コリアンダーはせり科の植物。葉や茎、種(実)などが使われています。地域や料理メニューによってはパクチーとも呼ばれています。料理の香りづけやサラダ、スープの具材としてだけでなく、スパイスやアロマオイルとしての用途もあるなど、多彩な面を持っているのが特徴です。
ここでは、コリアンダーの効果・効能や副作用などについてまとめています。
コリアンダーは地域によってさまざまな呼び名があります。
日本では、コリアンダーやパクチーという名が一般的。ですが、和名はコエンドロといいます。日本でも、沖縄の与那国島ではクシティといい、地元野菜として定着しています。これは、第二次世界大戦前に台湾へ渡った与那国の人が持ち帰ったためだとされています。
中国では香菜(シャンツァイ)、タイではパクチー、ベトナムではザウムイ、インドではダニヤー、中南米やアメリカではシラントロ、ポルトガルではコエントロと呼ばれています。和名がコエンドロなのはポルトガル語の呼び方がルーツです。
コリアンダーは地中海沿岸が原産のせり科の一年草です。20cmほどに育つと収穫が可能です。コリアンダーは葉や茎・根・種子を利用することができます。
主に東南アジアでは葉や茎・根を香味野菜として使います。独特の風味があり、好き嫌いがはっきりと分かれる味です。
ヨーロッパ辺りでは、種をスパイスとして使用していて、粒をそのまま使ったりパウダー状にしたりして料理やお菓子に加えます。
種子からとれる精油は、気分の落ち込みや消化器系に効く香りとしてアロマセラピーなどに使われています。
コリアンダー(パクチー)に含まれる主な成分は以下のものです。[※1]
コリアンダーには独特の香りがありますが、その香り成分は以下のものです。[※2]
コリアンダーの香りはカメムシにも似た臭いだと言う人もいますが、これには根拠があります。コリアンダーとカメムシが共通して持っているデセナールなどの香り成分があるため。すべてがカメムシと同じ成分というわけではありません。
また、スパイスや精油の香り成分には以下のものが含まれています。[※3]
など
柑橘系でスパイシーな香りが特徴です。葉や茎と種では香り成分に違いがあることがわかります。この違いを生かすため、国や地域によってコリアンダーの使用方法が異なります。
コリアンダーはコズイシ(胡荽子)とも呼ばれ生薬としても使われています。食欲不振や頭痛などの症状に対し、コズイシの香りが症状を改善するため、芳香健胃薬とされています。[※4]
コリアンダーには以下のような効果・効能があります。[※5]
■消化不良の改善
胃酸の分泌を促すため、消化不良や食欲不振に効果があります。生薬にも同様の効果があります。
■便秘や下痢の改善
消化不良が改善されるため、便秘や下痢の症状を改善します。生薬にも同様の効果があります。
■血糖値改善
インスリンの分泌を促すため、血糖値が下がります。
■デトックス作用・血圧降下作用
血管を拡張させ、不要な成分を体外へ排出するのを促します。この作用により毒素が尿として排出されやすくなり、血圧を下げる効果が期待できます。
■喉をスッキリさせる効果
コリアンダーの生薬には、去痰作用があるためタンが絡みやすい人に効果的です。
■歯周病や口臭予防
殺菌効果や整腸作用があるため、歯周病や口臭の予防に効果があります。
■リラックス効果
コリアンダーの香りには心理的な疲れをとり、気持ちを前向きにしてくれる効果があります。
コリアンダーにはさまざまな作用があるとされています。[※5]
コリアンダーが消化管を刺激することで、胃液の分泌を促したり、筋痙攣(きんけいれん/こむら返り)を緩和する作用があります。この働きにより、消化不良や便秘・下痢などの症状が改善されるといわれています。
またコリアンダーにはインスリンの分泌を促す働きがあるため、血糖値を低下させます。
そのほかにも、血管拡張作用や利尿作用などが確認されていますが、こうしたコリアンダーの作用機序に関して、まだ科学的なデータが不十分な状態です。
