クルクミンとは、ウコンなどに含まれる黄色いポリフェノール化合物で、スパイスや着色料として利用されています。
近年はクルクミンが持つ機能性に注目が集まり、世界中でさまざまな研究が進められています。
ここではクルクミンの効果効能・研究成果・摂取目安量などについて詳しく解説します。
クルクミンはポリフェノールの一種で、ウコン(ターメリック)に含まれている黄色の色素成分として知られています。
その鮮やかな黄色は、古くからカレーなどのスパイスとして利用されてきただけでなく、私たちになじみのある食品として、たくあん・栗のシロップ漬・練り製品などの食品添加物(天然の着色料)としても利用されています。
クルクミンの原料であるショウガ科植物のウコン(英語名:ターメリック、学名:Curcuma longa L.)も、伝統医療のアーユルヴェーダや漢方薬の世界で薬効の高いハーブのひとつとして利用されています。[※1]
主なウコンの生産地であるインド、東南アジア、中国、琉球諸島などでは、民間薬、傷薬、顔料としてクルクミンを含むウコンを利用してきた歴史があります。
ウコンの根や茎に含まれるクルクミンに薬理効果が期待されるようになってからはクルクミンの科学的研究が盛んに進められるようになっています。
クルクミンは水にほとんど溶けない脂溶性の物質であるため、体内に取り込まれた後はほとんどが排出されてしまいます。
それでもクルクミンの研究が盛んに行われる理由は、試験管試験(in vitro試験)や動物試験において多数の生理活性作用が報告されているからです。
特に抗酸化作用や肝機能に関する機能性については注目を集め、肝機能に関するエビデンスで機能性表示食品として許可されているクルクミン商品も登場しています。
クルクミンの機能性や有用性は多数報告され、またエビデンスも提出されている一方で、クルクミンがヒトの体にどのように吸収・代謝されるのかはほとんど解明されていません。[※2]
そのため、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所では、クルクミンのヒトにおける安全性・有効性について「信頼に足る立証はない」としており、今後のさらなる研究が待たれるところです。[※3]
ところで、原料となるウコンには「春ウコン」「秋ウコン」などいくつかの種類があると思われおり、いずれも通称で「ウコン」と呼ばれます。しかし「ターメリック」を指しているのは「秋ウコン」のみで、秋ウコンに最も多くクルクミンが含まれています。
「春ウコン」や「紫ウコン」などもありますが、これは同じショウガ科ウコン属ではありながらも別の植物です。[※4]
クルクミンには以下のような効果・効能が期待されています。
■肝機能を高める効果
クルクミンを摂取することで肝機能の指標となるGOT、GPT、γ-GTPの数値がいずれも有意に低下したことが報告されており、肝機能を高める効果が確認されています。[※5]
■コレステロール値低下効果
ポリフェノールの一種であるクルクミンには他のいくつかのポリフェノールと同様に、コレステロールの吸収を阻害する作用が報告されています。またクルクミンが胆汁酸の分泌を促進することによっても、コレステロール価が低下すると考えられています。[※6]
■美肌効果
クルクミンを1日2回4週間摂取することで(90mg相当)肌の水分量の上昇、シミ、シワ、毛穴の改善が報告されています。[※2]
■抗炎症効果
クルクミンは体内の炎症を引き起こすNF-kB(NFカッパービー)の作用を抑制することで、体内の慢性炎症や生活習慣病を予防すると報告されています。[※7]
■抗アミロイド効果
クルクミンは、認知症の原因とされるアミロイドβや脳の神経繊維の変化を抑制することで、記憶力・注意力・抑うつの改善に有効であることが示唆されています。[※8]
■キレート作用(有害金属を排出する作用)
クルクミンには鉄をキレートする作用があると報告されており、肝臓などの臓器から鉄を減らすことで酸化ストレスを低下させる、と報告されています。[※9]
■肥満予防効果
クルクミンには炎症性アディポカインの発現を抑制し、血中脂質濃度調整作用を促進する効果が報告されており、この作用によって肥満や糖尿病を含む、生活習慣病発症予防の期待が高まっています。[※10]
クルクミンは脂溶性の物質で、食品からそのまま摂取してもごくわずかしか体内には吸収されません。そのため体内に吸収された後の体内動態についてはほとんど解明されていません。
しかし摂取されたのち、腸管の上皮細胞で還元されて生成されるテトラヒドロクルクミン(=還元型クルクミン)という形に変化し、これがクルクミン血中に存在することで機能性を発揮する、という考えがあります。[※11]
