快感、腹痛なども改善しています。[※6]
■骨密度強化に関するエビデンス
琉球大学と沖縄県海洋深層水研究所の調べによると、沖縄久米島の海洋深層水には、骨のカルシウム含量を増やす作用があり、硬く強い骨を目指せることがわかっています。[※7]
■免疫力向上に関するエビデンス
海洋深層水利用研究会が発表している内容によると、海洋深層水を調整した高ミネラル飲料は、血液中の白血球を活性化して免疫機能を上げることが明らかになっています。[※8]
■抗肥満作用に関するエビデンス
海洋深層水を調整した高ミネラル飲料を高脂肪食と同時に摂取する実験にて、CMやRLP(コレステロールを運搬するたんぱく質)の上昇が抑えられました。この結果から、海洋深層水由来の高ミネラル飲料には抗肥満作用があると考えられています。[※9]
■白内障予防に関するエビデンス
遺伝性白内障ラットSCRを用いた実験にて、海洋深層水には白内障の発症を遅延させる効果があることがわかり、深層水利用研究会で発表されました。[※10]
■ピロリ菌の増殖を抑えるエビデンス
日本臨床検査自動化学会第37回大会で発表された内容によると、海洋深層水を調整した高ミネラル水の摂取によってヘリコバクター・ピロリ菌の増殖抑制効果が認められました。ちなみに増殖を100%抑制できたピロリ菌の種類はKMT11、KMT36、KMT46、NY31です。[※23]
■口内の粘膜免疫を高めるエビデンス
ミネラルを豊富に含む海洋深層水の刺激(洗口または飲用)によって、口腔の粘膜免疫機構の主役「S-IgA」は増加傾向にあることが認められています。[※12]
■がん細胞の増殖を抑えるエビデンス
海洋深層水を調製した高ミネラル飲料には、がん細胞の増殖を抑える効果があるとわかっています。この研究結果は赤穂化成株式会社と高知大学医学部の共同研究によって明らかになり、第56回日本臨床検査医学会学術集会で発表されました。[※13]
海洋深層水研究の始まりは、1881年にフランスの物理学者ジャック=アルセーヌ・ダルソンバールによって提案された「海洋温度差発電」です。[※24]海洋深層水の温度が低いことを利用した発明でした。
日本で深層水が注目され、研究や実験が行われるようになったのは1973年。オイルショックで世界経済が大混乱に陥った時期です。[※24]
1980年には、海洋深層水を使った発電にくわえ、淡水生産や冷房、養殖などの本格的な研究が進められるようになりました。
1989年には日本初の取水施設「高知県海洋深層水研究所」が完成。海洋深層水を容易に取水できるようになり、多目的利用の研究が加速しました。現在では、日本全国で海洋深層水を取水できるようになっています。[※25]
高知大学医学部附属病院検査部の竹内啓晃講師は、海洋深層水利用学会にも所属しており、これまでに数々の論文を発表してきました。2016年には、脱塩で飲料化した海洋深層水の医学応用の成果が認められ、海洋深層水利用学会賞を受賞した経歴もあります。
海洋深層水に精通している竹内講師は、海洋深層水に関する論文内で次のようにコメントしています。
「海洋深層水飲料水が生体の健康維持増進や疾病予防等に有用であることが明らかとなった現在、私達は原点回帰して『腸内環境への影響』を、産官学民連携を基盤に臨床試験を実施している。この検証結果はこれまで報告された様々な症状改善効果を説明できる医科学的根拠あるいは生体変化(事象)の証明につながると考えている」(「海洋深層水利用学会|竹内啓晃講師/海洋深層水を利用した医療・健康増進分野への貢献と期待」より引用)[※26]
上記の見解から、脱塩海洋深層水は健康維持や疾病予防につながる医学的根拠をもつ飲料水だとわかります。今後の産官学民による研究にも期待したいところです。
これまで、海洋深層水の摂取方法といえば脱塩した飲料水が代表的でした。しかし、現在では飲料水に限らず、様々な分野で海洋深層水の応用が進められています。
経口摂取では、海洋深層水が配合された医薬品や健康食品を利用可能です。
ちなみに、「味がまろやかになる」という評価から豆腐やパン、発酵作用をもつことからアルコールや発酵食品などに用いられていますが、あくまでも製造過程の使用であり海洋深層水の効果を得られるものではりません。
皮膚から摂り入れる方法としては、海洋深層水配合の化粧品の使用や海洋療法(タラソテラピー)などがあります。[※27]
体のエネルギー源となる三大栄養素(糖質・脂質・たんぱく質)の代謝には、ミネラルやビタミンなどの「補酵素」の存在が欠かせません。体の機能を高めるために、ミネラルが豊富な海洋深層水と一緒にビタミン類を含む食品も摂取しましょう。以下のような食品に代表的なビタミンが含まれています。
これまでに報告されている副作用は、アトピー性皮膚炎患者が加熱厳菌済の海洋深層水(生理食塩水)を霧吹きで塗布した際に「滲みて痛いという刺激感があった」というもの。[※28]そのほか、海洋深層水に関する副作用の事例は見つかりませんでした。(2018年3月時点)
雑菌が繁殖しにくい深層から取水している海水のため、安全性は非常に高いといえます。
2009年に大阪府内科医会にて、飲料化された海洋深層水と便秘薬の相互作用に関する臨床試験が行われました。便秘傾向の通院患者が海洋深層水を飲用しても有害事象は認められなかったという結果が報告されています。
安全性は極めて高い海水ですが、便秘薬以外の医薬品との相互作用に関するデータはまだ少ないのが現状です。そのため、安全性が不明瞭な組み合わせも存在します。
効果の減弱・増強などの相互作用を避けるためには、安全性が立証されている機能性食品成分や医薬品の組み合わせで海洋深層水を摂取しましょう。[※29]