筋肉の増強を目指すアスリートなどは、プロテインとともにクレアチンを摂取している人が多くいます。そんなクレアチンとはどんな成分なのか、その効果や作用、吸収率を高める摂取法、エネルギー生産メカニズム、またプロテインと併用して使用する場合の注意点や副作用についても説明していきます。
クレアチンとはアミノ酸の一種で、アルギニン、グリシン、メチオニンの3種類から作られます。体内のクレアチンは約95%が骨格筋に存在し、その約60%は、クレアチンリン酸として存在する有機酸です。
クレアチンリン酸とは、「クレアチンが肝臓・腎臓・膵臓で合成され、血液により筋細胞や脳に運ばれてリン酸化」したもので、筋収縮の際、エネルギーとなる貯蔵物ATP(アデノシン三リン酸)の再合成に使われます。
クレアチンの代謝産物「クレアチニン」は、腎臓機能の評価に利用されます。[※1][※2]
クレアチンは次のような効果が考えられています。
■持久力を高める
クレアチンを摂取することで、短時間に激しい運動を繰り返す時に運動能力を高める効果があるとされます。[※3]
運動時、使用される「エネルギー」とはATP(アデノシン三リン酸)が加水分解する際に発生したときのものです。運動を続けるためには、体内のATPを再合成しなければなりません。
■筋肉量を増加させる
クレアチン摂取とともに最大強度のトレーニングをすることで筋量を増やす効果ができます。ただし、クレアチンの摂取だけでは、筋肉を作ることはできません。クレアチンには、運動能力向上に対し、有効性があると考えられています。
健康診断などで検査項目にあるクレアチニンとは、クレアチンの代謝産物で、筋肉で作られた後、腎臓(の糸球体)でろ過され、ほぼ再吸収されることなく尿に排出されます。そのため、腎臓の検査に使用されています。
持久力を高めるためにクレアチンを摂取することで効果が高められると考えられています。
リン酸化したクレアチンをクレアチンリン酸と呼び、エネルギーの貯蔵物質とされ、クレアチンとリン酸に分解するときにエネルギーが発生します。
運動時の筋収縮のエネルギー源は筋肉中のATP(アデノシン三リン酸)です。ATP(アデノシン三リン酸)が無機リン酸を放出時にADP(アデノシン二リン酸)になり、 瞬発エネルギーが発生します。
ATP(アデノシン三リン酸)は、筋肉中にわずかしか含みません。そのため、筋収縮をATP(アデノシン三リン酸)だけで使用する場合、数秒しか使用できないので、次のATP(アデノシン三リン酸)の補給が必要です。
筋収縮によりADP(アデノシン二リン酸)が発生時、酵素のクレアチンキナーゼのはたらきにより、ADP(アデノシン二リン酸)とクレアチンリン酸から早く再合成されます。この再合成は激しい運動中には繰り返し起こります。そのため、クレアチンリン酸が多いほどATP(アデノシン三リン酸)の再合成が促進されます。
筋繊維中クレアチンリン酸濃度は、クレアチンの摂取により増加します。そのため再合成が継続可能なると考えられています。
瞬発的エネルギーが必要な種目(ジャンプ、円盤投げ、短距離ダッシュなど)は、エネルギー源のATP(アデノシン三リン酸)が減少しても、クレアチンによりATP(アデノシン三リン酸)の合成や再生が行われます。そのため、持久力を高めるためにクレアチンを摂取することで効果が高められると考えられています。
短時間に激しい運動を繰り返す時に運動能力を高める効果があるとされますが、過剰に摂取すると老廃物質であるクレアチニンの血中濃度が高まり、尿として排出され尿量が増えることから心臓や腎臓に負担がかかるとされています。
老廃物として腎臓でろ過され、無駄な分は尿に排出されますが、腎臓を酷使することにつながりますので、不要な過剰摂取は避けましょう。[※6]
アスリートやスポーツ選手など、定期的に運動している人、瞬発系の運動している人などの摂取してもらいたい成分のひとつです。
食材の摂取目標量の上限としてはありません。
サプリなどを使用している場合、メーカーに応じて上限量が違うので、必ず1日分量を守りましょう。また長期服用は、副作用がある事例もあることから避けましょう。
クレアチン摂取により、効果が認められなかったとの文献データも多く、不明な点も多いですが、下記の試験結果が発表されています。
■高齢者男女39名を対象とした試験で、レジスタンス運動と共に、クレアチン5g/日とリノール酸6g/日を6か月摂取しながら運動をしました。その結果、筋力の増加、血症クレアチンの上昇、などがみられました。このことから、リノール酸と組み合わせることで筋力増加効果があると考えられています。[※7]
■カナダでは高齢者を対象にメタ分析が行われました。運動単独の場合、運動にクレアチン摂取した場合で比較されました。中高年のレジスタンス運動とクレアチン摂取の併用により、高齢者の筋肉量・筋力・機能の向上に関連が認められました。[※8]