また近年になって、クルクミンが肝臓でUDP-グルクロン酸転移酵素(以下UGT)、もしくは硫酸転移酵素(以下SULT)により抱合され、これがクルクミンの機能性発現に大きく関与している、という見方も主流になっています。[※12]
さらに肝臓で代謝されたクルクミンは、胆汁から腸管に排泄され、さらに排泄されたクルクミンは再度肝臓に運搬されて、肝臓と腸管を移動する「循環説」も示唆されています。[※12]
最近はテトラヒドロクルクミンの方が、クルクミンよりも強力な機能性を持ち、さらに無色で極性が高い(親水性を示しやすい)という性質を持つため、食品添加物などへ応用しやすいと考える研究もあります。[※13]
現在は「還元型クルクミン」「高吸収クルクミン」など、さまざまな技術でクルクミンの吸収率を高める加工をしたクルクミンが、サプリメントや健康食品に利用されるようになっています。
クルクミンを含む商品には、肝機能の健康維持を目的としたものが多くあります。そのため、お酒をよく飲む人、肝臓の健康を維持したい人におすすめできます。
また肝臓の状態は肌の状態を左右します。内臓を整えることで肌を美しく保ちたい人にもクルクミンはおすすめできるでしょう。
とはいえ、クルクミンの原料である「ウコン」についてはさまざまな情報があります。特に「ウコンはむしろよくない」「肝機能障害のある人は注意」といった情報があるのも事実です。
これについては日本医師会もコメントを発表しており、「食事中に含まれる量の摂取はおそらく安全と思われる」「秋ウコンは胃潰瘍、胃酸過多、胆道閉鎖症の人には禁忌」「胆石の人は医師に相談」としています。[※14]
クルクミンを含むウコンの健康食品・サプリメントによる健康被害の報告数は少なくありません。
ウコンもクルクミンも、そして他の健康食品やサプリメントも薬ではないので、健康に不安のある人こそ、医師に相談して健康食品やサプリメントと上手に付き合うべきです。
クルクミンの安全基準については、第61回JECFA(FAO/WHO食品添加物専門家会議)、食品化学安全委員会によって評価され、0〜3mg/kgを1日の摂取許容量(ADI)としています。[※3]
つまり、体重が50kgの人であれば1日に150mgが摂取許容量ということになります。
尚、一般的に販売されているクルクミンが含まれた健康食品などを確認すると、1日あたり30mg程度のクルクミンが摂取できるようになっているものが多くなっています。
一方、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所が監修する「健康食品」の素材情報データベースには、がん患者(男性13名、女性12名、平均年齢60歳(36~77歳))における第1相臨床試験の結果で、クルクミン8,000mg /日、3ヶ月間の経口投与は安全であることが示されています。[※3]
■肝機能を高める効果
(株)セラバリューズでは、以下のようなヒト試験を行っています。
同社の細粒化クルクミン製剤「セラクルミン」を、アルコール摂取30分前に摂取してもらう試験と、健康な成人19名に朝夕90mg、1日2回のセラクルクミン摂取を1か月継続してもらう試験を行いました。
その結果セラクルクミン接種後にアルコールを接種したグループは、アルコール接種後のアセトアルデヒト濃度の上昇が有意に抑制されたことが確認されています。
またセラクルミンの1か月の接種で肝機能改善効果も認められており、これは機能性表示食品のエビデンスとして消費者庁に届出されています。[※5]
■美肌効果
(株)セラバリューズの細粒化クルクミン製剤「セラクルミン」を健康な成人女性に朝夕2回、4週間(クルクミン換算で30mgと90mg)を接種したところ、いずれも接種前に比較して肌の水分量が約15%増加し顔の皮膚のシミ・シワ・毛穴などの画像診断でも改善効果が報告されています。
またクルクミンにはコラーゲン分解酵素の発現を抑制する作用も示唆されています。[※2]
■コレステロール値低下効果
イランでは、2型糖尿病患者100名に二重盲検無作為化プラセボ比較試験を行い、クルクミノイド(=クルクミン)を500mgとピペリ5mgを1日2回12週間投与す試験を行っています。
その結果、体重・BMI・血清総コレステロール濃度の低下・HDLコレステロール濃度の上昇が報告されています。 [※3]
■抗炎症効果
クルクミンには体内の炎症を引き起こすNF-kB(NFカッパービー)という生理活性物質の発生や作用を抑制する働きがあり、これがクルクミンの持つ強力な抗炎症作用のメカニズムと考えられています。
この抗炎症作用によって、あらゆる老化や疾病の原因とされる「慢性炎症」を抑制し、ラットの試験では心筋梗塞の進行抑制、変形性膝関節症の痛みの緩和などの作用も報告されています。[※15]