コリアンダーは消化不良や食欲不振の人におすすめです。もし生のコリアンダー(葉や茎)の香りが気になる、苦手だという場合は、種子を使ったスパイスを取り入れると良いでしょう。またデトックス効果もあることから、むくみが気になる人にも、コリアンダーはおすすめです。
血糖値や血圧が高めの人にも効果的です。ただし、薬との相互作用がでる場合があるため、食べ合わせ(飲み合わせ)には注意が必要です。
コリアンダーの香りにはリラックス効果があるため、仕事やプライベートが忙しく緊張状態が続いている人は、入浴時に精油を使ってアロマバスなどにすると、リフレッシュできると思います。
コリアンダーの摂取量目安や上限は定められていません。[※5]
コリアンダーには健胃作用について富山大学大学院の研究データがあります。胃の表皮細胞に、コリアンダーを含む薬草類を投与して検証したところ、コリアンダーがピロリ菌の活性酸素生成を抑えました。[※6]このことから、コリアンダーには胃を守る働きがあることがわかります。
また、パキスタンのアガ・カーン大学医学部での動物を使った実験では、コリアンダーが神経伝達を介して血圧の低下や利尿作用を促しているのではないかという考察がされています。[※7]古代から薬としても用いられてきてコリアンダーの作用解明に近づく研究結果といえるでしょう。
ブラジルのカンピーナス州立大学で行われた歯周病菌を使用した実験では、コリアンダーの精油が口腔カンジダ菌のバイオフィルム形成を阻害しました。バイオフィルムは菌膜といい歯垢となるものです。[※8]このことから、口腔ケアの効果があるとされています。
現静岡大学農学部の菅原正義や鈴木紀雄らによるラットを使った実験で、クミン・コリアンダー・レッドペッパーの3種のスパイスを使ったカレー粉を与えたところ、微生物の代謝に影響を与えアンモニアの生成量が減少しました。また、グルコシターゼやグルクロニダーゼなどの糖を分解する酵素を活性化させる働きがあると示唆されています。[※9]
スパイスが腸内腐敗を抑えてることでアンモニアの生成量が減少したと考えられるため、体内に毒素を増やさない効果が期待できます。
広島大学の小原香織らによって豚の大腸から放たれる悪臭を、コリアンダーが消臭したという研究結果が発表されました。コリアンダーの香りが消えても6時間以上消臭効果があったということです。[※10]このことから、コリアンダーには殺菌効果や消臭効果が期待できます。
愛媛大学とエスビー食品、石川県立大学などが共同で行った研究では、コリアンダーの種子に免疫細胞のマクロファージ活性物質が含まれていることが結果として発表されています。[※11] この結果から、今後コリアンダー種子は免疫力活性化へ役立てられるのではないかと考えられています。
コリアンダーの歴史はとても古く、古代エジプト時代には料理の材料や薬として用いられ、催淫作用が信じられていたことから「幸福のスパイス」の異名でも知られていました。[※3]
また、死者と一緒にコリアンダーを埋葬する文化があったことがわかっています。
古代ギリシャの医師ヒポクラテスは、コリアンダーが胸やけや催眠薬となると記しています。そして、コリアンダーはローマからイギリス、イギリスからアメリカへ渡ったとされています。
日本で初めてコリアンダーが登場したのは平安時代の927年。延喜式という書物に載っていました。それから、鎌倉時代や江戸時代の書物にもコリアンダーは登場しますが、食用ではなく薬として用いられていたようです。[※12]
現代では、数年前よりコリアンダー(パクチー)の人気に火が付き、パクチー専門店やパクチー味の菓子や飲料が発売されるなど話題となりました。
パクチーが主役として料理に使われるのは、日本独特の食べ方で、東南アジアや中国などでは薬味や風味づけとして使います。
コリアンダーの効果について、金沢大学付属病院の小川恵子医師は、以下のようにコメントしています。