■2005年7月~9月 16歳以下のサッカー選手対象にクレアチンが運動能力に関与しているか調べるために試験が行われました。
対象者をA(クレアチン通常量 クレアチン20g/日×1週間+3g/日×3週間)、B(クレアチン低用量 クレアチン3g/日×4週間)、C(クレアチン高用量継続摂取 クレアチン20g/4週間)、D(偽薬を摂取 マルトース20g/日×4週間)の4グループにわけ二重盲検法でクレアチン摂取前後の試験項目を測定されました。
その結果、摂取前後では数値に差があり、いずれのグループも改善され、高用摂取のグループで有意差が認められました。クレアチン摂取は特有の運動改善に効果が期待できると考えられています。[※9]
一方、パフォーマンスには期待できないとの文献もあります。
■日本にて「長期クレアチン摂取がエリート競泳選手のパフォーマンスグループに与える影響」についての試験が行われました。2001年、12名の日本学生選手権に出場した競泳選手を対象としました。
クレアチンを1回3g×1日4回の群と、偽薬を摂取群の2グループに分け、8週間毎日摂取しました。その際、競泳に加え、全身運動テストなども行い、摂取前後には筋のクレアチン酸濃度を測定しました。ベストタイム更新には両郡に有意義な差は認められませんでした。
その結果、直接、トレーニング中の8週間は運動パフォーマンスやタイム更新などに影響は受けませんでしたが、運動後血中乳酸濃度低下が認められエネルギー供給には影響を及ぼすと考えられています。[※10]
クレアチンの歴史は1832年にフランスの科学者シェブルールが食肉から発見し、ギリシャ語で肉をクレアスといい、「クレアチン」と命名しました。
野生動物と捕獲動物の筋肉中のクレアチン量の違いにより、身体活動がクレアチンと関係しているのではと研究が始まりました。
その後、クレアチン投与が運動能力向上する可能性があるとされ、1992年金メダルを取得したオリンピック選手の使用が報じられ、注目され始めました。[※11]
以前は、ボディービルダーやプロのアスリートが使用していたプロテインですが流行後、日常的にプロテインを使用している方が増えています。プロテインと共に摂取する機会が増えているのが、クレアチンです。
牧田善二先生(AGE牧田クリニック院長。糖尿病専門医。医学博士)によると、
「人工的に大量のたんぱく質を摂取することは、そのはたらきを腎臓に強要し疲弊させ、重大な被害を生みかねません。」
(週間ダイヤモンドHP 『医者がプロテインをオススメしない怖い理由』より引用)[※12]
と話します。プロテインを日常的に摂取し、腎機能が低下した場合、「尿アルブミン」の数値が上昇します。しかし普通の健康診断では「尿アルブミン」の検査項目がなく、「血清クレアチニン値」での測定ですが、血清クレアチニン値が正常値でない場合、腎機能はとても低下している状態です。
そのため、プロテインの過剰摂取による腎機能が低下はしていても血清クレアチニン値に反映されないため、通常の健康診断では発見しづらいとされています。サプリメントとしての過剰摂取は避け、使用する場合は注意しましょう。
クレアチンは肉や魚に多く含まれ、特に、生肉や生魚では高濃度のクレアチンを含有します。加熱するとクレアチン量が減り、クレアチニン量が増加します(クレアチニンとは、クレアチンが代謝された後にできる老廃物のこと)。
食事からクレアチンを摂取する場合は、生魚刺身などがおすすめですが、生肉は衛生面から考えても食べないほうが無難です。
そのほかの食材には、クレアチンはほとんど含まれていないため、サプリメントとして摂取するケースがほとんどです。
クレアチンは糖類と一緒に摂るか、食後に摂るようにしましょう。なぜなら細胞内のクレアチンは、インスリンのはたらきにより取り込まれるからです。
インスリンは糖質の摂取後に分泌されるホルモンなので、食事後のタイミングで摂取すると吸収率が高まります。
またインスリンのはたらきを高めるとされるαリポ酸を摂取すると、効率よくクレアチンを吸収できるといわれています。[※13]
健常者の成人・小児ともに適正量であれば、安全性が認められていますが、大量摂取は副作用の危険があるので避けましょう。妊娠・授乳期に安全なデータが見当たらないため、摂取しないほうが無難です。
クレアチンによる副作用は、サプリメント摂取での症例報告がほとんどで、大量に長期摂取すると危険とされています。副作用の症状としては、腎機能障害、肝機能障害、横紋筋融解症、筋肉痙攣、吐き気、電解質異常などです。
筋肉中のクレアチンが筋肉を動かすエネルギー源として使われた後にできる老廃物であるクレアチニンは、通常であれば腎機能のはたらきで体内に再吸収されることなく排泄されます。
ただし腎機能が低下している場合、クレアチニンが血中に残るため、腎機能検査の指標の一つとして使われています。
腎機能が低下している場合、腎臓合併症の要因がある人は、クレアチンのサプリ使用は避けるか、摂取する前に必ず医師に相談しましょう。