■抗アミロイド効果
アルツハイマー型モデルラットに、クルクミンの長期経口摂取を行った試験では、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβの沈着が抑制されただけでなく、神経細胞死を引きおこすタウ・たんぱく質のリン酸化も同時に抑制したことが報告されています。[※16]
クルクミンの原料である秋ウコン(ターメリック)は、インドではアーユルヴェーダの治療薬として、中国でも漢の時代から漢方薬として使用されてきた歴史があります。
日本では平安時代の琉球で使用がはじまり、日本各地に広まったとされています。ウコンの健康効果、特に肝臓の機能を高める効果や美肌効果は昔から伝承医療としても知られており、それが現代にも受け継がれているのです。
1990年にアメリカの国立がん研究所NCIが「がんの予防の可能性があるデザイナーズフーズリスト」を発表し、これにウコンが含まれていたことが、ウコンの薬効に注目が集まるきっかけとなりました。
ウコンの研究はいつしか、ウコンに含まれる最大の抗酸化成分であるクルクミンの研究に移行し、クルクミンを用いた動物試験では、がんの抑制作用なども認められています。
名古屋大学の大洋俊彦教授は、国立がんセンターとの共同研究で、経口投与されたクルクミンは、そのままの形ではなく、小腸の上皮細胞で還元され「テトラヒドラクルクミン」に変わることで、その抗酸化能力が大幅にアップし、がんを促進する活性酸素を消去するというメカニズムも解明しています。[※17]
このように、ウコン、そしてクルクミンは古代の人々の叡智と現代の最先端科学の両面から評価される成分となったのです。
お茶の水健康長寿クリニック院長の白澤卓二先生は自身の書籍『ボケないのはどっち?』(あさ出版)の中で、クルクミンについて以下のように解説しています。
「実験でクルクミンをアルツハイマー病のモデルマウスに与えたところ、本来であればアルツハイマー病によって脳の表面に老人斑というシミができるはずが、その確率が30%も減少したのです。」(中略)
「カレーを日常的に食べているインドの地方の疫学調査でも、アルツハイマー病の発症率が低いことが報告されています。クルクミンはウコンの有効成分として、アーユルヴェーダの時代からインド医学においてさまざまな疾患の治療に用いられてきました。
ポリフェノールにより強い抗酸化作用だけでなく、がん細胞に対する増殖抑制効果もあり、アルツハイマー病のみならず、大腸がんの予防や、骨関節症への治療応用が期待されています」(『ボケないのはどっち?』(あさ出版) より引用・抜粋)[※11]
クルクミンはウコンに多く含まれます。中でも秋ウコン10gの中に約30mg含まれているとされます。
また着色料としてたくあん、かまぼこなどの練り物、和菓子などに使用されていますが、いずれもごくわずかな量しか含まれていません。
カレーライス、ターメリックライス、パエリヤなどにも含まれますが、いずれもごくわずかで、食品からクルクミンを市販のサプリメントなどに含まれる量(目安として30mg)と同等に摂取するのは難しいといえます。
健康食品やサプリメントから摂取する場合は、「還元型」「高吸収型」など、クルクミンの吸収力を高める工夫が行なわれているもので、原材料やクルクミン含有量が明記されているものを選ぶとよいでしょう。
クルクミンといえば「肝臓」の健康維持を目的とした健康食品やサプリメントがほとんどです。
そのため肝臓の健康に良いとされる成分、例えば「しじみエキス」や「牡蠣エキス」とクルクミンを合わせた商品が多くなっています。
また、お茶の水健康長寿クリニック院長 白澤卓二先生は自身の書籍『ボケないのはどっち?』(あさ出版)の中で、クルクミンの吸収を促進する成分として、きな粉に含まれるレシチンをあげています。
レシチンは乳化作用を持つので、脂溶性のクルクミンとも相性がよいということです。
クルクミンは基本的に安全性の高い成分であるとされる一方で、いくつかの副作用も報告されています。しかしいずれも大量摂取や医薬品との相互作用によるものです。
例えばアメリカの乾癬患者12名がクルクミン4.5gを12週間連続で摂取した際、3名に症状悪化が起こったケース。韓国で3〜4.5g(日)のターメリックを1ヶ月以上摂取した場合の副作用が報告さています。
医薬品との相互作用については、すでに肝機能障害がある人、それによる医薬品を服用している人、C型肝炎やアルコール性脂肪肝のある人は避けるべきとされています。
またクルクミンには血液を促進する作用があるためワーフェリンやアスピリンのような抗凝固薬との併用も避けるべきとされています。
もちろん妊娠中・授乳中の人についてもサプリメントなどでの摂取には注意が必要です。[※3]