「コリアンダーの種は胡荽子(こずいし)といい、胃の調子を整え、気の巡りを良くします。漢方では、食欲不振や皮膚疾患に用います。コリアンダーという名は、ギリシャ語で南京虫という意味のコリスに由来します」
「コリアンダーの種は古代ギリシャ・ローマ時代から医薬の一つとしてよく使われ、消化不良や腹痛、めまいのほか、中世には媚薬(びやく)としても有名だったそうです」
[YOMIURI ONLINE ヨミドクター 「小川恵子の漢方で健康生活 暑い夏にはビール?」より引用][※13]
コリアンダーは古くから人々に利用されてきたハーブです。そのため、薬・食材・精油などと使用方法も幅広くあることが小川医師のコメントからもわかります。
コリアンダーはさまざまな使い方があります。[※12]
葉や茎は刻んで料理に散らしたり、サラダにして食べたりすることができます。根はより香りが強いため、下味や臭み消しに使用します。
スパイス
完熟した種子の成分は水に溶けやすいため、野菜と一緒にピクルス液に入れると、コリアンダーの風味がつきます。さらにパウダーにして食材に振りかけたり、お菓子生地に練りこんだりすることもできます。
ハーブティー、スパイスティー
コリアンダーシードを煎り、煮出してお茶にして飲みます。濃さは好みで調節してください。紅茶の葉やほかのハーブと合わせて、好みのハーブティーにして楽しみます。
コリアンダーと相性のいいスパイスには、以下のものがあります。[※12]スパイスをブレンドして料理やお菓子の風味づけに使えます。コリアンダーは風味の強いスパイスなので、使い過ぎないように注意してください。
ハーブティーとしてコリアンダーシードを使う場合、以下のようなブレンドにすると、より効果が得られます。
アロマテラピーをする場合は以下の精油と組み合わせるとより効果的です。[※3]
コリアンダーが含まれる食品を摂取する場合、ほとんどの人は問題なく食せます。[※5]
コリアンダーには子宮伸縮作用があるともいわれているため、妊娠中や妊活中の人は摂取や精油の使用に注意が必要です。妊娠中や授乳中の安全性についてはデータが不十分のため、摂取を控えましょう。
まれにアレルギーを発症してしまう人もいるため、食べていて口の中がかゆく感じたり、体調に異変を感じたりしたときは、摂取をやめて医療機関を受診しましょう。
下記にアレルギーを持っている人は、コリアンダーでアレルギーを発症しやすいとされているため、摂取には注意が必要です。
同じセリ科の植物やそれに似た植物でアレルギーを発症しやすいようです。また、花粉症の症状がある人がコリアンダーアレルギーも発症していたという事例もあります。
パクチーサラダのように、葉や茎などを使ったメニューの場合は、摂取を避けやすいのですが、カレーやスープなどに入っているスパイスは知らない内に食べてしまうことがあるので、注意しましょう。
相互作用には、食品としてのコリアンダーと相性が悪いものと、生薬など薬として使われているものと相性が悪いものとがあります。[※5]
鎮静薬
コリアンダーの摂取と鎮静薬の服用を同時に行うと、強い眠気を生じる場合があります。鎮静薬には、クロナゼパム・ロラゼパム・フェノバルタビタール・ゾルピデム酒石酸塩などがあります。
薬同様に、眠気を誘発するようなハーブやサプリメント、健康食品との併用は控えてください。
糖尿病治療薬
コリアンダー(薬)には血糖値を低下させる作用があるため、糖尿病治療薬と併用すると過度に血糖値が下がってしまうおそれがあるので注意しましょう。
同様に、血糖値を下げるといわれているハーブやサプリメント、健康食品との併用にも注意が必要です。
降圧薬
コリアンダー(薬)には、血圧を低下させる作用があるため、降圧薬と併用すると血圧が下がりすぎてしまうおそれがあります。同様に、血圧を下げるといわれているハーブやサプリメント、健康食品との併用にも注意が必要です。